おでかけ部

駆け込みで、高畑勲展へ

  • yuki*

2019.10.08

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夏の間じゅう、行こう行こうと思って結局行けてなかった、高畑勲展へ・・土曜の夕方に行ってきました。

「高畑勲展 日本のアニメーションに残したもの」。

 

 

夕方5時前くらいに入りましたが、思ったよりは空いてました。・・・思ったよりは。チケットとかすぐ買えたし。

場所は東京国立近代美術館。入り口のオープンカフェの芝生で、

 

 

光る球体に夢中になる息子氏。まだまだ子どもらしいところが・・・

 

さて、入る前に下調べをした旦那さん曰く、「しっかり見ると3時間近くかかるらしいので、2回行ったり図録を買う人も多いらしい」とのこと。

たしかに、ものすごく見応えのある内容である上に、混んでいたから、かなりの集中力を使い、見終わった後かなり消耗していました・・・。しかし、本当に見逃さなくてよかった。

アニメの展示なので、もう少し子連れの人もいるんじゃないかと思っていましたが、息子くらいの歳の子より下の子はあまり見かけませんでした。「なつぞら」を見てアニメーションに興味を持ったような子がもっといるかと思ったけど。

小学生なので息子は無料でしたが、展示内容は間違いなく大人向け。けっこう皆真剣に見ていたので、デート目的で来たカップルみたいな感じの人らがおしゃべりをしながら見て回る感じではなく(そういう人たちが0だったとは言わないけど)、好もしい雰囲気でした。

 

 

さて、「絵を描かない名監督」と言われた高畑さんですが、その分めっちゃ字を書く人だったということがわかりました。膨大な量の設定資料が展示されていて、ガラスギリギリまで覗き込んで、細かい文字を食い入るように見つめてしまった。

なんのために書くのか。それは、彼の脳内を可視化するためです。
そして、作品の作り手全員で、それを共有すること。

まだ形になっていない脳内のぼんやりとしたものを、まずは自分でも明確にするために、とにかく書き出す。そして順番に並べる。緻密に計算して、ブラッシュアップする。
そしてある程度を可視化でき、まわりに伝わりそうな形になったら、それを周りの全員で共有し、それに沿う形で、または力を合わせて膨らませる形で、まだ明確になっていない部分を明確にしていくのです。一つの理想を、皆で実現するために。

それを、すべて言語でやり遂げているところがすごい。ものすごい脳だった・・。

その言語化の能力によって、数々の名作を演出してきたんだということがわかりました。相当楽しかっただろうけど、周りも本人も相当ハードだっただろうなと思いました。

「脳内の混沌を、整理して、言語化し、可視化する」

新しく何かを作ろうとしたことがある人間なら、必ず通らねばならない道。ひとりで全ての工程をやってのける芸術家もいるけど、こういう形で大きな一つの理想を実現してきたというところがすごい。アニメ黎明期において、このシステムを作り出したすごい人だったんだということが分かる展示でした。

以下、感想が書いてありますので、ネタバレしたくない人は見ないでください!・・・とはいえ、関東での展示はすでに終わっています。
次回は巡回で岡山に行くと聞いていますが、少し先になるようです。

 

・・・・・・・・

 

展示自体は、時系列に従って4つのゾーンに分かれています。

まず第1章は、東映動画に入ってから、初めての長編映画「太陽の王子 ホルスの大冒険」まで。

ホルス、初めて映像見たんですけど、60年代とは思えないくらい動きがリアルで、すごかったです。そして、子ども向けなのに(だからこそ、というべきか)びっくりするほどモチーフの部分をしっかり作っている。設定資料はすべて平易な言葉で書かれているにもかかわらず、頭のいい人にしか絶対作れないものであった・・。すごい。

ホルスは、朝ドラ「なつぞら」における「神をつかんだ少年クリフ」にあたる作品なんですが、広瀬すず演じる主人公のなつが、イッキュウさんの頭の中にしかまだ存在しない女性キャラ「キアラ」を、何回も描いてはダメ出しされる場面・・見ていた人は、記憶に新しいかと思います。

ホルスを作っている時に同じようなことがあったらしく、ヒロインのヒルダのキャラクターデザインの、数々のボツ案が展示してありました!(笑)ドラマでは、井浦新演じる上司の先輩アニメーターが、悩むなっちゃんにそっと手渡したデザインが、まさにイッキュウさんの脳内のヒロインにぴったりで・・という展開でした。

あれ、実際にあった産みの苦しみだったんだな、とリアルに感じることができましたよ。なぜなら、壁に貼られた複数のアニメーターによるボツ案の数々、どれも傾向が似たり寄ったりなんです。誰かがひらめきを得てあの造形にたどり着くまでに、相当時間がかかった感じがする…。

しかしまあ、ドラマ内の劇中作と同じく、興行成績は芳しくなくて、会社をやめることになるわけです。

 

さて、第2章では1970年代へ。アルプスの少女ハイジが躍動する、テレビアニメの世界です。

ここでは、アルムのハイジの家を含めた、周りの自然や村の様子がジオラマ化されていて、写真を撮ることができました。

 

 

ユキちゃんもいます。仲間・・・(笑)

 

 

 

すごい勾配・・。

この時期のテーマは「日常生活の喜びを描く」というもの。ロケハンをした話は有名ですが、それだけあって風景のリアルさがすごい。

壁に、数々の背景画が展示してありますが、その美しいこと!ハイジはとにかく緑がきれい。四季折々の自然の美しさ。なんて贅沢なんだ、とため息が出てしまいました。

「母をたずねて三千里」はもう少しトーンが落ち着いていて、ジェノバの石造りの建物や、生活感のある感じがよく出ていました。マルコは純粋なこどもだけど、ハイジほど無邪気じゃないし、事情が事情だから、すこし暗い感じなのかなとも思いました。
(こないだ、体調が悪くメンタルもやられてる時にうっかりYouTubeで第1話を見ちゃって、号泣して頭痛くなったんですよね・・。あれは全男子ママが泣くやつ。マルコ!かあさーん!!)

