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子どもの「ママもセックスした?」への模範解答は?性教育への不安に答えます【産婦人科医・高橋幸子さん】

  • LEE編集部

2021.08.21 更新日:2021.08.26

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高橋幸子さん

今回のゲストは、産婦人科医の高橋幸子さんです。産婦人科医として診療をしながら、性教育を人生の目標に掲げて年間120回以上の講演活動をし、雑誌やテレビへの出演、本の出版などメディア活動も精力的に行っています。

昨今、性について話すことはかなりオープンになりましたが、私たち親世代が性教育をきちんと受けていないため「どう話すべき?」「何から始めたらいい?」とためらっている人も多いはず。16歳の息子さんを持つ高橋さんに“性教育ビギナー”の私たちへアドバイスをもらいました。「いつ始めても遅いことはない」「何歳でも伝えることがある」という言葉に勇気づけられます。(この記事は全2回の1回目です)

無防備な性行為がもたらす、予想外の弊害

高橋幸子さん

高橋さんが性教育に目覚めたのは、医大6年生の時でした。女子少年院でボランティア活動をした友人から「入所中の中高生のほとんどが性感染症にかかっていた」というエピソードを聞きます。性にまつわるトラブルで入所している子、そうでない子も皆、性感染症にかかっていることに衝撃を受けます。

「大学5年生の産婦人科実習で、不妊症で体外受精になる原因の一つが性感染症であると知りました。クラミジアや淋病などの性感染症にかかると、卵管が炎症を起こし受精がうまくできず、不妊の原因になってしまうことがあります。無防備な性交為によって性感染症になり、将来的には不妊につながってしまうかもしれない。それを知らないとしたらアンハッピーですよね。それを若者たちに教えなくては!という強い使命感に駆られました」

その後、友人と“人間と性”教育研究協議会の全国大会に参加した時「性教育が性“脅”育になってはならない」という言葉に背中を押されます。診療科は、若者に一番寄り添うことができる産婦人科を選択。現在は、埼玉医科大学病院の産婦人科での思春期外来の診療、埼玉県所沢市の松田母子クリニックで週1回の外来診療、日本家族計画協会市ヶ谷クリニックで月2回の非常勤医師をしています。大学病院の思春期外来の診察のメインは、若年妊娠と性虐待。併せて、大学に通う医学生や看護学生、研修医のPMS(月経前症候群)の相談、低用量ピルの処方、子宮頸癌の検診なども行なっています。

高橋幸子さん

勤務先の埼玉医科大学病院構内の書店にて。高橋さんが選書を担当した「性教育の本コーナー」もあります

「性虐待は、児童相談所から連絡がきます。多くは中学生くらいになって初めて自分が家庭でされていることに気づき、学校に相談。児童相談所に通告され、保護された状態で連れて来られます。性虐待を専門で診ているのは、埼玉県内ではここ(埼玉医科大学病院)と越谷市立病院だけです。若年妊娠は他院からの紹介で来ることが多く、親の同意が取れなさそうだったり、妊娠週数が22週過ぎていたりする場合が多いですね。大学病院の通常の妊婦健診の枠より時間をかけられるので、親御さんも含めてじっくり話を聞いてあげられるのが思春期外来の特徴です」

中学生の性経験は増えている、だから中3までに

高橋さんが性教育を「なるべく早く教えたい」と思うようになったきっかけに、性虐待で診察した10歳と7歳の姉妹のエピソードがあります。10歳の姉はプライベートゾーンを知りませんでしたが、7歳の妹が知っていて事件が発覚しました。小学生から大学生まで、幅広い年代の子どもに指導を行う中で気づいたのは、いかに子ども達が曖昧な情報しか持っていないかという現実でした。

高橋幸子さん

「ネットで知った不確かな情報を持っているか、または全く知らないか、両タイプの子どもがいます。性行動は、2005年をピークに高校生も大学生も性行為(キス、セックス)を経験している人は減っています(日本性教育協会が実施した全国調査による)。とはいえ、中学生は増えているんですよね。だから中学生にも正しい情報を伝える必要性があります。講演では、中3と高校生には同じ内容を教えています」

世界の性教育のスタンダード「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳からの性教育を推奨しています。プライベートゾーンを教えることが、防犯そして自分や他人を大切にすることにつながると言われています。とはいえ、「どう始めたら?」「聞かれても口ごもってしまうかも」と不安に思う人もいるかもしれません。

高橋幸子さん

高橋さんが監修を担当した書籍の一部。真ん中が本文内でも触れている『子どもと性の話、はじめませんか?』(CCCメディアハウス刊)

そんな時に活用して欲しいのが本です。高橋さんが監修した本『子どもと性の話、はじめませんか?』(CCCメディアハウス刊)では、幼児期、児童期、思春期の3つの時期に分けて伝えることや伝え方、その時期に多い子どもからの疑問への回答を紹介しています。その中から先生に「これは外せない!」という性教育のポイントになる年齢と、伝えるべき内容について教えてもらいました。

Point 1

10歳(小学4年生)までにプライベートゾーンを教える

「10歳を過ぎると、エロい、きもいなどの情報が入ってくるので、その前が良いでしょう。また、小学4年生までに月経が始まる子もいます。その後に家庭内で性虐待があると妊娠に繋がってしまうので、4年生の段階で『こういう行為で赤ちゃんができる』『プライベートゾーンはあなただけの大切な場所』『イヤだと思った時にはイヤ(NO)だと言っていい』と教える必要があります」

Point 2

15歳(中学3年生)に避妊と性感染症を教える

「性の多様性、性的同意なども伝えていかなければいけませんが、自分を守るために大切なのが、避妊と性感染症についてです。学校で避妊を教えるのは高校生、性感染症は中学3年生とありますが、自分事として捉えられるような授業を実践できている学校は少ないようです。

避妊の具体的な方法(コンドームや低用量ピル、緊急避妊薬など)、性感染症は性器の挿入を伴うセックスだけではなく口や粘膜から感染すること、性感染症にはいくつかの種類があり、将来的には不妊の原因になることがあることや、予防も治療もできる!ということを伝えます」

advice!

