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金原由佳 Yuka Kimbara
映画ジャーナリスト
兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。
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生きているうえで必ず避けられないのが、親しい人との別れです。甫木元空監督はまだ30歳ですが、「期せずして、そうなってしまいました」と前置きしたうえで、父、母、恩師である青山真治監督との別れを経験し、最愛の人とかつて過ごした日々をモチーフに、映画や音楽ならではの表現として再構築してきました。劇場公開2作目となる59分の映画『はだかのゆめ』は、高知、四万十川の緑深い地で母と過ごした最後の夏をモチーフに、大胆にも幻想譚とした作品です。青木柚さん演じる主人公ノロは、死期を悟りながらもこれまで通りの日常を丁寧に暮らす母親の周りをぐるぐるとさ迷うばかり。劇中には甫木元監督の90歳のおじいさまが祖父役として登場し、誰よりも濃厚な生のエネルギーを放ってもいます。
また、甫木元監督は本作の映画音楽も手掛けています。実は甫木元監督、菊池剛さんとの二人編成のバンド、Bialystocksのボーカル、ギターとしても活躍。11月30日にはOfficial髭男dism、Kroiが所属するレーベル「IRORI RECORD」からメジャーデビューする、世にも珍しい映画監督とミュージシャンの二刀流として注目を浴びる存在なのです。メジャーデビューアルバムのタイトル「Quicksand」が示すように、人には時に、足元が崩れ落ちる瞬間が訪れますが、それをどう芸術に昇華していったのか。後半、Bialystocksのピアニスト、菊池剛さんにも登場いただき、お二人の音楽性についてもうかがいました。
甫木元空(Sora Hokimoto)
1992年、埼玉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則共同プロデュース、監督・脚本・音楽を務めた『はるねこ』で長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品、ほかイタリア、ニューヨークなどの複数の映画祭に招待された。2019年にバンド「Bialystocks」を結成。映画による表現をベースに、音楽制作などジャンルにとらわれない横断的な活動を続ける。著書にビキニ事件で被災した高知県の元漁師とそのその家族たちを取材したドキュメンタリー『その次の季節』(2021年6月「甫木元空 個展 その次の季節」)。現在、高知県在住。
──私が甫木元空監督の作品に初めて触れたのは、多摩美術大学の卒業制作として作られた『終わりのない歌』(2014)で、亡くなった父親が遺したホームビデオの映像と、かつて営んでいた家族の風景を甫木元監督が再構築して、リアルな映像とフィクショナルな再現劇が混在したユニークな構成でした。
興奮して取材させていただいたのをよく覚えているのですが、その後、長編デビュー作『はるねこ』でも、最新作の『はだかのゆめ』でも生者と死者が寄り添う世界観となっていますね。人の死と、それにまつわる喪失感を映画のフレームの中で再現するのではなくて、見つめ直す、捉え直す作業をずっとされていて、そこが甫木元空監督の眼差しの面白さであるのだけれど、同時にそれは、かなり痛みを伴う作業でもあるなと心配もしていて。体力も精神力も必要とされる創作を続けていることについて教えてください。
「そうですね。まあ、こればっかりはしょうがないなとも思いつつ、たまたまテーマが通じあっちゃったという感じです。大学在学中に父が亡くなって 父が残したホームビデオをもとにセルフドキュメンタリーとしたのが『終わりのない歌』で、そのあと、フィクションを作るにあたって自分の地元で何ができるのかを考え、埼玉で『はるねこ』という映画を作ったのですが、その劇場公開が終わったタイミングで、母親のガンが見つかったんです。ちょうど、自分のルーツについての映画を撮りたいと、母の故郷である高知県で次は何かを撮りたいなと考えていたときでしたが、高知の自然というテーマに、まさか生死の話が紐づくとは想像していませんでした。
そういう意味で、意図的ではなく、たまたま三作続けて生と死についての映画となったのですが、それぞれ、違うアプローチになるといいなと思って作りました」
──高知で映画を作るにあたっては、多摩美大で教わった青山真治監督のアドバイスが大きいと聞いています。青山監督自身、『Helpless』『EUREKA ユリイカ』『サッド ヴァケイション』とご自身の故郷で撮られていて、“北九州サーガ”と言われていますが、具体的にはどういうアドバイスが?
