家の中にある「マット」や「カバー」、大きらい!
取っちゃえ!
いつの頃からか増えだした、そんな声……。
確かに、布ものはホコリを吸って溜めるし、定期的な洗濯が必要だし、それがあることで手間ひまが増える。
すっかりなくしちゃった方がスッキリする。
なるほどそれは、ひとつの正解。
でも家事において、正解は必ずしもひとつではないんです。
今回は、家の中の「マット」や「カバー」のいろいろを改めておさらいしつつ、令和のトイレ掃除のひとつの答えをご紹介したいと思います。
昭和に流行った「マット」と「カバー」
「マット」や「カバー」の類が、ある時から蛇蝎のごとく厭われ始めた契機には「昭和からの卒業」の風潮があったのでは? というのが私の見立て。
逆に言えば昭和時代、すさまじく流行ったのです。「マット」や「カバー」というものが。
その頃あらゆる家の中のものにかぶせられていた「マット」や「カバー」。
代表的なところで言えば、黒電話本体カバー。受話器カバー。ドアノブカバー。
カバーはテレビにも、ステレオにもかけられ、コタツやテーブルは当然のこと。椅子、ソファ、ピアノ……
布団、ベッドにもカバー。鏡台にもカバー。
炊飯器 、トースター、洗濯機にまでカバーがかかっていることもありました。
もちろん、トイレ便器蓋とトイレットペーパーホルダーにもカバーです。
そして畳や絨毯の上には、カーペットないしマットを重ねる。
マットは、最低でも、玄関、トイレ、お風呂上り用には必須で、これらはうっかりすると3点お揃いセット。
おおむね分厚くて高級感があり、しばしば大きな刺繍がしてあったりしたものでした。
年代にもよりますが、実家やおばあちゃんちなどで、これらの「カバー」や「マット」の幾つかを見たことがある人というのは、少なくない……かなりいるのではないでしょうか。
今となっては、一体何の必要性があって被せていたのか全然わからないカバーも多いのですが、こういうものは理屈ではなく時代の空気だったのでしょう。
家の中の(比較的高価で大事な)モノを、手作りした可愛いモノで覆って、大切するのだという姿勢。
ホコリよけ。汚れよけ。手をかけた実用的な知恵。
そう諭されたら抗えず、むしろ真似をした方がいいような気持ちになってくるものです。
平成に流行った「ノーマット」「ノーカバー」
しかし、そんなカバカバしい(!)家から離れた人が、あるときハッと気付いてしまいます。
考えてみたら、汚れよけといいつつも手垢で布が黄ばんでいた受話器の持ち手。
永遠に被せられっぱなしで紫外線劣化し変色したカバーと、カバーのレース模様が「日光写真」状に焼きついたソファの側生地。
「いったいアレは何だったの?」
そう問いたくなる気持ちもやんぬるかな、ではあるのです。
だって手垢で汚れたらすぐに拭き取ればいいじゃない?
ホコリがのるまえにこまめに払っておけばいいじゃない?
その通り。
そうして、かつてアール・ヌーヴォーがアール・デコに変遷していったように、カバー・マットは、ノーカバー・ノーマットのモードに移り変わっていきました。
平成バブル崩壊以後流行ったシンプルな北欧デザイン人気やミニマリズム志向は令和の今にも続いているもの。
身近なだけにむしろそういった価値観の方がどちらかといえば「正」と捉えられている向きもあるのでしょう。
コタツにかぶせるカバーのために、毛糸のモチーフをひたすら編み続ける時間など、働くお母さんにはそうそうありません。
「余計なモノは全部いらない」。ゼロイチに割り切りたくなるのは、もっともなことではあるのです。
令和に提案したい「ずぼら家事」
しかしそうそう白黒決めつけられないのが人の営みです。
平成よりももっと忙しい令和の家事人(男女問わず)に今おすすめしたいのは、いいとこ取りの、ずぼら家事。
あえてトイレ床には、「マット」を敷くのを、私は強くおすすめします!
なぜなら、マットに汚れを「吸って」もらうため。
そうすれば、ねぼけまなこで用を足した家族の、こぼれたおしっこを、忙しい朝から「すぐ」「こまめに」拭き取る必要はありません。
「マット」というもののもともとの利点。それは飛び散った水分を吸い、細かなホコリやゴミを引きつけて取り込み、床そのものを傷めないことにあります。
それを味方につけて、「こまめ」の手間を省くのです。そのほうが断然ラク!
ただし「昭和」をまるきりなぞる必要もありません。
たとえば分厚くてゴージャスなシャギータイプの「トイレマット」は、やっぱり扱いにくいもの。
でも今なら、足触りがふわふわでも薄手で洗濯しやすく、すぐ乾いてしまう「マイクロファイバー」製のトイレマットがあるのです!
素材は進化しています。そんなマイクロファイバーのトイレマットを2枚以上用意して、それを毎日交代で、洗濯してしまえばいいのです。
マットにおしっこが飛んでいるから汚い? 大丈夫!
実はみんなのパンツの方が、大腸菌をいっぱい付けています!
一日二日使ったくらいのトイレマットは、パンツよりキレイなんです!
ちなみに、おしっこの多くは、座って用を足す女性が多いなら便座裏に飛び散っていますし、立って用を足す男性が多いなら便器の縁裏にまんべんなく、便器そのものの脇や後ろ側の床まで行っているもの。
それらの水滴は細かくて見えませんが、トイレに置き物や掲示物などをしている場合は見えないけど付いているという認識が必要です。
なので便器内の掃除頻度を5とするなら、2くらいは腰高以下の壁と床全域をトイレ掃除用のウエットシートで拭く作業を加えておくと、トイレにありがちな「そこはかとない尿臭」に悩まされることもなく暮らせることでしょう。
最後に、本当に大事なこと、そして基本的なこと。
「排泄のスタイル」は、とても個人的な心や身体の健康にも関わる、繊細なファクターです。
「掃除が大変だから」という理由で家族のそれを立位から座位に「変えさせる」ことが、正当なことかどうかは、ぜひよく考えてみてください。これも「流行っている」ようなので、念のため。
たとえ謎の「カバー」であっても、それがあることで「かわいい!」と心がワクワクしたり、掃除のじゃまに感じる「マット」であっても、汚れを吸ったり床からの冷えを抑えてくれる役割があれば「ある」意義はあります。
私たちは掃除のために生きているのではなく、よりよく楽しく生きるために、掃除をしているのですから……。
先取りで安心! おそうじ歳時記
LEE本誌や、LEEwebでも大活躍中の家事スペシャリスト、藤原千秋さん。早目に知っておくと安心な“おそうじ”の豆知識や実践テクを、季節先取りでお届けします。次回もお楽しみに!
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藤原千秋 Chiaki Fujiwara
住生活ジャーナリスト、ライター
掃除、暮らしまわりの記事を執筆。企業のアドバイザー、広告などにも携わる。3女の母。著監修書に『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など多数。LEEweb「暮らしのヒント」でも育児や趣味のコラムを公開。
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