「持続可能な社会を実現するには?」どうしても遠くから眺めがちな世界の問題。子どもに聞かれて説明に困った私は、まずは知ることから始めてみよう!と、とあるワークショップに参加しました。正直、世界の抱える問題解決ってどうしても自分からは遠く考えがちで、イメージしにくいですよね。そんな中、遊びの中で体感できるプログラムに参加しました。(詳しくは前回記事参照)
カードゲームで疑似体験し、その体験をレゴ® ブロックを活用して振り返る。遊んでいるだけに聞こえますが「こういうことだったんだ!」と腑に落ち、そこに爽快感を覚えたぐらいでした。(その内容は体験されてからのお楽しみなので、詳しくは記載しません。あしからず!)本来の目的でもある ”自分ごと化” につながり、日常の生活においても行動するようになりました。中高生はもちろん、小学生高学年向けにもあるので、子どもがもう少し大きくなったらぜひ体験させたいワークショップです。
この難しい課題を、どうやってイメージしやすく設計されたのか。ワークショップデザイナーで、こども国連環境会議推進協会(JUNEC)の事務局長、井澤友郭(ともひろ)さんにお話を聞いてきました。
経済を否定するだけでは解決できない、社会のジレンマ
——先日のワークショップ、とても面白かったです。井澤さんがJUNECでこうした活動されるきっかけは?
井澤友郭さん(以後、敬称略): 2000年に私の母が設立した環境教育NGO団体ですが、当初、私はIT系の会社で営業をしていました。転職を考えていた際に、少し手伝ったのがきっかけでした。運営上の改善点も見えてきたので’03年から参加することに。
——その頃からこういったテーマを?
井澤:そうですね。’05年ぐらいから社会的にも “持続可能性” というキーワードが浮上してきました。環境教育の団体なので水問題やゴミ問題を扱っていましたが、プログラムとして「経済活動だけを否定するシナリオ」が多く、参加者の中高生の胸には刺さるんですが、「持続可能性には“経済”の視点も重要ではないのか?」と、企業にいた経験のある立場からモヤっとていました。「100年先の持続可能性も大事だけど、今月の売り上げはどうする?」という現場のジレンマを飛び越して良いのか?と。
——確かに。両方必要な話です。
井澤:この現実社会にもあるジレンマを、きちっと体感せず「大人はずるくてきたない」「自然だけを守りましょう」みたいなアウトプットで終わるのはどうなのか…と。「経済だけを否定することが、果たして”サステナブル” なのか」それなら、自分なりに納得できるプログラムを作ろうと思い、‘05年からワークショップを作り始めました。
——企業に勤めた経験があってこそのプログラムなのですね。確かに。私も参加した時、ジレンマみたいなのが見え隠れして、白黒つけられない中でも全体を見て動く。そこから一気に “自分ごと化” されたと思います。
井澤:疑似体験できるワークショップだからこそ、ジレンマも体感できるのです。写真や映像、スライドを見せてもインパクトありますが、それだけでは世界ゴトを自分ゴトに近づけるには、ハードルがあると感じています。
——カードゲームとレゴの組み合わせも、気軽で入りやすかったです。
井澤:’16年ごろからイマココラボが開発しているSDGsのカードが話題になり、非常に面白かったのでファシリテーターの研修を受けて’16年末から取り入れました。そこにレゴを組み合わせたのは私なりの設計ですね。
自分の体験を”言語化”する難しさを、レゴで解決
——レゴと組み合わせすることで、どんな効果があるのですか?
井澤:「言語化」という課題観が私の中であります。日本人は覚えたことを語るのは得意なのですが、自分の中に起きた体験を言語化する経験が少ないため、とても苦手です。「あなたはどうなの?」と聞かれた途端、語れなくなる…。そこでレゴ®シリアスプレイ®と出会いました。レゴ® ブロックで作品を作り、作品を通して自分の言葉で語る、さらに「なぜこの高さに作ったの?」「なぜこの色を選んだの?」という質問されると「私はこう世界を見ていたんだ!」と後から気づいて言葉にできる。このプロセスを経て文章を書かせると、自分の言葉になって表現できる様になるのです。
——体験を言語化することが、より自分ごとになるのですね。
井澤:振り返りをちゃんとしないと「面白かったね」で終わってしまいますよね。それに「書かせる」振り返りだと、書いた内容を他人から評価される意識が出て、正解を書こうという考えから抜け出せないし、他人との違いが怖くなって素直に書けなくもなる。レゴだと ”人と違っていて当たり前” なので気後れしないのですよ。
——確かに。レゴを作って他の人と似ている方が不気味ですものね。最初は中高生向けに作られました?
