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佐々木はる菜

映画から生みだされるお菓子“cineca”・物語を纏った、おいしい芸術作品の秘密【前編】

  • 佐々木はる菜

2019.09.12

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映画などを題材に物語性のある素敵なお菓子を生みだす“cineca(チネカ)”。
今回は、おいしいお菓子でありながら、まるで芸術作品と呼びたくなるような美しさを持つcinecaの魅力を前後編の2本立てでお送りします。後編では、主宰される土谷みおさんにインタビュー!ひとつひとつが物語を纏った、美しく不思議なお菓子ができるまでの秘密を伺います。

目と心と頭で愉しむ、物語が詰まった不思議なお菓子

最初に私がcinecaと出会ったのは美術館のミュージアムショップでした。当時行われていた展覧会に合わせて作られた、人気作品のひとつ「palette きょうをいろどる ジンジャークッキー」を目にし、その美しさと、有名な画家の作品に囲まれていても存在感を放っていた独特の雰囲気に目が離せなくなりました。

フランスの女流画家の生涯を描いた映画「セラフィーヌの庭」(2008)をモチーフに生まれた作品。茶の沈んだ色合いと照り具合は、まるで本物の木でできたパレットのような質感。独特の風合いをだすため、細かな材料まで工夫を重ねられているそう。

cinecaの魅力は、作品に触れるだけであたかも1本の映画を観たかのような、日常とは違う世界へといざなわれるような気持ちにさせてもらえることだと感じています。
作品自体の美しさはもちろんですが、cinecaをディレクションされている土谷さんが紡ぎ出す文章もまた素敵で、それぞれのお菓子が元となった映画からどんな風にインスピレーションを得てできたものなのかというエピソードや、メディアで執筆されている映画とお菓子にまつわるコラムなども、物語を読むように楽しんでいます。

例えばこちらは、花やハーブを閉じ込めた「herbarium (ハーバリウム) -甘い標本-」という砂糖菓子。

フランスの古都を舞台に、ひとりの青年がかつて出会った美しい女性の面影を追い求めて想い出の街をさまようというストーリーの映画「シルビアのいる街で」(2007年)から生まれた作品。シンプルですが洗練されたパッケージも印象的で、それぞれの花言葉が添えられています。

映画「シルビアのいる街で」は、主人公の男性が過去に想いを寄せていた“シルビア”らしき女性をカフェでガラス越しに見つけるところから物語が動き出すように感じたと土谷さんは言います。その物語の始まりとなるガラス越しに見たシルビアのいる情景をお菓子に落とし込むことで生まれたのがherbariumだそうです。男性の記憶の中で封じられたシルビアを花に、記憶を封じる様を飴に見立て、飴の中に花を封じたお菓子。

私はもともと映画や物語が好きでしたが、特に大人になってからは日々慌ただしく、そういった作品をゆっくりと楽しむ余裕をなくしてしまい常々そのことを残念に思っていました。そのせいもあるのか、cinecaが映画をもとに創りだす独自の世界観や、そこから伝わってくる物語への愛に触れられることが、とても貴重に感じられます。特に私にとってherbariumの美しさとエピソードは、この映画を観るきっかけになるほど印象的でした。

子どもの心も掴む、cineca作品の魅力と美しさ

浅草にアトリエを構えるcinecaですが現在は定期的な販売は行っていないため、HPやinstagramなどで出展情報をチェックすることも楽しみのひとつ。5月末に販売があったイベントは、息子も連れて足を運んできました。

千駄ヶ谷のライフスタイルショップ&カフェTHINK OF THINGSで開催されていた第2回「THOUGHTFUL MARKET」。“作り手の思いと共に、暮らしに取り入れる”がコンセプトで、独自のコンセプトで丁寧なものづくりを行われている作家さんのブランドが集まっていました。

イベントなどの際もすぐに売り切れてしまうことも多く、この時も会期途中で補充をされたそう。
息子も私同様、作品の持つ独自の世界観に目が離せなくなったようで「これは本当にお菓子なの?!」と想像以上に大喜び。最初に気になった「いぬ」という作品を始め、ひとつひとつのお菓子を飽きずにずっと眺めていました。

「いぬ」は、人気サイトとのコラボ企画がきっかけで生まれた作品。「ジョンとメリー」(1969年)に登場する犬(コモンドール)がモチーフのメレンゲ菓子。cinecaの中では珍しく、ちょっととぼけた可愛らしさが魅力。

好きなものを1つだけ買ってあげると約束し選ばせたところ、「いぬ」を欲しがるかと思いきや意外にもherbariumを選んだ息子。理由を尋ねると「宝石みたいですごく綺麗だから、本物に触ってみたい。あと、入れ物がかっこいい。まずはお部屋に飾ってから大事に食べたい」という答えが返ってきました。

食べてしまうのがもったいないという想いは大人も子どもも同じ。実際にしばらくリビングで飾らせていただいてから開封し、我が子たちはひとつひとつ宝物のように食べていました。
私自身も、ひとり時間にゆっくり堪能。優しい甘さでどこか懐かしい味がするherbariumは紅茶などに溶かして味わうこともおすすめされており、それも“記憶が溶ける”という言葉に重ねて考えられたことだそう。お菓子としての美味しさに加え、そんなふうに映画から派生する様々なことを思い浮かべながら過ごすちょっと非日常なひとときそのものが、贅沢な時間に感じられました。

また私にとっては今回、子ども達の喜びようもとても印象的で、まだ「芸術」や「物語性」といった概念があまりない幼い年齢でも心を動かされるということは、それだけ作品に人を惹きつける力があるのだと改めて思いました。

心をぎゅっと掴まれる、想像力に溢れたお菓子を生みだしているのはどんな方なのか。
そして、何がきっかけでこのような作品を作られるようになったのか。
続く【後編】では、“cineca”を主宰されている菓子作家・土谷みおさんのインタビューをお送りします!

Cineca チネカ ものがたりのあるお菓子.

佐々木はる菜 Halna Sasaki

ライター

1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。

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