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LIFE

映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【中村蒼さんインタビュー】映画『アイミタガイ』ちょっと頼りないけれど、そばに居てほしい絶妙なキャラを好演! 

  • 折田千鶴子

2024.10.31

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いろんな人の想いを乗せて完成した『アイミタガイ』

前クールのドラマ『ギークス~警察署の変人たち~』での少々空回り系な熱き刑事や、現在放送中の『宙わたる教室』でのエリート准教授など、どの作品でもキラッと光る“後を引く”印象を残す中村蒼さん。映画『アイミタガイ』では、ちょっと頼りなくて微妙にズレているような…、でもそれがクスッと笑える愛すべきキャラに転じる魅力で、いつの間にか好きになってしまうのも納得の、ヒロインの恋人・澄人を好演しています。

どんな役を演じる際も、“これが素では!?”と思わせる、ナチュラルに役に入り込んでしまう中村さんに、心をジンと熱くさせる作品まわりのあれこれをお聞きしました!

中村蒼(なかむら・あおい) 
1991年、福岡県出身。2006年に主演舞台「田園に死す」で俳優デビュー。『ひゃくはち』(08)で映画初主演。主な出演作に『東京難民』(14)、連続テレビ小説「エール」(20)、「らんまん」(23)、配信ドラマ「仮面ライダーBLACK SUN」(22)、「沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦」(24)、自身初の海外作品出演となった配信ドラマ「Pachinko シーズン2」、ドラマ「ギークス~警察署の変人たち~」(24)ほか。11月28日より配信のドラマ「【推しの子】」、来年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にも出演。公開待機作に映画『室町無頼』(25年1月公開)ほか。

本作は、亡き佐々部清監督の企画を、『台風家族』などの市井昌秀監督が脚本の骨子を作り、『彼女が好きなものは』の草野翔吾監督がメガホンを執るという、色んな人の手を経て完成した作品です。佐々部監督作『東京難民』(14)で主演を務めた中村さんにとっては、思い入れの深い作品になったのでは?

お話をいただいた時は、やはり“縁”を強く感じました。佐々部さんの『東京難民』では、役者として本当に多くのことを学ばせていただきましたし、自分にとって思い出深い作品なんです。すごく緊張感のある現場で、佐々部さんに全て見透かされてる気がしました。長い撮影に疲れて少しでも気を抜くと、すぐに指摘され、ちゃんとレールの上に引っ張り上げられるというか。だから今回も佐々部さんに恥じないようにやらないと、と思いました。一期一会の出会いを感じながら参加させていただきましたが、そういう経緯こそ、この映画の物語そのものだな、とも感じました。この『アイミタガイ』も、いろんな人との縁が繋がって、それぞれの想いも繋がっていく、という物語なので。

映画『アイミタガイ』ってこんな物語

11 月 1 日 (金) T OHO シネマズ 日比谷 ほか 全国ロードショー

名古屋でウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)と、東京でカメラマンをする叶海(藤間爽子)は、中学時代からの大親友。いつも明るくエネルギッシュな叶海は、悩みがちな梓の背中を押してくれる頼れる存在だ。しかし久しぶりに会って話をした数日後、叶海は撮影のため向かったパプアニューギニアで事故に遭い、命を落としてしまう。親友の死、交際相手の澄人(中村蒼)との結婚にも踏み出せず、生前の叶海と交わしていたトーク画面に、変わらずメッセージを送り続けていると、ある日一斉に既読がついて……。

原作、または脚本を読まれた感想を教えてください。

実は、タイトルでもある“アイミタガイ”という言葉自体、本作を通して「なるほど、そういう言葉があるんだな」と、日本語の美しさも感じました。そして物語は、それぞれの点と点が線に結ばれていく感じ、最終的には全てが繋がっていく展開が、すごくいいなと思いました。みんなが前を向けるような、とても素敵な物語です。自分でも想像もしていないようなところで、実は誰かに支えられていたり、助けられたりしているものなんだなと改めて感じました。