そして、ここにあった設定資料の中で一番真剣に見たのは、赤毛のアンのもの。私、アンが大好きなんですよ。

「赤毛、おでこ、目がぎょろりとしている、そばかす」という原作の設定を踏まえて、かつ「数年後に風変わりだけど目を惹かれてしまう美人に成長する骨相」をしているアンを生み出さないといけないってことで・・相当、作画の人は苦労されたようです。

私の大好きな「耳をすませば」の監督・・早死にしてしまった近藤喜文さんが描いた、何枚ものアンの絵がありました。アボンリーに連れてこられたばかりのおどおどしたアンが、やがて意志を持って賢く美しく成長していくようすが、しっかり描き分けられていました。

もちろん、高畑監督の設定資料もしっかり見ました。モンゴメリの原作を緻密に分析して、時系列に従って並べ、その回でアンの身に起こる事件、内面の変化などが細かく細かく書き込まれていて、原作ファンとしてはかなり面白かった!

 

そして第3章。日本を舞台にしたアニメをつくった、80年代のこと。

自分は1980年生まれなので、やっとこのへんからリアルタイムになります。とくに「じゃりんこチエ」の資料は、大阪生まれ大阪育ちにとっては、単純に懐かしくて面白かった!

「少し前の」日本を舞台にした作品が多かった時期です。おもひでぽろぽろの「田舎」、狸合戦ぽんぽこの「里山」。美しかった日本の自然を描きたかったのかもしれないなと思いました。

やはり印象に残ったのは「火垂るの墓」。
ノートにびっしり貼られた野坂昭如の原作のコピー、そこに書き込まれた設定。壁には何十枚というイメージボードに描かれた、戦時中の三宮の風景、降り注ぐ炎、清太と節子・・どんどん痩せて生気を失っていくふたり。

戦争を知らない世代の子供に、戦争というものの悲しさ、おそろしさを伝える名作。今も昔も見るたびに心がえぐられます。とくに、あの始まりと終わりの、亡霊になった兄妹のシーン。あれを演出した裏側をいろいろ資料から垣間見ることができて・・会場で何度ため息を漏らしたことか。

そうだ、ドラマで伊原六花ちゃんが演じてた色彩設計の子のモデルになった方だと思いますが、このコーナーではその人の功績にも少し触れることができます。兄妹がまだ生きている時と、亡霊になってからでは、小道具や衣装を含め、すべての色付けが違うんですよ。どの絵も切なくて、哀しいくらい美しかった。

 

 

そして、すべての集大成となるのが第4章。

ラフなタッチの線描を生かして、日本の原風景の美しさ、生命のほとばしる喜びを表現した「かぐや姫の物語」。なんて開放的なんだ!と、目の前が開けるような思いがしました。そんな空間でした。

「かぐや姫の物語」には、何か個人的な特別な思いがあるからだと思うんですが、見ると必ずラストのあの、菩薩版エレクトリカルパレードみたいな来迎の場面で、置いていかれるおじいさんとおばあさんの気持ちになって号泣してしまうのです。
地上の穢れを祓う羽衣を着せかけられた瞬間に、彼岸の人になって去ってしまう愛しい娘。いっそもう一緒に連れて行ってくれ、と何度でも思ってしまう。

この世は窮屈なところだし、女の子に生まれるといろんなめにあうけれど、それでも喜びも悲しみも体験させてやりたかったなあ、と思うのです。だから、力いっぱいに世の喜怒哀楽を味わう、荒々しいまでにラフな線で描かれた姫の物語が、美しくて愛おしくてたまらない。

この作品を見ていなかったら、きっと今回の展示に無理してまで行こうとは思わなかったと思います。きちんとした線で描かれた、従来の表現方法で作られた映画だったら、ここまで心揺すぶられることはなかったかもしれないな・・と思いました。

 

最後に、本展における最初の部屋の壁に大きく書かれていて、とても心に残った高畑監督の言葉を。

「『思想』を『思想』として語るというより 物に託して語れる」

例えばそれは生命への礼賛だったり、戦争は悲惨だということだったり、日常生活の喜びだったりするけれど、それを大人にも子どもにも伝えられるように、アニメーションに託し、人生を捧げたんだなあ・・。

 

こんなに天才的な、壮大なことは自分には到底できないけれど、もっと生活レベルな、瑣末なものではあるけれど、物になんらかの思いを託して語るということを、自分もこれからやってみたいな・・なんて、少し思ったのでした。

残念ながら図録は売り切れていたので、後日配送にしてもらいました。月末には届くって!今から楽しみです。

 

さて。この展示は来年の春頃、岡山に行くそうですよ。中国地方の皆さ〜ん!行ってみてください!

yuki*

39歳/夫・息子(11歳)/手づくり部、料理部/横浜在住、大阪出身。港が見えそうで見えない丘の上の古い一軒家で、息子と年上の旦那さんと猫のリサと一緒に、楽しく暮らしています。本とラジオと美しい布が好き。がま口のお店をやっています。一度しかない美しい日々を、あたたかく綴りたいと思います。Instagram:@yukiiphone

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