LIFE

LEE COVER INTERVIEW 中谷美紀さん

『人生をもっと楽しんでいいんだよ』と、オーストリアの人たちに教わりました

【中谷美紀さんインタビュー】心に余裕が持てるようになりました

2023.11.20

この記事をクリップする

LEE Cover Interview

中谷美紀さん
「『人生をもっと楽しんでいいんだよ』と、オーストリアの人たちに教わりました」

俳優デビュー30周年という記念イヤーを迎えて、ニューヨークでの舞台や月9ドラマ主演、さらにはエッセイ集の出版など、多忙な日々を過ごしている中谷美紀さん。そんな彼女を支えているのは、オーストリア・ザルツブルクでの彩り豊かな暮らしです。東京との二拠点生活の中で、さらに強く、美しく進化している中谷さんに、近況を伺いました。

中谷美紀さん シャツ¥37400/アパルトモン 神戸店(マークケンリー ドミノタン) ジャケット¥46200・パンツ¥27500/ガリャルダガランテ 青山店(セピエ) 靴¥74800/オーラリー
シャツ¥37400/アパルトモン 神戸店(マークケンリー ドミノタン) ジャケット¥46200・パンツ¥27500/ガリャルダガランテ 青山店(セピエ) 靴¥74800/オーラリー

profile

1976年、東京都生まれ。1993年に俳優デビュー。『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。2013年には『ロスト・イン・ヨンカーズ』で読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど舞台でも活躍。2023年は、映画『レジェンド&バタフライ』に出演したほか、『連続ドラマW ギバーテイカー』に主演。現在、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ〜』に出演中。Instagramも人気。

Instagram:mikinakatanioffiziell
公式サイト:https://www.mikinakatani.com/

二人舞台で築いたバリシニコフさんとの強固な信頼関係。この貴重な経験は、心の財産であり、一生の宝物になりました

Miki Nakatani

中谷美紀さん

トラブルが続いたNYの舞台。でも、それも含めて楽しめた

俳優デビュー30周年の節目を迎えた2023年。芸能界の荒波の中、長きにわたってトップを走り続けてきたのは驚くべきことです。そのプロフェッショナルな仕事ぶりや輝く美しさは誰もが認めるところですが、当の本人は「30年も続けてこられると思っていませんでした」と気負いのない様子。

「流れ流れて、着いた先がここだったという感じです(笑)。皆さまに支えていただいて、今があると思います。感謝しかないですね」

2023年は、春先から大きな挑戦がありました。ニューヨークのオフブロードウェイで、伝説のバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフさんとの二人芝居『猟銃』を上演。井上靖の小説を舞台化したもので、2011年の初演以来、中谷さんは一人3役を演じてきました。
膨大なセリフ量に加え、性格も年齢も違う3人の女性を演じ分けるという難しさで、キャリアの積み重ねがなければ、その重圧に耐えられないタフなステージです。

「ある意味、捨て身と言いますか。現地のジャーナリストが“演技のツール・ド・フランス”と書いてくださいましたけれど、心身ともにかなりきつい1カ月でした。

しかもセットの転換など、技術的なトラブルも頻発して、リハーサルが5日分くらい流れてしまって。これが初舞台だったら、逃げ出していたかもしれません。でも、このときは、トラブルを楽しめたというか、ふっきれたというか。舞台上での拠り所は、バリシニコフさんだけで、バリシニコフさんを信じてついていこうと思えたんですね。彼とはコンサートやオペラをともに鑑賞し、お食事は最後に1回ご一緒した程度なんですけれど、舞台の上では、お互い強固な絆を築くことができているという確信がありました」

