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明日海りおさん「後輩を大事に思う気持ちを役にいかしたい」|音楽劇『精霊の守り人』主演バルサ役・インタビュー

  • 高見澤恵美

2023.06.26

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これまでテレビドラマやアニメ、ラジオドラマなどさまざまな形でも愛されてきたファンタジー小説の名作、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』。今夏、その待望の舞台化が決定しました!

7月29日(土)より、日生劇場開場60周年を記念した音楽劇として上演される今作。恵みの雨をもたらす精霊の卵を宿した幼いチャグム皇子と、皇子を守る短槍使いの女用心棒・バルサの冒険を描いた壮大なストーリーです。

写真:明日海りおさん

主演の女用心棒バルサを演じるのは、女優の明日海りおさん。宝塚歌劇団花組トップスターとして圧倒的な人気を誇り、退団後も舞台やドラマなど幅広いジャンルで輝きを放ち続けています。

「小説から、アニメ、マンガ、ドラマとさまざまに生まれ変わってきたこの作品が、今回の舞台上で一体どのように繰り広げられるのか、私自身、不安とワクワクが入り混じっております。腕のたつ用心棒ということで、軽やかな身のこなし、足運びの確かさ、精神のたくましさ、そして何よりバルサとバルサに関わる人たちの心のふれあいが、生の舞台ならではの瑞々しさを感じていただけるものになりますよう、丁寧に取り組んでまいります」

と意気込みを語る明日海さん。作品に対する想いや、今の気持ちをうかがいました。

用心棒役に向け、からだ作りからしっかりと

写真:明日海りおさん

――6月半ばまでミュージカル(『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』)で主演を演じた後、今回の『精霊の守り人』のお稽古へ入られるのですね。

明日海:はい。ミュージカルで演じたエリザベスは、女性のメリハリがあるほうが似合う役。腰とかお尻とかも丸みがしっかりあったほうが華やかだなぁと思い、お稽古中からあまり鍛えないようにしていました。

一方、『精霊の守り人』で演じるバルサは女用心棒。今度は機敏に動くことが求められる役なので、切り替えが必要ですよね。稽古が始まったらイヤでも筋肉痛になるはず。手にもタコができるでしょうし……。稽古初日の頃には、だいぶ鍛えあがった感じで行けるよう準備していきます!

――槍を持っての立ち回りも楽しみです。体づくりは、腕立てをたくさんしたり?

明日海:腕立てはやりようかなと思っていて、回数よりも質を重視しています。10回しっかりやれば十分だったりしますし、姿勢キープでも意味がある。とはいえ、回数が少なくてもつらいものはつらいんですけどね。

トレーニング自体は好きです。でも、トレーニングに行くたびに「あ、こんなにつらかったんだ……」と驚く自分もいて(笑)。トレーニングのカウントが終わるたびに、半泣きになっています。でも、次のトレーニングまでの1週間くらいの間に、なぜかトレーニングで感じるつらさを忘れちゃうんです! 1週間たって、また「あ、今日、トレーニングの日だ」と鍛えに行き、またそのつらさに驚く……という繰り返しです(笑)。

お稽古初日にはたぶんからだがボロボロだと思いますが(笑)、なせばなると信じて!がんばります。

用心棒役として、チャグムを全力で守りたい

写真:明日海りおさん

――原作を読んで、「用心棒」という役をどのように捉えましたか?

明日海:身寄りがないバルサは、物語冒頭では、用心棒という仕事にしか自分の“よりどころ”がないという状態。役目を果たしているときは用心棒としてのお給金が発生しているわけですが、それ以外の時間には「自分とは何か?」「何のために生き、何のために闘っているのか?」と迷う気持ちを抱えています。そんなバルサも、幼い皇子のチャグムと過ごしていく中で、その答えを見つけていく……。バルサの人生にとって、チャグムとの日々はすごく大きなことなんだろうと思っています。

――用心棒役に、ご自身と通じるところは見つかりそうですか?

明日海:そうですね。もちろん、用心棒としては人を守れないかもしれないけれど……後輩のことはすごく大事に思う気持ちがあるので、役としていかせたら。役として生きながら、チャグムを全力で守ります!

――明日海さんは「人を守る側」と「人に守られる側」、どちらがしっくりきますか?

明日海:私自身はもちろん、人に守られてきた側、です。宝塚歌劇団というものにすごく守られてきましたし、今も(周囲のスタッフの方々におちゃめな笑顔で見せつつ)みなさんに守ってもらっていますので(笑)。

でも、宝塚時代に身についた“守っちゃうクセ”は、今でもすごくあるんです。女性が端のほうにいると、思わずこう(手をひろげて)、かばおうとしちゃったりとか。話しかけてもらえると、「何? 何? 何?」と全力で聞いちゃったり……(笑)。男役時代のクセがつい出てしまうんです。

――さすがです(笑)。用心棒のお役にピッタリですね。今回の相棒ともいえる武器、槍を持った経験は?

