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飯田りえ

生きづらさを感じるすべての人へ。障害者たちが自立生活をめざす映画「インディペンデントリビング」。オンライン上映も!【後編】

  • 飯田りえ

2020.03.20

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(C)ぶんぶんフィルムズ

重度の障害があっても地域で自立して生活ができるように、必要なサービスを提供する自立生活センター。大阪にある3箇所の自立生活支援センターを中心に3年半も撮り続けた、ドキュメンタリー映画「インディペンデントリビング」。今までの「障害者」と「介助者」のイメージを、良い意味で壊してくれます。そして何よりも全ての人の自立について、考えさせられる作品に。田中悠輝監督とプロデューサーである鎌仲ひとみさんにお話を伺ったので、インタビュー後編をお届けします。前編と合わせてお読みください!

自立生活とは何か。その価値を示すためには、現場と一体に

__監督ご自身が描きたかった核となる部分は?

田中:僕が描きたかったのは「自立生活とは何か」と言うこと。自立生活の価値って、「介助してもらって申し訳ない」ではなく、介助者を使って自分の生活をつくる事。福祉の中で“恵み”としてではなく、“制度”があって利用する立場である、主体であると言う事なのです。「障害の社会モデル」とも言いますが、障害があるのは個人ではなくて社会の側だと。

鎌仲:それが『自立生活夢宙センター』では実践されていた。目の前にその価値があったのです。でも映画にするにはプロセスが見えないといけないので、ずっと長期間、現場に張り付いて、その瞬間を捉えるなければならない。そのために監督は現場の人たちと人間関係を構築して、ずっとカメラを回し続けることを受け入れてもらわなければならないのです。

__なるほど。それでも本人やご家族から撮影拒否などありませんでしたか?

田中:人によってありますよ。良い部分だけじゃなく、やっぱり見せたくない部分もありますからね。『夢宙センター』の平下さん(社長)が人望のある人なので「社長に言われたら仕方ないな」と言うのが基本的なところ。社長の巻き込み力が、本当にすごいんです。

鎌仲:私もこれまで、いろんな障害者映画を見てきましたが、みんな困っている。生きづらさにぶつかっている。でも、それをどうしたらいいのか、誰も教えてくれなくて。結局、自助努力みたいな。でもこの映画には「こんなやり方がありますよ」と言う解が具体的に示されているのがいい。

__どのぐらいの期間、カメラを回されたのですか?

田中: 3年半、大阪は丸2年ぐらいですかね。たくさん回しましたよ。先日の大阪で行われた先行上映の時、社長が「悠輝が俺たちの映画を作ってくれた」って言ってくれたのが本当に嬉しかったです。初日は立ち見も出ましたし、初日3日間は連日満員、3週間上映も延長しています。

__最高の褒め言葉ですね…!

鎌仲:こんなに現場が一体として映画を作ってくれたのはなかなかないですよ。

一人ひとりが問い直さなければならない、インクルーシブな社会

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__学校も普通学級と特別支援学級に分かれていますし、今の日本は全くインクルーシブではないと思います。

鎌仲:先天性の場合はそうかもしれませんが、後天的な障害の場合で言うと、誰しもわからないですよ。くも膜下、脳梗塞、心筋梗塞など誰もが起こりうるし、事故もあるし、見えない難病もあります。それは家族でも、自分でも起こりうる。そう言う意味では障害者と健常者の境目って曖昧になってきていると思います。

__福祉界では異端というお話ありましたが、業界からはどんな反応が?

田中:この前、熊谷晋一郎先生(脳性まひの障害をもちながら、障害者と社会との関わりについて研究されている東京大学先端科学技術センター准教授)と対談したのですが「現代にしか切り取れない映画だったと思う」とのお言葉を頂きました。実際にこの活動は身体的障害の方が牽引してきた分野でしたが、この間、法整備もあり知的障害や精神的障害の方も増えてきた。当事者同士だから分かり合える、寄り添える、そういった点が入っていて面白かったと。

__いろいろと変化しているのですね。あと、昨今のニュースにもありますが、社会全体で、一人一人が問い直さなければならない時期かと。

田中:映画の中で社長が言っている「意思疎通が難しい人たち」のことって、まさに『やまゆり園』の事件に通じると思うんです。彼の言葉って、ある種、時代の言葉でもあると思うのです。「誰も幸せにしない」って言い切った植松被告に対して、そうじゃないやり方があって、自立生活がリーチしなかったことによって起きてしまった悲劇だって言えるんじゃないかなと。

鎌仲:働いている介助の方々も「意識がない」「意思表示ができない」って思いながら仕事をやり続けていると、やっぱり虚しくなりますよね。でもそれを「読み解こう」とすることが、相手の尊厳を大事にすることだし、自分の仕事の尊厳につながるし、そして、その仕事の価値になる。

__作中でも介助のみなさんが必死に「言っていることを読み解こう」「目の奥を読んでやろう」としている姿に、すごく気づかされました。その姿勢がやっぱり相手に伝わるんですね。そうして信頼関係が構築されているんだなと。

田中:そう言う意味では大阪の良さって、おもろいかどうかって価値があったのが重要ですよね。「気持ちがわかりあえたら、おもろいやん」って思えたことがいい。またそれを分かり合える仲間がいるっていいですよね。

