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飯田りえ

絶滅しそうな動物たちを救うには?  子どもと一緒に 知る「ミッション・アニマル・レスキュー」

  • 飯田りえ

2019.04.15

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自然が大好きな子どもたちは、動物も昆虫も海の魚たちも…生き物が大好きです。
しかし、都会で生活していると、動物園や水族館に行くぐらいでしか生き物に触れる機会がありません。その動物園や水族館で大人気のライオンやトラを始め、ゾウやシロクマやパンダなどの動物たちが、絶滅の危機に瀕していることをご存知ですか?

私は恥ずかしながら、そこまで深刻とは知りませんでした。薄々感じてはいましたが、危機的な状況だとはわかっておらず…そもそも今の日常生活において、野生動物について考える機会があまりにもなく、TVやインターネットを通じて生き生きとした野生の姿を見たとしても、どこか地球の裏側の遠い国の話でしかありませんでした。

しかし、縁あってナショナル ジオグラフィックのキッズ版「ミッション・アニマル・レスキュー」という子ども向け雑誌をお手伝いしたことで、その深刻さに初めて気がつかされたのです。

動物園ではおなじみの動物が、絶滅してしまう…?

子どもに「動物が絶滅するとどうなるの?」と聞かれたことがありました。
「ある種がいなくなると生態系のバランスが崩れ、自然が破壊されてしまう」と言ってもなかなか子どもにはイメージしにくいので、具体的な例を用いつつ生命のつながりを伝えました。

90年後半に起こったアメリカのイエローストーン国立公園の例があります。

生態系の頂点にいる捕食者であるオオカミが絶滅してしまい、草食獣であるシカが増加し続けました。シカが草や木の芽を食べつくし、生態系を壊し水源までもが破壊されてしまったのです。その後、他の場所からオオカミを8匹導入するとバランスを取り戻し、国立公園の自然が戻ったのだとか。

しかし、イエローストーンのようにうまくいく例ばかりではありません。その後、人間がオオカミの頭数を管理する、という大変な仕事も請け負っているのです。そして今、日本でも同じことが起こっていて、シカ害が深刻な問題になっています。(4月末に発売されるオオカミの特集でもその辺りにも触れいます)

この様な破壊的状況が、ものすごいスピードで、世界各地で起こっているのです。しかも原因の多くは環境破壊や乱獲など、人為的な理由ばかり。動物園で見ている、目の前にいる動物たちが存在しなくなるなんて…。実際に野生のトラはかつて10万頭以上生息していましたが、今では4000頭以下にまで減ってしまっているそうです。近い未来、トラだけでなく、ライオンも、ゾウも、オオカミも、シロクマも…いなくなったその後の世界を、想像できますか? 子どもたちの未来には、世界はどうなってしまうのでしょうか。

知ること→好きになる→人に伝えたくなる、これが共存する心を育む

ナショジオのこの児童書シリーズは「絶滅の危機にさらされている生き物のことをまずは知り、好きになることから共存を図る心を育もう」と企画されたアメリカでも大人気シリーズです。日本では2018年9月よりハーパーコリンズ・ジャパンで翻訳され、日本独自の企画も添えられています。サメ、パンダ、ライオン、シロクマ、トラ、ゾウ、オオカミ、ウミガメ…と全8シリーズですが、どれも子どもたちから大人気の動物ばかり! つい先日5冊目の「ミッション・トラ・レスキュー」が発売されました。

対象年齢としては小学中学年〜ですが、あのナショジオの迫力ある壮大な写真ばかりなので、図鑑としても楽しめますし、一緒に読み聞かせる分には何歳でも問題なく理解して頂けると思います。(動物好きな子のプレゼントにもぴったり!)

そして、このシリーズの良いところは、危機的状況を知るだけでは終わらず「レスキュー・アクティビティー」と題して「人に伝える=救うための活動をする」ところまで子どもたちに考えさせてくれるのがポイント。

ちょうど春休み中に次回作である「ミッション・ゾウ・レスキュー」の刊行に向けて、ゾウのワークショップが開かれました。実際に保全活動している人の話を聞き、伝える活動を長男が体験してきましたので、そちらの様子を少しご紹介します。

「ゾウのこと、どれぐらい知っている?」専門家に教えてもらおう!

