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トマト農家で映画監督!『やまぶき』山﨑樹一郎監督インタビュー【カンヌ映画祭ACID部門で世界が注目】

  • 金原由佳

2022.11.07

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岡山県の中心、真庭で、トマトを作りながら世界に自主制作映画を発信する。

写真:映画「やまぶき」のメインビジュアル。赤いストールを被る少女

突然ですが、岡山県真庭市をご存じですか? 中国山地のほぼ中央に位置しており、市の公式HPによると東西に約30km、南北に約50km、総面積約828k平方メートルという、岡山県下で最も大きな自治体で、気候は年間を通じて比較的穏やかという土地柄だそうです。やはり映画監督であるオダギリジョーさんの出身地の津山のお隣にある市です。

この真庭を舞台に、トマト農家の仕事と並行して映画を撮り続けているのが山﨑樹一郎監督。2011年の第1作『ひかりのおと』では三代続く酪農を継ぐため、東京から故郷に戻ってきた青年の物語、2014年の『新しき民』では280年前に実際に起きた農民一揆を題材にした物語、そして最新作『やまぶき』はカンヌ国際映画祭ACID部門に選出され、すでに10を超える国際映画祭で紹介されている人間群像劇となります。

誰かが山頂から蹴落とした小さな小石が、崖を転がり落ちるうちに大きな土砂崩れを誘発するように、山間の小さなエリアの人間関係が、本人たちの知らず知らずのうちに影響しあっていることを鋭いショットの連なりで見せている作品です。厳しい状況を描きながら微かな希望をしっかりと提示するのも山﨑監督らしさとも言えます。地方で映画を作り続けること、地方だから描けることを伺いました。

 

写真:山﨑樹一郎監督

山﨑樹一郎(Juichiro Yamasaki)
1978年生まれ、大阪市出身。京都文教大学で文化人類学を学ぶ傍ら、京都国際学生映画祭の企画運営や自主映画製作を始める。2006年に岡山県真庭市の山間に移住し、農業に携わりながら映画製作を始める。初長編作品『ひかりのおと』(2011)は岡山県内51カ所で巡回上映を行う一方、東京国際映画祭やロッテルダム国際映画祭ブライト・フューチャー部門にも招待される。また、ドイツのニッポンコネクション映画祭にてニッポン・ヴィジョンズ・アワードを受賞。第2作『新しき民』(2014)はニューヨーク・ジャパンカッツ映画祭にてクロージング上映され、ニューヨーク・タイムス紙でも高く評価された。さらに、高崎映画祭新進監督グランプリを受賞。映画制作と並行して、フランスのメソッドをモデルにした映画鑑賞教育を真庭市内の学校などで実践している。

都会は好きなもの同士固まれるけど、地方はイデオロギーの違いを保ちつつ、それを超えた人間関係が面白い

写真:山﨑樹一郎監督と映画「やまぶき」のポスター

──山﨑監督は大阪で育ち、大学時代は京都で過ごし、お父さまの実家である岡山県真庭に移住して、トマト農家と並行して映画を撮られていますが、真庭の町のサイズが監督の描く映画の世界に色濃く影響を与えていますか?

「舞台になる場所に住み続け、生活しながら共同体のいいところを発見しながら映画を作っているので、人物と場所が乖離しないのが、真庭という場所で作っているひとつの意味なのかなと思いますね。都会って好きな者同士固まれるじゃないですか。でも、地方って人と人の関係が近いので、ひとりの存在が良くも悪くも大きくて、お互いのイデオロギーが違うからといって関わることを避けることはできない。お互いの違いを持ちつつ、それを超えた人間同士の関係があるところが地方の面白い部分だと思うんです。

イデオロギーとか、国とか出身の違いとか、そんなこと、大したことないっていうことですね。思いやりとか助け合いとかで繋がってる関係があります。あと真庭って面白くて、むかし久世という真庭の中心部の地域には牛市があっていろんな地域から人が集まってきて、花街なんかもあったと聞きます。また勝山という城下町として発展した場所もあって、他にも真庭市は個性ある9町村が合併してできた自治体なのでそれぞれ面白い」

多少の陰でも育つやまぶきはけなげである

写真:映画「やまぶき」の1シーン

山吹(祷キララ)の父(川瀬陽太)が崖地のに自生するやまぶきを引き抜いたことが、思わぬ事態へと発展していく。

──植物のやまぶきからタイトルをつけられていますが、今回この『やまぶき』を見て初めてやまぶきが春の季語となる花であることと、昔は、地面に落ちた黄色い花びらの重なりがお金に見えたので、「賄賂」の隠語として使われていたそうですね。物語も、あるヤクザが組織から盗んできたお金が小石のようにころころと転がり、回り、回っていく物語です。

