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LIFE

飯田りえ

学校再開「でも行きたくない…」そんな子どもに寄り添うための、あかはな先生によるチェックリスト

  • 飯田りえ

2020.07.26

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※本記事は、2020年7月(コロナ禍当初の長期休校明け)に公開された記事です。

7月に入り、都内の新規感染者数の数字に怯えながら、日常を送っております。学校もほぼ通常の時定に戻り、気づけばもう夏休みが目の前。今年は概ね、都内で過ごすことになりそうですが、そんな中でも夏休みの楽しい過ごし方を探さないと…。

それにしても、あのステイホームな日々が幻の様に思えてくるのは私だけでしょうか。本当に大変でしたが、考えさせられる日々でした。家族を、自分を、生き方を省みる、非常に大切な時間だったと思います。それを無駄にはしたくない…と思いつつ、変われた部分とそうでない部分が半々。そこで改めて、「自粛期間中に考えていたことを振り返ってみよう」と、あるウェビナーのことを思い返しました。

院内学級の教えが、休校明けの子ども達に通じる

緊急事態宣言が解除される間際の1週間、日常が戻る前に「仕事、家族、そして自分…。これからどうする?」というテーマで改めて見つめ直す、その名も「My Revolution2020〜これからの「仕事」「家族」「自分」を描く7日間〜」。アドラー心理学を取り入れた子育て支援 代表取締役の熊野英一さんと、子育てサイト「パパコミ」編集長の杉山錠士さん(※現在は、「パパしるべ」を運営/2022年8月編集部追記)がナビゲートし、多彩なスペシャリストとの対談が開催されました。

ドラマのモチーフにもなった、あかはな先生が登場

中でも5日目、教育について語られた副島賢和(そえじま まさかず)先生がとても感動的でした。もともと公立の小学校教諭として25年勤務され、終わりの8年間を、病院に長期で入院している子どもたちが受ける院内学級の教員をされています。NHKの「プロフェッショナル」にも出演され、10年ほど前は大泉洋さん主演のドラマ「赤鼻のセンセイ」のモチーフになったことでも有名ですね。

恥ずかしながら、今まで院内学級という存在を知りませんでした。全国で200学級ぐらいあり、病弱・身体虚弱特別支援学級の中に属しているそうです。入院せざるを得なくなった子ども達にとっては、学校に通えない状況が続いている…ということは、副島先生は今の状況を誰よりも理解しているのでは? 学校に急に行けなくなり、また再開する場合に、子どもたちはどういう心理状況になるのか。もし子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、大人としてどう関わっていけば良いのか、教えていただきました。

副島賢和さん●昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。東京都の公立小学校教諭として25年間勤務。99年より東京学芸大学大学院にて心理学を学び、2006年から2014年3月まで品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内「さいかち学級」の担任を務める。14年より現職。著書『あかはなそえじ先生の ひとりじゃないよ:ぼくが院内学級の教師として学んだこと』(学研教育みらい)、共著『ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと 』(東洋館出版社)など。

これからの学校、教育現場の苦悩とは…

教育現場では、“揺れ戻し”が働く

__まず、長年、教員をされている副島先生から見て、今のコロナ後の教育現場をどう見ているのでしょうか。

副島賢和先生(以下、敬称略)●今回も、元の学校の状態に戻そうという力が一気に働くと思います。“元に戻る”という事は、人間にとって安心なので、通常の心理です。ゆとり教育の時も、総合学習の時も、震災後の時も、そうでした。いつも学校の先生達は「生きる力」「学力とは」をずっと議論をしてきたはずなのですが、それでも結局は「日本の学力=学んだ結果」になっています。本来ならば「学ぶ力・学んでいく力・学ぼうとする力」も「学力」のはずなのですが、それでは評価しにくいから、結果を評価をしているのです。でも、それだけじゃないよね、って。

