引き続き、クラリネット奏者兼アンダーウェアブランド・JUBAN DO ONI(ジュバンドーニ)の代表である黒川紗恵子さんの「ウェルネスを探す旅」をたどります。肌が敏感で化繊の下着が合わず、天然素材で可愛い下着を探したけど見つからなかった経験と、「仕事は一つに絞らなくてもいいんだ!」という気づきをきっかけに、ジュバンドーニを立ち上げた黒川さん。下着やアパレルについては全くの素人でしたが、かえって業界の慣習に囚われず、思い切った試みができたといいます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
下着に困っている人は想像以上たくさんいる
下着作り開始から6年目に突入し、パタンナーの深沢由起美さん、ビジュアルデザイン担当の飯田郁さん、そして広報担当の松本麻依子さんの3人が揃い、ジュバンドーニは現在の4人体制に。ジュバンドーニ初の展示会で「そういえば、宣伝どうなってるの?」と松本さんに指摘されるまで、黒川さんには「宣伝」という発想がそもそもありませんでした。
松本さんが最初に仕掛けたプロモーションは、全国ネットのFMラジオ番組でした。予想以上に反響が大きく、オンラインで販売していることも手伝い、全国から注文が殺到!「下着に困っている人は全国に、想像以上たくさんいるんだ……」と改めて思い知らされるきっかけになった、と黒川さんは振り返ります。
パンツは堂々と宣伝できるのに…
ジュバンドーニを始めた当初、黒川さんは自身がクラリネット奏者であることは伏せた方がいいのではないか?と思っていました。片手間でジュバンドーニをやっていると思われてしまうのではないか、と。しかし、松本さんから「音楽家で下着も作っている」というのは話題として大きいからむしろ前面に出した方がいい、とアドバイスが。
「今でこそコロナ禍の影響もあり、副業に対して抵抗が少なくなってきましたけど、当時はまだまだで。でも黒川の場合『本業』『副業』ではなく、音楽も下着もウェイトは同じで、好きな仕事を二つやっている『デュアルワーク』の先駆けでした。ちょうどその頃、私自身が『60歳まで今の仕事だけ続けるの……?』と絶望的になっていたタイミングで。でも黒川から『もし今から新しいことを始めたとして、あと20年やり続けてもまだ60歳だよね』と言われて、目の覚める思いでした」(松本さん)
音楽作品は自分の分身のように思い込んでいたところがあって、「これいいでしょ?」となかなか言いにくかったのですが、パンツは「これ、良いから履いてみて!」と堂々と言っている自分に気づいたときに、「あれ? どちらも同じ思いからできたものなのに……」と思い込みが外れすっきりした、と黒川さんは振り返ります。
デュアルワークのおかげで精神的安定を得る
音楽と下着のデュアルワークのおかげで「精神的にとても落ち着いた」と黒川さん。コロナ禍の影響でライブ演奏の仕事が全てキャンセルになってしまっても、ジュバンドーニのオンラインショップには注文が入り、それに対応しているうちに「動いている安心感」があったといいます。起業の際は融資は受けていません。現在、利益の多くは新商品の開発に回しています。
「運転資金がないと思い切ったことができませんし、負のスパイラルにはまるんですよね。今後、大きな決断をするときには、融資を受けることも検討すると思います。『これを作ったら絶対に喜んでもらえる!』という確信はあるし、それが回り回って自分たちに返ってくると思うと、なおさら頑張れます」
自分の苦手なことは得意な人に振る
今年に入ってようやく倉庫を借りたジュバンドーニ。それまでは黒川さんの自宅の一室を倉庫代わりに使い在庫管理をしていました。商品の発送も黒川さんが一人でやっていました。音楽活動の繁忙期には発送業務の負担が大きかったのですが、現在は提携している倉庫から発送業務もしてくれます。
「資材調達、商品の発注、価格の設定、在庫管理などなど、最初のうちは全部一人で抱え込んでいたらパンクしてしまって。価格の設定や資材についてのリサーチなど、私が不得意としているそれらにめちゃくちゃ強い松本の夫に任せてみたら、私が長い間悩んでいたものを秒で解決してくれました(笑)。改めて、自分の苦手なことは人に振ろうと思いました」
「自分の機嫌を取る方法」を探すことに貪欲
商品の発注は動くお金の単位が大きく、間違えられないプレッシャーも大きく、今でも緊張する場面だといいます。トライアンドエラーを繰り返し、落ち込むことも多くあったものの、無我夢中で駆け抜けた10年間。自分で始めたことだから全部自分で責任は取らなければならないけど、それは覚悟の上。歩みを止めなかったのは「これを必要としている人がいる」という確信と使命感があったから。
音楽も下着も流行りもの一辺倒の風潮に疑問を抱き「それが窮屈に感じて、選択肢を増やしていこうとしていたんだと思う。そうすることで豊かな世界につながるかな」という黒川さん。働き方や業界の慣習に囚われず、己の信念に忠実に行動し続けた結果、ジュバンドーニのアンダーウェアが生まれました。それでも過去を振り返ってみて、いろいろなことを勝手に決めつけたり、一人で抱え込んでいた時期もあったといいます。
「とにかく固定観念をぶっ壊したいと思っています(笑)。1か100かではなく、方法と可能性は探せばいくらでもある。あと大切なのは、自分の機嫌を取ること。私の場合、モヤモヤしたら紙に書き出して心の整理をつけたり、サウナに行って身体も心もすっきりさせてみたり。自分自身がご機嫌に過ごせる方法を探すために、常にアンテナを張っています」
サウナの館内着を作りたい!
黒川さんに今後の目標を聞いたところ、真っ先に挙がったのが「自社工場が欲しい!」。新商品の開発も着々と進んでいます。中でも多くのリクエストがあったサニタリーパンツの開発はユーザーからのアイデアや意見も取り入れ現在進行中です。「もっと楽になれるものをまだまだ作れる。可能性はいっぱいある」といいます。
落ち着いたらメンバー4人で旅行に行くのも目標だとか。多忙なメンバーで、なかなか一堂に会する機会がありませんが、一人ひとり役割分担があり、全く違う仕事をしているからこその一体感、「ゆるく繋がるチーム感」があるそう。そしてサウナーの黒川さんと松本さん、お二人の目下の目標は、サウナや銭湯の更衣室でジュバンドーニのパンツを履いている人を見つけること。
「夢のひとつとして、将来的にはサウナの館内着を作りたいです! 館内着って洗濯してもへたりにくいからなのか、化繊のものが多くて着心地が良くないんですよね……。快適なパジャマや病院着も作りたいです。作りたいと思っている関係者の皆様、ぜひご一報ください!と書いておいてください(笑)」
黒川さんに聞きました
心のウェルネスのためにしていること
「感情の発露があったら、必ずリリースするようにしています。『何が嫌でこの感情になっているのか?』を紙に書き出して整理すると、大抵解決の糸口は見つかります。大体は自分自身の捉え方の問題ですね。特定のノートなどには書かず、チラシの裏紙などに書いて、負の感情と一緒にすぐに捨てます(笑)」
身体のウェルネスのためにしていること
「サウナ! 松本さんが私のサウナ師匠です(笑)。松本さんから情報を仕入れて行ってみることが楽しみのひとつ。そして食生活の面では食べ過ぎに注意し、定期的にファスティングをして胃腸を休ませることを大事にしています」
撮影/高村瑞穂 取材・文/露木桃子
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