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丘田ミイ子

子どもがいても観劇を諦めない!【親子で劇場へ通い続けた私の7年間/前編】

  • 丘田ミイ子

2020.11.09

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初めまして、ライターの丘田ミイ子です。
今回がLEEの「暮らしのヒント」で書かせていただく初めての記事になります。

様々な方が専門ジャンルや得意なテーマについて、今日より少し豊かな明日にするための“ヒント”を発信されているこの媒体で私がお伝えできることはなんだろう?
私だから書けることってなんだろう?
そう考えたときに、真っ先に浮かんだ演劇のことを今日は書きたいと思います。

東京芸術劇場前にて

演劇から前を向く力をもらい続けて…

私は勉強や運動が特別できたわけでもなく、かといって芸術的感性において光るものもなく、象に見えない象の絵の横に「ぞう」と書いてしまうような子どもでした。
部活動やサークルにも熱心に打ち込んだ経験のなかった私が夢中になったのは、演劇と映画と読書、そして、その感想文を書くことでした。

「筆を執ることが好き」という気持ちだけで文筆業を選んで約10年、カルチャー分野を得意ジャンルとしてインタビューやレビューの執筆を長く続けてきました。
とはいえ、「専門として本当に極めているのか?」と聞かれたら、深い視点や濃厚な情報量を誇る同業の先輩たちの顔が浮かび、いまだ首を縦には振れない自分がいます。

そんな私が「これだけは誰にも負けない!」と胸を張って言えること。
それは、「母になっても、カルチャーを愛する自分を諦めない」ということでした。
中でも観劇においては、「本当に演劇が好きなんだね」と言われるほどの奔走。
その言葉は、「演劇に詳しいね」と言われるよりも嬉しいものでした。

ご挨拶が少し長くなってしまいましたが、今日はそんな私が第一子出産から現在に至るまでの7年弱、少しでも多くの劇場の椅子に座るべく愛と意地を以って奮闘した観劇記録を振り返りながら、その活用術と大好きな演劇の魅力を紡いでいけたらと思います。
このコロナ禍の折、劇場へ行くのはまだ不安という方もたくさんいらっしゃると思います。親子観劇となるとなおさらかもしれません。それでも、全ての人が心から安心して演劇を観られる日に備えて、今だからこそ伝えたい想いをのせてこのコラムをお送りしたいと思います。

座・高円寺前にて

1歳までは、劇場併設の提携託児所を活用せよ!

いざ子どもが生まれてから痛感する、簡単には劇場に行けないという現実。当時は待機児童問題がかなり深刻で、固定の保育所も見つからず仕事に出向くのも一苦労という状況でした。加えて、オムツや授乳や離乳食に午睡など何かとお出かけの懸念要素が多い時期。

それでも1度きりの連続である演劇を、今観届けたい。そんな時期に私を支えてくれたのは、劇場併設の託児所でした。劇団四季、新国立劇場、東京芸術劇場、世田谷パブリックシアター、神奈川芸術劇場KAAT、座・高円寺など、関東近郊の多くの劇場が託児所と提携し託児サービスを行っています。なんといっても、同じ建物内にいるという安心感は大きい!

多くが観劇日より3~7日前までの予約制。託児料金は平均2300円ほどで、東京都の場合はおしなべて区の一時保育と大差はありません。安いところでは1000円、区が発行する子育て応援券の利用ができる場合もあり、シーンによっては交通費を下回ることも。

娘が6か月になった頃、託児所デビューに使わせていただいたのは、東京芸術劇場の5Fにある託児室でした。広々と開放感のある室内はもちろん、開演30分前から終演30分後までといった託児時間の設定も嬉しいポイント。

観劇前に物販を見たり観劇後の余韻を楽しむことができるのは、1人の時間がなかなか持てないこの時期に本当にありがたいことでした。また、劇場内で携帯電話を切っていても、子どもの体調に異変があった場合などは席番号で呼び出しをしてくれるというのも母にとって安心なシステムだと思いました。