「そうですね、『はるねこ』は青山さんがプロデューサーでもありますが、映画を撮るにあたって自分のルーツを大事にすべき、というアドバイスから作っていますし、高知で映画を作るにあたっては宮本常一の『忘れられた日本人』に収められている『土佐源氏』を読んだかと指摘を受けたことにすごい影響を受けています」
──『忘れられた日本人』ってオーラルヒストリーで浮かびあがる、表舞台では記録されていない日本人、特に地方の人々のかつての営みですけど、『土佐源氏』は多くの女性との情事の歴史を語る老人の独白で、自慢話というよりも、関わった女性たちの寂しさが想起されるという。
「取材者として、地方に暮らす人たちに話を聞いている宮本常一と聞かれている人の距離感みたいなものをそのまま映画にできればいいなと思ったんです。『忘れられた日本人』ってドキュメンタリーとも言い切れない感じで、若干感じるこのフィクション性は何なんだろうと。特に『土佐源氏』の項は落語じゃないですけど、ちょっと夢っぽい感じっていうか、独特の雰囲気を持っていて、作者と語り手の距離感が近すぎず、遠すぎずで。
青山さん自身、東京に住んだからこそ、北九州に戻ったとき、客観視して撮れた部分があると思うんですけど、高知に移り住んだ今だからこそ、また埼玉を撮ったらすごく変わるんだろうなという感触もあります。ある種、行ったり来たりする人って、中にいるだけの人と違って、外からの視点も獲得しているので」
──『はだかのゆめ』の話に行く前にもうひとつだけ、甫木元監督は高知に移り住んでから、遠洋漁業の最中に、核実験の被ばくにあいながら、偏見や廃業を恐れて被害を訴えられなかった高知の漁師とその家族たちを取材したドキュメンタリー『その次の季節』も発表されていますが、その体験も『はだかのゆめ』に何らかの影響は与えていますか?
「僕は海のない埼玉で生まれ育ったので、それまで海がある生活ということに対してほとんど体感がなくて、海と密着した生活を聞くことがまず、単純に本当に新鮮だった。なので、ビキニ諸島での核実験で、知らずうちに被爆した人たちに話を聞くというよりも、漁師さんたちにそれまでどういう人生を歩んできたのか、そこを単純に聞く作業にしました」
──『はだかのゆめ』は映画にも出てくる甫木元監督の90代のおじい様と、おかあさまが生前書いていたノートの言葉をもとに始まったと聞いています。この作品を見て触発されて、私の書き残している日記など、息子は読みたいだろうかと思って電話で聞いてみたら、「俺は読まないからどこかのタイミングで目につかない場所に移動させるか捨てて」と言われて、そうかと受け取ったのですが。
「僕も亡くなってから見つけたんです。でも、読んで欲しくて残されたっていうものではなく、僕が読むことまでは考えていなかったと思います。本当に一日、一言だけの日記というか、雑記帳ですね。今日、ツバメが飛んできたとか、そういうもの。あれが、誰か、人に読んでもらおうと思っていたら、また違う内容だったんじゃないかと思います。病気になってから、調子がいい日と悪い日の差が激しくて、あまり何もできなくなっていって、それでも毎日続けられるものが欲しかったんじゃないかな。生きている時は聞けなかったですけど、なんとなく、今はそう思います。
一行だけの文章でも、家族だから、なんとなく、この文章にある感情の伝わり方ってあるじゃないですか。土地の見方とも一緒だなとも思ったんですけど、その関係性だから読み取れることもあって。中には、母が人に見られたくないことも書いてある。それをそのままセリフにするのではなく、母が残したものを記録するっていうか、母と実際に生活していた家で、母親と行った時間を映像にすることで、母と歩いた道や風景も含めて、母の気配を記録する感じになったらいいなと」
──そのお母様の記憶を投影した母親を唯野未歩子さんが演じているのですが、彼女は漆黒の闇の中、四万十の川に行き、定期的に懐中電灯であたりを照らす。甫木元監督が活動されているバンド、Bialystocksに『灯台』という曲がありますが、これまでの長い月日の中、四万十の川の猛威に吞み込まれていった人たちの魂を誘導する光に見えますね。
「最初から、四万十川の持つ穏やかでない面を映画で描こうという意識はありました。映画にも出てきますが、沈下橋という、増水時に川に沈んでしまうことを前提とした欄干のない橋が四万十川のあちこちにあるんですけど、そういう自然に抗うことをはなからやめて、そのままを受け入れるという高知の精神性がすごくおもしろくて。
あと、埼玉から行って驚いたのは、みんなすっごくお酒を飲むんですけど(笑)、流れに身を任せるというか、人柄的なことも含めて、高知の自然とすごく結びついている。よく、みんな、土佐弁の『なんちゃない』って言葉を使うんですけど、『なんてことない』『どうってことない』という意味で、うちのじいちゃんは90歳になったからこそ、そう言うのかもしれないけど、『ま、なるようにしかならん』と。水難というのは、この映画の一つ、キーワードではあるかと思いますが、それをキャストには事前に伝えていません」
──おじいちゃんはすごい存在感ですよね、オイル缶に藁を敷き詰め、串刺しにしたカツオの塊を豪快に燃え盛る中、炙る場面が出てきましたが、まさに「ザ・高知の男」。いつもああやって、カツオのたたきを作っているんですか?
