『青春とは、』
姫野カオルコ ¥1500/文藝春秋
“高校時代のあるある”を噛みしめながら脳内でプチ同窓会ができる物語
高校生だった頃の自分を思い出すとどんな気持ちになるだろうか?
学校、友達、家族――。小さな世界で一生懸命過ごしていた10代の感情が、リアルに浮かび上がってくる物語が、今月の一冊。
著者の姫野カオルコさんは1958年生まれの62歳。自身の生まれ育った環境や時代背景をベースにした小説が多く、本作も彼女を思わせる「昭和後期に高校生だった女の子」の姿が回想されていく。
コロナ禍で外出が制限され始めた2020年3月。東京都下のシェアハウスに住む「私」は還暦を過ぎている。これまで仕事、親の介護と慌ただしく過ごすうちに、結婚や出産をする機会はなかったものの、今の暮らしには満足している。在宅時間が増えた彼女は、とある名簿と一冊の本を見つける。それは彼女が滋賀県に住んでいた高校時代のものだった。本を貸してくれたのは一個上の先輩、犬井くん。「私」の「明子」という名前を“暗子のほうが似合いそうだから、クラコって呼んでやるよ”と言いだした犬井くんは、柔道部員で詩や音楽にも詳しい、おおらかな男子。そんな彼との友情を皮切りに、彼の友人で校内のスターの秀樹、そして明子が所属する放送部やクラスメイトとの小さな出来事が、大人になった彼女の胸に蘇ってくる――。
作中を彩る映画や音楽の情報は、1970年代のものが中心で、LEE世代にはなじみが薄いものも多いかも。けれども同世代の家族が妙に気になったり、先輩や同級生の言動に仰天したり、流行のドラマにクラスの雰囲気を重ねたりと、思春期の感性は、いつの時代も変わらぬものだなあと思わせてくれる。ページをめくるごとに、つい自分自身の高校時代や、久しく会っていない同級生たちのことまで、「どうしてるかな?」と想像させられてしまう。簡単に人と集まれない今だからこそ、より大切に読めるのかも。
そしてラスト。還暦を過ぎた明子が考える「青春とは」……。過ぎ去りし日の自分を温かく包み、そして忙しい大人となった今の私たちにも、きっと励ましの言葉になるはず。
『マザリング 現代の母なる場所』
中村佑子 ¥2200/集英社
そもそも「母」 って一体なんだろう?とふとしたときに思いを巡らすことが一度ならずあるのでは。私たちは「母」という言葉について、性別役割や自己犠牲などの社会的な縛りを含めてとらえがち……。その問いかけに著者は自身の妊娠から出産を経た考察と、多様な「母」への取材から独自の解釈を紡ぎ出す。
「母」なる言葉をとらえ直す機会を与えてくれる一冊。
『私のことを憶えていますか 1巻』
東村アキコ ¥950/文藝春秋
30歳の遥はゴシップ系のニュース記事を配信する会社で忙しく働く日々。大好きな俳優・SORAの熱愛に落ち込む彼女の心に浮かんできたのは、小6のときに、自分を「好き」と言ってくれた年下の男の子――。
過去の恋、憧れの芸能人、そして腐れ縁の幼なじみとの関係が交錯する、ラブコメディ。ぐいぐいと引き込まれるテンポのいい展開はさすが!
『どうぶつおやこ図鑑』
【著】マヤ・セーヴストロム 【訳】井上 舞¥1500/化学同人
魚、昆虫、ほ乳類など50以上の生物の妊娠、出産、子育てを描いたイラスト集。3年かけておなかの中で子どもを育てる溺愛家もいれば、一度に20匹以上も産む多産家も! 多様性あふれる姿を親子で一緒に楽しめる。イラストを描くマヤさんは、ストックホルムを拠点に建築家としても活躍中の人気作家。
取材・原文/石井絵里
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