愛する人や親しい人を亡くした時、遺された人はどうするのか、どう再生していけるのか、ということが一つの柱になっています。

もちろん人は誰でもいつかは絶対に死ぬわけですが、梓にとって親友が不慮の事故で亡くなるというのは、あまりに唐突で、それを受け入れられない状況に陥ってしまいます。僕は、身内を亡くしたことはありますが、梓のように“突然、目の前から消えてしまった”経験はないので、僕自身そんな時、どうすればいいのか分からないのですが……。 僕が演じた澄人もまた、彼女をどうやって励ましていこうか人知れず悩んでいます。大切な人の死という、あまりに大きな問題が起きると、些細なことさえ口に出来ないような雰囲気になってしまいがちですよね。でも澄人は、梓をそっとしておきながらも、親友の死という問題にも触れて、触れた上でしっかり向き合おうとする。そして、これから先も一緒にいたいという思いをちゃんと伝えるんです。そういうことが出来る人間は、本当に素晴らしいなと思いました。

確かに、澄人の優しさは“スゴイ!”と言いたくなるほどです。梓に冷たい態度を取られることがあっても、嫌いになったり拗ねたりせず、誠実に真正面から支えようとする。簡単に出来ることではないよな、と。

普段は“ちょっと頼りない”と梓からも言われいますが、肝心なところでは、ちゃんと逃げずに向き合おうとする。本当に人として素晴らしいと思います。言葉にするのを避けてしまいそうな問題にも、恐れずに向き合おうとすること自体、やっぱり簡単には出来ないですよね。

あの手この手で梓をサポートしようとするし、しかも澄人は真面目なだけじゃなくて、ちゃんとユーモアも持ってるんですよね。一見、頼りないし、タイミングも悪いけれど、そういう面があるからこそ、梓も澄人と長く付き合ってきたんだろうし……。だから僕も演じる際、梓に「これからも一緒に過ごしたい」とちゃんと思わせないとダメだなと、その辺りは意識して臨みました。

愛すべき“澄人”の作り方⁉

優しいけれど単なる優しい人で終わらない魅力、クスッと笑ってしまいたくなる澄人のチャーミングさを、どんな風に作っていったのでしょう。そういうものも、中村さんが演じたからこその空気や人となりになっていくのだと思いますが。

う~ん、その辺は自分でも意識したことがなくて……。そういうのって自分だけで作れるものではなく、監督や(梓役の)黒木華さんと一緒に現場でやっていくうちに、少しずつ出来上がっていくんじゃないかな、と。人間性みたいな部分って、いわゆる小手先の技術でどうにか出来るものじゃないと思うんです。だから僕が出来ることと言えば、そういうこと(梓に「これからも一緒にいたい」と思わせたい気持ちや、澄人の優しさ)を常に忘れないように、本当にそう思いながら演じる、ということでした。

例えば背中の丸め方や嬉しそうな小走り、立ち姿だけでも、そこに“その人”が出るものだと思います。そういう“身体性”って、何か意識されたことはありますか?

照れくさい話ですが、ずっと“その人=自分”になっている感じですかね……。最初はなんとなく意識して、“こうかな?”と思いながらやっていくわけですが、そのうちに自然と、ずっとその人になっているというか。そうなると身体もついていく感じがします。

今回の現場では、監督から何か言われたこともなく、役について深くお話ししたわけでもなく、自由にやらせていただきました。現場で俳優がまず演じ、それを活かす形で調整をしてもらって撮影が進んでいく、という感じでした。

自由度が高い現場という以外に、初めてご一緒した草野監督はどんな方でしたか。監督の前作『彼女が好きなものは』(21)も大好きだったので……。

とても物腰が柔らかく、程よい距離感を保つ方でした。演出についても、答えを出して演出するのではなく、“こういう想い”とか“こういう状況”ということだけを伝え、本番に入っていく感じでした。解釈に余白を持たせて、こちらに芝居をやらせてくれる監督という印象です。

澄人が指輪を買いにジュエリーショップに行くシーンが、なぜか印象に残っています。キラキラして優しくファンタジックな空気が流れているようなシーンでもあって。

確かに少しそんな感じはありましたね。でも実は、澄人が一人の時にしか出せないもの――本当は人知れず悩んでいて、何か彼女の心の奥に届くものはないだろうかと探している、そんなシーンだと思ったので、澄人の本当の姿が少しだけでも垣間見えたらいいな、と思いながら演じたシーンです。

若き名優・黒木華さんとの共演は……

澄人が大切に想う梓を演じた黒木華さん、上手いのはもちろんですが、やっぱり何だかジワジワいいですよね。初共演ですか。

初です。どのシーンも、黒木さんのスゴさを感じていました。本当に素敵で尊敬する役者さんなので、ご一緒できて光栄でした。黒木さんと多くの言葉を交わさずとも梓と澄人の関係を自然と作れたのは、やっぱり黒木さんのお芝居の表現の豊かさだと常に感じていました。

黒木さんは、多くを表現して伝えようとするのではなく、あまり多くを表現しないことで伝えようとされる方。だからこそ、シーンが豊かになっていくのを感じました。一緒にお芝居しながら、それってスゴイな、素敵だな、と。どうしても色んなことをやりがちになるのですが、削っていくことで表現され、結果、多くのものが伝わってくる感じが、本当に凄いです。

2人の印象深いシーンを挙げるなら?

