【30代・40代】海外で暮らすLEE世代の一般女性は「新型コロナウイルスの流行拡大」に何を感じているの?(4・オランダ編)
新型コロナウイルスの流行が私たちの暮らしに大きな変化をもたらしています。海外に生活の拠点を置くLEE読者は、どのような日々を過ごしているのでしょうか? 第4回は、オランダで暮らす読者のリアルな体験談をお届けします。
■年代:30代
■職業:会社員
■場所:オランダ(Netherlands)
■移住
(※4月4日《日本時間AM7時》までの、読者への取材による内容です)
首相スピーチで高まったオランダ国民の団結力
ーー新型コロナウイルスの流行拡大は、生活にどのような影響を与えましたか?
「オランダで最初の感染者が出たのが2020年、2月27日のことでした。すでにヨーロッパ内では感染者が出ており、イタリアでは2月26日の時点で感染者数400名、うち死亡者数12名となっていました。
オランダ国内での初期のコロナ対策案は、“握手をするな” 程度で、それを発表した首相がその会見で握手をしていたので、ちょっとした笑いのニュースになるくらい軽視されていました。
生活が一変したのは3月15日の夕方です。オランダのロックダウン(閉鎖)が政府より発表され、翌月曜日からの小中学校の閉校、及び同日18時からの飲食業施設の閉店の要求が発表されました。この時は4月6日までの対策措置として発表されました。
私は繁華街の飲食店でマネージャーとして働いているのですが、当日は休みでした。18時過ぎにオーナーから電話があり、初めてロックダウンのことを知り、同店のスタッフに閉店の旨をグループチャットで連絡しました。
すでに何人かはニュース速報で知っており、戸惑う様子はなく“Stay safe!”(気をつけて)とのやりとりで終わりました。
この時一番感心したのは、発表からわずか30分で、すべての店が閉まったことです。先の事(経済的なことなど)を考えず、国の方針に従いとりあえず閉店する姿勢をとったオランダ人。唖然とする中でのこの統率力に敬服しました。
翌日の3月16日にはオランダのルッテ首相より国民へ向けてのスピーチがありました。首相がテレビで国民へ向けてスピーチされるのは1973年以来のことだったそうです。ルッテ首相の会見内容は、現状と今後の対応策、また最悪のシナリオ(ウイルス阻止のため、国を完全に封鎖するが、その期間は1年以上になる可能性もある)も含まれていました。ですが、このスピーチに対する国民の印象は良く、誠実で明確であると称賛され、国民の団結力が高まっているとのことです。
それからすぐに政府からのロックダウンに対する経済的補償対策についての発表がありました(17日)。大きな対策として、多くの雇用者に対して最大で給与の90%が補償される事が決まり、補助金申請に細かなルールはあるものの一先ずは生活ができる安心をもたらしました。
(言い方が悪いですが)“お金をあげるから家に居ろ”対策案は理にかなっていると思うし、この対策ができる国家の財政にも驚きです(ちなみに補償される期間は最大6か月とのこと、財政的にはそれがマックスなのでしょう)。
ロックダウンが始まる直前から、スーパーからはトイレットペーパーやパスタが売り切れとなっていました。イタリアやスペインの現状を見た人が、我先にと買いだめに走ったためです。
さらにロックダウンが加速をかけ、ロックダウン直後のスーパーでは、空の商品棚が多く、レジも行列していました」
「1週間以内にはスーパー側も仕入れを増やしたのか、徐々に品揃えが回復し、ロックダウンから3週間経った今ではほぼ何でも買えるようになりました。
ただし現在はスーパー内に入場制限が課されており、買い物をする前にスーパーの前で並ぶことになっています(1.5m以上の間隔をあけて)。また買い物にもルールがあります、ひとりですること、買い物カートを使うこと(他の人との距離を取るため)、なるべくPIN(オランダのデビットカード)で支払うことなどなどと。レジに並ぶ時も距離をとるように、床にテープが1.5m間隔に貼られており、そこにならって並びます。レジには透明のつい立が取り付けられて、店員は手袋をして、ことあることにウエットティッシュで手を拭いています。今まで賑やかだったスーパーが一転して、静寂な教会にいるような雰囲気で、聖域のような印象です。
また唯一多くの人を見かける場所がスーパーとなってしまっている日常なのに、活気がなさすぎてどこか疎外感があります。品揃えは回復したものの、いつも買う一番安いトイレットペーパーや安いパスタなどはなく、通常より若干高くついてる感じがします。
3月31日の19時に政府からの4月からの対応策がTVで放映され、多くの国民が視聴しました。ここでは今までの対策措置の延長が発表され、飲食業施設などの閉店は4月28日までとなりました。また学校も5月の連休(オランダのスクールホリデー)あけまで休校と延長されています。
このままだと医療体制が追いつかなくなりそうな状況だったのですが、会見内で医療体制の強化なども細かく発表されました。対策措置の3週間の延長は堪えるものがありますが、さらなる追加の規制が無い事が唯一の吉報でした(ヨーロッパ国内では外出制限されている国もある中で、オランダはまだその規制はありません)。
今ではニュースのトップ項目がコロナ(COVID-19)になり、それに伴う倒産や事件の記事も多く目にします。次の対策措置の延長かどうかが発表されるのが、4月21日の予定です。感染者数が減少になれば、あとは何を基準にロックダウンを解除するかが焦点になってくると思うので、政府の判断に期待と不安が入り交じります」
外出時は他人との距離を1.5m保つ
ーー具体的には、どのような自粛生活を過ごしていますか?