今回、講師としてお迎えしたのが「NPO法人トラ・ゾウ保護基金」代表の戸川久美さん。お父様は動物作家として有名な戸川幸夫さんで、日本で初めて「動物文学」というジャンルを作った方なのです。子どもの頃から野生動物を身近に感じていた戸川さんは、大学時代にトラやゾウの絶滅の危機を知り「日本にいる私たちもできることがないか」と、この基金を立ち上げられたそうです。

まず戸川さんのお話をじっくり聞いて、知っている様で知らないゾウの生態について学びました。アジアゾウとアフリカゾウの違い(鼻の穴の仕組みが違うことで、アジアゾウは鼻先で丸めてつかんで餌をとり、アフリカゾウは鼻先でつまみ餌を食べることができるのだとか!)や、実際の大きさなどを子どもたちに教え、体感させてくれました。そして、ゾウの存在がどれだけ森を守り、森を育んでいるかを教わりました。例えば、ゾウが木を倒しながら歩いた道には光が入り、下草を生やし森を豊かにします。また、木の実を食べた後のフンからは、芽が出てきて新しい命が生まれます。子どもの頃から馴染み深いゾウですが、知らないことばかり。子どもたちも興味津々です。



アフリカゾウはこの40年で25%まで減少してしまった

実際にアフリカゾウは1979年に130万頭いたのが、今では35万頭にまで減少してしまったそうです。原因は、やはり原因は密猟と生息地の破壊。
「滑らかで美しい、この象牙を欲しがる人がいるから、密猟する人が絶えないの」と市場で販売されている象牙のハンコやアクセサリーや扇子などを、実際に見て触らせてもらいました。80年代に密猟が加速して半減し、国際取引が禁止になりましたが、逆にブラックマーケットが活発化しているという報告もあるのだとか。実際目の前にある象牙に対して、神妙な面持ちで見つめている子どもたち。

また、生息地である森林や草地がパーム農地になり、鉱物の採掘場になり、道路や鉄道が走り…住処がどんどん奪われてしまっているのです。パーム油については前回記事でもお伝えしましたが、日本でもよく洗剤や化粧品などに使われて流通していますし、ポテトチップスやチョコレートなど「植物油脂」として、私たちの身近なところでも多く消費しているのです。

「私たちの生活が、知らないうちにゾウの住処奪ってしまっているってことを知ったらどうかな?」これまで遠い国の話だと思っていたことが、急に自分たちの生活と近くなった瞬間、子どもたちの表情が一気に変わりました。

「この事実をみんなに伝えよう!」 ワークショップがスタート

「今日教えてもらったこの事実を、みんなに伝えないとね!」と、ここからは子ども向けのワークショップを多く開催しているウォールペインターのすまあみちゃんによるワークショップがスタートしました。先ほどの戸川さんのお話を受けてゾウ・クイズ大会です。

「ものをとる時に鼻を巻きつけるのは何ゾウ?」「ゾウは一日どのぐらい食べる?」「ゾウを密猟しちゃうのはどうして?」など、みんなよく覚えていますね! 積極的に手も上がり、自信たっぷりな様子。クイズ大会がひとしきり盛り上がったら、今度は「今のクイズを絵に書いて、より多くの人に伝えよう!」と、これまでの話で学んだことを今度は伝える側に。

賑やかだった雰囲気も一気に静まり返り、真剣に絵に思いを込める姿が見受けられました。30分間、それぞれの思いをイラストに込めて描いていましたよ。 そしてこのイラストを見てもらうことによって、多くの人にゾウのことを知ってもらうレスキュー活動に繋がったのです。

最後に戸川さんより「日本にいてもできることはあります。普段の生活からできることをはじめてみよう。ムダ遣いを減らすだけでも立派な保護活動になりますよ!」すまあみちゃんからは「今日学んだゾウのことは家族や学校、身近なお友達にもどんどん伝えることを続けようね!」と、思いを一つにして終了となりました。

家庭でもできる「ミッション・アニマル・レスキュー」

テレビやインターネットでの情報だけだと、大人の私でさえも「自分ごと化」されません。今回、このナショジオ・キッズに携わったおかげで、日常生活の意識も変わりましたし、長男は帰ってから早速、家でお留守番していた次男に、図鑑片手に説明をし始めましたよ。「アフリカゾウとアジアゾウの違いはね…」「ゾウは森を作っているんだよ」と。きちんと響いているのが嬉しいですね。

これからの行楽シーズン、GWなどで動物園を訪れる方も多いと思います。こうした事実を少し知っているだけでも、かなり動物たちの見え方が変わってくると思います。わが家のボーイズたちも、野生動物に対してもこれまで以上に関心を示すようになりました。そして、親である私たちも知らないことばかりなので、次に動物園に行く際は、動物園で企画しているツアーガイドなども参加してみようかな、と思います。ぜひ皆さんも、家族で “知る” ことから始めてみませんか?

「ミッション・アニマル・レスキュー」HP

飯田りえ Rie Iida

ライター

1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。

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