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堀江純子のスタア☆劇場 VOL.21

成河さん、渡辺大知さんが舞台『ねじまき鳥クロニクル』を一心同体で表現する

  • 堀江純子

2023.11.09

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volume 21

堀江純子のスタア★劇場

成河さん×渡辺大知さん

成河さん 渡辺大知さん

舞台でも映像でも怪演で観るものの視線を奪う成河さん。ロックバンド黒猫チェルシー(現在は活動休止中)のボーカリストかつ、そのアーティスト性を俳優としても活かす渡辺大知さん。この2人が出会ったのは、村上春樹の衝撃作、『ねじまき鳥クロニクル』。音楽、舞踊、演劇で五感すべてから訴えてくる舞台『ねじまき鳥クロニクル』は2020年初演、演劇を超えた新しいアートとして話題に。再演にあたって、成河さん、渡辺さんがお互いをリスペクトし合う関係性や、作品に対する深い思索をお話いただきました

成河さん 

そんは●1981年3月26日生まれ、東京都出身。第57回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞(22年)映画『脳内ポイズンベリー』『カツベン』、NHK連続テレビ小説『マッサン』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、舞台『エリザベート』、劇団☆新感線『髑髏城の七人』 Season花、『スリル・ミー』などに出演。2024年2~3月には舞台『テラヤマ・キャバレー』の出演を控えている。

渡辺大知さん

わたなべだいち●1990年8月8日生まれ。兵庫県神戸市育ち。ミュージシャン・俳優。2010年に、黒猫チェルシーとしてミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー。音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げ、映画『色即ぜねれいしょん』(2009年)では日本アカデミー賞新人俳優賞授賞を受賞。

素晴らしいパフォーマンスを生で観劇できる喜びに涙

2020年に初演。残念ながら新型ウィルスの影響で中断となった舞台『ねじまき鳥クロニクル』。私のチケットはもぎられずに終わってしまいました。なので、今回の再演、とっても嬉しく思ってます! こうして再演に向けて尽力を尽くしてくださるスタッフ、出演者の方々に心から感謝しています。

成河「そうでしたか。よかった!」

渡辺「コロナ禍になって鬱屈としてしまったときに、成河さんの舞台を観に行って」

成河「来てくれたんだよね! 一人芝居『フリー・コミティッド』の再演(2020年)」

渡辺「1人38役! 圧巻でした。本当に感動しました」

成河「いえいえ(笑)」

渡辺「作品自体も成河さんもなんですけど、観劇できる喜びで…成河さんが登場した時点で泣いちゃいました」

成河「コメディだったけどな(笑)!」

渡辺「ステージの上に役者さんがいて、素晴らしいパフォーマンスを生で観られるというのは、こんなにも貴重なことだったんだ、って」

自分の内臓を口から出すように

渡辺さんの感動、すごく共感します。多くの演劇ファンが感じたことだと思います。

成河「大知くんって軽々しく人間関係を作らないと言いますか、軽く言葉を発しない印象が僕にはあるので。こういうエピソードも、舞台を観た感想も時間をかけて話してくれて。稽古場で聞く言葉ひとつひとつも、どこか重みがあるんですよ。この『ねじまき鳥クロニクル』の事前イベントのときに出てきた彼の表現も面白くて(笑)。“自分の内臓を口から出すように…”だったかな。彼は演じ、歌う人ですけど、その表現通りの人だと思いますね。同時に、不器用な人でもあるけど…だからこそ、信用できる。初演の『ねじまき鳥クロニクル』ですでに大知くんのそういう魅力を感じ、共に作品を立ち上げてきたので。またこうして一緒に作品を作りながら、大知くんの紡ぐ言葉に心がスーッと落ちていくような感覚に心地よさを感じてますよ」

お2人のグラビア撮影に、成河さんがおっしゃるような空気がありましたよ。

成河「ホントですか(笑)」

成河さんの熱さをちょっと触ってみて、アチッとなって一瞬手を離すけど、そのぬくもり、あたたかさに、渡辺さんはニコーッとなるような(笑)。

成河「アハハハハ、素敵な表現ですね(笑)」

渡辺「そうでしたか(笑)。ありがとうございます」

渡辺大知さん 成河さん
渡辺大知さん 成河さん


ゴールのわからない荒野の中で作った“トオル”

舞台『ねじまき鳥クロニクル』では、岡田トオルという役を2人で演じるという演出で。一心同体となるわけですよね?

成河「トオルは、大知くんと苦労を共にした…それに尽きますよね。ゴールのわからない荒野の中で作ったようなもので」

渡辺「僕は特に、演劇に関してはまだ知らないことだらけで、成河さんに比べたら素人なんですけど。そんな僕にとって成河さんは、本当に懐が深く、広い方です。とまどう僕を寄りかからせてくれた。その上で決して偉ぶらず、一緒に考えていこうと言ってくださる信頼できるプロフェッショナル…なんです」

成河「そんな(笑)。アハハハハ」

渡辺「カッコいい大人です。こんなに百戦錬磨の方なのに、気持ちは初めてのような緊張感で。僕にはまだ到底わからない、役との距離感を持って演じてらっしゃるのかなと」

成河「そんなふうに思ってくれていたなんてすごく嬉しい。慣れれば慣れるほど、予定調和に演じてしまうことの恐怖ってあるよね。自分の引き出しを常に疑うというか。そういうふうにいたいなと思う」

成河さん 渡辺大知さん
成河さん 渡辺大知さん

STORY:物語は、静かな世田谷の住宅街から始まる。主人公のトオル(成河、渡辺)は、姿を消した猫を探しにいった近所の空き家で、女子高生の笠原メイと出会い、トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれる。赤いビニール帽子をかぶった“水の霊媒師”加納マルタが現れ、本田老人と間宮元中尉によって満州外蒙古で起きたノモンハン事件の壮絶な戦争の体験談が語られる。

演劇の手法として、ひとつの役が分裂するのはよくありますが……。

成河「『ジキルとハイド』みたいにね(笑)」

舞台のトオルは、2人いないと完成しないのがすごく興味深くて!