笑いあり、涙ありの愛すべき登場人物たち

__あっすー(知的と精神の障害当事者)のお母さんが我が子を心配するあまり、厳しく怒って攻めてしまうシーンで。えみちゃん(『夢宙センター』の事務局長、障害当事者でありながらものすごく懐の深い存在)がお母さんにフォローしている時「失敗するときもあると思うんです、でもそれが生きて行く力になりますもんね」って…。あのシーンは子を持つ母として、ものすごく刺さりました。

鎌仲:健常者が障害者をコントロールするのと同じで、親が子どもをコントロールする構造は同じです。力を奪ってしまっているからね。

田中:障害をもつ子と親の関係については、実は隠れテーマになっているぐらい痛感していて。破局を迎えてしまったのがフチケンさん(自立生活センター『ムーブメント』代表)ですよね。ずっとお母さんが介助してきて、過労で倒れて亡くなるって…。果たして誰のためになったのか。「子どもの人生もあるし親の人生もある。自立生活は第三の道として双方にとっていいはずだ」と、フチケンさんの夜の語りが、本当にたまんねぇです…。

__フチケンさんの語りって、まさに悟りの境地ですよね。「人がえぐるように上がっていく一旦を担ってる思たら、それはすごい仕事やで。どん底の人たちの人生変えたら、おもろい仕事やで」これにはすごい鳥肌たちました。こう言う視点で、この仕事を見ているんだって!

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田中:フチケンさんは15年も寝たきりの時代があったから、どこか考え方が突き抜けているんですよね。哲学的で、宇宙も好きだし。いろんな考えをぐるぐるして、ふっと抜けるところが出てくる。そこに行き着くまでのその寝たきりだった時間が、今のフチケンさんの魅力に繋がっているのかと。

__トリス(くも膜下出血により高次脳機能障害を受障。元塾講師)はようやく自分のしたいことってなんだろうと。自分の内面を考えるようになったんだなぁって。

田中:嘘の笑顔で取り繕っていたんですけど、ペーターさん(夢宙の健常者スタッフ)が見抜いてくれて「そんなん、せんでいい」って言ってくれて。最近はイライラしているのも表に出せるのだそう。過渡期の中の良い傾向ですね。

鎌仲:自分の感情を表現しないタイプって、日本人にすごく多いよね。曖昧に笑って流す。それって自分の感情を殺すことだから、続けると体が壊れてしまう。

__たいき君(18歳まで山奥の施設で過ごしていた脳性麻痺と知的障害当事者)のヘルパーさんとのクリスマスイブのシーンや女子との会話とか…もう最高!

田中:あれは男子が誰しも経験する、あるあるですよね(苦笑)



介助者と当事者がWin-Winになる関係性があった


__もはや介助者と介護者の関係性ではないですね。

田中:介助者にとってもよいのです。セルフネグレクトの話にも似ているのですが、ずっと仕事が続かなかった健常者の居場所になっている部分もあります。編集では入っていませんが、介助者の中にはブラック企業から流れ着いてきた人も多くて。これまで人間扱いされないで来たから、自立生活センターはとても居心地よく働けると。

__そうなのですね。ちなみにバンドマンや劇団員が多いのはどうして?

田中:シフト制で髪型も自由だし、給与待遇もしっかりしているから相性が良いのだと思います。自分のやりたいことを続けながら、仕事したい時にはず仕事ができる。ちなみに映画の中の音楽は全て、介助者のバンドにお願いして作ってもらいました。

__これも勝手なイメージですが、介助者は甲斐甲斐しい人ばかりかと…

田中:(甲斐甲斐しく)やっちゃうのは、失敗する経験を奪ってしまうので、実はよくないんです。ちゃんと失敗するって、今の時代においては本当に重要だなと。失敗する価値を認めてくれるんですから。

鎌仲:挑戦もしなければ、失敗もしない、自分の実感がない。

__本当ですね…。私、えみちゃんに会いたいです。

田中:介助に入っている人を癒してくれる存在がやっぱり各センターにいるそうですよ。介助者の方から「あの人の介護に」とリクエストが入ることもあるとか。話しているだけで癒されるって。

__やっぱり!Win-winですよね。すごいいい関係。

鎌仲:生きづらいなって思っているすべての人に見て欲しい。でも監督の中では、こういう映画が必要なくなればいいってことでしょう?

田中:こういう活動は全てそうですが、「発展的解消を目指す」ということが根底にはあります。障害者が地域で自立生活を営むっていうことが当たり前になって、映画にする必要もないっていう。おそらく、ヘルパーの仕事は無くなりませんけどね。高齢者もそうですが、みんながどうやって人の手を借りながらその関係の中で自立していけるか。あとSOSって言える社会、失敗してもいいよって言える社会に。

__全ての人の生き方を考えさせられるきっかけになりました。ありがとうございました!

この作品に出てくる登場人物の一言一句が、こんなにも鮮明に思い出せるのは、やはり自分の人生を生きて、楽しんでいるからなのでしょう。もちろん、映画の世界が全てではないと思いますが、まずは知らなかった自立支援活動を知ることが、インクルーシブな社会への第一歩になるのかと。障害がある・なしに関わらず、全ての人が尊厳を認め合い、自分らしく生きることを諦めない、そんな社会になることを願って。多くの方にぜひ見てもらいたいと思います。今、コロナウィルスの予防策として4月3日まで期間限定オンライン上映していますので、休校の間のお子さんにもぜひ!

撮影/富田恵

「インディペンデントリビング」東京・ユーロスペースにて4/3(金)まで公開中、ほか全国順次。

コロナウィルスの予防策として期間限定オンライン上映あり(4/3(金)まで!詳しくは公式ホームページ

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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