「オランダでは基本的に外出は自由ですが、ルールがあります。
・買物と出勤は認められるが、混雑を避けることを求める。
・外出は可能だが、1.5mの距離を保つことを求める。
・買い物は同伴者を連れてはならず、ひとりで行うもののみ認められる。
・自宅に家族以外の者を呼ぶ際は、最大3名までに制限。
・あらゆる場所において、人が集まることを、本3月23日夜から5月31日まで禁止。
・各市長は、その権限をもって、海岸、公園等の人が集まることを禁止する場所を指定することが可能。
・外出する際、近所や道路の往来においても、3名以上が固まって行動することを禁じる。
・上記のルールに反した場合は、事業主に対しては最大4000ユーロ、個人に対しては最大400ユーロの罰金が科される。
これは3月23日に首相から発表されたのですが、発表前の週末は天気が良く多くの人がビーチや公園へと繰り出していたとのことです。この発表後からは出歩く人も減ったとのことですが、罰金件数もそこそこあるそうです。
個人的には、友人を家に招いてご飯を食べたり、また友人の家に行ったりと、多少の外出はするものの、極力家に籠っています。
最初の1週間は完全にだらけて昼夜逆転生活化してしまいましたが、(コロナ以外の病気になったら本末転倒だと思い)今はなるべくロックダウン以前のライフサイクルを維持するようにしています。
春のオランダは美しいのであちこち出かけたい季節ですが、来年行けばいいかと思うようにして、今は健康であることを一番に元気に引きこもっています。ネットでゲームもできるし映画も観れ、チャットも電話もできるので孤独を感じるなどはありません。時間があるので、新しいことを始めたり、今までおろそかだった語学の勉強などしていると割と1日があっという間です」
ーー新型コロナウイルス対策で、日本とオランダではどのような点が異なると感じますか?
「オランダ国民が安心してロックダウンに対応できているのは政府からの経済的補償対策が早々に発表されたからだと思います。
ただし、この対策に移民は含まれないため、多くの住込み労働者はホームレスになっている現状があります。またオランダの家賃は高いため(東京都内と同じかそれ以上)、家賃が払えない企業の経営破綻のニュースも耳にしますし、生活難民も今後出てくると思います。今後の生活には誰もが不安がありますが、それはオランダに限ったことではないと思います。
オランダでは国民が民間の健康保険に加入することが義務付けられているので、医療に対する心配はそこまでありません。政府も臨時のICUの確保、人工呼吸器の増加、検査対応件数の増加に最善を尽くしており、現状を逐一ニュースで閲覧することができます。
感染者数の状況なども“RIVM(オランダ国立公衆衛生研究所)”を介して毎日確認することができ、ニュースでも目にしますが、淡々と現状を伝えるだけの内容なので、そこから不安や恐れを必要以上に感じることがありません。
オランダ政府の方向性の報告が速いこと(ロックダウンは急すぎて驚きましたが)、対策が迅速なこと(補償や追加のコロナ対策措置など)、またいつまで続くか誰も分からないことに対して現状と今の対応策だけを淡々と伝える姿勢は、不安を誇張するこがなくて信頼度が高いです。
またロックダウンも賛成です。感染することよりも、誰かに感染させて殺してしまうかもしれないリスクがあることの方が精神的に重くつらいです。国の早急な対策、それを支持する国民、不満を言うより先に腹をくくってかまえる国民性が好印象です。
経済的な不安はどうしても感じますが、それはどこの国でも同じではないでしょうか。日本で暮らすよりも安心かどうかは比較できませんが、まだオランダにいても大丈夫だなという心情です」
ーー加入が義務付けられている民間の健康保険とはどのようなものですか?
「オランダでは国民が民間の健康保険に加入することが義務付けられ
いつ以前のヨーロッパが戻ってくるのかが不安
ーーオランダにおける新型コロナウイルス対策で心配なことは?
