新刊『おしごとそうだんセンター』で、“はたらく”について考える
ヨシタケシンスケさんインタビュー【前編】「みんながみんな、夢や意見があるわけじゃない」
2024.03.23
子どもに聞かれても、
うまく答えられない!
自分もよくわかってない!?
ヨシタケシンスケさんと考える
「はたらく」ってなんでしょう?
なぜ私たちは、働かないといけないの? お金のため? それとも夢のため? 実はあまりわかっていない、“はたらく”意味。ヨシタケさんは、どう答えてくれるでしょう。
ヨシタケさんってどんな人?
1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。独自の視点で描かれる、絵本、装画、イラストエッセイなどが大人気。高校2年生、小学校6年生の息子の父として、時々は悩むこともある。
公式サイト:https://yoshitakeshinsuke.net/
●ヨシタケシンスケさんのおしごと年表
1998年
会社員時代
ゲーム会社に就職。勤務時間中にもかかわらず落書きばかり描いていた。半年で退職
1998年
クリエイティブユニット時代
「パンタグラフ」の名称で、立体造形を得意とするユニットとして人気を集める
2013年
絵本作家時代
編集者から声をかけられ、40歳で初のオリジナル絵本『りんごかもしれない』を出版
新刊が出ました!
『おしごとそうだんセンター』(集英社)
「おしごとって、何?」「どうやってえらべばいいの?」「向いてるおしごと? たのしいおしごと?」など、地球に不時着した宇宙人の目を通して語られる、ヨシタケさん版ハローワークストーリー。
やりたいことがなくても、いいじゃないか
みんながみんな、夢や意見があるわけじゃない
ヨシタケシンスケさん
地球に不時着した宇宙人がやってきたのは、ちょっと風変わりな職業相談所。彼は相談所のお姉さんに相談しながら、この星で生きていくこと、働くことの意味を考え始める……。新作『おしごとそうだんセンター』は、どこかぼんやりとした、あるいは凝り固まったイメージで語られがちな“おしごと”を、ヨシタケさんならではの視点から問い直した絵本です。しかもここで紹介されているおしごとというのが、なんとも個性的というか独創的なものばかり。なりたい職業に就くためにすべきこと、世の中にあるさまざまな職業の紹介、などは一切なく、描かれているのは、もっと“はたらく”の根源に迫ること。大人になった私たちもいま一度、「いったい自分にとって、働くってどんなこと?」と、考えたくなる一冊です。
「そもそも僕自身がなんていうかな、仕事というものに悩み続けてきたというのがあるものですから。先に言っちゃうと、この本は、『こんな仕事をしたい』とか『こんな人になりたい』とかいう、夢を持っている人向けの本ではないんですよ。僕は、小中高となりたいものがなかったんですね。これという夢がなくて、自分の意見も特になくて。なんとなく、言われるがままに生きていた。でも急に、やっぱり進路を聞かれるわけですよ。先生とか親とかに。『将来はどう考えているんだ?』って」
やたらと夢の提出を求められたのは大人がラクしたいだけだったんだ!
