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折田千鶴子

【安達祐実さんインタビュー】映画『三日月とネコ』が大人に刺さる!「この3人の、傷を舐め合うような関係も何かいいな」

  • 折田千鶴子

2024.05.24

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原作コミックを泣きながら読んだ

原作コミックを読まれた方はご存知の通りですが、未読のまま観た私(LEEの漫画担当、編集やまみさんに怒られそうですね笑)は、この映画を舐めてました! こんなにも刺さって、ジワジワ来ちゃうとは。もちろん癒されもしますが、単なる“癒し映画”にあらず。もっとずっと深くて、心の襞に分け入ってくるような、観る人に寄り添う優しい映画『三日月とネコ』。原作コミックを「泣きながら読んだ」という主演の安達祐実さんに、本作のステキさをお話しいただきました!

安達 祐実 
1981年9月14日、東京都出身。2歳で芸能界デビュー。子役としてドラマ『家なき子』(94)に主演し、一躍国民的な人気に。以降、第一線でキャリアを積む。近年の主な映画出演作に、『零落』(23)、『アイスクリームフィーバー』(23)、『春画先生』(23)。舞台に『ボイラーマン』(24)。現在、主演ドラマ『愛してるって、言いたい』が放送中。近年は、アパレルブランド「虜」、コスメブランド「Upt」のプロデュースも手がける。

予想をはるかに超えて心に刺さるステキな映画でした。安達さんが本作に参加された理由、惹かれたポイントを教えてください。

「実は私、これまでダーク寄りというか少し偏った作品への出演が多く、こんな風に“あったかい気持ち”になれる作品って珍しいな、と。ちょっとホッとするような、ほのぼのする作品をやってみたい、という気持ちがまず湧きました。それから原作を読ませていただいたら、本当に素晴らしくて。これを映画にするのか、すごくいいな、ぜひ参加したいと思いました」

結果、“参加して良かった~!!”となりましたね。

「実は私、関係者が多く出席している試写で1度だけ観たのですが、皆さんがどう観てくれるのかドキドキして、落ち着いては観られなかったんですよ(笑)!! ただ原作コミックは、本当に泣きながら読みました。すごく刺さって、胸を突かれて、でも温かい何かで包まれて。私は子供の頃から小説など、物語を文字で読むことが多く、漫画を読む生活を送って来なかったのですが、これは本当に“素晴らしい漫画だな”と思いました。だから、そういう温かいものが映画にも出るといいな、と思いながら現場で作っていきました。今、映画が良かったと聞いて、本当に嬉しいです!」

三日月とネコ』ってこんな映画

© 2024映画「三日月とネコ」製作委員会 ©ウオズミアミ/集英社   5月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

熊本地震が起きた晩、同じマンションに住む書店員の灯(44)、精神科医師・鹿乃子(34)、アパレルショップ店員勤務の仁(29)は、避難場所でネコを介して意気投合し、共同生活を送ることに。年齢も職業も境遇も違うものの、“ネコ好き”という共通点を持つ3 人は、一緒に食卓を囲み、それぞれの職場や友人関係の悩みを打ち明け、心地よく暮らしていた。しかし灯が編集者の長浜(山中崇)と出会ったことで、生活に少しずつ変化が生じ――。灯に安達祐実、鹿乃子に倉科カナ、仁に渡邊圭祐がそれぞれ扮する。監督・脚本は、35歳の新鋭・上村奈帆。

なんと言っても灯、鹿乃子、仁が繰り広げる3人の関係性が魅力です。地震で外に避難してきた心細い時に出会う始まりからして、“何かが始まる”と期待を高めてくれて。

「最初は地震きっかけで初めて言葉を交わした3人が、どんどん近づいていく――言ってみれば運命的な出会いですよね。お互いを認め合えるし、とても大切な存在になっていく関係が、すごく素敵だなと思いました。それぞれ不安になった時に寄り添える人が居てくれるって、本当にいいな、と。媒介となったネコの存在も大きいし、そういうことが重なって出会えたということにも運命を感じます」

しかも20代、30代、40代と、年代も職業もまちまちで共通点がほとんどない3人が、かけがえのない存在になっていくのがいいですよね。そんな3人の距離感の変化など、どう測りながら演じていきましたか?