井澤:「こども国連」という団体名の通り、活動対象の8〜9割中高生向けでした。最近になってSDGsをテーマにした企業研修や、マネージャー研修などで、ファシリテーションとかワークショップデザインの講義をしてくれないかという大人向けの依頼が増えました。
お家でもどこでもできる、レゴを使ったミニワークショップ
——今まではおもちゃとしての存在でしかありませんでしたが、レゴって本当に色々できるんですね。
井澤:できます。言葉にすると同じなのに、レゴで作品を作ると全然違いますから。それぞれの価値観をレゴで表現してもらうと面白いですよ。例えばこの3つのブロックで…それぞれを「お金」「名誉」「人脈」だとすると、あなたにとってそれぞれどんな位置関係ですか?繋がっているならどう繋がっているのか…表現してみて下さい。
——地位とかお金というのは生きて行く上である程度はベースに必要なのですが、人脈は別次元な感じで。距離は遠くもなく近くもなく、くっつき方としては並列かな…。最低限ある程度あればいい、みたいな感じです。この3つだけでもこんなに表現できるんですね!夫婦でやっても面白そう。
井澤:他人と比較して初めて「私ってこうだったんだ!」と気づきます。自分にとっては当たり前に見えている世界なのですが、改めて言語化するって難しいことなのです。
——正解がないのがいいですね。同調意識が働かないのがいい。
井澤:そうですね。正解がない問いなので、他の人の考え方にも興味がもてます。子どもとレゴで遊ぶ時に、簡単なお題を出し合ってそれぞれ作る、と言う遊び方でも面白いですよ。
——これなら親子で一緒に楽しめますね!
子育てにも活かせる⁈ ファシリテーション術
——井澤さんも二人お子さんがいらっしゃいますが、親子の関係の中で大事にされていることって何ですか?
井澤:「自分が見ている景色と他人の見ている景色は違う」=「分かり合えていない」が大前提にあると言うことです。これはどの人間関係において、すごく重要だと思います。
——ワークショップの最後にもお話しありましたね、とても印象的でした。
井澤:特に親子だと、どうしても親の思い通りにしたい時もあると思います。しかし、勉強や得意分野、進路の話などの時に「私が思っている正しさ」と、「子どもが思っている正しさ」が一致しなくても当前なのです。でもそこを「なぜ、わかってくれない」と思ってしまうとどんどん辛くなるので、早い段階から手放す覚悟も必要でしょう。と、教育の場を持つ人間としては思いますが、正直「身内には難しいなぁ」とも思います(苦笑)
——よく分かります。親としての意見は言う、でもそれが子どもの意に反するものだった時に「それなら自分の思うように、好きにしていいよ」って伝えるのですが。子どもは見放されたと捉えてしまうので…伝え方も難しいです。
井澤:私は子どもたちがどんなリアクションしても、ひと言目には必ず「面白いね」や「なるほど」って伝えています。親の想定外の発言や、言葉の選択ミスの時もあるので「そんな言葉使うの?面白いね」とか。まずは受け入れるスタンスを1クッション置くだけでも違いますよ。子どもにとっても「一回聞いてくれた」という安心感があるので。
——親としてのスキルを上げるためのワークショップとかあればなぁ…
井澤:ファシリテーションを学ぶのはすごく有効だと思います。例えば、忘れ物をした子どもに対して「なんで忘れ物したの?」と言っても子どもは「なぜ僕は忘れ物をしたんだろう」と内省しませんよね。解決に至らないのに「なぜ?」と聞くのは効率的とは言えないと思います。どうやったら人は自主的に動くのか、このアプローチとしてファシリテーションは有効な場面も多いと感じています。親子の会話も、夫婦の会話も随分変わってくると思いますよ。
——名ファシリテーターを目指せば良いのですね…!
井澤:SDGsっていう世界とのつながりは話が大きすぎる気はしますが、親子のコミュニケーションのあり方とかも同じこと。また、「これさえすれば世界が良くなる」みたいな明快な答えはないので「これさえすれば子どもにとって正解」みたいなものはない、と言うことがよくわかると思いますよ。
「自分とは違う」これを大前提に持った上で、問題と向き合う。持続可能な社会について伺っていたら、子育て、親子関係についても通じるものがありました。家族も一つの小さな社会で、その集合体が地域であり、日本であり、世界につながる。やはり「持続可能な社会」は一人一人が視野を広げて、自分の身の回りから考えていかねばならないミッションなのだ、と改めて思いました。中高生向け、社会人向け、SDGs、ファシリテーション講座など、様々なワークショップを開催されているので、詳しくはHPでご確認くださいね。
井澤友郭さん(こども国連環境会議推進協会 事務局長)
1974年生まれ。二児の父。ワークショップ デザイナー、LEGOⓇSERIOUS PLAYⓇ公認ファシリテーター、2030SDGsファシリテーター。2003年から「持続可能な開発に向けた教育」プログラムの普及事業、ファシリテーター育成など人材育成事業に関わる。課題解決やキャリア形成に関するワークショップを年間150回以上開催し、延べ2万人以上の学生や社会人(企業、教員、行政職員など)に、プログラムを提供。http://junec.gr.jp/
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。