一緒に梓のお祖母ちゃんの家に行って、帰ってきた後のホームでのシーンは、澄人にとって一世一代の場面でもありました。そういうところでも、梓のリアクションや2人のテンポ感というか、一緒にシーンを作っている実感が沸きました。つまり、黒木さんが僕から色んなものを引き出して下さったのかな、と思います。

それでいて、また梓が可愛いんですよね。澄人として、「可愛い!」と感じたシーンはどこでしょう?

公園で梓が澄人に体を傾けながら預けるシーンが、とても好きです。ワンカット毎に作り込んで撮るのではなく、流れで撮影していったのですが、あの梓の表情を見て欲しいです。色んなものが吹っ切れて前を向く、そんな表情がとてもステキです。幸せになれると予感させるような、それがとても良かったです。



女同士の友情・男同士の友情について

いきなりですが、本作における女性同士の友情を、どんな風に感じましたか? LEE読者は、梓と叶海の関係や友情がかなり響くと思うのですが。

女性同士の方が、ちゃんと気持ちを言葉にして伝えようとするんだな、って改めて感じました。男性同士だと、照れくさかったり気恥ずかしくて、滅多に気持ちを伝えられなかったりすることの方が多いと思うんです。でも女性同士って、ストレートに伝え合ったりして、すごくいい関係だな、羨ましいな、と思いました。

僕の周りにもいる仲のよい女性同士が、楽しく笑いあっている姿は、賑やかでいいな、といつも思っています。特に男性同士は年齢を重ねれば重ねるほど、あまり会わなくなっていくんです。僕はあまり友達がいませんが(笑)、たまに会っても自分のことを話さないですし、まして何かを相談することもないですね。自分のことは自分でどうにかするしかない、と思っているからでもありますが……。

そんな中村さんは、今、何をしてる時が1番楽しいですか?

何ってこともないのですが、日常生活がすごく楽しいですよ。毎日、家族と過ごしたり、好きな趣味をしている時間が。……といっても、好きなラジオを聴くくらいですが(笑)。特別なことはしていませんが、些細なことでも十分に楽しいんです。 なんか、“映えない”話ばかりでスミマセン(笑)!!

初めてお会いした中村蒼さんは、それこそ物腰が柔らかくて、微笑みをずっと湛えた方。ちょうどドラマ『ギークス~警察署の変人たち~』を観終えた後だったので、あの暑苦しい系の刑事との落差に微妙に驚きましたが(笑)、とても優しそうな好青年でした!! かと言って『アイミタガイ』の澄人とも、全然違う雰囲気で……。さすがは役者!

さて、LEE読者にとっては、思わず親友を思い浮かべて自分を重ねて、心が痛くて痛くて仕方なくなるかもしれません。それを味わいながら観るからこそ一層、色んな人との繋がりや、過去から現在、そして未来まで繋がっている思いなど、少しずつ心がほどけていくのを感じられると思います。

それこそ中村さんが、「想像もしていないところで誰かに支えられていたり、助けられたりしていると感じた」という言葉が、まさに言い得て妙な本作。ちょっと日頃の生活に疲れているときに、思い切りジンジン泣いて、それからゆっくりと梓と一緒に再び前を向く勇気と希望を胸に抱いてください!

映画『アイミタガイ

11 月 1 日 (金) T OHO シネマズ 日比谷 ほか 全国ロードショー

2024 年/日本/ 105 分/配給:ショウゲート

原作: 中條てい 「アイミタガイ」(幻冬舎文庫)

監督: 草野翔吾

脚本: 市井昌秀、佐々部清、草野翔吾

出演: 黒木華、中村蒼、藤間爽子、草笛光子ほか

 © 2024「アイミタガイ」製作委員会

公式HP: aimitagai.jp

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撮影/菅原有希子

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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