ともに身を削り、舞台に魂を注いできた二人だからこそ、通じ合える信頼関係。

「この経験は、自分の心の財産であり、一生の宝物になりました」

二拠点生活で居場所が増えたおかげで、ひとつのことにしがみつかなくなった。心に余裕が持てるようになりました

Miki Nakatani

中谷美紀さん

書くことでマイナス要素を、プラスに昇華させることができた

この10月には、長年、文芸誌で連載してきたエッセイ『文はやりたし』が一冊の本に。洒脱な筆致には、知的でユーモアあふれる素顔の中谷さんがのぞきます。

「人生山あり谷ありで、つい愚痴を言いたくなるようなこともありますよね。それをただのネガティブな体験としてとらえるのではなくて、読んだ方にクスッと笑っていただけるようにできたらと思って書きました。私自身も書いて吐き出すことで、マイナス要素を自分の中でプラスに昇華させているという感覚がありましたね」

衝撃のヌーディストビーチの話からジェンダー問題まで、話題はさまざま。中でも現在、東京との二拠点生活を送るオーストリア・ザルツブルクでの豊かな暮らしぶりは読んでいて気持ちが華やぎます。

「ヨーロッパの方々は、夏のバカンスは3週間きっちりとりますし、ちょっと遊びに行くからと、わりと堂々と仕事を休んだりして、人生を存分に謳歌しているんですね。日本人はつい勤勉になりがちですけれど、彼らに『人生をもっと楽しんでいいんだよ』と教えていただいたことで、私も心に余裕が持てるようになりました。

失敗を過度に恐れなくなったというか、こっちがダメなら別の道もあるよねって思えるようになりました。日本とオーストリア、居場所が二つになったことで、ひとつのことにしがみつかなくなったような気がします」

そんなおおらかな心持ちの源泉となっているのが、日々の自然とのふれあいです。庭の植物を愛し、風を感じる生活が中谷さんの心を穏やかに解放してくれているよう。

「近所を散歩していれば、牛や馬のフンを踏んだり、そこで滑って転んだり、泥まみれになることも(笑)。でもそれもまた人生だったりして。大切な何かをザルツブルクの自然は思い出させてくれます」



Book

文はやりたし』 (幻冬舎文庫)

『文はやりたし』 (幻冬舎文庫)

文芸誌『小説幻冬』で、6年間、連載していたエッセイを収録。ドイツ人男性と結婚して始まった東京とオーストリア・ザルツブルクの二拠点生活。一年の半分は日本で仕事を、残りはオーストリアで静かな生活を送る中谷さん。語学習得の苦労や山荘での庭造りなど、愉快な日常が綴られる。写真はすべて中谷さん自身が撮影したもの。

ヴィオラは人の音をよく聴いて、調和を図ることが大事な楽器。夫もまさにそんなバランサーですね

Miki Nakatani

中谷美紀さん ロングジレ¥80300/イレーヴ リブニット¥28600/エブール GINZA SIX 店(エブール) デニム¥31900/エレメントルール カスタマーサポート(ブリル) ブーツ¥75900/インターリブ(サクラ) イヤーカフ¥83600・ネックレス¥297000・リング(人さし指)¥187000・リング(薬指)¥158400/ヒロタカ 表参道ヒルズ(ヒロタカ)
ロングジレ¥80300/イレーヴ リブニット¥28600/エブール GINZA SIX 店(エブール) デニム¥31900/エレメントルール カスタマーサポート(ブリル) ブーツ¥75900/インターリブ(サクラ) イヤーカフ¥83600・ネックレス¥297000・リング(人さし指)¥187000・リング(薬指)¥158400/ヒロタカ 表参道ヒルズ(ヒロタカ)

俳優デビューした月9。当時のことが思い出されます

現在、出演中の月9ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』も話題です。12月24日の1日を1クールかけて描くというストーリーで、中谷さん、大沢たかおさん、二宮和也さんのトリプル主役という豪華キャスト。実は中谷さんの俳優デビューは、1993年の月9『ひとつ屋根の下』でした。

「1シーン、2シーンくらいでしたけれど、ものすごく緊張したことを覚えています。そのときのドラマの主役の江口洋介さんと、今度もご一緒させていただいていて、感慨深いものがありますね」

