時を経て気づく、四季のある風情、丁寧な手仕事 大人はそろそろ「和」を楽しみたい
フードディレクター野村友里さんが母から受け継ぐ「和の心」と、もてなしのための愛用品【LEE DAYS】
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LEE DAYS リーデイズ
2021.10.30
近頃、気になるのは「和」の文化。その道の歴史に深く感銘を受け、作り手の想い、職人技のゆかしさをしみじみ実感します。静かで力強く美しい器がそっと教えてくれるのは、なにげない日常の豊かさ。LEE DAYS世代になって、じっくり「和」の心得と向き合ってみませんか。
フードディレクター
野村友里さん/Yuri Nomura
のむら ゆり●「eatrip」主宰。東京・原宿で「restaurant eatrip」を営むほか、表参道に、都市と産地をつなげる場、「eatrip soil」をオープン。食を通じて、人や場所、ものをつなげる活動を続ける。母は、おもてなし教室を主宰する野村紘子さん。http://www.babajiji.com/
ごくシンプルな、人を喜ばせたいという気持ち。それはおもてなし上手の母譲り。中心にあるのは、心づくしのひと皿。時を経て気づく、家庭に色濃くあった和の心。少し形を変えながら、でも根本は変わらずに、レシピは受け継がれます。
食材はもちろん、食の時間を豊かにする器の作り手にも思いを寄せる。奥の土鍋は、山梨県在住の85歳の陶芸家・大蝶恵美子さんによるもの
「母の姿勢から見えるもの。それは茶道に通じる“もてなし”の心」
さて、お話をうかがいましょうかという段取りになると、野村さんはごく自然に正座になっていました。「直接床に座ると、ついこうなって」と、照れ笑いをします。
「いわゆる“和食”を母から教わった記憶は、とくにないんです。どちらかというと我が家は、洋の雰囲気のメニューが多かったので」(野村友里さん)
家庭にずっと漂っていた、モダンな空気。おのずと興味は、海外へと向かいました。大学を卒業し、向かった先はイギリス。
「海外に出た途端、日本のことをよく聞かれるようになって。国内にいたときには予想もしなかった視点の質問を、日々受けるようになるんですね。学生時代には料理教室にも通い、和食の知識は持っているつもりでした。
でも彼らが本当に知りたいのは、それよりも暮らしに近いこと。留学時代は母に頼んで日常の和の料理のレシピをファックスで送ってもらい、それを披露して喜ばれていました」(野村友里さん)
はからずも、外に出ることが、“和”に向き合うきっかけとなった野村さんは、帰国後、改めて茶道を学びはじめます。
「曽祖母がお茶の先生だったのに、それまではとくに興味もなくて。ただ、お茶の世界に触れてようやくわかったのは、母が何気なく続けている多くの習慣が、和の心、茶道の心得からなされていたこと」(野村友里さん)
お母さまの紘子さんは、おもてなし上手として知られ、自宅で料理教室を開いています。お稽古をはじめる前には必ず、“水打ち”といって玄関に水を撒いていました。
そしてお香を焚いて季節の花を生ける。たとえ、洋の姿をしていたとしても、それは間違いなく、茶道におけるもてなしの形でした。
「母がおもてなしをするのは、『客人を喜ばせたい』の一心。それはまさに茶道のあり方ですし、思い返せば、折敷を使ったしつらえも、『器に料理を盛るときは、余白が大切』など幼いころから何気なく言われていたことも、すべてはここにつながっていたのだと、今になって腑に落ちます。そして、料理をはじめとするあらゆることに対し、まずどこまで引き算できるかを考えること。
そして何より、それが成立するのは、ベースがしっかりしていればこそであること。今、私がつくる和食は、母の味そのままではありません。ただ、その奥底には母から受け継いだものが意識せずとも必ずある。それがあるから、私は私のやり方で、料理を楽しめているのです」(野村友里さん)
野村家が代々大切にしているおもてなしの心。その心を表す、友里さんの愛用品。小山剛さん作の折敷とお盆、一輪挿し。
「和のしつらえに欠かせないお折敷やお盆は1枚で空間を仕切り、その上に小さな世界観が生まれます」(野村友里さん)
美しい柄が気に入って実家から譲り受けた、明治時代のもの。
骨董の香入れ。めでたい鶴が描かれている
撮影/伊藤徹也 取材・原文/福山雅美
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