「やまぶきって桜と同じような時期に咲いて、花びらの形も大きさもよく似ているんですよね。ピンクか山吹色かの色の違いだけのよう。桜の方は河川敷に植えられ、春になると花見として一斉に愛でるという。それが僕は好きじゃなくて、誰かによってどこか強制された日本人的な感性だと感じてしまうんです。やまぶきだってきれいで可憐な花を咲かすんだけど、崖地の斜面に自生することが多くて、誰もその下で花見をしようとは思わない。

山材の中に紛れているんだけど、その佇まいが多様性の中にちゃんと自分というものがあるように感じられ、多少の陰でも咲くというのが逞しくもある。そういった目立たない場所に咲き、陰の中でやまぶき色が際立ち、昔の人には輝いて見えたんでしょう。賄賂の象徴として使われるのってとても面白くて、やまぶきを映画の題材に選びました」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

韓国から来たチャンス(カン・ユンス)は採石所でのまじめな働きぶりを評価されていたが……。

──主人公のチャンスは、親族の事業が失敗したことから韓国から真庭に働きにきています。彼が働く採石所のショットから始まりますが、冒頭の崖を落ちる小石のショットが、この後のチャンスの人生の変遷を予兆していて痺れました。チャンスを演じるカン・ユンスさんはソウル出身で、大学卒業後は大手航空会社で勤め、その後、ロンドンの大学院で演劇を学び、国際色豊かな演劇を手掛けていた中、今は真庭でお仕事をされているとかで、とてもユニークな経歴の方ですよね?

「いやあ、カンさんは本当に面白い方で、機会があったらぜひ取材していただきたいんですけど、韓国からイギリスに演技を学ぶために留学して、クラウン(ピエロのような道化的存在の俳優)になると、パントマイムを始め、仲間たちと劇団を作り、公演もし、そこで日本人のパートナーと出会って、真庭には地域おこし協力隊でやってきたんです」

──地域おこし協力隊なんですか!

「ええ。その経歴を聞いて、面白すぎるやろ、どんな人なんやろうと会いにいくと、やっぱりとっても面白くて、賢い人で。『やまぶき』で主人公のチャンスはわりと悲観的な出来事に遭遇するんですけど、カンさんの突き抜けた明るさを持ち込んでもらうことで面白くなるだろうし、映画のトーンがあまり落ち込みすぎないだろうと。貧しくても、不幸でも、カンさんの演じるチャンスを見ていると笑えるみたいな。そういう天才的なキャラクターなんですよね。僕もそうですけど、あまり映画を見て落ち込みたくないじゃないですか」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

山吹の父は刑事。部下を演じるのは三浦誠己さん。

──私、ここ数年、いくつかの映画祭で応募された日本映画を集中的にみる機会に恵まれているのですが、日本映画の一つの特徴だと思うんですけど、何かよからぬ事態が起きたらとにかく隠す、隠蔽するという設定がとても多い。

『やまぶき』でも川瀬陽太さんと三浦誠己さん演じる刑事がある事件について隠蔽するんですけど、カンさんが演じるチャンスが絡むことで、ばれちゃう(笑)。これ、日本人オールキャストだったら隠したままで終わっちゃうんじゃないかな。

「確かに日本人だけの物語だと、悲愴感に満ち溢れた映画になっている可能性はありますね。ヤクザから流れた金をばれずにそのまま使っちゃったり、今いる場から失踪して泣いて終わるみたいな、そんな感じで(笑)」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

チャンスを演じるカン・ユンスさんは韓国ソウル生まれ、育ちで大学卒業後、航空会社勤務、イギリス留学を経て岡山県真庭に移転してきた多彩なプロフィールの方。

──チャンスが働いている採石所はベトナム人などいろんな国籍の人が働いていますが、真庭は国際色豊かな場なんですか?

「舞台となった採石所の人間構成はフィクションです。ただ報道で、全国のほかの採石所で海外からの移住者の労働問題のニュースを目にします。この映画に出てもらったベトナム人の方たちは、技能実習制度などで来ている人たちにこちらから声をかけて出てもらった方々です」

──そういう演技に関しては素人の人と交じって、何ら違和感なく採石所では『るろうに剣心』の相楽左之助役で有名な青木崇高さんが出ていてびっくりしたんですけど、どういう経緯で?