「人聞きした話では、2月後半に一部地域の室内遊技場にて、差別にあった子どもがいたそうです。
“アールスメールにある室内遊技場で遊んでいた日本人の子どもたちが、現地の子どもたち5〜6人に囲まれて「コロナ、チャイニーズ、ファック」などと言われたり、顔やお腹を殴られたりして鼻血が出るなど差別的な被害を受けた”(アムステルダム日本人学校の保護者あてのメールより。2月25日)
自分自身は差別にあったことはありません。上記は日本人が多く住むエリアでの出来事のようです。私が住むアムステルダムには多国籍な移民が多いので、人種的差別はほとんど体験ありません。
オランダで今最大に懸念されているのは、“ロックダウンがいつまで続くのか”ではないかと思います。たとえロックダウンが解除されても、すぐに元の生活に戻ることはないと政府も言っていましたし、そうだなと思います。またオランダだけでなく、ヨーロッパ全土の状況が改善されなければ、かつてのヨーロッパは戻ってこないでしょう。医療崩壊の起きているイタリアやスペインが今後どうなっていくのか……。
自分がコロナに感染したら……の不安はそこまでありませんが、日本にいる家族が感染して重症になってしまったら……の不安は大きいです。今は飛行機の本数も少なくなっているので、早々に帰国ができるのか、また日本入国後に14日間の隔離措置が必要となり、帰省が簡単ではないことが1番の不安です。
今後どうなるのか心配ですが、予想ができない心配事です。状況によっては日本へ帰国する事も余儀なくされるかもしれませんが、今考えても答えのない心配事です。ただ、その時に最善を選択できるように心身ともに備えておきたい心構えです」
ーー日本へ帰国したご友人はいますか?
「知人の日本人の体験談ですが、彼女はノルウェーのトロムソという小さな町で、昨年の11月〜今年の4月上旬までの契約で就労していました。彼女は4月中旬に日本へ帰国する予定で、帰国の前にオランダに会いに来るとの約束をしていました。彼女の仕事は観光業だったのですが、ノルウェーも3月16日から封鎖(国境管理)が厳格になり、観光会社は実質閉店となりました。
世界中にコロナが広がりつつあり、オランダもロックダウンしたので、彼女は3月下旬に直接日本への帰国を決めました。すぐにフライトを取ったそうですが、前日に飛行機が運休になり、別の航空会社で取直し何とか成田に着いたとの報告を聞いた時は一安心でした。
帰国後の状況が分からなかったため、帰国前に大使館に電話したそうですが分からなくて、日本の検疫所に電話したら公共交通機関を使わないようにってお願い(強制ではない)されたとのこと。成田での入国は問題なくできたそうですが、実家が鹿児島の彼女は国内便に乗れないため(強制ではないけれど)成田の近くのホテルで滞在しています。予定の便の運休で取直したチケットが割高、さらに成田の滞在費に食費。経済的にもきつく、そして何もない成田でのホテル生活は精神的にかなりきつかったそうです。
帰国後の隔離規制には賛成ですが、自費となると経済的負担は大きい上に、成田でのホテルの確保もなかなか難しいそうです」
日本の“コロナ疲れ”というワードすら不謹慎に感じる
ーー日本における新型コロナウイルス対策で心配なことは?
「ニュージーランドの知人が教えてくれた、ニュージーランド警察の言葉ですが、
“First time in history. We can save the human race by lying in front of the TV and doing nothing.”
翻訳すると、『人類史上初。 テレビの前でゴロゴロするだけで人類を救うことができる。』
ちょっと笑っちゃいましたが、的を得ています。家にいるだけでスーパーヒーロー、これが今多くの国での正義となっているのではないでしょうか。
ヨーロッパでは実家で暮らす若者が多いため、自分が感染したために両親を失った方が多くいます。その精神的苦痛を癒す方法を私は知りません。
医療現場、スーパーマーケットで働く人たちは、感染リスクが高い中で人々の生活を支えてくれています。帰宅する度に、家族に移すのではないかという恐怖にかられるそうです。
イタリアやスペインでは人工呼吸器が足りなくて、救える命(若者)優先に治療する命の選別がはじまっています。毎日が苦渋の決断です。その恐怖から出社前に涙を流す方もいるそうです。
日本で“コロナ疲れ”なんて言葉が流行ってること自体が、私には不謹慎に思えてなりません。
外出禁止、ロックダウンが大げさだという方もいらっしゃいます。
誰も正解が分からないから、各国で対応が違い、個人の考え方も異なります。
それでも自分から人に移すことの怖さ、誰かに苦渋の決断を迫らせる可能性があることは常に自覚するべきだと思います」
次回はダラス在住読者の声をお届けします。
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高見澤恵美 Emi Takamizawa
LEEwebエディター・ライター
1978年、埼玉県生まれ。女性誌を中心に女性の性質や人間関係の悩みに迫り、有名無名千人超を取材。関心あるキーワードは「育児」「健康」「DIY」「観劇」など。家族は夫と4歳の息子。