中谷さんが今回、演じているのは、キャリアの危機に直面している報道キャスター・倉内桔梗。

「組織の都合で仕事の方針が変わったり、別の部署に異動させられたり。仕事をする中で、多くの人がそんな苦い経験をしていると思います。桔梗も情熱を注いできた番組がなくなり、人生の岐路に立たされているという設定。そんな彼女がどんなふうに自分の人生を取り戻していくのか、興味があります」

現場は活気あふれる雰囲気だそうで、共演の大沢さんとは、ドラマ『JIN―仁―』以来の共演。

「久しぶりにご一緒したのですが、大沢さんのイメージを覆すようなコミカルなお役を、とても楽しそうに演じていらっしゃって。完成したドラマを見て驚いたのは私だけではないはずです」

一方、二宮さんとはドラマ初共演。

「とても自然なお芝居をされる方ですよね。そして人に対して垣根がなくて、ありのままでいてくださるので、話しやすくて、前々から知っている親戚みたい(笑)。今は3人のパートがばらばらに進んでいますが、それが最終的にどのようにひとつに収束するのか。今後の展開が楽しみです」

さらに2023年を締めくくるビッグイベントが。12月に『フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン with 中谷美紀』の公演が、日本で開催されます。『フィルハーモニクス』とは、ウィーン・フィルとベルリン・フィルという2大オーケストラのスタープレイヤー5人を含む7人組のユニット。もちろん中谷さんの夫で、ヴィオラ奏者のティロ・フェヒナーさんも参加します。

「クラシックのコンサートというと、まじめにお行儀よく聴くイメージですが、彼らの演奏は、ちょっとコミカルで楽しい演出になっていますので、クラシックにあまり触れたことがない方にもきっと楽しんでいただけると思います」

さらに今回は、中谷さんとのコラボレーションも!

「サン=サーンスの『動物の謝肉祭』という曲があって、さまざまな動物が人間の愚かさをユーモラスに皮肉るという内容で、曲と曲の合間に語りが入るんですね。フィルハーモニクスの『カーニバル』では、サン=サーンスへのオマージュを込めつつ、本来の動物の代わりにピンクパンサーやE.T.などが登場します。超絶技巧を余裕の笑みでさらりと披露する彼らの企みを気負わずに受け取っていただけたらうれしいです」

「日本公演だから美紀でいいやっていう安直なノリで決まりました(笑)」と謙遜しますが、音楽への深い理解があるからできること。フェヒナーさんが弾くヴィオラへの愛も語ってくれました。

「ヴィオラは、中音で、深みのある音が素敵なのですが、主旋律を弾くヴァイオリンやチェロと比べて、あまり目立たないんです。でも、その分人の音をよく聴いて、呼吸を読むことが必要ですし、調和を図ることが大切な楽器です。彼の性格もまさにそうで、『俺が、俺が』と前に出るタイプではなくて、控えめで、もめごとが起きたときは仲裁に入るタイプ。まさにバランサーですね」

二人のセッションも、その音楽のごとく、調和のとれた旋律を奏でているのでしょう。

「これからもワークライフバランスを大切にして、毎日を豊かに生きていきたい。そして心を動かされる出会いがあれば、仕事でもさらにチャレンジを続けたいと思います」

Information

ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』

ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』
©フジテレビ

銃殺事件の容疑をかけられた記憶喪失の男・勝呂寺誠司(二宮和也)、クリスマスディナーの準備に追われる孤高のシェフ・立葵時生(大沢たかお)、料理番組への異動を言い渡される報道キャスター・倉内桔梗(中谷美紀)。クリスマスソングが鳴り響く12月24日を舞台に、3人の人生がやがて交差する。(毎週月曜21時~フジテレビ系)


Staff Credit

撮影/伊藤彰紀(aosora) ヘア&メイク/下田英里 ネイル/川村倫子(ネイルハウス安气子) スタイリスト/岡部美穂 取材・原文/佐藤裕美 撮影協力/バックグラウンズファクトリー
こちらは2023年LEE12月号(11/7発売)「LEE COVER INTERVIEW 中谷美紀さん」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示(掲載当時)です。

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる