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飯田りえ

【売上トップ5は全て女性】学習まんが『世界の伝記NEXT』が親子に支持される理由を編集者に迫る!

  • 飯田りえ

2021.08.08

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学習マンガ イメージ画像

2024年新紙幣の顔となる3人が『世界の伝記NEXT』に新登場!千円の北里柴三郎、五千円の津田梅子、一万円の渋沢栄一

みなさん、コロナ禍2年目の夏休みをいかがお過ごしですか?東京都はまたしても緊急事態宣言下でもありますので、クーラーの効いた部屋でもっぱら、学習まんがにお世話になっております。

って言うのも、最近の学習まんがのクオリティ、すごくないですか??

私たちの時代のマジメすぎるお勉強タッチのまんがとは違って、登場人物もかわいい&かっこいいし、読み物としてとにかく面白いのです。読書をあまりしないわが子でも、学習まんがだけは食いつきが違っていて、何度も何度も読んでいくうちに、自ずと知識がついているのです。時折、ポロッとマメ知識を披露するので「それってなに情報?」と聞くと、大体「学習まんが」と。まさに、児童書様様なのです!

書店に行くたびに、ジャンルや人物もどんどん細分化され、各出版社から専門的な分野でシリーズ化。とにかく熾烈な争いが繰り広げられているのですが…、学習まんが界では一体何が起こっているのでしょう? また、あの子どもを飽きさせない仕組みはどうやって作られているのでしょう?

日頃の素朴な疑問をぶつけるべく、『世界の伝記NEXT』という学習まんがを作っている集英社の児童書編集部の加藤義弘さんと編集プロダクション ウェルテの新井聡史さんにお話を伺いました。

いつから学習まんがって、こんなに面白くなったの?

学習まんが 制作現場取材画像

写真左が集英社 児童書編集部の加藤義弘さん、右がウェルテの新井聡史さんにオンラインで取材をお願いしました。

__最近の学習まんがはクオリティが高く、各社熾烈な争いが繰り広げられていますが、この流れはいつ頃からですか?

ウェルテ新井聡史さん(以下、敬称略):2010年に集英社『世界の伝記NEXT(以下、NEXT)』シリーズがスタートした頃、各社、現代的な漫画家さんの絵柄を使って、子どもが喜ぶような内容にしていく動きがありました。朝日新聞社からは『サバイバルシリーズ』が出はじめましたし、学研の『日本の歴史』シリーズを作り替える流れもあり、そんな流れもあって児童書売り場の競争が激しくなりましたね。

__各社、子ども目線に立ち返ったことが大きいのですね。 私が子どもの頃読んでいた学習まんがはお勉強色が強くて、文字も多くコマ割りも細かく…、物語に没頭するようなことは正直、ありませんでしたよ…。

新井:そうですね。このNEXTが始まった頃も、まだどこかで「情報を多く入れないと」という意識が僕の中にもありました。しかし、子どもが読んで「面白い!」と思わないと一冊1000円の価値が上がりませんので、スッとストーリーに入り込めるようにキャラクターの面白さを引き出し、何度も繰り返し読みたくなるように引き算をして編集しています。

繰り返し読むための仕掛けが、そこかしこにあった…!

学習まんが 北里柴三郎冒頭イメージ

近代日本医学の父と言われる北里柴三郎の冒頭は、わんぱくな幼少期が描かれています(ちなみにわが子はこのシーンが大好き)Ⓒおおつきべるの

__そういう変遷があったのですね。子どもたちを飽きさせないための仕掛けがあるのですか?

新井:子どもにとっては知らない大人の話ですから、とにかく最初に興味を持ってもらうために、冒頭の子ども時代を面白く描くことを意識しています。そこで「面白い子どもだな」と共感してもらえたり、「かっこいいな、かわいいな」と憧れが芽生えると、その後のストーリーにものめり込んでもらえます。

__なるほど!幼少期のエピソードは自分との距離が一気に近くなりますものね。

新井:それに 総ページ数が120Pというのは、コミック1冊にもならないボリュームです。その中で一人の人生を追うので、子どもに響くエピソードだけを残すようにしています。その中で所々、かっこいい・面白い・かわいいシーンをはさむことで、楽しく読み進めていけるテンポを生みだしています。

__工夫がたくさん散りばめられているのですね。

新井:キャラクターがちょっと面白い顔をしているだけでも、子どもたちはその顔が見たくて何度も読みます。そういった仕掛けと知識のバランスをいつも考えています。

未来を担っていく子ども達へ、伝えるからこその葛藤も…。

学習マンガ イメージ画像

それぞれ無心に読んでいる時もあれば、兄弟でのぞきあって大笑いしていることもしばしば。

__とは言え「あれも教えたい、これも伝えたい!」ってなりません…?

集英社 児童書編集部 加藤義弘さん(以下、敬称略):もちろん作っている側も皆さんと同じ親世代なので、葛藤はありますよ。でも大人が「あれも、これも」と情報を押し付けるより、わかりやすいところをわかってもらえる様に構成する方が、エントリーとしては入りやすい。本当はいろんなことを入れたいんだけれども、そこはグッとこらえて…。

__編集者さんも葛藤があるのですね。監修がきっちりと入っていらっしゃるのも、親としては安心ポイントが高いです。

加藤:今の時代、情報へのアクセスは簡単だし、タブレットで検索すればいくらでも調べられますが、必ずしも正しい情報だとは限らないじゃないですか。一方で、学習まんがは監修者の知性が随所に散りばめられているので、描かれていることに間違いはないといっていいでしょう。『北里柴三郎』の時も編集側には医学的な専門知識がないので、気になったシーンは北里研究所に細かく確認を取り、実験シーンの写真をもらって丁寧にそのプロセスを何度も描き直しました。

__子どもたちへの思いがそれだけ込められているのですね。

加藤:そこがやりがいですから! 学習まんがを読んで育った子どもたちが、近い将来、何か社会に大きなことを成し遂げてくれるんじゃないかな、と期待しながら日々、制作しています。



国内の有名・無名問わず、新しい偉人たちが人気作品に

学習マンガ イメージ画像

書店に行く度に、どんどん学習まんがのコーナーが拡充していて、各社熾烈な争いが…!