「そうです、そうです(笑)。じいちゃんは畑でいろいろ野菜を作っていて、高知は魚もおいしいし、埼玉から移住して一番、驚いたところです。ちっちゃい頃から夏休みや冬休みはじいちゃんのいる四万十が帰る場所で、その距離感も近すぎず、遠すぎず、全ていろんなことが鮮やかに感じられる距離。祖父がここに90年、ずっと住んでいるというのが一番でかいですけど、移住した直後から、夕飯のとき、母と祖父が話す土地の昔話や家族の歴史をまず、書き取るということから、この作品は始まっています」
──母親役に唯野未歩子さん、主人公のノロ役に青木柚さんをキャスティングした理由は?
「唯野さんは黒沢清監督の『大いなる幻影』(1999)での、どっちに転ぶかはわからないただならぬ危うさを見て、青木柚君との二人の組み合わせはいいんじゃないかと思いました。二人のお子さんを持つお母さんであることは後から知りました。
青木君はプロデューサーから提案してもらったんですけど、『はだかのゆめ』では登場人物の佇まいでどうにかなる話だと思っていて、柚君って動きが面白いなと思って。単純に歩くとか、座るとか、1つ1つの動きに自然と目がいっちゃう不思議な人だなと。ただ、それだけではなく、どこの場所に行っても同じ演技ができてしまう人じゃなくて、行った場所に反応しちゃう人がいいなと考えていて、そこの要素も柚君ならと思いました」
──自分としては、独特の死生観を培ったバックグラウンドはどのようなものだと感じていますか?
「祖父にも通じますが、父親と母親の人柄じゃないですけど、『ま、人は死ぬんだ』っていうのは、結構ちっちゃい頃から現実的な話として聞かされていて、夢物語ではなく、身近にある感覚として自分の中にはあるのかもしれない。あと、単純に父と母、2人とも看取れたので、死ぬ直前を目撃したことが1番でかいかもしれないです。二人ともガンだったんですけど、傍から見ると意外に病であることがわからないというか。母親はあまり自分から人には言わないようにして、誰にも病気のことは連絡していなかったから、亡くなってから、みんなが驚くという感じだったんですけど、死が迫ってくるといっても、なにかやり残したことをやるでもなく、慌てる感じもなく、日々できることをとにかくやる。そういう毎日を過ごしていました。
母はピアノの先生で、演劇の戯曲での演奏もしていたんですけど、そちらの顔を作品にするっていう感じじゃないんだと思って。そちらよりも、ガンになったからこそ、日々、淡々とやれることをこなす姿が印象に残っている。父も母も二人とも、花の写真を撮ったり、家に花を飾るようになったり、自分の身の周りを少しずつ、ちょっとだけ変えていく作業の方に意識がいっている感じがすごくあった。死と生活が地続きな感じで、考えてもしょうがないじゃん、ということを本当に感じたんです。亡くなってから、意外と夢にそんなに出てこないんだなと感じたりもします」
──亡くなった方のお話ばかり伺って申し訳ないのですが、大学の恩師である青山真治監督も2022年に亡くなられました。『はるねこ』『はだかのゆめ』とプロデューサーを務めた仙頭武則さんが追悼文に書かれていましたが、青山さんは甫木元監督のことを心配して、病気の進行を亡くなる直前まで言わないでくれと頼まれていたそうですね。
「青山さんらしいな、と思いました。母親が亡くなって僕が最初に電話をかけたのが青山さんだったんですが、その経緯も知っていらしたので、自分がガンだって言いたくなかったんだろうなと。でも、一緒にいて体調が悪いのはわかるし、しんどうそうだし、母親を見ていたのでガンなんだろうなというのは感じていましたが。2019年に、青山さんが高知のじいちゃんの家に来てくれて、何日間か一緒に生活したことも、映画の中に大きく反映されているかと思います。前野健太さんが演じるおんちゃんの一部にはなっているかなと」
──青山監督が大学の打ち上げのカラオケで甫木元監督の声を聴いて、君は映画も音楽もやれといったのがミュージシャンへと向かう第一歩になったとも伝わってきています。来る11月30日には菊池剛さんと二人で組んでいるバンド、Bialystocksでメジャーデビューとなり、昔から映画監督として応援してきた私としては、この展開を驚いてみているのですが、ここからせっかくなのでここからは菊池さんも交えて、『はだかのゆめ』の映画音楽と、音楽活動を伺えればと。
ここでちょっと説明しますと、Bialystocksの結成は、甫木元監督の『はるねこ』の上映時、イベントとして劇中歌を甫木元さんが自身で歌うという催しの時に、友達の友達であった菊池さんに声をかけて、バンドサウンドにアレンジしなおして演奏したのが最初と聞いています。甫木元さんの作る曲は、宮沢賢治の作詞・作曲の「星めぐりの歌」的なというか、合唱団を運営されていたお母様の影響から朗々と歌う曲が多い印象ですが、ジャズピアニストとして活躍されていた菊池さんと組むようになり、アレンジにジャズやソウルやR&Bの要素が加わり、グンと広がったと思うのですが、甫木元さんの「触れたいのに触れられない」「和えたいのに会えない」というもどかしさを音として表現されるのに工夫されていることは?