「青木さんは真庭にご縁があって『ぜひ参加したい』といってくれていたんです。というのは、青木さんはお母さまが真庭の出身で、それで僕たちの映画に興味を持ってくれて。僕もそうでしたけど、小さいときは休みの度に真庭に帰郷するという、その経験とか記憶で共有するものがあって。小さな役ですけど、快く出てくれました」



プロの俳優と仕事をして思ったのは、いい役者とカメラがあれば映画はできるということ

写真:映画撮影の様子

撮影中の山﨑監督とスタッフのみなさん。撮影は順調で、編集に時間をかけたという。

──なるほど、だからか、青木さんは本格的な真庭弁を話されている印象を受けました。真庭で普通に暮らす人々と、プロの俳優のたたずまいをなじませるコツは?

「山吹役の祷キララさん、刑事役の川瀬さん、三浦さんはじめ、みなさん、俳優としての色んな経験値があって、この場所でこの役を演じるということはどういうことなのか十分に分かっていると思うんです。お互い芝居が始まったら、互いの演技が伝播していって、監督なんかいなくても、役者とカメラがあれば、多分映画っていうのはできちゃうんだろうなって思います。本当に良い経験ができました」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

チャンスは娘を持つ日本人の美南と交際中。チャンスの恋人役は和田光沙さん。

できる限りのアゲンスト、それが山吹のサイレントスタンディング

写真:映画「やまぶき」の1シーン

山吹は父親の反対を押し切って、街角でサイレントスタンディングを始める。その行動には深い理由があって……。

──『やまぶき』は群像劇ですけど、主人公が二人いるとも言えて、一人は祷キララさん演じる高校生の山吹。彼女は街角である日を契機に、サイレントスタンディングに参加しだすのですが、最初はその理由がわからない。サイレントスタンディングとは「無言の抗議」と言われていますが、この主題を取り上げたのは?

「サイレントスタンディングについては頭で捻り出して描いたわけじゃなくて、実際に、映画の中のあの場所でずっとやっている人達がいるから、できた場面なんです。実際、そこでの活動を見て、僕自身参加してみて、『あ、こういう気持ちで、定期的にここに立って、このメッセージを掲げているんだな』と実感できたし、そこに静かに立っている人たちがどういうメッセージを持ってあの交差点に立っているのか、いろんな感動的な話も聞かせてもらって、作品にとり込んでいます。

一方、サイレントスタンディングという行為は声を出さない静かな抗議といっても、誰かに対して抗議するという点で危うさもはらむ。保守的な田舎で抗議をするということは覚悟も必要だし特別な意味を持ちます。そこにある緊張感を表現できればいいなと考えていました。山吹にはサイレントスタンディングをせざるを得ない切実な思いがあります。ただ立っているだけで何が変わるんだろうと皆さん思うだろうけど、この映画の終盤、ある人物が山吹に『そんなことして、何か変わるんですか?』と質問しますが、そうやって問いかける行為で、すでに何か一歩、変わっているんですよね」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

山吹の記憶の中にのこるやまぶきの花

居酒屋での雑談がラッキーを呼び込み、ヒロインがその場で決定!

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

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──山吹役の祷さんは子役から活躍されていますが、オーディションですか?

「実をいうと、立ち飲み屋で決まったみたいな」

──居酒屋で?

「子役の頃から見てきて、すごい優秀で、映画に愛されている俳優というイメージはあったので、頭のどこかで山吹をやってくれればとってもいいなと思いながらオーディションをやっていたんですね。実際、そこに来てくれた人たちの中にも、この人ならできそうだなと思う人がいたんですけど、ちょうど、大阪の立ち飲み屋さんでたまたま会った映画のスタッフと話しているときそのスタッフが『お父さん、知ってますよ』と」

──なんと。

「近いから来るんちゃうみたいな感じで電話かけてくれたら、本当にお父さんが来られたんです。で、こういう企画があり、主役のイメージがキララさんにぴったりだと話すと、『あ、じゃあ、電話します』ってその場で彼女に電話してくれて」

──そんなすごい偶然ってありますか(笑)?

