結婚式って誰のため!?
ポスターはちょっとベタなイメージですが(笑)、バカリズムさんのオリジナル脚本、監督は大九明子さんと聞けば、これはもう完全に観なきゃいけない作品かも、と思いますよね!? その期待に違わず、要所要所で大爆笑しながら、晴れ晴れとした気分になれる会心作でした。ということで、大九明子監督の登場です。
LEE読者にとって大九監督作と言えば、『勝手にふるえてろ』(17)や『私をくいとめて』(20)など、綿矢りささん原作の2作を思い浮かべると思います。そんな大九監督、『美人が婚活してみたら』(19)の公開時にも、主演の黒川芽以さんとLEEwebに登場していただきました。2度目の登場となる今回は、映画『ウェディング・ハイ』の撮影裏話など、たっぷり聞かせていただきました!
横浜市出身。『恋するマドリ』(2007年)で映画長編監督デビュー。2017年『勝手にふるえてろ』で第30回東京国際映画祭・観客賞など。『私をくいとめて』(2020年)が第33回東京国際映画祭にて史上初2度目の観客賞など。ドラマ「シジュウカラ」(TX)が1月8日より、配信ドラマ「失恋めし」(Amazon Prime Video)は1月14日より配信中。
──このプロジェクトに参加することになった経緯を教えてください。
「一昨年(2020)の年末にお話をいただき、春には撮りたいと言われ、スゴイことを言う人たちだなぁ、と思いつつ(笑)、バカリズムさんの脚本だとお聞きしたら“読んでみたい!”という気持ちになりまして、そこで参加を決めました」
──その脚本を読まれて、ご自分の中で“こう撮るぞ”と勝算が見えたとか!?
「その時点では“こういう方向でいく”という段階のものでしたが、“こうしなければ”と幾つかのテーマが頭に浮かびました。バカリズムさんとお会いしての打ち合わせは一度だけでしたが、そこで思い浮かんだものを盛り込んでいただくよう、お願いしました」
──それによって盛り込まれた、最大のポイントは?
「新婦の恩師の役割を強めたことでしょうか。結婚式を舞台にした“お祭り映画”は、すごく面白いと思いました。世の中が“結婚式を誰のためにやるのか”ということに対して、当たり前のように“花嫁さんのためにやる”という考えが暗黙の了解としてあるのが嫌だったんです。現実は違うな、と。現実の女性たちは披露宴をそんなに楽しみにしていないし、自分も含めて私の周りの女性たちは、披露宴を(やらずに)スルーする人ばかり。披露宴をやるにしても、女の子の夢を叶えてあげる日というより、両親を喜ばせるためにやる方が圧倒的に多い。新郎新婦がこれまで生きてきて、お世話になった人たちに、一日恥をかいてでも挨拶をする日、という風に見えるようにしたかったんです」
『ウェディング・ハイ』ってこんな映画
少し流されやすいが優しく真面目な彰人(中村倫也)と、天真爛漫だけどしっかり者の遥(関水渚)は、敏腕ウェディングプランナーの中越(篠原涼子)の強力サポートのもと、面倒な準備を進め、ついに式当日を迎える。だが新郎新婦以上に披露宴に並々ならぬ情熱を注ぐ人々が続出し、至る所で誤算が発生しはじめる。新郎新婦からSOSを受けた中越は、スタッフとともに、披露宴を完璧な状態で敢行するための作戦を練り、前代未聞のミッションを遂行し始める。しかし花嫁の略奪計画を練る遥の元恋人(岩田剛典)や謎の男(向井理)らが現れ、さらに事態はこんがらがっていく――。
──それにしても豪華キャスト。これだけ多数の人物が登場する群像劇をまとめ上げるのは、かなりの苦労があったと思います。最初から、これだけの大人数を登場させる予定でした?