「多分、理屈じゃなくて“ネコ”に対する愛情のかけ方や、自分の中で“ネコ”の存在の大きさなどが同じだったんだろうな、と。そういうところで自然と繋がれるものもあった気がしました。みんなそれなりに生きているように見えるけど、実は本当の居場所が見つけられなくて、どこか探しながら生きていた。それは私たち全ての人に言えることかもしれないですが、自分で自分にダメ出ししたり、この生き方でいいのかと自信を失ったりして。でも、3人が互いに互いのそういうものを受け入れて、“それでいいじゃん。みんな本当はそうだよ”と言ってくれる。お互いにそんな風に声を掛けられる相手を見つけられたって、すごく幸せですよね。だからみんなにとって、とってもいい出会いだったと思います」

同年代の友達に励まされるのとはまた違う、別の世代の2人だからこそ励ましが効く、という部分も大きいように感じました。

「確かに、その年代にはその年代なりの焦りや悩みがあると思いますが、そういうものを越えて、もっと根本的なところでの人間としての支え合い、みたいな面が強く感じられますよね。また、世代が違うからかえって気楽な部分もあるだろうし。本当にいいバランスなんですよね」



実は緊張感たっぷりだった、あのシーン!

日々の小さなことに悩む灯さんは、とても等身大の役だと思います。先ほどおっしゃったようなエキセントリックな役ではなく、こういうごく普通の役には、いつもとは違う入られ方を?

「私はオン/オフがあまりないタイプなので、どの役も割と“普通にやってる”感じなんです。それは今回もあまり変わらずだったかな。でも、いざ撮影に入ってみたら、意外にも、舞台みたいな感覚があったんです。特に、灯が鹿乃子さんと仁君と3人で食卓を囲むシーンは、ワンシーンを途中で切ることなく、ずっとカメラを回し続けて撮る、みたいな感じで。食事をしながら会話するシーンなので、3人ともお箸を持つ手がぷるぷる震えて(笑)。毎回誰かがNGを出して、“次こそは決めたい”と緊張感が走る、さながら戦場みたいな現場でしたね。そのダイニング以外のシーンは、本当にほのぼの~と撮っていましたが」

ダイニングのシーンは要所要所で肝となりますが、そんな緊張感やピリピリムードが全く映ってないところがすごいですね。しかも印象としては、さほど長回しで撮っているイメージがなくて。

「確かに色んな繋ぎ方をしているので、観るとあまり長回しのカットだという映り方はしていないんです。多分、その時の空気感を切らせないために長回しで撮ったのだと思いますが、みんな想定していなかったので、“あ、そういう感じで撮るんだ!?”みたいな戸惑いが最初はありました。実際にあのマンションの一室で撮ったのですが、ダイニングに丸テーブルがあり、そこにスポットが当たっていて、なんだか本当に舞台みたいな感じだったんですよ。だから緊張感もあって、しかもダイニングのシーンをいくつかまとめて撮る日があったので、その日は3人ともヘトヘトになりました(笑)」

ということは設定上、衣装も着替え、食事も別メニューを用意して、ということですよね? さらにネコという不確定要素も入って来ます。

「そうなんですよ(笑)! 食べながら会話するシーンなので、お皿の内容の繋がりを考え、万が一NGを出したら(食べた分を)足してもらわないといけない、みたいな(笑)。ネコに対しても、“こうしていて欲しい”という希望はあっても、当然そうはいかないので、なかなか大変な撮影でした」