菊池剛(以下、菊池) 「あんまり歌詞の内容を意識しすぎないようにしているんです。歌詞とサウンドが合ったら合ったでいいし、合わなかったら合わなかったで、そこから特異なものが生まれてくることがあると思うので、本当にコンセプト段階ではほとんど歌詞のことは考えていなくて、もうメロディとサウンドをというのを大事にしていますね。最後に質感を整えていくときに、少し、主題を意識する、そういう感じですね」
──2021年にリリースされた『ビアリストックス』の中の『I Don’t Have a Pen』の流れるようなピアノの前奏を聞くと、ピーター・アンダーソンやエルダー・トリオをいつも思い浮かべるんですけど、ああいった速弾きのジャズピアニストは意識されていますか?
菊池 「いやあ、僕は、速弾きはそんなに意識しているわけでは……」
──そうでしたか。
「僕はフランク・シナトラが大好きで、ゆったりしたメロディも好きなのですが、このバンドで言葉が早いような曲を作ってはいるんですけど、それも普段自分があまりやらないからという意味で、Bialystocksではチャレンジで作っているという感覚があります」
──『灯台』もそうですけど、『I Don’t Have a Pen』はハイトーンでありながら超絶早口曲で、甫木元さん、いつもライブで思うんですけど、あれ、どこで息継ぎしているんですか?
甫木元「結構、してますよ。合間、合間に(笑)」
菊池「『I Don’t Have a Pen』は寿限無寿限無の呪文のような歌ですよね」
甫木元 「さっき菊池が言ったように、僕の本来持っているリズム感とは違う曲に挑んでいるので、それは毎回、チャレンジというか、やったことがないから面白そうだなと思いつつ、毎回、できずに苦戦しています。もっと早く歌える人もいるし、もっとラップ的にうまく韻を踏んで歌える人はいると思うんで、そういった中で自分ができることは何だろうなと思いながらやってますね」
──『はだかのゆめ』の映画音楽でいうと菊池さんが出演されている壮大なススキの群生のある草原に流れているピアノだけの曲が猛烈に好きで、眠れない夜はあの曲が入った予告をエンドレスに聞いてしまうのですが、あれは一曲のインストゥルメントになっているんですか?
菊池「いや、あの曲は、映画で流れるあそこだけしかないです」
──素晴らしいメロディなので、あれを一曲にしてほしいです。
菊池「やってみたいなと思いつつ、いまのところは、やっていないですね」
──劇中、ノロがいるときの風景に流れる曲と、母親がいるときの音楽に大きな違いがありますが、どういう打ち合わせで構成されたんですか?
菊池「甫木元から早い段階で、ノロと母親のいる場面で、ここはこうしてほしいと指定があって、そこから作っていきました」
甫木元「ノロがひとりでさ迷っている場面は、新しく菊池に作曲してもらった部分が多いですね。ノロがおんちゃんや、母親と交わるところは、元々、Bialystocksで歌っていた曲を使っています。ノロがいるところはピアノの曲が多いんですけど、それは自分がちっちゃい頃から、ピアノ教室をしている母親のピアノを聴いていたので、本当にその場所で、どっかから聴こえてくる、たまたま流れてきたぐらいの音楽の在り方でもいいのかなと思っていました。近所の近くの子供が練習しているぐらいでもいいかなと、そこからピアノをメインで組み立てることをしたというか」
──四万十の川や、高知の海など、水辺の映像が多いので、サウンドからも水の音を勝手に受け取ったのですが、そういうことも意識されて?