ヨシタケシンスケさん
子どもに夢をたずねるとき、大人が期待しているのは、「宇宙飛行士!」「幼稚園の先生!」などのそこそこロマンのある、それでいて職業として成立する答え。
「それを答えられない自分がいやで、夢を語れないってことがすごくコンプレックスだったんですね。こんな僕なんかからすると、しっかり夢を持って、『俺はこれになりたいからこれを頑張るんだ』なんて言っている友達が、それはもう、光り輝いて見えるわけです。ああじゃない自分っていうものが、なんかよくないように思えて」
だがしかし、と大人になったヨシタケさんは気付きます。
「数十年たって今、『なんであんなに夢の提出を求められたんだろう?』って考えると……あれは大人側の事情だったんだ!って。ほら、ラクなんですよね。『○○になりたいです!』『よし、じゃあ頑張れ!』って言えば終わるでしょう? 『夢が決まってません』って言われちゃうと、一緒に考えなきゃいけないんで、めんどくさいわけですよ。そもそも、よく考えると自分が何になりたいのか、何がしたいのかなんて、人に言う必要ないんですよね。そんなの答える筋合いはないんです(笑)」
僕みたいな怖がりな子が、ちょっと気楽になるように
その場しのぎでのらりくらりやる。その尊さも、あるんじゃないかって
ヨシタケシンスケさん
この本に書かれているのは、いらぬコンプレックスを抱かされたかつてのヨシタケさん自身が、当時欲しかった言葉。一番伝えたいことは、「やりたいことがなくたって別にいいんだよ」ということ。
「この本に書かれていることが、僕みたいな怖がりの子にとって『ああ、そう考えてもいいんだ』って気楽になれる、選択肢のひとつになってくれたら。もちろん、夢を持ってそれに向かって努力するってすごく大切なことだし、それで頑張れる人はどうぞそちらで頑張ってください、なんですよ。ただ、そのストーリーで全員救われるわけではなくて、かつての僕みたいに『夢を持ってなきゃダメなのかな?』と悩む人たちに向けたストーリーも必要なんじゃないかと思ったんです。
『今、焦って決めなくても、自分に向いているものをゆっくり選択すればいいんだよ』って。なんだか、夢って言った途端にそれが叶えられなかったのは本人の努力不足だ、みたいになりがちじゃないですか。僕は、夢を設定せずに、その場しのぎでだましだまし、のらりくらりやることの尊さもあるんじゃないかと思うんです。正解を求めすぎないというか。のらりくらりって、その場その場で自分にとっての“いいこと”をすくいとっていけるセンスを持ち合わせていることなのではないかと。こういった目線も、やっぱり大切な気がしているんです」
真剣におしごと中……のポーズ。「一日の大半は、『あー、仕事しなくちゃなあ、いやだなあ、でもやらなくちゃ』とうだうだしています」
「悪くない」と思えたら、それをゴールとしてもいい
悪くねえなあ、と思えた時点で、夢は叶ったと思ってもいい。逆の発想で、「叶ったら、それが夢」
ヨシタケシンスケさん
ヨシタケさんの仕事は絵本作家。夢を持っていなかったにもかかわらず、“向いている仕事”を見つけられたのはなぜでしょうか。
「結局、自分にとってやりやすい環境を探していくっていうことが、向いている仕事を見つけるということなのかもしれません。絵本作家という職業が僕に向いている一番の理由は、ひとりでできるってことなんですね。いろんな人とかかわりはするけれど、作業自体はほぼひとりで完結できる。僕は半年間だけサラリーマンをやったことがあるんですけれども、団体行動がものすごいストレスだったんです。ただ、実際やってみると、会社勤めというのは、これはよくできたシステムだっていうのも痛感したんですよ。組織にぎゅっと守られることで安心できる人もいるだろうし、これはもうまさにケースバイケースで。
ただ僕は、どうしてもダメだった。ひとりでやっていくつらさのほうがずっとガマンできると思ったんですね。僕の感覚として、自分に向いていない仕事を5年も10年も続けられるほど、人間は丈夫にできていないんですよ。ブーブー文句を言いながらも続けられてるってことは、何かしらマッチしている部分があるはずで、それがガマンできる範囲なのであれば……それはもう、夢が叶ったってことにしちゃっていいんじゃないですかね?」
ヨシタケさん、ここではたと気付きました。
「今、思いついたんですが……“叶ったものを夢とする”というのかな、なんていうか、そういう順番があってもいいのかもしれませんよね。夢ありきのストーリーでもいいけれど、叶ったなら、それが夢ですよ、っていう。後づけの夢っていうの、提唱してもいいかもしれませんね。“夢”ってものに苦しめられてきた側としては、なんかもう結果論で、『これ、別に悪くねえなあ』って思えた時点でゴール、夢が叶ったものとします、っていうのもありな気もする」
Staff Credit
撮影/砂原 文 取材・原文/福山雅美
こちらは2024年LEE4月号(3/7発売)「ヨシタケシンスケさんと考える「はたらく」ってなんでしょう?」に掲載の記事です。
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