成河「それだけ、村上春樹さんが書かれたトオルという人物が非常に多面的な人物で。30歳で職を失って、主夫としてぼんやり過ごしていた人間が、自分の中の暴力性に気付いたときに、豹変する自分にも気付く……それって、実は日常的にわかる感覚でもあるんですよね。僕は僕で生きる。大知くんは大知くんで生きる。それがトオルという人間の構造の中にある。“これ、同じ人物!?”って思えれば思えるほど、成功すると思います」

渡辺「僕は最初、どこをどう揃えるか。どう同じ人物に見せるか。それを考えちゃってたんですよね。成河さんとお話して、違う人物に見えれば見えるほど面白いのか!って理解して。ひとつ、抜けられた気がしたんですよね」

成河「あったよね、話しをすごくしたよね」

渡辺「表現の仕方が違うからこそ、身体的な表現では同じ動作…ムーヴメントをすることによって……」

成河「ゾワッとするよねー!!」

渡辺「ですね。そこのシンクロが面白いですよね」

ジャンル村上春樹、ジャンルインバル・ピント

成河さん 渡辺大知さん

演じる、歌う、踊る舞台『ねじまき鳥クロニクル』である意味が。

成河「初演のときにいろいろ聞かれました。同じ役…Wキャストなの? 歌って、踊るってことはミュージカルなの?とか。初演を終えて改めて思うことは、どのジャンルでもない、言葉にできないもの…それが舞台『ねじまき鳥クロニクル』だと思いました。そういう、ノンジャンルなものを作るべきですし…ね。敢えていうなら、ジャンル・村上春樹、ジャンルインバル・ピント(演出・振付・美術)になるのかな(笑)」

村上春樹作品って、入口はどこにでもいそうな男女だったりするのに、読み進めていくと迷宮であったり魔界があったり、いろいろな世界へと飛ばされて。それを文字からそれぞれに想像していたと思うんですよね。その想像のひとつに映画であったり、演劇であったりがあるのかと。

成河「これは~!もう、舞台贔屓として言わせていただきますけど、舞台演劇にかなうものはないと思いますね。表現にあたって、空間というのはものすごく強力で。それこそ映像を使えば非現実的なものも作れますけど、目の前にある、そこにある空間にはなかなか…かなわないですよ」

ひとつの動きが、小説10ページ分に

扉を開けばそこに別世界がある…それが劇場ですよね。

渡辺「この作品と出会って、身体を使う表現をすごく考えるようになりました」

成河「初演のときにすごく鍛えられたもんなぁ」

渡辺「今まではどちらかというと、映像のカット割りが好きで。演技というより、そのショットをどう切り取るか。その編集を見るのが好きで、映画が好きだったんです。それが、もっとフィジカルなもの…舞台『ねじまき鳥クロニクル』で、初めてこんなにも面白いって思えたんですよね」

成河「原作で10ページに渡ることが、この一つの動作で表現できた! その喜びはこの上ない。原作ファンの方も、その喜びを共有できる。それが舞台『ねじまき鳥クロニクル』だと思いますね」

こちらの質問に即答で…焦熱的に情報豊かに語ってくださる成河さん。成河さんの言葉をじっくりと聞いて味わって、ひとつひとつ言葉を選んで考えて語る渡辺大知さん。お2人のキャラクターの違いが、トオルという人物にハマり、凸と凹はひとつになり完成する。この演劇の妙、奇跡の組み合わせの生き証人となれるのが、舞台『ねじまき鳥クロニクル』なんだと思いました。原作本を読みながら張り巡らせた想像を、舞台ではどんな世界で魅せてくれるのか、楽しみであります! どんなエグい役も自分のモノにする怪物のような名俳優、成河さんを、尊敬と信頼の眼で見つめる渡辺さん。その空気感が溢れる写真もお楽しみいただけたら幸いです。

渡辺大知さん 成河さん
撮影/細谷悠美

舞台『ねじまき鳥クロニクル』


原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・作詞:藤田貴大
音楽:大友良英

演じる・歌う・踊る:成河/渡辺大知 門脇 麦
大貫勇輔/首藤康之(Wキャスト) 音 くり寿 松岡広大 成田亜佑美 さとうこうじ
吹越 満 銀粉蝶
特に踊る:加賀谷一肇 川合ロン 東海林靖志 鈴木美奈子 藤村港平 皆川まゆむ 陸 渡辺はるか
演奏:大友良英 イトケン 江川良子


主催:ホリプロ TOKYO FM
企画制作:ホリプロ

共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
協力:新潮社/村上春樹事務所
後援:イスラエル大使館

期間    2023年11月7日(火)~11月26日(日)
会場    東京芸術劇場プレイハウス

チケット料金    S席:平日10,800円/土日祝11,800円
サイドシート:共通8,500円 U-25(25歳以下限定):6,500円
(全席指定・税込)

ツアー公演     大阪、愛知
公式HP(チケットはこちら)
https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/
https://www.geigeki.jp/performance/theater345/

お問合せ
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日11:00~18:00/土日祝休)
※公演に関するお問合せのみ


堀江純子 Junko Horie

ライター

東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。

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