「私のウェルネスを探して」は、心身ともに健やかに過ごしQOL、自分自身の人生の質を上げることの大切さにいち早く気づき、様々な形で発信を始めた方々の「ウェルネスを探す旅」をたどるインタビュー連載。今回のゲストは「あらゆるワタシに選択肢を」をコンセプトに、女性の健康問題をテクノロジーで解決するフェムテックに特化したメディアコマースのスタートアップ、ランドリーボックス代表の西本美沙さんです。(この記事は全2回の1回目です)
「自分を洗い流しながら選んでほしい」という思いを込めて
ウェブメディア『ランドリーボックス』では「生理」を入り口に、セクシャルウェルネス、妊活・出産、更年期、婦人科疾患、性教育など、女性が心身ともに健やかに生きるために必要な情報を発信。記事を読んで気になった生理用品やフェムテックアイテムは同サイト内で購入できます。読者の悩みに真摯に寄り添った記事は女性を中心に共感の声が多く、大手ニュースプラットフォームにも記事を配信予定です。
立ち上げメンバーは西本さんと、ウェブニュースメディア『ハフポスト』元記者の川崎絵美さん。起業前にドワンゴのPRとして働いていた頃に知り合い、西本さんが『ランドリーボックス』の前身メディア『ランドリーガール』を運営していたことや起業したことなどの全ての経緯を知り、西本さんの思いも理解してくれていた川崎さんにコンテンツディレクターとして参加してもらいます。現在ではコアメンバーは5名、記事を執筆するライターは約70名。
普段の経血量を把握していれば、病気にも気づきやすい
生理を入り口にしようと思ったのは、西本さん自身の生理体験がきっかけ。経血量が多く、会社員時代には会議室の椅子を汚してしまったり、慌てて替えの下着を買いに走ったことも。ウェブニュースメディアで発展途上国で月経カップが配られたという記事を読み、当時は日本未発売の月経カップを海外から個人輸入して使ってみたところ、生理中のQOL(生活の質)が劇的に向上しました。
「月経カップを使うと、自分がどれだけ経血を排出しているのか目で見て分かります。私の場合、多いけど、思っていたよりは少ないな、と。子宮筋腫ができて更に経血量が増えてしまいましたが、月経カップを使っていたからこそ自分の身体の異変に気づけたんです。普段の経血量を把握していれば、急激な変化や病気にも気づきやすいと実感しました」
月経カップの成功体験から、ユーザーが新たなアイテムを手に取るきっかけとなる動線まで作りたい、西本さん自身が「これは良い!」と思ったものを届けたい、と現在の情報発信とECの両輪でサイト運営するようになりました。
現時点では無関係でも、将来は当事者になるかもしれない
ユーザーからの反響が特に多いのは、生理とセクシャルウェルネスについての記事。どちらも当事者の数が多くても、なかなかリアルで相談しづらいカテゴリからか、他のカテゴリーの記事に比べてよく読まれているそう。想定外だったのはここ1、2年のうちに、心身の悩みに寄り添う内容の記事、それがたとえセンシティブな内容の記事であっても、TwitterなどSNSで自らの実体験を交えて好意的にシェアしてくれる読者が増えたこと。そして元々読者だった方が次は書き手になって……というサイクルも生まれつつあるといいます。
「現時点での主な読者層は25〜35歳。結婚、妊娠、出産、キャリアチェンジなど、人生の岐路に立っている世代です。生理痛はもしかしたら婦人科疾患のサインかもしれないとか、妊よう性(妊娠のしやすさ、子どもを作る能力)やプレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向きあうこと)とか、現時点では無関係でも、将来は当事者になるかもしれない。『ランドリーボックス』を読んだ人生の先輩から『自分が若い頃に知っておきたかった』『今の若い子に知ってもらいたい』と言っていただくことも本当に多くて。今、大丈夫でも、将来に備えて先んじて知っておくべき情報を発信したいと思っています」
自分にとっての正解が他人にとっても正解とは限らない
『ランドリーボックス』のコンセプトは「あらゆるワタシに選択肢を」。この「あらゆる」をどれだけ体現できているのか、どれだけ「あらゆる」読者に寄り添えているのか、西本さんは最も配慮しているそう。価値観や環境は想像以上に多様。エビデンスのある医療的解決もあるけれど、明確な答えのない事象も多く、自分にとっての正解が他人にとっても正解とは限らない難しさがあります。
「Twitterを中心に、読者の方の様々な声を聞くことによって、知識や意識をアップデートすることが多いです。小さな声にも、自分が追い切れていない情報がある。意識的に自分の心地良いフィールドの外を見るようにしないと、その中だけで完結してしまうので、情報発信する立場としては気をつけるようにしています。誰かの経験は他の誰かが自分を知るきっかけになると考え、書き手の実体験をもとにしたコラムは『ランドリーボックス』の主軸です。だからこそ、書き手も読者も傷つけないよう社内でも細心の注意を払っています」
「フェムテック」という言葉が使われなくなるのが理想
『ランドリーボックス』では多くのフェムテックアイテムについて記事で取り上げ、販売もしています。西本さんが注目している最新のフェムテックのムーブメントは?