__日本の学校教育がなかなか変わらないのは、こう言った心理的な要因と、システム的な要因があったとは。テスト結果や偏差値で評価する学力、ここから逸脱できない理由がここにあるのですね。実際に子ども達の反応は?

副島●今回、学校が長期休校になった時「何したらいいの?ひま〜!」と、自分が何をしたいかがわからない子どもが多かったのです。本来、子どもたちは自分たちの時間ができることで、ワクワクするはずなのに…。本来の学びであったワクワク、ドキドキを学校や先生たちが奪ってきてしまったのかと、すごく反省しました。茂木健一郎さんが「学校に依存しなくていい力をつけるのが、学校の仕事だ」と言っていましたが、まさにその通りなのですが、結果的に備わっていなかった。私自身が反省しています。

再登校が始まって、実際起きたこと=時数合わせ

__「子ども達に自分でワクワクドキドキする力、そして自分で追求する力をつけて欲しい」と、先生達は改めて教育について思いを馳せながら休校期間を過ごしていたと思います。いざ始まってみるとどうだったのでしょうか…?

副島●再登校が始まる上で、一番の話題になったのは、残念ながら“時数”のことでした。しかし、教育が法律の中にある以上、教員はそれをやらないといけない、そこに先生たちのジレンマがあるのです。夏休みが削られたり、一日7時間という声が聞こえてきたり、「それじゃ、子どもたち辛いよ!」って思いながらも「その中でできるだけ楽しく教えたい」と、必死に考えるのが現場の先生たちですから。もう、法律的なところを変えていかないといけないのです。

__なるほど。公教育は学校教育法という法律で定められている以上、先生たち現場の状況で「NO」と言えないのですね…。先生達も子ども達の状況を知りながら、この法律との中で板挟み状態になっているのなら、これはもう是非、学校教育法の部分で柔軟に対応して欲しいです。

病弱教育の考え方を使って柔軟に対応すれば…

__法律で時数が決まっている、そこはもうシステムの問題としか言いようがありません。そういう中、副島先生だったらどう対処されるのでしょうか。

副島●病弱教育の教育課程の中に『準ずる教育』という考え方があります。子どもの状況に合わせて教育内容や教科を精査することができるのです。今回の場合、コロナウィルスによって子ども達全員が当事者なのですから、この「準ずる教育」を上手く使えば、先生たちのアイデアも生かせるし、子ども達も負担がへるはずです。そのような工夫を臨機応変に検討してもらいたいです。

学校が再開して、喜んでいる子どもばかりではない

学校に復帰する前に、子どもの状態をチェック

__3ヶ月の休校からあけて、全員が両手離しに喜んでいる訳ではありません。これまでと違った生活や、これまでの流れから様々な不安を抱え、気持ちがついていけない子ども達もいます。

副島●院内学級で学んだ子どもたちが、退院する時に学校にスムースに戻れるためのチェックリストを作っています。ぜひ、こちらを参考にしてみてください。大人の職場復帰にも使える内容ですよ。

1 もともとの居場所が学校にはありましたか
2 休みの間に学校とのつながりを持つことができていましたか
3 復帰する上で、不安を解消できていますか
4 学校に復帰したときの見通しを本人が持てていますか
5 学校に相談できる場所や人がいますか
6 学校以外に、エネルギーチャージできる場所(サードプレイス)がありますか
7 「学校に行かなかったけど、こんなことができた」という経験がありますか
8 本人に力(SOSを出せる、質問にできる、じっと耐えられる…など)が備わっていますか
9 受けいれる側(学校・先生・お友達、クラス)が成長できていますか10 学校の体制として受け入れ体制が整っていますか

__これはリストとして頂かなければ、考えもしなかった細かな視点です。もし、今、行けずに辛い思いをしているお子さんがいたら、これらを一つずつ解消できれば、また少し前に進めるかもしれません。

副島●あと、今回の難しい所は学年をまたいでいること。持ち上がりだと安心のですが、新しい担任の先生になっているところは前の学年の先生や専科の先生など、その子のことを知っている人たちにもぜひ助けてもらいたいです。

もともと不登校だった場合は…どうすれば?