「群像劇であることは最初から決まっていましたが、私が登場人物を増やしちゃったりもしましたね(笑)。まずは新婦をどういう人にしようか、ということから考えていきました。ワガママな新婦も違うし、無邪気過ぎる新婦も違うな、と。そうすると、新婦を支える誰かが必要だと思いつき、恩師(片桐はいり)を出してもらうようお願いして」
「ある意味、自己実現をするために披露宴に情熱を掛けてやって来る他の男性たち(主賓挨拶をする彰人の上司(高橋克実)や、乾杯の音頭を取る新婦の上司(皆川猿時)ら)の中で、この先生だけがただ一人、本当に教え子の幸せを祈っている。そんなイカす女性が出てきたらいいな、と思って加えてもらったキャラクターです」
──多数の人たちのそれぞれのエピソードが、上手い具合に可笑しく絡んでいくのが最高でした。本当は、新郎の叔父(池田鉄洋)も披露宴で特技を披露したかったのに断られてしまったのも爆笑で(笑)!
「本当に皆さん味のある俳優さんばかりで……。池鉄さんのキャラクターも面白くなっちゃって、どんどん膨らませちゃったんですよ(笑)。大変贅沢な話ですが、豪華俳優陣が披露宴会場で一堂に会してテーブルに座っていて下さっているわけです。そんな中でパッと池鉄さんを見たら、“あの人、悲しいだろうな。だって(披露宴で芸を)やりたかったんだものね”と思っちゃって(笑)。そうなるともう、抜かずには(その表情をカメラでしっかり捉える)いられなくなっちゃって、つい、たくさん撮っちゃった(笑)。撮っているうちに、どんどん目立ってきちゃったキャラクターでした」
──その他も、膨らんでいったキャラクターが?
「それも色々ありました。例えばチーム中越(不可能に近いミッションを叶えようとする宴会スタッフ4人)を結成するときも、なんか戦隊ものっぽいことをやりたいな、と思って。心の声で喋っていることにしようとか、勝手に現場でやっちゃった感じですね(笑)。臼田あさ美さん(大九作品の常連)とか、やっぱり何をやってもチャーミングだし、ついつい甘えて色々とやってもらっているうちに、登場シーンが増えちゃった感じです」
「この群像劇は、“面白くある”ということが正義の映画だと思ったので、日本中が知る笑いの天才・バカリズムさんが書いた脚本を、私のようなお笑いの凡人が預かるならば、“映画としての面白さを追及し、私の映画はこれです”と示せるように全力でやらなればならない、と思いました」
お仕事映画でもある楽しさ
──本作は、自分の仕事に誇りをもって不可能を可能にしようと奔走する、お仕事映画という楽しさもありました。
「確かに最初から“お仕事ムービー”とも言ってました。というのもロケハンをしている時、どの披露宴会場でもスタッフの皆さんが、本当にプロフェッショナルとして全力投球で結婚式当日を迎えるんです。その姿や本気度の素晴らしさに、ものすごく胸を打たれてしまって。中越のような頑張りをするウェディングプランナーも、あながち嘘ではないな、と。しかも一歩会場から外に出ると、急に普通の街道が走っていたり、周りは畑だったりするんですよ。そんな中にボンと南仏プロヴァンスみたいな世界を作ってしまうのも、スゴイ」
「結婚礼賛映画ではなく、結婚式や披露宴をどう描けばいいか悩んでいた不安が、そのロケハンで吹っ飛びました。このエネルギーの塊みたいな場所で、1日を最高にステキなものにしようとする本気度は真実だ、と。中越がそういうところを舞台に頑張っている人だと、私もスッと入り込めました」
──撮影は披露宴関連を先に撮った、後でまとめて撮ったなど、どんな風に進めていったのですか? あの人数を一か所に集めておくのも一大事ですよね。
「俳優のみなさんが本当にお忙しい方々なので、順撮りはまず無理。役者のスケジュールを優先し、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしながら撮っていきましたが、割に披露宴関連を先に固めていきました。2週間くらいでそこを撮りましたが、もう、ギッチギチのスケジュール。3倍くらい時間が欲しかったです」
──この映画、イケるぞ、と確信した瞬間はありましたか?
