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【書評】同居する子持ち男性同士の葛藤を描いた『プリテンド・ファーザー』白岩玄

2023.01.19

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『プリテンド・ファーザー』
白岩 玄 ¥1870/集英社

子持ち男性同士の、同居と葛藤を描いた物語

『プリテンド・ファーザー』白岩 玄 ¥1870 集英社

家族になること、そして親になることについて、いろんな角度から気づきを与えてくれる小説が、今月の一冊。

主人公は、36歳の2人の男性だ。彼らは高校時代の同級生で、どちらもシングルファーザー。恭平は、一年前に妻を亡くし、会社に勤めながら、4歳の娘を育てている。一方の章吾は、元保育士で、今はベビーシッター。彼は、妻が海外へ赴任しているために、1歳半の息子を一人で育てていた。同じシングルファーザー同士ゆえに、恭平の住むマンションで、それぞれの子どもも含めて同居することになった彼ら。仕事に集中したい恭平、子どもたちのケアを中心に生きる章吾と、お互いが得意な分野に分かれて、助け合って暮らせると思っていたが、ひずみが生じてくる――。

シッター業をしながら幼い子たちの世話をしている章吾のモヤモヤは、子育てに多くの時間を割いている人が、抱きがちな感情かもしれない。育児に非協力的ではないものの、どこか他人任せの恭平の姿は、章吾にとっては歯がゆく思えてしまう。しかし恭平の目からすれば、子どもに抜群の目配りができる章吾は、“男の中でも特別な存在”。そして自分は子持ちの身ゆえ、職場では希望のキャリアを積めない葛藤が……。恭平の悩みも、働いている人には、痛感することだらけかもしれない。

個人に負担がかかりがちな家庭内ケア労働、そして出世やキャリアなど社会生活の中で課せられる圧力。私たちの身の回りで普通に起こる出来事が、「男性×男性+子ども2人の同居」の姿で俯瞰できるのが、この小説の読みどころ。「夫やパートナーも、2人のような思いを抱いているのかもしれない」と想像力を巡らすことができる。

育児とパートナーシップ、そして社会とのかかわり方を探り続ける2人の問題解決法は、とても現実的だ。一緒に子育てをする相手との理解の深め方、その先にある“家族”に対して、新たな気づきを与えてくれる。自分だけではなく、一緒に子育てをしている人たちとともに読みたい物語。

『とりあえずお湯わかせ』
柚木麻子 ¥1650/NHK出版

『とりあえずお湯わかせ』柚木麻子 ¥1650 NHK出版

人気小説家の初エッセイ。コロナ禍前の’18年からの4年間の日々を綴る。初めての育児に感じていること、家族と暮らしながら仕事をする自分のリラックス法について、著者が子どもだった頃の大人の女への考察――。まるで親しい人の近況を聞くような、軽妙な文章が心に響く。少しほっとしたかったり、誰かとおしゃべりしたいときにページを開くと、いい気分転換に!

『かもめニッキ』
週末北欧部 chika ¥1540/講談社

『かもめニッキ』週末北欧部 chika ¥1540 講談社

北欧好きが高じて「フィンランドで寿司職人になる!」と決意した著者。その前段階として日本の会社で働きながら、週末は職人修行に励む日々を綴ったコミックエッセイ。移住を見据えた兼業という新しい生き方に加えて、寿司職人修行の世界を垣間見られて読みごたえ抜群。好きを極め、できることから挑戦する勇気の大切さを教わりつつ、ゆる~い絵柄もクセになります。



『Heima』
石井佳苗 ¥2420/扶桑社

『Heima』石井佳苗 ¥2420 扶桑社

本誌連載でおなじみ、インテリアスタイリスト石井佳苗さんの最新作は、暮らし方にまつわるエッセンスがふんだんにちりばめられた内容に。「住まいの感覚を磨く9つキーワード」として、察する、あそぶ、ととのえるなど、著者がこれまで感じ、暮らしにつなげてきたことが、余すところなく丁寧にまとめられています。自分らしく、心地よい暮らしぶりを叶える参考書に。


取材・原文/石井絵里
こちらは2023年LEE1・2月合併号(12/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。


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