出産後初の観劇、複雑な気持ちを抱えて劇場へ

※託児所内の写真は特別に許可をいただいた上で掲載しています

初めて娘を預けての観劇に向かう道すがらでは、葛藤がありました。
「慣れない場所に子どもを預けて、演劇を楽しむ母。これはいいのだろうか」

子どもの成長とともに厚かましいほど逞しくなった今の私なら、声を大にして「OK!」と言えますが、当時は育児が生活の中心で、ひとりの時間を過ごすことに対して後ろ髪を引かれるような思いがありました。

しかし、ひとたび幕が上がると、そんな気持ちは跡形もなく吹っ飛んでいました。いつだってそうですが、演劇は私たちを突拍子もないところに連れて行ってくれるもの。その生身の引力を全身で感じながら、「ああやっぱり演劇は観てなんぼだ、観なきゃだめだ」と、当たり前のことを強く思っていました。“換気”というものが人間の心においても起こるとするのなら、まさにその言葉がふさわしい、沈んでいた空気が入れ替わるような感覚でした。

「おかえりなさい。楽しめましたか?」

娘を迎えに行った私に保育士さんが開口一番かけて下さった言葉です。そして続けて「●●ちゃん楽しく遊んでいましたよ」と。涙が出るほど嬉しい言葉でした。“楽しむこと“に貪欲でいい。育児も演劇も楽しめばいい。私も娘も楽しく生きられたら、一番いい。託児所のおもちゃを片手に笑顔を向ける娘を見つめながら、そんなことを思っていました。素晴らしい舞台の余韻、子どもだけでなく母にも優しい託児所。

“この一歩は小さいが、観劇母にとっては偉大な一歩である!”

アポロ11号のアームストロング船長の月面着陸よろしく、演劇好きの母が新たな光を見た日でした。その後も劇場の託児所にはたくさんお世話になりました。現在の劇場託児所の運営状況や価格などについては、時節の影響を受けて人数の制限や仕様の変更もあることと思います。ご検討の方は詳しい情報を各自ご利用前にご確認ください。これまでの支えに大きな感謝を込めつつ、以前のようにまた利用できることを願って。

観劇用に買った双眼鏡を持って

子どもの成長とともに楽しむ親子観劇

お座りができるようになり、1歩2歩と歩くようになってからはもう猛スピード。辿々しくも言葉と言葉でコミュニケーションを取れるようになり始めてからは「娘と一緒に演劇に触れたい」という思いが出てきました。ここでは、子どもたちの成長に応じて親子で観てきた演劇の中から、過去に再演ツアーが組まれたものや今後も観劇できる可能性が高いシリーズものに絞って、年齢別にご紹介したいと思います。

あくまで私個人の過去の観劇記録と経験則からのお伝えなので、今後の予定に関しては公式サイト等をお調べくださいね。

【2歳(2016年)】
子どもに見せたい舞台vol.10 『モモ』@あうるすぽっと

撮影:曳野若野

毎夏豊島区の会場にて開催され2000名近くの動員を誇る「としまアート夏まつり」内のメーンプロジェクト「子どもに見せたい舞台シリーズ」。私が娘とともに観劇をしたのは、第10回のミヒャエル・エンデ原作の『モモ』という演目でした。脚本・演出は、青☆組の吉田小夏さん。舞台上に降っていた花を指差し、主人公が袖にはけると「モモどこにいったの?」と演劇の世界に夢中に。時間泥棒たちがゾロゾロと客席を練り歩くシーンでは「こあいねえ」と怖がり、目の前の物語にもしっかりとついてきているようでした。会場にはちょっとしたプレイスポットもあり、心と体をたくさん使って思う存分楽しむことができました。