「クランクインの町田のバーでの、(彰人が友人らに結婚式・披露宴への出席を頼む)陽気なシーンですね。(彰人役の)中村倫也くんとはこれまでも何本かやって来ましたが、あの人がいれば、映画はとにかく大丈夫(笑)。やるべきことをキッチリやってくれるし、ぶれない人。ただ最初のシーンなので、彰人という人を、どれくらいの振り幅にしていこうか探りながらやっていて。でも、インのこのシーンで、“そうか、すごく流されやすい人だ”と決まりました。彰人の昔の友人の役者たちも面白くやってくれて、あのバーの空気感が、本当にすごく良かったです」
──後々に色々と生きてくる、“伏線”が既にこのバーから始まっていました。
「その辺りも、ちゃんと脚本に含まれていました。実はこのバー自体も、かなりこだわって作ったんです。“ないなりにゴージャス”という合言葉のもと、各部署で“グリッター感や艶”という意識を共有して。自分がソダーバーグになったみたいな気持ちで、ソダーバーグなら、ここに馬を置くだろう、とか(笑)。撮影の中村夏葉さん(大九作品の多くを手掛けてきた)とも“ギラギラする画を撮りましょう”と、グリッター感を意識して。初日だったのもあり、“あ、こっちの方がギラギラする!”と言い合って、俯瞰で撮ったりグラス越しに撮ったり、すごくこだわりました」
ミッション遂行シーンの作り方
──チーム中越が結婚式場を舞台に、ミッション遂行のために一斉に動き出すシーンは、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』か!?ってほど、カメラが場や人を縫うように繋いでいく高揚するシーンになっていました。
「普段、私は事前にカット割りをしないので、今回もいつも通り段取り(シーンの大まかな動きを確認する)で役者に動いてもらって決めていく感じでした。ただ、あの披露宴会場が“ロの字”に動ける面白い場所だったので、人がこっちから来て、ここで出会うというような、人と人が鉢合わせすることが上手く出来たらいいな、と。芝居を作ってからカット割りを決め、カメラが気持ちよく人に乗っかりながら移動していく、ということをやってみました。少々ネタバレに踏み込みますが、この一連のシーンは2度撮る必要があったので、カメラポジションについては、A面を撮っているときに、B面ではあっちから映そう、と決めながら作っていきました」
──色んな事が同時多発的に起きるので、辻褄を合わせるのも苦労されましたか?
「実は脚本上のからくりを成立させるために、いくつかのポイントで時間を使わなければいけない、ということがありました。悩んだ挙句、(新婦を奪いに来る元恋人役の)岩田(剛典)君をもっと馬鹿なキャラクターにしてみよう、みたいな(笑)。どうしても時間が合わないぞ、じゃ岩田(剛典)君に意味もなくここでスクワットしてもらおうとか、“今から彼女を奪いに行くぞ!”と張り切って、この柱でテッポウ打ってみようか、とか(笑)。岩田君も“はい、分かりました”とやってくれて(笑)。初めてご一緒できたのに、こんなことになって恐縮です」
──取材でお会いすると常にクールな岩田さんが、温泉で全裸でバンザ~イみたいに立ち上がるシーンは、つい驚いて私も席を立ち上がりそうになりました(笑)。
「ああいうシーンも含めて、全てこちらに委ねて何でもやって下さいました。とても真面目な方で、意見を言うというより、“これって、こういうことですか!?”と質問をされるんです。“こういうことなので、こう動いてみましょう”と言うと、“なるほど、では、ここで一度立ち止まりますね”みたいに、2人で確認しながら作っていきました」
「温泉のシーンは、披露宴会場を撮り終えてから、ほぼクランクアップに近い最後に撮ったので、本当の旅みたいですごく楽しかったです。岩田君も、友人役の浅利陽介君と前野朋哉君と3人で、すごく楽しそうにされていました。年齢の近い役者同士が親睦を深めている姿っていいなぁ、とすごく微笑ましかったです」
──その“チーム男子”の馬鹿らしいノリが、また楽しくて。
「温泉での遊びカットは、浅利君が中心になって“俺ら男は温泉で、こういうことをやってふざけるのですが、いいですか?”と言いながら“沈みま~す。浮上しま~す”みたいなことをやってくれて(笑)。“最高!それでいきましょう”と言ったら、岩田君も喜んでやってくれて、ありがたかったです(笑)。のぼせちゃうんじゃないか、ってくらい温泉に入って待ってくれたり。前野君の“ザッパーン”を覚えていますか? それをやって欲しくて。というのも、『私をくいとめて』でのザッパーンと掛けている、私の中のちょっとした遊びです」
驚異の見応え、大団円シーン
──最大の見せ場となる披露宴での“余興”。あれはさすがに一発撮りですか? すごい迫力でした。
「あのシーンに関しては、キッチリ絵コンテを作って割って、3台のカメラを回しました。ある“芸”はすごい体力を使うので、何度も出来ないということもあり、まずこのポジションから行きます、次はこっちから、というように。若い俳優さんたちから、六角精児さんや尾美としのりさんというベテランが一堂に会して練習する日をもうけたのですが、大先輩のお2人が若い俳優たちの動きに合わせて下さって、本当に素晴らしい俳優さんたちだなぁ、と感動しました」
──ちなみに大九監督は、撮影時はどこに構えているのですか?