「そしたらキララさんがその場で『やりたいです』って言ってくれて。ほぼそれで決まったんです」

写真:映画「やまぶき」の1シーン

山吹に一筋のBF役、黒住尚生くんのキャラがとても明るく、楽しい。今作のアクセントになっています。

生活をしながら感じる怒りや憤りがないと、映画は作れない

写真:馬と監督とカンさん

チャンスは韓国では馬術競技の一流選手だった。

──山﨑監督の引きの力がすごすぎる。映画の神様に愛されていますね。ぜひ、伺いたいのは、山﨑監督はトマト農家をしながら映画を撮っているとのことですけど、農業をしていると種子法やTPPなどやはり政治についてダイレクトに影響を受ける機会が多いと思うのですが、そういう背景もこの映画には関係していますか?

「農業に関して言うと、僕は本当に純粋に楽しいし、面白い。トマトを育て、管理している時間は割と幸せな孤独の時間だと思いながらなんとか自分の家族が食べていける範囲で続けていますがとても難しいです。多くの農家さんからすると、僕のようにトマトを作る傍ら、映画も撮るし、地域の活動にも参加するというのはもしかするとすごく失礼な在り方かもしれません。その三つのバランスでいつも時間の引っ張り合いにはなっています。

山崎樹一郎監督 トマト農家

山﨑監督からトマトを育成中の写真を送っていただきました。トマトと向き合う孤独な時間は楽しいとのこと。

小さいながら農家であることからもちろんTPPや農政には一般的な関心を持って見てますが、農政以外にも、政治には違和感を持ちながら暮らしています。中央で政治をしている人たちには、地方で暮らす人たちの生活に関心や目が行き届かないのかなと。それこそ、オリンピックも最初は東北の復興ということから始まったはずなのに、実際にはそこに強くフォーカスされたとは思えなかった。

先日の国葬の成り立ちもそうですが、国民の意見がどうも届かない。多数の反対意見ですら見て見ぬふりという風に、オリンピックは開催されました。そんな経緯を目にして、テレビでオリンピックを見続けるということはちょっと耐えられないな。そう思ったのが、『やまぶき』を作ろうとしたきっかけでもあります。生活をしながら感じる怒りだったり、憤りがないとたぶん映画は作れないし、作らないかもしれない」

写真:映画撮影の様子_カメラで撮影する様子

今回はフィルム撮影に挑戦。デジタル機材と違い、現像代に費用がかかるため、クラウドファンディングによる支援を受けて映画は完成した。

──すごいのはこの作品をデジタルカメラではなく、16ミリのフィルムで撮られたことですね。ざらざらとした粒子感が味わいとなっていますが、予算がかかるので大変でしたよね?

「そうなんです。僕たちは誰にも頼まれずに映画を作っているので、制作費も自分たちでお金集めをしなくてはいけない。僕はいつだって映画はフィルムで作りたい。それはフィルムの映画で感動を覚えたからです。しかしフィルムで作ろうとすると予算も変わるし、技術も必要となる。でも、仲間の作家が撮った16ミリの作品を見る機会があって背中を押されたというか。プロデューサーに予算が上がるけれどフィルムで撮りたいとお願いして作りました」

カンヌ国際映画祭の一番尖った部門での上映はうれしい

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

  • 写真:映画「やまぶき」の1シーン

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──『やまぶき』はフィルムで撮ったという志も、映画の内容も評価されて、今年のカンヌ国際映画祭のACID部門にセレクトされました。ほかにもロッテルダム映画祭など10を超える海外映画祭で上映されていますが、カンヌは参加されてみてどうでしたか?

「ACID部門というのは商業的な映画からは漏れ落ちているが、それでも配給して、劇場で観客に発見されなければいけないという趣旨で映画作家たちが1993年に立ち上げ、自らセレクションをするという部門で、その志が面白いですよね。日本にはその発想ないと思います。なんて言うか、フランスの懐の深さというか、映画の多様性を大切にしているなと。日本にも東京国際映画祭の中にACIDみたいな部門があればいいのになと思います」

──『やまぶき』の最後のクレジットには濱口竜介監督や深田晃司監督のお名前が協力として入っていますが、同世代の監督たちと共調することもいつか、ありえますよね?