菊池「いや、特に意識していませんでしたが、そう受け取っていただけるとありがたいです」
甫木元「Bialystocksって、菊池の曲ありきで作っていて、詩先行で作ったことはまだないですね。曲を聞いて、そこにはまっていく歌詞を探っていく感じで」
──甫木元さんが発掘して、つけた歌詞に菊池さんがダメだしすることはあるんですか?
菊池「テーマについては任せていますけど、音の面やリズムの面では細かくします」
甫木元「流れをあえて止めたり、あえて、音と言葉がはまっていなかったり、うまく流れるようにここは言葉を入れた方がいいと、結構明確に指示をもらって作っていく感じですね」
──休符を効果的に使って、緊張感あるサウンドも多くて、ライブではどきどきするんですけど。
菊池「なんでかな、そういうのが好きだからかな(笑)」
──良く、ライブで日本の音楽シーンやバンド状況を知らなくて、バンド仲間を作りたいと話されていますが、自分の座標軸を確認してしまう、意識するバンドはいますか?
甫木元「それは、死んじゃった人の方が多いかもしれない。小さい頃から聞いている曲で、改めて今、聞いたらどうなんだろうなと、自分の目指している場所というよりかは、自分の感覚がどう変化していっているのかを再確認して聞くことの方が多いかもしれません。ベタですけど、ビートルズとかザ・バンドとか、僕が小さいときに父親が聞いていた映画のサントラとか、その辺のレジェントですね」
菊池「僕は、曲を作るとき、たまにスティービー・ワンダーの曲と比べて、落とし込む作業をしますね。サウンド的には違うかもしれないですけど、メロディの作り方については直接的に影響を受けているといえるかも」
──メジャーデビューとなるアルバムにはコンセプトはあるんですか?
甫木元「今回に関してはあまりなかったですね。今まで通り、曲を作ってはお互い出し合って、メロディがいいものを選んでいくという。あまりひとつのコンセプトを持ってという感じではなく」
──LEEの読者に一押しできる曲があれば、ぜひ聞きたいのですが。
甫木元「実は僕たち、自分たちのファン層もどういう方たちなのか、まだ全然わかっていないので、おすすめするものもわからないのですが、なんだろう……菊池さん、何が合うかと思いますか?」
菊池「まだ生まれていない曲もあって、今日もこれからスタジオで収録なんです(※取材日は10月26日)。なので、自分たちのアルバムがどう終着するかもまだ把握できていないんです」
甫木元「そういう意味で、一番昔からあって、前作のEPにも入れようとしたけれど、でも、今じゃないかなと温めていた曲として『日々の手触り』から聞いていただくのがいいかもしれません。日常から地続きにある曲で、『はだかのゆめ』ともクロスする曲だと思います」
──最後に、甫木元監督に聞きますが、『はだかのゆめ』の初号試写のとき、過去と向き合う作品はこれで終わるかも、という話をされていましたが、違うビジョンがありますか?
甫木元「たまたま続いちゃったことで、父親と母親を映画で弔うじゃないですけど、家族の弔ということに関しては、これでおしまいになるかと思います」
四国山脈に囲まれた高知県、四万十川のほとりに暮らすある一家の物語。若くして両親を亡くし、高知県で祖父と暮らす甫木元空監督の体験をモチーフに、祖父、母、孫のノロの3代にわたる時間と、境界線を飛び越えた触れ合いを描く。四万十の火振り漁、愛媛、香川、徳島との県境となる天狗高原など、高知の圧倒的な風景と、Bialystocksの音楽が奏でる映像詩。第35回東京国際映画祭NIPPON CINEMA NOW部門にセレクトされた。
監督・脚本・編集:甫木元空
出演:青木柚 唯野未歩子 前野健太 甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則 飯塚香織
撮影:米倉伸 照明:平谷里紗 現場録音:川上拓也 音響:菊池信之 助監督:滝野弘仁
音楽:Bialystocks 製作:ポニーキャニオン
配給:boid/VOICE OF GHOST
2022年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/5.1ch/59分
©PONY CANYON
★11月25日(金)より渋谷シネクイントほか、全国にて順次ロードショー公開
デビューアルバム『Quicksand』特設サイト
撮影/山崎ユミ
映画ジャーナリスト
兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。
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