「段取りのときは、自分もカメラのつもりで俳優と一緒に走り回り、ここでこうすると動きを付けたり、すぐそばで見ています。ただ一旦カメラを回し始めると、私はカメラ後ろの場所に設置されたモニターを見ています。気になることがあると走って行って、“私にはこう見えるのですが、こういうパターンも見せてもらっていいですか”みたいな話をする感じ。現場でウロチョロしているタイプです。カメラマンの中村夏葉さんにも、“すごいスピードで通り過ぎる人がいると思うと、大抵、大九さんだ”と言われました。特に今回の現場は時間がタイトだったので、時間が勿体なくて走り回りました。早く言わないと忘れちゃうのもありますが(笑)」
──現場でも、ちょいちょい面白いアドリブを採用されると聞きました。
「段取りからお芝居を拝見して、俳優がついやってしまったことが面白い場合は、“今の、頂戴しますので、お願いします”と残して芝居を作っていく感じです。そういう偶発の積み重ねによって一つの役になっていくところもあると思います」
「中越の髪については、戦略的に乱していきました。何かを必死にやっていると、もはやピンで髪を留めていることが意味をなさず、バサッと髪が前に落ちているのにピンだけ残っているような状態って、私自身が結構あるんですよ(笑)。それを篠原(涼子)さんに説明して、“最初はプロフェッショナルとして顔をキチっと出した髪型ですが、徐々にそうなっていくのはどうでしょう?”と説明したらノッて下さって。“今、こんな感じでピンを残しているのですが、どうでしょう?”と嬉しそうに見せに来てくれて、“いい残りだと思います!”とか。偶発ではないけれど、偶発かのように見せかけるシーンの作り方もしました」
──最後に、同時期にドラマ「シジュウカラ」、配信ドラマ「失恋めし」なども手掛けられ、すごい活躍ですが、ある種、職人的な意識みたいなものが芽生えたとか、ありますか?
「それは全くないですね。僭越ではございますが、これは自分じゃないなと思ったり、私は多分面白がれないと思ったものに関しては、お引き受けしないようにしています。昔はとにかくチャンスが欲しかったので、来たものは全部、自分が面白いと思う形に作ろうという気概でやっていましたが、ここ数年は割と落ち着いて、見極める形で仕事に取り組んでいます」
そう聞くと大九明子監督作が、今後益々楽しみになって来ますね。
とはいえ、まずはこちら『ウェディング・ハイ』を。どの役も生き生きとキャラが立っていて、“うわ、こんな役やるんだ、やれるんだ”という嬉しい驚きも満載です。
限られた時間で謎の男役、向井理さんについて聞き逃してしまいましたが、向井さんも短いパンツがちょっと変で(笑)、とってもいい味を出しています。また、大九監督ならではのキャスティング、「空気階段」のお2人が登場(大九組3度目)するなど、見どころに溢れています。
爆笑コメディでありながら、ちょっとした謎が落とされ、それが“あ、そういうことだったのか!”と終盤で生かされていくのも、後味が痛快な理由の一つ。すごく憧れて入社して職場の後輩になってみたら……なんていう“お仕事あるある”など、小ネタまでたっぷり楽しみが詰まった結婚狂騒ムービー。
ちょっとムシャクシャすることがあった時に、あるいは単純に大笑いしたい時に、是非是非、劇場でたっぷり英気を養ってください!
映画『ウェディング・ハイ』
- 脚本:バカリズム
- 監督:大九明子
- 出演:篠原涼子、中村倫也、関水渚、岩田剛典、向井理、高橋克実、ほか
- 配給:松竹
- 3月12日(土)より全国ロードショー
- 公式サイト:映画『ウェディング・ハイ』公式サイト
© 2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
撮影:伊藤 奈穂実
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『ウェディング・ハイ』公式サイト
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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