知的な美女が、野獣のようにしなやかでミステリアスな男に身も心ものめり込む!
なんとバレエ界の反逆児と異名を取った天才ダンサー、セルゲイ・ポルーニンさんにZOOMでインタビューしました!! 普段ならお会いできないような方に、今だからこそお時間をいただけるという、奇跡のような瞬間にドキドキでした。ロシアのご自宅で、とてもリラックスしたムードの中、気さくに答えてくれましたよ。そんな彼が出演しているのが、愛のムードが濃密なフランス映画『シンプルな情熱』です。
知的なヒロインが身も心も情事にのめり込んでしまう、ミステリアスな魔性の男をポルーニンさんが体当たりで演じています。なるほど、このツンデレぶりには、どんな人でもついのめり込んでしまうかもしれない……と観ながら納得してしまう、野獣のようなしなやかで完璧に美しい肉体は、もう眩しいばかりです!
セルゲイ・ポルーニン
1989年11月20日、ウクライナのヘルソン生まれ。2010年、男性ダンサーとして史上最年少19歳で英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに。人気絶頂の12年に突然、退団。全身のタトゥー、ドラッグ、自傷癖、奔放な行動がゴシップを賑わせた時期も。15年、アイルランド歌手ホージアのMVに出演し、鮮烈なダンスが話題を呼ぶ。16年、ドキュメンタリー『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が公開される。『オリエント急行殺人事件』(17)で俳優デビュー。以後、『レッド・スパロー』(17)、『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(18)に出演。セルゲイ・ポルーニン基金を立ち上げ、若いダンサーの発掘、育成に力を注ぐ。
『シンプルな情熱』はこんな映画
ノーベル文学賞の候補になるなど、フランス現代文学界を代表する作家アニー・エルノーさんが、実体験を元に1991年に発表した同名小説の映画化。
パリの大学で文学を教えるシングルマザーのエレーヌ(レティシア・ドッシュ)は、あるパーティでロシア大使館に勤めるアレクサンドル(ポルーニン)に出会い、たちまち恋に落ちます。逢瀬を重ねるたびに、彼の肉体の虜になっていくエレーヌ。普段どおり仕事をこなしながらも、頭の中は年下で気まぐれで既婚者でもあるアレクサンドルのことばかり。そんな時、アレクサンドルから「妻とフランスを離れる。しばらく会えない」と連絡を受けるのですが――。
──アレクサンドルというミステリアスな男を、どのように作っていきましたか。参考にした映画作品などはありましたか?
「アレクサンドルという男に“重み”を加えたいと思いました。それも“ロシアの男”の一面を、ロシア男性ならどうするか、ということを出したい、と。キャラクター的には、『ナインハーフ』のミッキー・ロークのような弱さをも持った男や、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のマーロン・ブランドも頭に浮かびましたが、主眼はやはり“ロシア男”というのがポイントでした」
──原作では東欧の男という設定だそうですが、今回の映画化で“ロシアの男”に変わったことはどのように感じますか?
「今もヨーロッパとロシアの関係は上手くいっているとは言えませんが、この小説が書かれた当時のソビエトと自由主義の国々とは、非常に対立が深い時代でした。当時は東欧もロシアの一部でもあったので、意味合いとしては変わりません。この映画においても、“正体が分からない”ということが彼の一つの魅力になっているので、ロシア人である設定は非常に大事な要素だと思います。物語を展開させる上でも、その“見えない正体”が効いているので」
僕の中でもアレクサンドルは謎の男
──確かに観ている間、アレクサンドルが何を考えているのか分からず、探るようにじ~っと凝視し続けてしまいます。演じ方としては、ミステリアスなままで居るためにもわざと何も考えないようにしたのでしょうか、それとも、彼の心情を考えたり感じたりしながら演技に反映させていったのでしょうか。
「物語の流れや映像的なことは、ダニエル(・アービッド監督)が求める形で進行しましたが、具体的な“アレクサンドル”という人物については、僕が感じるままに演じていいということだったので、自由に演じさせてもらいました。と言っても、僕にとっても彼は非常にミステリアスなので、(彼の人物像を)一つと決めて掛からないようにしました。演じながらも、常に自分の中で“彼は本当に彼女を愛していたのか”とか“彼はなぜ彼女のもとを去ったのか”とか“なぜ戻るのか/らないのか(*結末を隠します)”とか、質問が心に浮かんでいた状況でした。僕の中では、もし本当に愛しているのなら彼女とは別れられないハズだ、と思ったり、好きだからこそ離れようとするかもしれない、と思い直したりしていました。自分の中で質問が巡るままに、そのまま演じていた感じなんです」
──濃厚なラブシーンが多々あり、それらはとても重要なシーンだったと思います。大変だったでしょうが、どのように撮影は勧められましたか?