面と向かって話しづらい時は、本を渡すor URLを送る!

思春期の子に、避妊や性感染症について話すのは「抵抗がある」「話を聞いてくれなさそう」と不安に思う人は、本を渡すまたは動画や信頼できるサイトのURLを送る方法がおすすめだと高橋さんは言います。

つながるBOOK

高橋さんが制作に関わった高校生のための性教育のパンフレット『#つながるBOOK』。WEB版・PDF版もあります

「本を渡しても受け取ってくれないなら、本棚に置いておく、またはこっそり読んでもバレないトイレに置いておくなどもおすすめです。本を読まない子には、YouTubeや動画のリンクを送ってもいいでしょう。動画も種類が多く、選ぶのが難しいですが、私も制作に関わった『#つながるBOOK』で紹介した動画は、信頼できるサイトへのリンクがまとめられているのでおすすめです」

親にもプライバシーがあることを教える

性について教えることで、「自分の経験を話さなくてはいけない?」「ママもセックスしたことあるの?と聞かれたら戸惑ってしまう」と思うかもしれません。そんな時は、親にもプライバシーがあることを教えると良いそうです。

「セックスの意味をすでに知っているなら、自分のことすべてを話す必要はありません。セックスを知っている年齢なら、『うん、したよ』『したからあなたが生まれたんだよ』と、恥ずかしがらずに淡々と答えるのがポイントです。まだ伝えていないなら、この機会に話すのもいいでしょう。『何歳の時に初めてセックスした?』『今もセックスしているの?』というプライバシーに関わる質問は、必ずしも話す必要はありません。『個人的な話だから、話したくないよ』『性に関することはとってもプライベートな事だから、プライバシーに関わることは答えなくてもいいんだよ。あなたも聞かれたくない時には答えなくていいんだよ』と教えてあげるといいでしょう。

高橋幸子さん

そんな質問の答え方を的確に教えてくれるのが、メグ・ヒックリンさんの本『メグさんの女の子・男の子 からだBOOK』(築地書館刊)です。彼女は子どもにプライベートゾーンを教えたことで、カナダの性虐待を激減させ、国民栄誉賞を受賞しました。興味のある方は、ぜひこちらも読んでみてください」



性教育は子どもが何歳でも遅すぎることはない

「うちの子は高校生だし、もう教えなくていいよね」と思う人にも、「ちょっと待った!」と高橋さん。中・高・大学生、どの世代で講演をしても「今の私にドンピシャでした」「これが知りたかった!」という声があるそうで、何歳でも伝えることがあると言います。

「思春期だから遅すぎる、何もしないのではなく、その時にできることがあります。性について面と向かって話せるのは小さい頃から積み重ねてきた証拠。とはいえ、ずっと積み重ねてきた我が息子でさえ、16歳の今は、彼自身の事について話すのは難しいですから。

高橋幸子さん

息子が小2の時、男の子向けの性教育マンガ『おれたちロケット少年』(子ども未来社)を買ったんです。小5〜中2くらいが対象の本だったので、大きくなってから渡そうと思っていたら、息子が勝手に引っ張り出して、ゲラゲラ笑いながら読んでいたんです。楽しそうに読んでいるし取り上げる必要もないと思い、そのままにしておきました。その後、中学生になるまで何度か読み返した形跡がありました。当時は自分の中で関係ないと思っていたことも、一度知っておけば『あの時、本で読んだな』『自分の体に起こった変化はこれか』と思い出してしっくりくる。正しい知識につながれるんですよね。性への興味が早い子、のんびりした子、その幅は広いです。『まだ早すぎる』と思わずに、その時できることをやりましょう」

(後編では、高橋さんが医師を目指すようになったきっかけや、両親から学んだ性教育エピソード、性教育がもたらす理想の社会について聞きます)

高橋幸子さんの年表

0歳
(1975)
青森県弘前市生まれ。埼玉県川越市で育つ
12歳 東邦大学付属東邦中学に入学
15歳 東邦大学付属東邦高校に入学
18、19歳 医学部に入るために1年浪人、山形大学医学部入学
22歳 大学4先生の時に、バレーボールでキャプテンとして東医体(東日本医科学生総合体育大会)にて優勝
24歳 大学6年生の時、性教育に目覚める。産婦人科医を目指す
25歳
(2001)
試験に合格し、医師に。埼玉医科大学総合医療センターの研修医に
28歳
(2003)
埼玉医科大学病院産婦人科に入局
30歳
(2005)
長男出産
32歳
(2007)
性教育の講演を初めて行う
38歳
(2013)
公衆衛生学教室(現:社会医学)に所属。依頼があった講演すべてを受けるように
43歳
(2018)
NHK『ハートネットTV』「教えて!性の神様」にメールを送り、テレビ出演のきっかけに

 

高橋幸子さん

高橋幸子さん

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
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