番組独自の視点でさまざまなカルチャーを掘り下げて届けてくれるのはラジオならでは。私たちの心に届くのは、作り手の人たちの熱い思いが電波に乗っているからかも。
プロデューサー 橋本吉史さん(左)
’79年、富山県生まれ。’04年TBSラジオ入社。『ジェーン・スー 生活は踊る』などもプロデューサーとして立ち上げを担当。
構成作家 古川 耕さん(右)
’73年、神奈川県生まれ。音楽雑誌編集等を経て、旧知の間柄である宇多丸さんから声をかけられ構成作家に。文具ライターの顔も。
映画、音楽、本などあらゆるカルチャーを独自の視点で掘り下げて伝える“聴くカルチャー・プログラム”『アフター6ジャンクション』(通称『アトロク』、月曜~金曜18:00~21:00)は、まさに新しいカルチャーを知りたい人にぴったりの番組。
パーソナリティであるライムスター宇多丸さんは前身番組である『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(通称『タマフル』)でギャラクシー賞ラジオ部門を受賞するなどラジオ好きからも信頼が厚く、今や音楽界のみならずラジオ界でもトップランナーのひとりに。
『タマフル』時代から携わるプロデューサーの橋本吉史さん、構成作家の古川耕さんに、番組で取り上げるカルチャーの考え方、指針について聞きました。
橋本「趣味がない人でも趣味が見つかって、ひとりでカルチャーを楽しんでいる人が同じようなことを楽しんでいる人とつながりを感じてくれるとうれしい。カルチャーを媒介に聞く人の人生が豊かになればというのが、この番組のベースにあります」
古川 「『タマフル』時代は宇多丸さんが得意なカルチャーを中心に扱う“個人雑誌”みたいなものだったのが、スタッフが増えて、彼・彼女たちの興味があるものも扱う“総合カルチャー誌”のようになってきました」
橋本「ただ、流行りものを単純に紹介はしません。必ず自分たちの解釈や批評を加えた形で伝えています」
古川 「だからといってマニアックなものをよしとしているわけではなくて、メジャーなものでもマイナーなものでも、それに対して我々独自の切り口が設けられているかどうかを重視しています。各所で取り上げられるメジャーなものであるほど、その切り口が重要になってきますね」
橋本「人って知っている話を聞くほうが安心すると思うんです。でも誰かが番組を通じて、それまで知らなかったものや切り口と出会えれば、その人は新しい扉を開けられる。そんな体験を提供することのほうが大切じゃないかと思うんです。プロデューサーとしてはバランスも考えつつ、というところもあるのですが」
古川 「僕らの発信するものが100%誰にとってもいいものとは限らないですが、いろんな球を投げる中で、ある時、ある人に届けばいいなという意識で番組作りはしています」
カルチャーに関して“男性向け”“女性向け”という区別もなくなってきているこの頃。最新カルチャーを扱う番組としては、ジェンダー観についても意識するところが。
古川 「僕の妻も妊娠・出産期間にラジオを聞くようになり、周りにもそういう女性が多いです。その人たちが聞いたときに不快になるような伝え方はしないように、むしろ女性のほうに目を向けるくらいの気持ちで番組作りをしています」
橋本「番組では、立場が偏りすぎた図式にならないようにも意識しています。宇多丸さんと共演するアナウンサーは“アシスタント”ではなくあくまで“パートナー”ですし、例えば火曜担当でマンガ好きの宇垣アナウンサーから宇多丸さんが教わる立場になることも。
世界の最新カルチャーに触れることで番組とリスナーが一緒になって新しい世界を知り、価値観をアップデートできたりしたらいいなと」
『アトロク』がこだわる独自性は、例えばこんな企画に。
橋本「キャッチーなところでいうと、トム・クルーズ、キアヌ・リーヴス、ポン・ジュノなどの海外VIPが出演するのは、なかなかほかのラジオ番組ではないと思います」
古川 「海外文学の翻訳家さんに出演していただくのがシリーズ化しています。翻訳家さんって、あくまでも自分は“いいものを仲介して伝える役割”という意識の方が多くて、言語化も、それを人に伝えるのもすごくうまい。
だからこちらもまたお呼びしたくなるし、続けていくことで、翻訳家さん自身のキャラクターも伝わり、だったら本も読んでみようという入口になるといいですね」
こんなカルチャーの味わい方が!という、思いもよらない発見があるのもこの番組ならでは。
橋本「僕が昨年の放送の中で、個人的に好きだった独自性のある企画は、アーティストが自分たちのグッズのことだけを語り合う企画ですかね。こういうのが売れるとか、逆に売れないとか、本音が聞ける場面ってあまりなかったので」
古川 「僕はストソン特集、好きでしたね。ストソンってストアソングの略で、スーパーやドラッグストアが独自に作ったテーマソングを専門に調べてる方がいるんですよ。あれを番組でかけまくったのは個人的にも楽しくて、反響もありました」
番組の内容を聞いて、アンテナに引っかかる感覚があった人も?
橋本「ネットだとつい自分が今好きなものだけを掘ってしまうところがありますよね。毎日さまざまなカルチャーをお届けしているので、続けてこの番組を聞いてもらううちに、これから自分が好きになりそうなものの片鱗や、忙しくて忘れていたけどかつて好きだったもの、何かしらの新たな出会いがあると思います」
【特集】ラジオが忙しい私たちのカルチャー欲を満たしてくれる!
詳しい内容は2021年LEE3月号(2/5発売)に掲載中です。
イラストレーション/Aikoberry 取材・原文/古川はる香
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