明日海:槍にはなじみがあります! とはいえ本物の槍ではなく、小道具ではあるのですが。宝塚時代に槍を振り回すとか、槍の踊りを踊った経験があるので、“槍が初めての人”ではないです。

共演者のみなさんも立ち回りの達人の方ばかりなので、楽しみです。とはいえ、いくら慣れているとはいえ立ち回りは危険が伴うもの。熱が入ってきちゃうと、手元が狂ってケガをする恐れもあるので、集中して、皆さんと呼吸を合わせて演じたいです。

自然の中で育った経験から、ファンタジーの世界観に親しみが

――物語の舞台は、“人の世と精霊の世が交錯する世界”。精霊のような“人ではない存在”が登場するファンタジーの世界観に親しみは?

明日海:ありますね。宝塚時代にも、“人ではない存在”を演じる機会がとても多かったんです。動物だとか。

――明日海さん自身は、子どもの頃にファンタジー小説にはまった経験は……?

明日海:私はすごく自然が豊かなところで育ったので、ファンタジー作品を読むというよりは、自然の中で四季の移り変わりを肌で感じながら暮らす中で、精霊が存在するような自然というものに慣れ親しんだ感覚があります。

都会育ちの方がキャンプに行って自然に触れたり、山道を歩く機会があると「すごく感動した!」とおっしゃるんですけど、私の感想は少し違っていて。山道を歩いたり、自然の中で動物に出くわしたりすると、「帰ってきたな」と、なつかしいような気持ちになる。

そういう意味でも、今回、私、すごくうれしい役柄をいただいたなぁ……と思っています。

――地元でのお話が出てきましたので、子ども時代についてもう少し。小学生くらいの頃に、観劇の経験はありましたか?

明日海:バレエを習っていたので、舞台でもバレエを観ては感動していました。近くの市民会館に劇団の方々が来た際に、母と観に行った記憶もあります。あとは、小学校の体育館に3~4人の劇団の方々が来てくださって、劇を披露してくださったこともよく覚えています。体育館が暗くなるだけでワクワクして、主人公に夢中になって……。人形浄瑠璃的な作品を楽しんだこともありました。

――今回の舞台は、大人だけでなく子どもも楽しめる「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」の上演も予定していますよね。

明日海:そうなんです! 私自身も子どもの頃の舞台の記憶がありますので、観に来てくださる方のいい思い出になれたらうれしいです。



今につながる、多感な中学生時代

写真:明日海りおさん

――お子さんといえば……チャグム役(子役・Wキャスト)の方々との共演も楽しみです。

明日海:お二人は中学生なので、結構大人なんです。私の感覚では、子どもは小学生まで。中学生以降は大人まで思考がつながっている感じがあります。

でもどうなんでしょうね、男子中学生って……。日々、何を考えているんでしょうか(笑)。 私、中学から女子校だったので、男子中学生というものをまったく知らないんです。どんな話をしたらいいんですかね? 「バスケしてるの?」とか「好きな子いるの?」とか……? いや、そっちは聞かれたくないか(笑)。

彼らのナイーブな心を怒らせたり、傷つけたりしないで、チャグムの心を引き出すということをしなくてはですね……!

でも一緒にお芝居して心を動かすときに、お互いを信頼できるかどうかって重要ですよね? 舞台上でこういう感じのことを受け止めて、返してくれるんだ、とか。中学生の彼らにも、「バルサ役の人はちゃんと打てば響くな」と思ってもらえるようがんばります!

――中学生の明日海さんはどんな子でしたか?

明日海:中学生のとき、勉強がイヤになってしまったことがありました。通っていた中学の図書館がすごくきれいで、そこでひたすら緑を眺めていたことを覚えています。窓から外を眺めると、桜の木の絶景がひろがっていたんです。

思い返すと、中学の3年間だけ、私、“ちょっと変わっていた”かもしれません。今まで育ってきたちっちゃな世界から、ちょっと大人の世界にシフトしたとき、なぜかどんどん自信がなくなっていって……少し内の世界にこもっていたんです。とはいえバレエは好きで毎回通っていましたし、学校の友達とも仲良くやっていましたけど。

……そんなときに、宝塚を観てしまって。もう、この世界だ!と(笑)。

両親は中学で勉強を頑張れと応援してくれていたと思うのですが、私自身はそこからちょっと脱線してしまったんですよね(笑)。

――“ちょっと変わっていた”中学生時代があったおかげで、今があるとも言えますね。

写真:明日海りおさん

――宝塚退団後、さまざまな作品を経験されてきましたが、性格面で変化を感じることは? ちょっとさかのぼる話ですが、宝塚時代に「動物占い」は「コアラ」とおっしゃっていたような(笑)。

明日海:基本的な性格は変わらないと思うんです。「コアラ」な部分も変わらずありますし(笑)。

だけど、やっている作品に感化されて、「あぁ、こういう感情もあるんだな」と思ったり。また違う作品をやれば「こういう考え方、いいよね」「取り入れられるよね」みたいに思って、私自分も変化していく。現場で「素敵だな」と思う人がいれば、マネもしますし。変わらない部分もあるけれど、人ってどんどん変わっていくんだな……とも感じています。

少しずつほぐれてきた客席の雰囲気がうれしい

――宝塚退団後の数年間はコロナ禍。今はもとの暮らしに戻りつつありますが、舞台上で変化を感じますか?

