テイストの変遷や引っ越しを重ねても、手元に残る大切なもの。石井さんのスタイルを形作る名品を、毎月一点ずつ紹介します。今回は、鏡。ようやく見つけた、景色を美しく切り取ってくれる逸品です。

石井佳苗さん／Kanae Ishii

「カッシーナ・イクスシー」にて10年間勤務後、独立。雑誌や書籍、広告など多分野にわたる活躍で知られる。住まい作りの感覚を磨くヒントを綴った近著『Heima』（扶桑社）も好評。
Instagram：kanaeishii_lc
公式サイト：https://www.kanaeishii-stylist.com/

file 04.［鏡］（Mirror）
Designer: 吉川和人（Kazuto Yoshikawa）
Item: ミラー（Mirror）

「鏡」を壁に1枚掛ければ、それは絵になり、窓にもなります

鏡というと、洗面スペースに置く実用的なもの、というイメージが強いかもしれません。けれど私にとっては、壁を彩る大切なインテリアアイテムです。

ただ、素敵なものが少ないのが悩み。“飾る”という意識で作られていなかったり、逆にデザインに凝りすぎて、空間から浮いてしまったり。

なぜ私がそこまでこだわるかといえば、たった1枚の鏡が、インテリアの奥行きを幾通りにも深めてくれることを知っているから。部屋のお気に入りの一角を映せば、額に入った絵画のように。外に広がる木々を映せば、まるでもうひとつの窓のように。皆さんが「手軽に空間の雰囲気を変えたい」と感じたときに、ぜひおすすめしたいアイテムなのです。

今、私が一番気に入っているのは、吉川和人さんが手がける鏡。実は、彼はカッシーナに勤務していた頃の同僚。5年ほど前に、「木工作家になりました」と連絡をいただいたことで、再び縁がつながりました。

行きすぎた主張がなく、それでいて凛とした空気が漂う彼の鏡は、まさに理想的。切り取る景色を美しく見せるためには、鏡そのもののデザイン、フレームの美しさが何より重要だと再認識させてくれます。

ヒノキ材のフレームに、形や厚みの違う金箔を1枚ずつ貼り重ねるという手の込んだ逸品。金色のフレームは、一歩間違えば目立ちすぎることもあるのですが、この細やかな作業により、なんとも繊細な、ヴィンテージのような陰影が生まれています。

外のグリーンを映し出すと、まるで小窓のような心地いい抜け感が出る。「その日の天気、時間によって、鏡に映る景色が変わるのもいいんです。真鍮を使ったオブジェと、フレームの色をリンクさせて」（石井佳苗さん）

お気に入りのコーナーを映せば、1枚の絵のように。「何を映したいかを考えながら、掛ける位置を決めていきます。縦に掛けていたものを横掛けにするだけでも、ひと味違う印象になりますよ」（石井佳苗さん）

Designer: Kazuto Yoshikawa
Japan,2020

金箔を貼り重ねた繊細なフレームがシンプルでいて、凛とした存在感を放つ

吉川さんがデザインを手がけ、三重県の老舗額縁メーカーが制作を担当。吉川さんは2019年よりトヨタ自動車との協働プロジェクト「森へ行く日」をスタートし、ミラーもそのひとつ。売り上げの一部は環境保全団体への寄付にあてられる。ミラー四角小（幅28×高さ43×厚さ2.1㎝）¥37400（LEEマルシェ価格）

撮影／宮濱祐美子　取材・原文／福山雅美　デザイン／サイトヲヒデユキ
こちらは2023年LEE5月号（4/7発売）「スタイリスト石井佳苗の「インテリア名品」」に掲載の記事です。
※商品価格は消費税込みの総額表示（掲載当時）です。