「今は『フェムテック』という言葉で称されていますが、女性だけの問題としてカテゴライズされてしまう懸念は出ています。LGBTQに配慮した、性別にとらわれない支援も増えています。個人的には、フェムテックと呼ばれるもの、つまり女性の健康課題を解決していくことがもっと当たり前になり、日本でも『フェムテック』という言葉が使われなくなることが理想です。
また、医療との連携が進むことで、医療機関へのハードルを下げ、医療レベルの向上にも寄与していくことを期待しています。医療機器としても痛くない乳がん検査や自宅での検査キットなど身体の治療医療につなげていくものも増加中。ビル&メリンダ・ゲイツ財団が開発援助し、現在研究中の皮膚下に埋め込む避妊チップや、IUBと呼ばれる避妊リングなども気になっています」
フェムテックを一過性のムーブメントで終わらせたくない
セクシャルウェルネスのカウンセリングアプリや、月経管理アプリに近いスマートピルケースなどのアプリも続々リリースされているそう。スマートピルケースはピルを飲むとログが付き、飲み忘れ防止に効果的。日本でも関連アプリが増えています。
「国内でもフェムテックアイテムが続々とリリースされていますが、一過性のムーブメントで終わらせたくないし、きちんと困っている人に正しいものが届くようになってほしい。そして多くの新商品や情報の中から、正しいものを選び取るための知識が必要。『ランドリーボックス』でその必要最低限の知識を、きちんと啓蒙していけたらと思っています」
パートナーや医師には触らせるのに…
ランドリーボックス起業のきっかけとなったのは、西本さんが自ら主催した女性向けイベントでの出来事。参加者にお酒を飲みなからセルフプレジャーアイテム約50種類に触れてもらう、体験型イベントでした。そこで「自分の膣を触ったことがない、触るのが怖い」という方が多いことが判明します。
「パートナーや医師には触らせるのになぜ? セックス云々の前に自分の身体のことを理解していない人がなんて多いんだろう、と思い知らされました。この気づきがきっかけで、自分の身体を知るための『入り口』となる『ランドリーボックス』を作ろうと思い立ったんです」
(インタビュー後編では、西本さんがランドリーボックスを起業するまでの道のりを振り返ります。お楽しみに!)
西本美沙さんの年表
0歳 | 大阪で生まれ育つ。小学生の頃の将来の夢はお花屋さん |
---|---|
13歳 | 地元の劇団に所属。部活はテニス。学校はサボりがちになる。 |
18歳 | 大学入学のため上京。軽音楽同好会に所属しバンド漬けの毎日 |
22歳 | 大学4年、「就活」に違和感を覚える。就活はせず卒業を迎える |
23歳 | アパレル企業に就職、その後、派遣社員など転々としてPR会社に就職 |
25歳 | 父が亡くなり大阪に戻る |
26歳 | PR会社時代の先輩が独立開業した会社に再就職 |
28歳 | 「インハウスでPRをやりたい」と株式会社ドワンゴに転職 |
29歳 | ドワンゴ内でブログサービスのPR業務に携わり、自分でも個人ブログを始める 『AM』などのウェブメディアから執筆依頼が来るように |
31歳 | ウェブメディア『ランドリーガール』をローンチ |
33歳 | ドワンゴ退社、フリーランスPRとして働きつつ『ランドリーガール』運営、事業化を模索 |
35歳 (2019) |
起業し、『ランドリーボックス』をローンチ |
撮影/高村瑞穂 取材・文/露木桃子
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