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佐々木はる菜

映画から生み出される美しいお菓子“cineca”の魅力!菓子作家・土谷みおさんインタビュー【後編】

  • 佐々木はる菜

2019.09.19

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映画などを題材に物語性のある素敵なお菓子を生みだしている“cineca(チネカ)”。
作品との出会いや、我が家の子ども達と共にcinecaのお菓子を楽しむ様子を通してその魅力をお伝えしてきた【前編】に続き、【後編】ではcinecaディレクターである菓子作家の土谷みおさんをインタビュー!想像力に溢れた美しいお菓子ができるまでのお話を伺ってきました。

【前編】でもご紹介してきた、美しい作品の数々。

映画から新たに生まれる、cinecaならではの物語が詰まったお菓子

cinecaの大きな魅力は、映画を題材にそこから新しい物語を生みだして作られた、他にはない世界観のある不思議なお菓子だということ。美しさやおいしさに加え、土谷さんが紡ぎ出す独自の世界がお菓子を通して広がっていくようで、映画への愛や作品ひとつひとつと丁寧に向き合われている姿勢も伝わってきます。

幅広く活躍されている現在でも、年間300本以上の映画を観ているという土谷さん。そこまで強く映画の世界に惹かれる理由、そして大好きな映画が仕事と結びつき人気を集めるまでには、どのような道のりがあったのでしょうか?

土谷みお 1984年 東京生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザイナーを経て2012年に cinecaを立ち上げる。2017年 cinecaのお店、アトリエ「四月」を浅草にオープン。(現在休業中)

「もともとは母が映画好きだったこともあり、幼い頃はジブリ作品などアニメ映画を観ていました。そのうちに気に入った作品を集中して何度も観るようになり映画が好きなことを自覚し始め、次第に母と一緒に様々なジャンルの作品を楽しむようになりました。
思春期に入る頃になると映画の感想を通して母と自分の感じ方や考えの差などを実感することも。今思うと、映画が精神的な自立や、自分自身がどういう人間か考えるきっかけにもなったと感じています。」

そして、もうひとつ土谷さんが好きだったものが「お菓子」です。小さな頃は駄菓子屋に夢中になり、パッケージなど細部に至るまでこだわって作られた商品を楽しみにわくわくしながらお店に通ったいたそう。そしてお菓子を作ることも子どもの頃から好きだったため、中学生の時は料理部(という名目のお菓子だけをつくる部活)にも入部。習ったレシピを家で復習して家族にふるまうことも多く、お菓子を食べることだけでなく、作る楽しさも心に刻まれていったといいます。

仕事に追われる日々が思い出させてくれた「自分が本当に好きなもの」

今回土谷さんにお話を伺った場所は、浅草にあるcinecaのアトリエ「四月」。中には静謐な雰囲気のショップスペースもあります。なんともいえない素敵な雰囲気の漂うアトリエ名は、オタール・イオセリアーニ監督の長編処女作「四月」から取ったそう。

その後、空間デザインを勉強するため美大の建築系の学科に進むも、自分のやりたいことを模索した結果、在学中から独学でグラフィックデザインを学ぶように。そして卒業後にグラフィックデザイナーとして働き始めた土谷さんは、毎日終電かタクシーで帰宅するような多忙な日々を送るようになります。

「忙しい中での楽しみは、好きだったお菓子を食べること。当時は行ける場所がコンビニくらいしかなく、お店の棚にある商品の回転が速いコンビニのお菓子を観察して楽しんでいました。すると、世の中にどんなお菓子があるか気になって各地方のお菓子について調べたり取り寄せたりするようにもなり、それらをデスク周りに並べていたら、いつの間にか会社の方に驚かれてしまうような量になってしまいました(笑)。」