「(監督の)ダニエルは、まだエレーヌ役のレティシア(・ドッシュ)と僕が互いをよく知らないうちに突然、撮影を開始したんです。しかも最初からハードなラブシーンだったので、簡単なことではありませんでした。クルーに囲まれ、照明を当てられ、相手は今さっき会ったばかりの人(笑)。怖くて、心地よいものではありませんでした。でも僕の場合、お酒が助けになりました(笑)。かなり高級なコニャックのお陰で、リラックスできました。ダニエルは、“私、こういうラブシーンが好きなのよ(だからこうして欲しい)”というように、何でもない事のようにサラリと説明をするので、みんなリラックスできたように思います。恐怖から次に居心地の良さを感じ、そのうち可笑しくなってきて、段々と互いが互いを労わり合っているような、愛のある空気になっていって。とにかくラブシーンの撮影中は、色んな感情が渦巻いているような、不思議な空間でした」
動きは僕のテリトリー
──濃厚なラブシーンだけでなく、壁ドンに至る流れや、突き放したり引き戻したり、アレクサンドルの動きが印象的です。ご自身のアイディアが生かされた場面はありますか?
「壁ドンはダニエル(監督)のアイディアで、“ああして欲しい”と言われるまま演じました。彼女が細かな動きを付けてくることもありましたが、多くの場合、動きは僕のテリトリーでもあるので(笑)、自由にさせてくれました。元々ダンサーというのは、その場にそぐうような、合っている動きを模索して振り付けていくもの。そういう意味でも、アレクサンドルの動きについては、僕が自由に振り付けをしていった感覚です」
──ダンスと演技について、ポルーニンさんが感じる表現の違いを教えてください。
「一番の違いは、表現上の動きの大きさです。ダンスはフルに広範囲に動き、大きなスケールで展開します。聴衆との距離があるので、舞台では表現を大きく、エネルギーをも乗せて観客に届けようとします。でも、その手法を演技に持ち込むとオーバーになってしまう。演技はもっと細かい小さなステップで、もっと内省的です。ステップを踏んでいる時に、考えていることがカメラを通して見えてくることもあるように、演技は小さなことが大きな意味を持ちうるものだと感じます」
子育ては、価値ある以上のもの
──ポルーニンさんがあるインタビューで、“人生は他者に恵みを与えるためにある”という発言をされているのを読んで感銘を受けました。
「これまで僕自身、色々な財団や基金から奨学金をもらって、ダンスの機会をいただいてきました。そんな時いつも、“僕が与えられてきたものを、他者に与えなければ”という意識を強く感じていました。同時に、与えるのはたった一人ではなく、50人、100人とより多くの人に与えたい、と。それを可能にするシステムを作るために、財団を作りました。今では各国にそれが広がり、演目も行っています。僕の最終的なゴールは、芸術で財団を通して、国を超えて世界を繋げること。それには、ダンスって本当にいい媒体だと思うんです。誰もが参加できるダンスで、しかも質を求めるならどこまでも非常に高い質を必要とされる芸でもあって。政治ではできないような、世界を一つにまとめて、みんなで分かち合っていける力を、ダンスは持っていると信じているんです」
──さて最後に、昨年、パパになられたというニュースを聞きました。パパとしての今の心境や状況を教えてください。
「あらゆる感情がそこにあるのが、親と赤ちゃんの関係だと思いました。日々ご褒美をいただいているような感覚があります。彼のためによりいい人間にならなければ、ということも感じさせられています。もちろん、大変なこともたくさんありますが(笑)。特にうちの坊やは、自分に注意が向いていないと怒り出すようなところがあって! そういう意味でも大変だけど(笑)。コロナで時間が取れたのもあって、息子と一緒に過ごすことが出来ています。子育ては価値がある以上のもので、本当にパワフルですね。同時に、自分に“彼には彼自身の人生があるんだ”と言い聞かせながら、最高の子育てタイムを過ごしていますよ!」
ポルーニンさんのパパ姿を思い描いたところで恐縮ですが……映画にグイッと話を戻しまして。
アレクサンドルのような男が現れたら、自分もエレーヌのようになってしまうかもしれない……という恐怖をどこかで覚えるからでしょうか。知的なエレーヌがアレクサンドルにのめり込み、どうにかなっていってしまう姿に、どこかで嫌悪を小さく覚えながら、同時に共感を禁じ得ず、最後まで目が離せないのです。
冒頭、「去年の9月から何もせず、ある男性を待ち続けた」という追想の告白から始まるだけに、衝撃的でもあって……。誰に何を言われても、分別とは何かを理解していても、どうしても<彼と会いたい><彼と愛し合いたい>という、シンプルな情熱に突き動かされ、どうにもならないエレーヌの行く末を、ぜひスクリーンで確かめてください。
映画『シンプルな情熱』
<予告編>
2020 年カンヌ国際映画祭 公式選出作品/2020 年サン・セバスティアン国際映画祭 コンペティション部門出品
原作:アニー・エルノー「シンプルな情熱」(ハヤカワ文庫/訳:堀茂樹)
監督:ダニエル・アービッド
出演:レティシア・ドッシュ、セルゲイ・ポルーニン、ルー=テモー・シオン、キャロリーヌ・デュセイ、グレゴワール・コラン
2020/フランス・ベルギー/99 分/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:テレザ
■オフィシャルサイト&SNS
- オフィシャルサイト:http://www.cetera.co.jp/passion/
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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