連載
KANAE’s MASTERPIECES────Interior Items
スタイリスト
石井佳苗の「インテリア名品」
テイストの変遷や引っ越しを重ねた今も、手元に残る大切なもの。石井さんのスタイルを形作る名品を、毎月1点ずつ紹介します。今回は、インテリアアイテムとしても取り入れたい、漆器のお話です。
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20.
[漆器]Lacquer ware
Designer:Osamu Matsuzaki
松﨑 修
Item: Lacquer box
漆のふたもの
重箱を“美しい箱”として普段使い。漆器にはインテリアアイテムとしての魅力も
松﨑さんの手がける品々は、いわゆる“漆”が持つフォーマルなイメージとは一線を画します。それは使い込むほどに愛着が増していく、普段使いにこそおすすめしたい漆。どこか素朴さを残す、生活道具としてのたたずまいが素敵なのです。
その質感は、つやを抑え、木目がうっすらと見えるように仕上げる“拭き漆”の技法ゆえ。さらに、朱漆の上に黒漆(または黒漆の上に朱漆)を重ねる手法で仕上げられているので、道具としての丈夫さも折り紙付きです。手で何度もなでるように触れ、時を経るにつれて、黒から朱地が、朱から黒地が見えてくるという表情の変化を楽しめます。
私が初めて松﨑さんの作品に出会ったのは、旅先の松江市。民藝を中心に扱うギャラリー「objects」でした。そのときはほかのものに気を取られていたのか、なぜか購入には至らず。後日、都内の百貨店に「objects」が出店していたときにあらためて目にし、「なぜ、あのとき見落としてしまったんだろう!」と後悔しきり。一目惚れしたふたものを持ち帰ったというわけです。
漆器ならではの温かい質感、芯にある凛としたもの。その存在を食卓だけに、さらに和のイメージだけにとどめておくのはもったいない。重箱を美しい収納道具に、お盆やお椀をアクセサリートレイに。漆器を気負うことなく新たな生活道具として見つめ直せば、インテリアアイテムとしての魅力が実に大きいことに、皆さんきっと驚くはずです。
二段重ねの重箱を、道具箱として活用。「上段には文房具を、下段にはお香などを入れて。内側も黒地なので、見やすいように傷防止も兼ねた白の布を敷いています」(石井佳苗さん)
「昔から、漆のアイテムをインテリアに使うのが好き。松﨑さんの作品は和に寄りすぎないモダンさがあるので、アクセントになりつつ、空間となじみもいいんです」(石井佳苗さん)
Designer:
Osamu Matsuzaki
Japan, 2010~
素朴な表情を醸す質感と、小さく輝く螺鈿(らでん)。触れるたびにときめきます
木漆工芸家、松﨑融さんの長男として生まれた松﨑修さん。通常は木地師、塗師と分業されることの多い漆器作りだが、ほぼすべての工程を自身で担うことでも知られる。朱色の作品は、黒漆の上から朱漆を重ねる根来塗、黒色の作品は朱漆の上に黒漆を重ねる曙塗の手法をとっている。作品は島根県松江市の「objects」などで取り扱いあり。12月21日より、同店で個展を開催。https://objects.jp/
Staff Credit
撮影/宮濱祐美子 取材・原文/福山雅美
こちらは2024年LEE12月号(11/7発売)「スタイリスト石井佳苗さんの「インテリア名品」」に掲載の記事です。
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