ちょうどその頃は、自分が本当に表現したいものと当時の仕事内容に隔たりを感じるようになり悩んでいた時期でもあったという土谷さん。周りの人にびっくりされるほどお菓子に囲まれた自分に気づいた時にふと蘇ってきたのが、昔お菓子を作っていたときの幸せな記憶だったといいます。
今感じている違和感を解消し、自分の頭の中にあるものを表現できるものは、お菓子なのではないか…そう思いついた土谷さんはさっそく、製菓学校に通い始めます。

cinecaの人気の理由は、土谷さんにしか描けない「物語」

土谷さんがお菓子作りを通して表現したいと考えているのは、「最初に驚きを与えて、そのあとにお菓子と日常性をつなげること。お菓子を通して感覚が揺さぶられたり、モノの見方や価値が少し新しくなること」だといいます。そのために自分ならではのコンセプトが必要だと感じていた中で出した答えが、当時も一日中観ていたという大好きな「映画」とお菓子を結びつけるということ。そして2012年、“cineca”が誕生しました。

ネコをテーマにしたお菓子の販売の話をきっかけに作られたcinecaの第一作「kalikali(カリカリ)-ネコ気分なクッキー-」のモチーフは、ネコが物語のキーとなると解釈した映画「メルシィ!人生」(2001年)。“ネコそのもの”の形をしているわけではなく、一粒が1センチほどのキャットフードに見立てた小さなクッキーで、ネコの気分を楽しんでほしいという想いが込められています。

「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)から生まれた、石ころの形をした「a piece of -時間を溶かす 静かのラムネ-」。「石は細かい砂の集積。それをお菓子で表現するならば、油分がなく砂糖などの粉末を水分で固められてつくられるラムネがぴったりだと考えました。少しじゃりっとした食感だけど口の中で溶けていく。見た目だけでなく、製法も石に寄せたお菓子です」と土谷さん。

cinecaがこれだけ人気を集めている理由は、お菓子そのものに「物語」があることだと感じています。
映画からインスピレーションを受けていますが、映画の中のモチーフをそのまま形にするというやり方ではなく、自身の解釈をお菓子に落とし込むという表現方法は、土谷さん以外には決して生みだせないもので確固たる世界観を感じます。でもその背景には誰しもが悩んだことがあるように、自分自身のやりたいことを模索した日々があったということがとても印象に残りました。

「ベルリン・天使の詩」(1987年)がモチーフの「Charlotte食べてしまいたいほどのファッジな想い」。cinecaのこだわりのひとつがパッケージ。全ていちから土谷さんがデザインし、印刷所などと相談しながら形にしているそうです。「パッケージまで含めてお菓子」という想いの根底にあるのは、幼い頃わくわくしながら手に取った駄菓子の影響も。

「特に日本ではまだまだ、『デザイン』や『アート』は限られた人だけが楽しむもので、ちょっと敷居が高いイメージがあるように感じます。でも表現が『食』に寄った途端、ぐっと距離が近くなる。食の前ではみんな平等に、“おもしろい”とか“美味しい”とかシンプルに素直な感覚で楽しむことができる。それは国を問わず受け入れられるものではないでしょうか。そんな、食の持つ人と人をつなぐ力、世界を小さくする力を信じて、モノの新しい価値や見方の模索、提案を続けていきたいと思っています。」

土谷さんのそんな想いのもとこだわって生みだされた作品たち。
“どうしてこういうお菓子を創ったのだろう”と考える余白があるという意味でも、映画鑑賞や読書の楽しさに繋がるものがあると感じています。美しさやおいしさと共に、お菓子に対して自分なりの解釈をしたり、土谷さんの“答え”を知ったりという楽しさもある。多くの人の心を掴む理由は、そんなところにもあるのかもしれません。

手に取るだけで新しい世界へいざなうcinecaのお菓子、11月には京都、来年2月には東京で展示販売のイベントも控えているそうです。
季節は芸術の秋。気になった方は是非足を運んで、手のひらサイズの少し新しい世界を楽しんでみてはいかがでしょうか?

Cineca チネカ ものがたりのあるお菓子.

佐々木はる菜 Halna Sasaki

ライター

1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。

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