「以前から親しく、尊敬している監督たちで、クラウドファンディングの時に協力していただきました。カンヌの話に戻りますが、ゴダールやトリュフォーがカンヌ国際映画祭のある種行き過ぎた商業主義的側面を批判し、中止に追い込み(※1968年のカンヌ国際映画祭粉砕事件)、その後、フランスの監督たちが「監督週間」という部門を独立した部門として立ち上げます。さらにそれでもこぼれ落ちる重要な作品を選出するようにACID部門が30年前に作られました。いわば映画祭の一番尖った部分が集まったともいえるところで選ばれたのは単純にとても嬉しい。『やまぶき』はトリュフォーの編集マンであったヤン・ドゥデさんに編集協力していただいたので、おお、繋がったなと(笑)」

  • 写真:山﨑樹一郎監督がジェスチャーを交えて語る様子

  • 写真:山﨑樹一郎監督がジェスチャーを交えて語る様子2

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──ところで、山﨑監督はお姉さまが大阪の老舗アートハウス、シネ・ヌーヴォの支配人であることが有名ですけど、姉弟で映画の仕事についたのは、何か英才教育ならぬ映才教育があったんですか?

「ほかの取材でも同じことを聞かれたのですが、父親が大阪シナリオ学校というところで勤めていて」

──わ!天満にある大阪シナリオ学校ですか?  私、社会人の時に通っていました。夜に講義があるのでいろんな背景を持つ社会人が集っていて。あそこで学んで、自分にはシナリオライターの才能がないってわかったんです(笑)。

「それは絶対にうちの父親と会っていますね。今、おっしゃったように夜に講義があるから、シナリオライターの卵たちを夜な夜な、父が家に連れ帰ってきて、僕がちっちゃい頃は寝ているところを起こされ酔っ払いの映画の話を聞かされるんですよ。それが本当に嫌で嫌でたまらなくて、姉ちゃんと何があんなに面白いんだと話していたんですけど(笑)。ああいう大人が普通の大人だと勘違いしてしまったんでしょうね(笑)。だんだん「普通」の大人になる道からは遠ざかっていく。

親の帰宅が遅い家だったので、姉とはよくレンタルビデオ店に行っていて、僕は大学に入って映画を作ってるサークルがあって、映画って誰でも作れるんやって、二回目の勘違いをして。姉は映画が大好きすぎて映画館で働き始めて。勘違いが今の二人を作ったといえますね」

──最後になりますが、改めて観客の方にメッセージを。
「5年間かけて、僕だけじゃなくて、ここに人生をかけて作ってきたスタッフたちが何人もいるんで、『やまぶき』をたくさんの人に見てもらわないと続かないんで、まずはそこをなんとかしたいと思っています。次回作というのはまた、沸々と湧いたら、頼まれなくても勝手に作ります。なのでぜひ、皆さんに見ていただいてご協力をお願いいたします」

やまぶき

写真:映画「やまぶき」のポスター

日の当たらない場所にさく山吹を題材に、岡山県真庭で撮られた人間群像劇。かつて韓国の乗馬競技のホープだったチャンスは、父親の会社の倒産で多額の負債を背負い、今は、岡山県真庭市で、ヴェトナム人労働者たちとともに採石場で働く。刑事の父と二人暮らしの女子高生・山吹は、交差点でひとりサイレントスタンディングを始める。二人とその周囲の人々の運命は、本人たちの知らぬ間に静かに交錯し始める――。第75回カンヌ国際映画祭 ACID部門正式出品作。

監督・脚本:山﨑樹一郎

出演:カン・ユンス、祷キララ、川瀬陽太、和田光沙、三浦誠己、青木崇高、黒住尚生、桜まゆみ、謝村梨帆、西山真来、千田知美、大倉英莉、松浦祐也、グエン・クアン・フイ、柳原良平、齋藤徳一、中島朋人、中垣直久、ほたる、佐野和宏

プロデューサー:小山内照太郎、赤松章子、渡辺厚人、真砂豪、山崎樹一郎/制作プロデューサー:松倉大夏

撮影:俵謙太/照明:福田裕佐/録音:寒川聖美/美術:西村立志/助監督:鹿川裕史/衣装:田口慧/ヘアメイク:菅原美和子/俗音:近藤崇生

音楽:オリヴィエ・ドゥパリ/アニメーション:セバスチャン・ローデンバック/編集協力:ヤン・ドゥデ、秋元みのり

製作:真庭フィルムユニオン、Survivance

配給:boid/VOICE OF GHOST

2022年/日本・フランス/16mm→DCP/カラー/5.1ch/1:1.5/97分

© 2022 FILM UNION MANIWA SURVIVANCE

★11月5日(土)より渋谷ユーロスペース、11月12日(土)より大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、元町映画館、ほか全国順次公開

『やまぶき』公式サイト

 


撮影/山崎ユミ

金原由佳 Yuka Kimbara

映画ジャーナリスト

兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。

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