傷を舐め合えるって、なんかいい

灯自身も恋愛になかなか踏み出せなかったりしますが、仁くんの恋愛も私的には、“え、そっち⁉”みたいな驚きの展開もありました。

「仁くんの恋愛も、とても興味深いですよね。また映画ではあまり描かれていませんが、原作では鹿乃子にも“なるほどな~”という恋愛が繰り広げられるんですよ。みんなそれぞれ恋の悩みがあり、みんな自分の恋愛には臆病になってしまう。鹿乃子さんも完璧に見えて、すべてが上手くいってるわけじゃなくて。でも、その傷を舐め合えるというのも、3人の優しさだったり、思いやりだったりするのかな、と。自分も“寂しさ”みたいなものがあるからこそ、相手の寂しさが理解できて、だからこそ不思議とそれが埋まっていく。そんな関係性もなんかいいな、と感じながら撮影していました」

確かに“傷の舐め合い”って否定的に捉えられがちですが、お互いの痛みを分かり合えるからこそ舐め合えるってことですよね。すごく優しい。

「傷が消えるように治すという能動的な方向じゃないかもしれないけれど、相手の傷を認め合えるって、すごく大切なことだと思いました」

映画を観ながら、“それ、言ってくれてありがとう!”と溜飲が下がったり、誰かの言葉のお陰でスッキリ出来るようなセリフも多々ありました。

「原作コミックを読んだ時も感じましたが、映画では小林聡美さんが演じられている作家の網田先生が、“責任というものは、 自分が楽に楽しく生きるためだけに課すものだ”とおっしゃるんです。撮影時も本当に救われるセリフだなと思いながら聞いていましたし、原作を読んでいた時もそう思いながら読んでいました」

「みんな色んなことを背負い込み過ぎているというか、ちゃんと責任感を持って色んなことに向き合おうとしていますよね。でも究極的には、自分が幸せに生きるためだけに責任を課せばいい。そう言ってもらえて、私もすごくホッとしました。自分のことをダメだと責めたこともあるけれど、そうでもないのかなって思えたり、これでいいのかなって思えたり。自分の生き方を含めた色んなことを許してあげられるセリフだと、今もすごく感じています」

灯自身も書店員であり、とても言葉に対して敏感です。俳優という仕事も言葉に対して敏感だと思いますが、言葉に対する感覚などについて、灯を通して感じたことはありますか。

「本作は、とってもセリフ数が多く、色んな言葉があるのですが、その全部がとても大事なことを言ってる感覚がありました。灯って、とても自分に正直に、気持ちに一番近い言葉や最も適切な言葉をいつも選ぼうとしているんです。そういうところが自分に重なるなと思いました。灯は今の生活や今の自分など、全部をひっくるめて“自分”だと思っているから、恋愛の相手となる長浜さんにも、“そういうものを全部含めて自分のことを愛してくれないか”と言う。それって本当はみんなが望んでると思いますが、なかなか言えないことだと思って。灯がそれを代弁してくれたと感じていました」

現場の3人も“ふわふわ”っとした空気でした

倉科さん、渡邊さんと過ごした現場の雰囲気は、どんな感じでしたか。物語同様、3世代の俳優が集まったわけですが、どんな話をされましたか。

「作品そのままというか、なんか“ふわふわ”っとした、(作品と)まんまの空気でした(笑)。特には3人で恋愛話を語り合ったわけでもなく……結婚願望くらいについては少しだけ話したかな。やっぱりネコの話が多かったですね。というのも倉科さんがネコを飼ってらして、ちょうど私がネコを迎えるタイミングだったんです。これまでは仕事的にも動物は飼えないと思っていましたが、知人が飼えなくなってしまったネコを迎え入れる準備をしていて。倉科さんに色んなアドバイスを受けながら準備ができて、とても助かりました。初めてのネコのお迎えも、1人で頑張る感じではなく、すごく心強かったですね」

現在、安達さん自身のネコの居る暮らしは、どうですか?