終演後は、物語の余韻に浸りながら紙の葉っぱの山で遊びました

【3歳(2017年】
『空中キャバレー』@まつもと市民芸術館

撮影:山田毅

2011年の初演以来、2年に1度のペースで上演されている『空中キャバレー』。串田和美さんの構成・演出とcobaさんの音楽による、サーカス要素を取り入れた眩い世界観と珠玉のパフォーマンスが大きな見どころです。秋本奈緒美さんをはじめとする個性溢れる演者さんのお芝居やダンスはもちろん、フランスサーカス団の曲芸の数々には親子で瞬きを忘れるほどに熱中しました。二度とは会えない妖精のようなブランコ乗り、赤い客席からまるでそのまま月に登っていくかのように見えた美しい綱渡り。小さな頭を揺らしながら天を仰いでサーカスを見つめる娘の姿に、遥々連れてきてよかったと心から思いました。娘が魚の鯖より先に、セリフにあった「サ・ヴァ?」というフランス語を会得するという可笑しなエピソードも思い出の一つです。

観劇後、ハートのバルーンを片手に



 

【4歳(2018年)】
練馬児童劇団 発表会『青い鳥』@練馬文化センター小ホール

くたくたになる程娘が何度も開いた公演パンフレット

年1回行われる練馬児童劇団の発表会は、定員制限を設けた応募制で入場無料。我が子はおろか知人の子が出ている訳でもないですが、つい1年後を心待ちにしてしまうイベントです。演出は女優の岩本えりさん。“無料の発表会”だからと言って侮ることなかれ。溢れんばかりのエネルギーが迸る温度の高いパフォーマンスに、思わず涙が出てしまうほどです。「昨年のピーターパンよりも、青い鳥が好き」そう言った娘の感想は意外なもので、驚きと同時に考えさせられました。難しいか、怖がらないか、頭で考えてばかりいるのはいつも大人の方で、言葉や景色を浴びるように感じた先にしかない、理屈じゃないもの。その大切さ。そんなことを娘の方から教わった観劇でした。

【5歳(2019年)】
『めにみえない みみにしたい』@小金井 宮地楽器ホール

撮影:細野晋司

マームとジプシーの藤田貴大さん初の子ども向け演劇の再演ツアー。お姉さんになった娘と2人で過ごす時間にしたいと考え、1歳の弟は夫とお留守番を。
おねしょに悩む女の子がこっそり家を飛び出し、小さくも頼もしい冒険を経て帰ってくるというエピソードは、少しずつ自分の手を離れていく娘と観るのにぴったりの作品でした。お話の中では、子どもと考えていきたい「戦争」についても触れられることができました。森の中に風が吹くさま、雲が流れるその音。姿はみえないもの、耳をすましたら聞こえてくるもの。それらを想像力で感じられるような演出は大人にとっても贅沢なものでした。終演後、ぽろぽろ泣いていた私の顔を覗き込み、娘が不安そうに言った「おしっこ…」。物語と一体になった娘を小脇に抱えてトイレに走ったのも大事な思い出です。

会場の小金井 宮地楽器ホールには、上演前にも楽しめる空間がありました

様々な劇場での思い出を思い返しながら、こんな日々が少しでも早く多くの子どもたちのもとに戻ってきますようにと願いながら、前編を締めたいと思います。
後編では、母の顔も持つ女優さんたちが作る、新しい演劇の形についてご紹介します。

ぜひ、お付き合いください!

丘田ミイ子 Miiko Okada

ライター

文筆業10年目。6歳と2歳の姉弟を育てる2児の母。滋賀県にて四人姉妹の三女として程よく奔放に育つ。得意ジャンルは演劇・映画・読書。雑誌、WEBでカルチャーにまつわるインタビューやレビューを多数担当、ショートストーリー、エッセイの寄稿も。ライフワークとして、ことばを使った展示(『こゝろは、家なき子』(2015)、『寫眞とことば きみが春をきらいでも』(2020)も不定期開催。目下人生のスローガンは“家庭と自分の両立”。大の銭湯・サウナ好き。

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