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映画『あんのこと』に出演

【河合優実さんインタビュー】私たちにできるのは、事件を忘れず杏の痛みを分かつこと

2024.06.11

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私たちにできるのは、事件を忘れず杏の痛みを分かつこと

河合優実さん

河合優実さん

ドラマ『不適切にもほどがある!』での好演が記憶に新しい河合優実さん。「皆に“見てるよ”と言われ、ヒット作に出るってこういうことかと実感しました」と語りますが、過去の出演作は錚々(そうそう)たるもの。そんな彼女が「大きな覚悟を持って臨んだ」という映画『あんのこと』は、実際の新聞記事をもとに取材を重ねて書かれたオリジナル脚本の作品。河合さんは幼少期から母親に虐待されて育った、主人公の杏を演じました。

「日々虐待についてのニュースを目にすることもあり、情報としては知っていましたが、初めて彼女のあまりにつらい生い立ちを読んだときはやっぱり信じられなくて。一つひとつの具体的な事実を確認するたびに胸が締めつけられ、言葉にし難い感覚になりました。すぐには“私が演じたい!”なんて思えなかった。それでも杏を演じる機会が私のところに来てくれたのだから“もう大丈夫だよ”と心の中で杏と手をつなぎ、誠実に演じようと心がけました」

母親から浴びせられる罵声、強いられる売春、自ら麻薬漬けになるしかない絶望の日々。前半は、理不尽な状況下の杏の姿が衝撃的です。

「そういった描写は多くはありませんが、安全を期した撮影でも少なからず感じる肉体的な痛みも、感覚として自分の中に積もっていきます。腕の自傷跡を毎日メイクしてもらいながら、杏の過ごした時間を想像し、実感して。ただ冷静に判断できなくならないように、カメラの外ではフラットな姿勢を保つよう努めました」

ネガティブに引きずられなかったのは、杏自身の持つ力だと語ります。粗野だけど人情に厚い刑事・多々羅や記者・桐野の力を借りて、杏は更生への道を歩み出すのです。

「今いる場所からよりよい場所に行くために、杏は学校へ行ったり働いたり努力をする。前に進もうとするその力を、私は信じました。彼女は、私以上に強く優しかったかもしれない。だから悲劇や絶望だけではなく、杏の人生の輝いていた部分を描くために、何ができるかを考えました」

桐野のモデルになった、“杏”を知る記者にも話を聞きにいったそう。

「印象的だった姿や言葉など、その方が知る彼女のすべてを聞き出そうとしました。義務教育を受けて社会人になるプロセスを経ていない彼女は、子どものまま時が止まっていた部分があるかもしれません。“恥ずかしがり屋の少女みたいだった”という言葉から役のベースを作りました」

そんな杏が頑張る姿を、観る私たちは心から応援し熱くなってしまいます。ところがコロナ禍が起き……。

「私たちにできるのは、数年前の日本で実際に起きたこの事件を忘れずにいること。杏が感じた痛みを多くの人が分かつこと。私は作品選びに確固たる基準はまだありませんが、それが世に出ることで世界が少しだけでもよくなるかも、と思える作品に出たい。少しでもいい未来に自分も進みたいし、そのための力になれる作品に出続けたいと思っています」

なにを聞いても打てば響く思慮深さは驚きですが、まだ23歳。ただいま青春真っ盛りの河合さんは、なにをしているときが一番楽しいですか?

「そう聞かれると、お酒のことしか思い浮かばない(笑)!! 今は、おいしいごはんと楽しいお酒が一番。私はとりあえずビール派ですが、料理に合わせて決めますね。お料理も好きで、昨日はパスタを作りましたよ」

PROFILE

2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019年に映画、ドラマ、舞台でデビュー。映画『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』(’21年)で多数の賞を受賞。主な出演作に『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』『PLAN75』(’22年)、『少女は卒業しない』(’23年)、『四月になれば彼女は』(’24年)など。ドラマ『RoOT / ルート』が放送中。
公式サイト:http://dongyu.co.jp/profile/yuumikawai/

『あんのこと』

『あんのこと』
©2023『あんのこと』製作委員会

子どもの頃から母親に虐待されて育った21歳の杏(河合優実)は、売春や麻薬の常習犯で荒んだ生活を送っていた。しかし刑事・多々羅(佐藤二朗)との出会いによって、少しずつ更生し始める。多々羅と記者・桐野(稲垣吾郎)の助けで介護の仕事や自分だけの新しい家も見つかるが、そこへコロナ禍が直撃し……。監督は『SRサイタマノラッパー』シリーズの入江悠。全国公開中。


Staff Credit

撮影/木村 敦 ヘア&メイク/上川タカエ スタイリスト/吉田達哉  取材・文/折田千鶴子
こちらは2024年LEE7月号(6/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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