「あまり人に慣れてくれなくて少し凶暴と聞いていたのですが、迎え入れてみたら、ものすごい甘えん坊のお爺ちゃんでした(笑)。自分がこんなにもネコに癒されるのかと驚くくらい癒されています。返事をするわけもないのに、“どうしたの? 腰が痛いの?”とか、話しかけたりして(笑)。性格もあるでしょうが、うちの子は本当にベタベタですね。家に帰って手を洗ってうがいをして、ちょっとソファーに座ろうとした瞬間、もう上に乗ってきてゴロゴロいいながら、“1日待ってたんだから撫でろ!”みたいな空気を出してきます。それが、ホントに可愛いんですよね」

いきなり話は変わりますが、本作にも何となく描かれているように、なぜか満たされなかったり、無性に寂しくなったり、焦りを覚えたりすることって、安達さんもありますか? 

「あります、あります。さほど私はネガティブ思考ではないのですが、それでも落ち込む時があって。そういう時は、自分が焦っている原因が何なのか、割とじっくり考え込むタイプです。考えているうちに時とともに過ぎ去っていくこともあれば、考えても状況が変わらないこともある。そんな時は、ちょっと満月のせいにしてみたり(笑)。ただ、まったく別のちょっとした嬉しいことがあったりすると、それでパッと心が晴れたりすることもあるんですよね。だから考え込んでも状況が変わらないときは、自分の周りの別のことに意識を向けてみると、自然に気持ちがそっちへ行って、やり過ごせたりしています」

そんな状態の時ならなおのこと、この映画を観ると少し息が付ける感覚がありますね。

「色んなことが上手くいかないなとか、自分は年相応の生活を送っていないのではないかとか、自分の生活や生き方にどこか後ろめたさを感じていたりする、そんな方にぜひ観て欲しいです。そんなことないよ、それでいいんだよ、と思わせてくれる映画なので。そして単純にネコが可愛いので、誰もが癒されると思います。ちょっと疲れちゃったな、肩こっちゃったなと思っている方たちに、本作で少しでも息をついてもらえたらいいなと思っています」

さて、ネットでは“奇跡の40代だ”と羨望を一身に集めていらっしゃいますが、続々と作品が続いて近年ますます充実していますね。

「今年で43歳になります。未発表のお仕事も含め、今年は盛りだくさんになりそうです。舞台をはじめ、いろんなジャンルで自分を試せるチャンスをいただけているので、仕事の面でも充実しています。プライベートでも子供たちと毎日楽しく暮らしているし、自分もその生活を楽しんでいるので、今とても幸せです。年齢的には疲れやすくなってきたかもしれませんが(笑)、今年はいい疲労を感じられそうな予感がしています」

確かに、まじまじと“奇跡の40代だ~!!”と見つめてしまいましたが、とてもフランクにフラットに、自分の言葉で自分のことを語って下さる姿からは、大人の自信と余裕を感じました。それがとっても自然で、お話しを聞いていると、すごく心地よいんです。

そんな安達さんが演じた灯は、ほんの小さなことで落ち込んだり、でも前向きに頑張ったり、恋に臆病になったり、とっても等身大。だからまるで自分のことのように、灯が幸せになれるように、灯が思うように生きられるように、灯が居心地のよい生活を手に出来るようにと、祈るように見つめてしまうのです。

灯と灯を囲む人々それぞれの生き方や選択、彼らの関係性に、自分を彼らの輪の中に滑り込ませて一緒に幸せを胸一杯に吸い込めるような、そんな映画『三日月とネコ』。是非劇場で、その優しさを味わってください。

映画『三日月とネコ』

5月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

© 2024映画「三日月とネコ」製作委員会 ©ウオズミアミ/集英社

2024/日本/配給:ギグリーボックス

監督:上村奈帆

出演:安達祐実、倉科カナ、渡邊圭祐、山中崇、石川瑠華、小林聡美

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写真:山崎ユミ

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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