__以前から、集団生活に違和感を感じていたり、そもそも不登校だった子ども達は、再開…!と言ってもなかなか動き出すことは難しいと思います。そう言う場合は、大人はどう寄り添ったらいいのでしょうか。

副島●その子自身が「安全な場所だ」って心底から思えるにはどうしたらいいかを考え、まずは感情をきちんと受け取ることです。感情ってポジティブとネガティブに分けられがちですが、本当は一つのもので、良し悪しなんてないのです。ただ、その感情も受容はするけど、許容はしない。「自分の思いを受け止めてくれた」となると、「しょうがないなぁー」って言いながら動き出しますよ。

副島●あと、子どもが「やりたくないっ」て言った時は、「やりたくないって気持ちを聞いてよ!」ということ。「やだ、やらない!」って言った時は、何か引っかかっていることがあるので、そこを取り除かないとやりません。そこは子どもの表現を聞く時に役立つと思います。

わがままになった or 甘えてきた場合は?

__学校が急に再開し、マスクを着用しながら常に手洗い、常にソーシャルディスタンスをとった学校での過ごし方など、実年齢以上のことを求められています。そんな中、帰ってきて家でわがままを言い出したり、急に甘えてきたり…そんな時は?

副島●今は子ども達みんなが、非常に頑張り、我慢している状態だと思います。そんな中、子どもは傷つくと回復するために年齢下げる傾向(心理学的には”退行”と言われています)があります。もし、目の前にいる子どもが実年齢より幼く見えたら、その年齢に合わせた接し方をすることが大事。しんどい時はぎゅっと甘えさせてあげて。甘えて頼って来ますが、充電できたら急にスッと離れて行きますから、その時はそのまま離れて、見守ってあげてください。



ウィズコロナ時代の家族・学校・社会のあり方

つらい時に「助けて」「手伝って」と言える力を

__一方で、自分が辛い時や大変な時に、誰かに助けを求める援助希求(助けて、手伝って欲しいと言うスキル)自体も、子どもにとっても大人にとっても難しいことです。

副島:そうなのです。「助けて」と言えない子もいるし、「人を頼ってしまう自分はダメな子だ」と思ってしまう子もいます。だから子どもたちが「助けて」と言うための練習を、小さな頃からしておくことが大切です。あと、大人が助けを求める姿を見せ、失敗する姿も見せること。「これどうやるの?」と子どもに尋ね、子どもに助けてもらう。そうすることで子どもは誰かを助けてあげられ、嬉しかった経験をさせてあげることができるので、双方に大切ですね。

自分の弱さを見せられ、支え合える社会に

__これからの時代を生き抜くために、先生から最後にメッセージを。

副島:とにかく子どもたちには「ひとりじゃないよ」と伝えたい。そう思えた人は「ひとりでもだいじょうぶ」って思えますから。そして、あるがままの自分を認めることができた人が、周りにその気持ちを少しずつおすそ分けしていく。そして、みんながそれぞれ自分の弱さを出して、支え合って生きていく。そんな優しい世の中を作れたらいいなと思っています。


さすがあかはな先生、眼差しがとっても優しく、金言ばかりが飛び出してきて…、もう最後はもう胸がいっぱいになり涙が止まりませんでした。目の前にいる子どもが「学校行きたくない」と言い出すと、「どうして?何が嫌なの?」「学校で誰かと何かあった?」と無理やり原因を明確にしてしまいそうですが、あのチェック項目を見ていると、そう単純なものでもなさそうです。もし今後、子どもたちが「行きたくない」そう意思表示した時には、一緒に立ち止まって、一つ一つ、ゆっくり考えることができそうです。

その一方で、これまで病弱教育という、教育のマイノリティな状況下で学んでいた子どもたちがいて、休校時と同じような状況に置かれていたなんて…。自分が無知だったが故に、先生の言葉が深く胸に突き刺さりました。院内学級だけでなく、不登校や貧困など、子どもたちみんなが教育の機会に取り残されることなく、学べる社会を支えていくのが大人の使命だと思いました。

まだまだ続くコロナ禍において、みんな不安を抱えながら頑張って模索しています。支えてくれている先生にも支える人が必要です。大人も子どもも分け隔てなくありのままの自分を認め、みんなで少しずつ想像力を働かせ、隣にいる人に優しさで繋いでいく。そんな社会になれば、今はまだ幼い子どもたちですが、大人になった時に大きく躍動できるのではないでしょうか。

まずは身の回りの家庭から、そして地域へと、実践して行きたいと思いました。

 

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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