明日海:稽古中のマスクは一応任意ではあるんですが、つけていることが多く、以前とさほど変わらないのですが、舞台ではやはりだいぶ前向きな雰囲気になったと感じています。

舞台での開演前も、一時期はお客さま同士の間にも「しゃべってはならない!」という雰囲気があったと思うんです。みなさん、きっと「何かあってはいけないから」という温かい気持ちで気を張っていてくださった。その空気を感じとっていました。「ありがたいな」と思ったときももちろんありましたし、みなさんのその気迫に申し訳なさを感じて、心苦しいような気持ちになったことも。

演者は、幕が下りた瞬間にお客様の反応が分かります。もちろん演じている間も感じ取れますが、終わって幕が下りた瞬間の、みなさんの「はぁ」みたいな……。“あれ”がまた聞こえるようになってきた気がして、すごくうれしい。少しずつではあるけれども、そういう感情を素直に出してくださるようになってきたのかな……と感慨深いです。

最近はお客さまの笑い声も届くようになってきて、雰囲気が少しずつほぐれてきたのを肌で感じています。そういう中で迎える今回の舞台、本当に楽しみです。

――もとの暮らしに戻りつつある今年、やってみたいことは? 明日海さんが大好きなハワイへは行けそうですか?

明日海:ハワイ、行けてないですね……。願わくばハワイにも行きたいですし、海外にもコンサートを観に行きたいですけど……それは、時間があったらでいいんです。こうやって、いろんな役に出会っていけることが今は1番です。いろんな作品に出会いたいというのが正直な気持ち。とにかく“演じていること”自体が好きなんです。

誕生日の時期は、元気に『精霊の守り人』の稽古に励みたい

写真:明日海りおさん
――お稽古が始まる6月末は、お誕生日(6月26日)の頃ですね。どんなふうに過ごしたいですか?

明日海:誕生日の頃はからだが1番悲鳴をあげているバキバキの頃ですね(笑)。健康で、元気に稽古場に行けていたら、もうそれでいい!と思ってます。そして願わくば、ここにいるスタッフのみなさんたちと仲良くいい絆を築けたら、もう言うことはないですね(笑)。

――6月末、まだ紫陽花がきれいな時期でしょうか。

明日海:紫陽花の季節ですね。今年も街中で咲いているのを見かけますけど、やっぱり好きです。みんなが紫陽花を見つけると画像を撮って連絡をくれるんです。「紫陽花が咲いていると(明日海さんを)思い出します」と、毎年いろんな人が連絡をくれる。あ、「紫陽花が好き」だと言っておいてよかったなぁと(笑)、うれしく思っています!

 

  • 写真:明日海りおさん

  • 写真:明日海りおさん

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日生劇場開場60周年記念
音楽劇『精霊の守り人』

原作: 『精霊の守り人』上橋菜穂子作・偕成社
脚本: 井上テテ
演出: 一色隆司
音楽: かみむら周平
出演: 明日海りお、梅田彩佳(Wキャスト)
渡部秀、水石亜飛夢、小野塚勇人(劇団EXILE)、健人、唐橋充/黒川想矢、込江大牙(子役・Wキャスト)雛形あきこ/村井良大、山崎樹範 (Wキャスト)
麻実れい(声の出演)他

 

公演期間(劇場):

2023年7月29日(土)~8月6日(日)
東京・日生劇場


2023年8月13日(日)
大阪・枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール


2023年9月 3日(日)
新潟・新潟県民会館 大ホール


2023年 9月 9日(土)
千葉・千葉県東総文化会館 大ホール


2023年10月 1日(日)
山口・シンフォニア岩国 コンサートホール
日生劇場開場60周年記念 音楽劇『精霊の守り人』公式サイト
あすみ・りお●1985年6月26日、静岡県生まれ。2003年、宝塚歌劇団入団。’14年、花組トップスター就任。’19年11月に退団。退団後の主な出演作に、舞台では『マドモアゼル・モーツァルト』、『ガイズ&ドールズ』、『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』、映像では連続テレビ小説『おちょやん』ドラマ『大病院占拠』など。宝塚歌劇団入団から20年を迎える2023年、東京・大阪にて記念コンサート「20th Anniversary Rio Asumi sings dramas『ヴォイス・イン・ブルー』」を9月に開催。

撮影/富田恵 ヘア&メイク/山下景子(コール) スタイリスト/大沼こずえ(eleven.)

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高見澤恵美 Emi Takamizawa

LEEwebエディター・ライター

1978年、埼玉県生まれ。女性誌を中心に女性の性質や人間関係の悩みに迫り、有名無名千人超を取材。関心あるキーワードは「育児」「健康」「DIY」「観劇」など。家族は夫と4歳の息子。

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