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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

満島ひかり×佐藤健W主演『First Love 初恋』でキュン泣き! 撮影秘話を寒竹ゆり監督に聞く

  • 折田千鶴子

2022.12.06

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Netflixシリーズに大抜擢!

既に巷では盛り上がっているNetflixシリーズ「First Love 初恋」。期待値が上がった状態で見ても……いやぁ、本気で胸がキュ~ンと縮み上がるくらい切なくて、泣けちゃいます!! ここだけの話、LEEweb編集長もボロ泣き。途中でやめられず朝までに全話完走したと熱いLINEが来ましたから!!

満島ひかりさん×佐藤健さんという組み合わせも、なんか新鮮ですよね。これはもう、若い子から大人まで、一気にキュン泣きの嵐をかっさらっていくの間違いなし!

宇多田ヒカルさんの楽曲――1999年に発売された「First Love」と、その19年後に発表された「初恋」――からインスパイアされて織りなされる、20年にわたる2人の恋の物語。初恋の記憶をたどっていく心の旅路。あ、書いているそばから思い出してウルッと……。

Netflixで独占配信中。

そんなわけで、全9話からなる本作を演出した寒竹ゆり監督に、作品の裏話、特に前のめりで個人的にキュンMAXだったシーンについてもお聞きしちゃいました!

寒竹ゆり(監督・脚本)
1982年4月16日生まれ。ラジオドラマ『ラッセ・ハルストレムがうまく言えない』(04)で脚本家デビュー。2006年、日本大学藝術学部映画学科脚本コース卒業。『天使の恋』(09)で長編映画を初監督。他に、『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』(11)、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞受賞した『ケランハンパン』(12)など。

──Netflixで全9話のシリーズを単独で任されるとは、大抜擢ですね。どのような経緯で監督・脚本を手掛けることになったのですか。

「以前、Netflix作品に脚本で参加したことがあって、その作品は別の形になってしまったのですが、その時の私と同い年のプロデューサーに声を掛けて頂きました。ちょうど2018年、宇多田ヒカルさんのアルバム『初恋』がリリースされた、アニバーサリー・イヤーでした。彼がたまたま乗り合わせたタクシーの中で、宇多田さんの『First Love』を聴いて心動かされたことが発端だったようです」

「それからすぐに呼ばれて、その辺のノートの切れ端に<「First Love」⇒「初恋」=20年>とだけ書いて、“これで何か考えて”と依頼されたのが始まりです。私も宇多田さんと同い年だったこともあり、当時の記憶をとても鮮明に覚えてたので、「あぁ、面白いね」とすぐに反応しました。まだ楽曲の権利関係も何もクリアされていない状態でしたが、宇多田さんの楽曲ありきでの企画がはじまりました」

『First Love 初恋』ってこんなドラマ

90年代後半の北海道。高校生の也英(八木莉可子)と晴道(木戸大聖)は、互いに強く惹かれ合い、付き合い始める。やがて也英は東京の大学に進学し、晴道は也英の何気ない一言に導かれるようにパイロットを目指し自衛隊へ。2人は遠距離恋愛を続けていたが、也英に会いに来た晴道と些細なことから喧嘩。晴道は怒ってその場から去ってしまう。その直後、晴道に連絡を取ろうとした也英が、悲運の事故に遭ってしまいーー。

それから20年、也英(満島ひかり)は北海道でタクシー運転手をして暮らしている。今は北海道の警備会社で働いている晴道(佐藤健)は、すれ違ったタクシーの運転席に也英の姿を見かけ、探し出そうとするが……。

──劇中、宇多田ヒカルさんの曲が掛かる時に、お店のCDのポップに「私たちの時代が始まった」と書かれてあります。監督も当時、それを実感して嬉しかったそうですね。

「当時、私も16歳でしたが、宇多田さんがいきなり登場したときは、周りの大人たちがザワっとしたんです。日本語詞の文節や拍が独特だとか、学者の先生たちが軒並み論じたりして。私たちからすると、そういうことではなく体感で“すごくいい”と感じたのに、大人のそんな姿が可笑しくて、ちょっと優越感を覚えました。自分と同い年の子が、自分の言葉で歌詞を書き、曲も書いて歌って、大人たちを感心させているのが、すごく嬉しかったですね。年配の方たちにとっての長嶋茂雄さんと同様、私たちの世代は宇多田さんに対し、“時代を作っていくヒーロー”のような感覚がありました。それが、この作品で最もやりたいと思った動機でもあります」

──監督自身のリアルな思いもガッツリ重ねられるのもあり、90年代後半の也英と晴道から始まり、そこから20年経った今に繋がる物語を構想されたわけですね。

「はい。青春ものは、青春の終わりをどういう手際で描くかだと思っています。キラキラした瞬間だけでは青春映画たり得ない。私がこの脚本を書き始めたのは36歳の年でしたが、主人公たちが30代後半になった時に、夢が終わった後の人生をどう生きていくか、ということを等身大の感覚で書きました」

──全9話というボリュームは、当初から決まっていましたか!?

「当初は7話の想定でしたが、そこから健くんが決まって8話に膨らませ、夏編の撮影を終えて編集している段階で、最終的に9話構成にしました。各話のクリフハング(盛り上がる見せ場)は決めていましたが、後半をシャッフルしながら9話にした方が見やすくなるな、という判断です」

3つの時代の描き分け

──90年代後半、ゼロ年代、そして現代という3つの時代が交錯しながら物語が紡がれていきます。それぞれの時代性を色濃く打ち出す方法、描き分け方など、どのように意識されましたか。

「例えばアメリカ国民に9.11という歴史的なトラウマがあるように、やはり我々の20年を描くとなると、東日本大震災は避けて通れないと思いました。あの前後で人々の価値観が変わったり、身近な人に対する思いが変わったと、みんなの共通感覚としてもありましたよね。そして、脚本を書き終えた時、コロナ禍が始まりました。その新たな災厄によって、また世の中の判断軸や人との距離間が変わってしまった。その辺りの時代の意識の揺れをどう物語に落とし込んでいくかは、すごく悩みました」

90年代後半、高校生の也英と晴道は恋に落ち、互いにかけがえのない存在になっていきます。この頃の2人の初々しく、可愛く、キラキラしている様、この“初恋感”がもう、たまりません!!

「日本は9条がありながら、他国の戦争の流れや影響をずっと受けてきました。それに対する反発や矛盾も当然ながらあります。同時に、3.11があった時、晴道がいた空自が小牧基地から真っ先に出動し、被災地にたくさんの支援物資を届けてくれました。どのような立場にせよ、災害に翻弄されたこの20年余りの日本において、自衛隊の果たした役割はあまりにも大きかったと言えると思います」

──イラクへの派遣等々の細かいことも、時代ごとにいろんなことがダイレクトに会話としても打ち出せるので、自衛隊とはうまい設定を思いついたな、と思いました

「加えて物理的に連絡が取れない、携帯電話を使えない、という環境であることも大きかったですね。実際に取材させて頂いて、基本的に航空学生は、規則により決められた時間にしか携帯を使えない、といったことを知りました。今の時代、恋愛ドラマを作る上で、なかなか障害を作りづらくて、世の脚本家の方々は苦労されていると思いますが(笑)、自衛隊という設定により、距離や会えない状況を作り出せる、という副次的な効果もありました」

3度目の正直で満島さんが承諾!

──満島さんが演じた也英は、事故によって人生が大きく変えられる、という不運に見舞われますが、そのヒロイン像はどのように生まれていったのでしょう?

「最初の数週間、『Automatic』と『First Love』と『初恋』の歌詞を仕事場の3台のモニターに並べて、ずっと眺めていました。そのうち、これはフィジカルな反応をずっと歌っているんだな、と思ったんです。『Automatic』にしても、恋をした時に自動的に発動されてしまう体の反応だったり。『初恋』も、溢れる涙とか、足がすくんでしまうとか。つまり、理性より先にフィジカルな反応が表出してしまう、という本能についての歌。<I want you>ではなく、<I need you>、息をするように必要なことなのか、と思い至りました」

高校生時代と現在が繋がる、美しいシーン。この美しさが目に染みて、いやはや泣ける、めっちゃ泣けるのです。

「それなら、それを際立たせるための装置として、“あること”を仕込んでおけば再会時、体が何らかの反応を起こす瞬間を描けるのではないか、と思いました。今まで色んな作品で散々こすられてきた古典的なモチーフなので、メロドラマというイメージを持たれてしまうきらいはあるけれど、<悲劇>を作るのではなく、<フィジカルな反応>のための装置にしたかったんです。あとは、そこから逆算して作っていきました。古文の<らるる>という感覚、「自然に〜してしまう」という感覚に近い。最後、そこへ昇華できたらいいな、と考えました」

──満島ひかりさんの存在が、也英像に影響を与えた部分もありますか?

「ひかりちゃんって、いつも笑ってるんです。なんてことないことから面白いことの水脈を見つけるような人なんですね。初めて会った時、彼女のその根源的な明るさを取り入れたいなと思いました。大人になって単純にしょぼくれて、色のない生活をしているだけのキャラクターにはしたくないな、と。夢を失って、何も成し遂げられなかった後も生活は連綿と続いていくわけです」

「現代を生きる也英も、寂しさを抱えながら、きちんと生活者として暮らしている人物像にしようと思いました。疲れてても煮卵を作り置きして食べたり、アイスクリームを食べて辛いことを乗り越えようとしたり。30代も半ばになれば友達も減ってくるけれど、それでもどうにか楽しいことを見つけて生きていこうとする人が、今の私にとって一番素敵に映るんです。也英のそういった要素は、女優である前に堅実な一生活者であろうとするひかりちゃんに会って取り入れた部分です」

──ところが最初、満島さんは断られたそうですね。

「そうなんですよ(笑)。3日間断られて。プロデューサーは3日3晩、会いに行きました。1日目、断わられて。2日目、私も八ヶ岳から東京に来て、一緒に会いに行って。その時も、“89%断るつもりだった”と。でもプロデューサーはあと11%も可能性がある、と思ったのか(笑)、3日目も懲りずに会いに行ったら、“やります”と言ってくれたみたいで。心変わりの理由は、本人に聞いてください(笑)」

──遂に打ち合わせが始まったとき、八ヶ岳の監督のご自宅で、也英を演じてみせた満島さんを見て号泣したという、その心を教えてください。

「ひかりちゃんが、あるシーンでずっと引っかかると言っていた箇所があったので、こたつに当たりながら、“そんなに言うなら、やってみてよ”と言ったら、“わかった”と、その場で芝居を始めたんです。そうしたら、“あ、なんかできた! 大丈夫だ”と納得してくれて。2年くらい一人でホンを書いてきたので、彼女によって初めて也英が実体になったのを見て、なんか泣けたんでしょうね。「ああ、これが也英か」と。でも、号泣ではないですよ、ちょっとホロッとしたくらいです(笑)。隣にいた八尾香澄プロデューサーは、私より先に号泣していましたけど(笑)」

──それまで満島さんは、何が引っかかっていたのでしょう!?

「彼女は、みんなが“いいね”ということに対して、“本当にいいのか?!”という視点を持っています。まず疑ってかかって、ちゃんと考えて自分の身体で判断したい人なので、一緒に試行錯誤しながらモノを作っていくのが正しいやり方だと思いました。また役として生きているので、自分でも予測不能な反応に驚いて、二度と出来ない芝居を差し出してくる。それは本当に水物で、逆に“ここでこうして”と決めつけると、彼女の一瞬のきらめきを逃してしまうと思いました」

「空港で也英がCAの制服を着て歩くシーンは、特に苦悩してましたね。華やかな見た目とは裏腹に、内実、人生どうでもいいやと自暴自棄になっている時代。心と身体が離反して完全にそっぽを向いている状態で、自分自身を刺すような台詞を言わなければならないという難しい場面です。とはいえ身を削るようなシーンは各話、随所にあったと思いますが」



佐藤健さんの素晴らしさ!

──晴道役の佐藤健さんとは、健さんが10代の頃に短編を一緒に撮られています。

「まだ健君が高校生だった頃で、私も駆け出しのディレクターでした。健君には、まずプロジェクト自体を俯瞰する視座があり、その上で論理的に取捨選択できる人。2人が真逆のタイプだからこそ、面白くなるとも思いました。本人たちは、“ディカプリオとケイト・ウィンスレットみたいになるといいね”(『タイタニック』)と言ってましたね。ひかりちゃんがハプニングを好む人なので、現場で揺れをもらうというか、動かされるというか。健君は芝居の軸がしっかりしているので、現場で柔軟に対応できる、そのバランスが面白いなと感じました」

──也英と晴道を撮りながら、監督が、“そうそう、2人のこの画を撮りたかったの!!”みたいなカットはありますか? だって本作、ラブストーリーですから(笑)。

「2人のバックショットが気に入っているんです。夜、公園の入り口でタクシーを待っている場面。あのシーンはずっと長回しで撮っていて、2人が絶妙な距離感で、何も喋らずにただ佇んでいるのを見ながら、本当に美しいなぁと思いました。もう一つ、2人の別れのシーンは、さすがだな、と思いました」

──別れとは、ドラマ後半の喫茶店のシーンですね。あそこはもう、泣きましたよ、“ナゼだよ~!!”と言いながら。

「あのシーンはお互い、それぞれ一発撮りでした。しかもトラブルがあり、本番中に健君側の音が私のモニターに来なくなってしまって。でも、だからといってとても止めたくないようなお芝居で、それでも大丈夫だ、と。10代から健くんのことを知っているけれど、やっぱり単純に昔ならああいった表現はできなかったな、と思いました。そういう個人的な感慨も感じられたシーンでしたね。折に触れて会うこともありましたが、その瞬間、彼がこの15年間に積み上げてきた孤独や重圧や努力の層を感じて、すごく誇らしい気分になりました」

キュン(私の勝手な)MAXシーン秘話

注意!! この応答は鑑賞後にお読みすることをおススメします!!
──キュンキュン来たシーンは90年代から現在まで色々ありましたが、特に私は意外にも、天狗山でホロホロと涙を流す也英に晴道がフッとキスをするシーンが、メチャクチャキュンMAXでした! 素晴らしいタイミングでキタ~っと、不意打ちに近くて。
「実はあのシーンを撮るために、5回ぐらい天狗山に行ってるんです。夜景が見えなかったり、霧に覆われたり。春にダメで、間に東京と地方ロケを挟んで、やっと5回目くらいで、あの夜景を映すこができたんです。キスシーンについては、健くんは自分よりも女性をどういう角度で見せると美しく映るか、左手をどう添えると色っぽいシーンになるかといったことを一番に考えているように思います。カメラや照明の位置と肉体の関係値、など全て体で会得しているんでしょうね。『るろうに剣心』などのアクションで学んだものかな、と(笑)。それでいて晴道の複雑な心情も伴っていて、全てが素晴らしかったです」

本作の佐藤健さんも、またまた最高でした!! その表情に何度、泣かされたことか……。

──晴道が玉虫色というか、お茶目だったり、カッコ良いかと思えば割にダメな部分もあったり、どこまでも優しかったり……。多面的な魅力が、作品の魅力を増幅させていますよね。

「健くんは普段から相手を気遣うし、言葉も豊か。彼自身の柔らかさや自然な資質を、晴道に取り入れたいと思ってキャラクターを書きました。健君が“お芝居できてしまう”部分を引いていったというか、普段の健君に寄せていったところがあります」

「例えばビルの中での後輩とのやりとりなど。これまでデフォルメされた役が割に多く、それをキッチリ決めて結果を残してきた人ですが、本作では、弱さや諦観を自覚した等身大の男を演じています。例えば、晴道って人が出来ないようなことが出来るくせに、誰でも出来ることが出来ない。飛行機を操縦できるのに自分でコーヒーを淹れられない、みたいな(笑)。実際、健君が現場のお茶コーナーでずっとポットの周りをウロウロしている姿を見かけて、誰かに言えばいいのに、って思ったこともあったので(笑)」

うっ、健さん、可愛すぎるんですけど――!! ここで時間切れになってしまいましたが、満島ひかりさん、佐藤健さんの魅力が大爆発です。でも、若い頃の2人の恋模様も甘酸っぱくて、ホント、たまらなかったです。これ、LEE読者で嫌いな人はいないんじゃないかな、と確信しておススメしたいシリーズです。

観終えて速攻ロスになりかけましたが、あのシーンをもう1回観ちゃおうかなぁ、とか、すぐに“おかわり”出来ちゃうのも配信の良さ!

是非、ちょっと寒くなって来た今こそ、このシリーズで胸をキュンキュン、心を温めてください!

Netflixシリーズ『First Love 初恋』

監督・脚本:寒竹ゆり

出演:満島ひかり 佐藤健 八木莉可子 木戸大聖 夏帆 美波 中尾明慶 荒木飛羽 アオイヤマダ 濱田岳 向井理 井浦新 小泉今日子

Inspired by songs written and composed by Hikaru Utada / 宇多田ヒカル

配信: Netflixにて独占配信中

Netflix『First Love 初恋』作品ページ

写真:細谷悠美

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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