__NEXTシリーズの人選はどのように決めているのですか?

加藤:まず、大河ドラマや朝ドラ、映画など、その年話題になる人物はおさえます。今回も新紙幣になる『渋沢栄一』『北里柴三郎』『津田梅子』も、3名がシリーズで揃うと知的欲求へのモチベーションは広がるので企画しました。ニュースな人選以外は、各担当者の思い入れで、新しい人物にトライもします。

__新紙幣の3人って知っているようで知らないですものね。ちなみに、『スティーブ・ジョブズ』や『オードリー・ヘプバーン』が出た時は衝撃でした。

新井:NEXTを立ち上げる時、まさにそのコンセプトを意識しました。これまで扱ったことのない人、最近の人、あとは女性です。前シリーズの集英社『世界の伝記』では男性が多かったので、今シリーズでは半分を女性で構成し、日本ではあまり知られていない、世界の偉人たちも紹介しています。

加藤: ちなみにNEXTシリーズで売れているトップ5はすべて女性で、世界最初の女性医師である『エリザベス・ブラックウェル』に始まり、『サリバン先生』『アンナ・パブロワ』『オードリー・ヘプバーン』『ダイアナ』です。男性ですと『安藤百福』『松下幸之助』『渋沢栄一』が人気ですね。

__そのラインナップは興味深いですね。昨年の学校休校の際、我が家でもいろいろ学習まんがを買い揃えましたが、コロナ禍において、何か変化はありましたか?

加藤:おかげさまで全体的に売り上げは伸び、中でも人気だったのが『エリザベス・ブラックウェル』と『ナイチンゲール』でした。これは、医療従事者に対する敬意の表れだと思います。ファミリー層だけでなく「大人の学び直し」という観点でも、SNSやメディアで取り上げてもらうことが増えたので、こちらとしてもありがたいニュースでした。

子どもが「これ知ってる?」と言いたくなるような知識を

学習マンガ イメージ画像

画像右がネーム、画像左が実際のページ。縁側掃除をピカピカにしたというエピソードをコミカルに描いていますⒸおおつきべるの

__漫画家さんはどの様に?

加藤:テーマに合わせて漫画家さんをコミック誌から探して来ることもありますし、学習まんがのコツをつかんでいる、経験豊富な漫画家さんにお願いすることもあります。小学校3〜4年生の子ども達が親しみやすいタッチで、人物像を描いてくれる方に依頼するようにしていますね。

__漫画家さんにとっても、ご自身の作品と違ってむずかしそうですね。ちなみに、1冊制作するのに、どのぐらいの期間を?

新井:企画が上がってから1〜2年ですね。コンセプト決め→シナリオライターさんにシナリオ依頼→漫画家さんに執筆依頼→監修チェック…と、しっかり時間をかけて作っています。最初のコンセプト決めのところから、大人が読んでも「へぇ〜」と思ってもらえるポイントは必ずおさえています。子どもって知識を知り得ると「お母さん、知ってる?」と親を試すじゃないですか(笑)。そういう狙いもあります。

__いつも問題を出されて、見事に玉砕しています(苦笑)。

新井:大人が読んでも楽しめるつくりになっていますし、お子さんとのコミュニケーションのきっかけにもなるので、ぜひ親子で楽しんでいただけたらと思います。

加藤:親目線でも良いと思ってもらえるように作っていますので、LEE世代と思いを共有できるような素敵な本をこれからも作っていきますよ。

__これだけ情熱を持って作られているのですから、今後も、親子で愛読させていただきますね。お忙しいところ、ありがとうございました。

私たちと同じ世代の人たちが子どもたちのために、情熱を注いで制作していらっしゃるのを聞いて、さらに学習まんがを応援したくなりましたし、より細かくじっくりと読み込みたくなりました。

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ちなみに、今回発売された新紙幣シリーズの中で、個人的には『津田梅子』に大変感動しました。女性の学ぶ道を開拓して津田塾大学を作った人物とは知っていましたが、6歳の頃から親元を離れて、一人使命感を持ってアメリカ留学していたなんて、全く知りませんでした。そして、今、こうして私たち女性が意思を持って自由に働くことができるのも、こうした先人たちが改革してくれたおかげなのだと、改めて痛感いたしました。ちなみに長男は『北里柴三郎』を読んで「幼い頃は勉強嫌いだったのに、人の役に立ちたい一心で医者になって感染症や伝染病から人々を救うなんて、すごいね!」と幼少期の様子と、今のコロナの状況からも共感していたようです。次男は『渋沢栄一』を読んで、今まで見ていた大河のシーンと照らし合わせて楽しんでいました。

家族で読んでも、それぞれ反応するシーンや共感ポイントが違っていて、面白いですね!ぜひ、この夏休みに家族で学習まんがを読んでみてはいかがでしょうか?

集英社・学習まんが世界の伝記NEXT HP

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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