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【寺島しのぶさんインタビュー】「男女間に限らず”愛する”って生きている証なんじゃないかな」

2022.11.10

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アラフィフ女優の主演映画なんて日本では滅多にない、と快活に憤慨する寺島しのぶさんは、現状を蹴散らすように50歳を目前にはつらつと輝きを増していた! そして実力と信頼で、直木賞作家・井上荒野さんの同名小説を映画化した『あちらにいる鬼』に主演。99歳で生涯を閉じた作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんをモデルとした本作で、激しい恋愛模様と出家に至るまでの心の変遷、その激動の半生を、“みはる”として、作品の中で生き切り、体現した。

男女間に限らず「愛する」って生きている証なんじゃないかな
────寺島しのぶさん

【寺島しのぶさんインタビュー】「男女間に限らず「愛する」って生きている証なんじゃないかな」

「以前から荒野さんのファンだったので、原作のエッセンスを大事にしたかったんです。“この場面は絶対に残したい”と思うシーンがいっぱいあり、荒井さんに何度もお願いしました」

大ベテランの脚本家・荒井晴彦さんとは、廣木隆一監督とともに『ヴァイブレータ』など映画作品で3人で3度目のタッグ。「こんなに書き直させたのは、お前くらいだと怒られちゃいました」と語る口調からも、互いへの信頼の厚さがうかがえる。

「また一緒にできて本当によかった。廣木さんの現場、やっぱり最高です」

みはると、同じ作家で妻子ある篤郎との男女関係は、7年もの長きに及んだ。篤郎役には、これまで何度も共演してきた豊川悦司さん。

「篤郎はどうしようもない男ですが、豊川さんが演じると、篤郎そのものに見えるのに魅力的なんです。豊川さんとは毎シーン、丁寧に撮ろうと約束して臨みました。想定以上の演技でこたえてくれるので、豊川さんにお任せすればあっという間に名シーンが生まれる。本当に楽しかったです」

だが篤郎との関係は次第に硬直し、情熱が失われていく。一方、みはると篤郎の妻・笙子との間には、形容しがたいつながりが生まれ始める。そんな3人の関係に業を煮やしたみはるは、やがて“出家”の決意に至る。

「篤郎に対しどこか飽きた気持ちもあるのに、どうしても別れられない。でも笙子を傷つけられないし、篤郎に天罰も下せない。生きながら死ぬという出家の道を私が選ぶしかない、と。3人の関係は私の理解を超えていますが、男女を超えて愛するって、“生きている証”ではないかと感じました」

剃髪シーンの前夜は、さすがの寺島さんも寝つけなかったと明かす。

「自分自身としてのザワザワもあり、みはるの今後の不安もあり。でも豊川さんからの“楽しみにしてるよ、君の坊主を”というメッセージを読んだら段々と遠足に行くみたいな気分になってきました。剃髪は一度しか撮れないので、現場は異様な雰囲気でしたが。出来上がりを見て廣木さんは、そこの場面をあえて劇的にせず、生きていく中の流れの一部として編集されていて。それが逆によかったんです。みんな懸命に生きてきて、こうならざるを得なかった、という結末になっているのが好きなんです」

さて、巷では愛息・眞秀さんの連続ドラマ出演が話題になったばかり。子育てはいたってスムーズですか!?

「親子とはいえ別人格なので、わからないことだらけ。こうやりたいという彼の気持ちを尊重しつつ、いろいろ決めています。でも決まり事だらけの歌舞伎をやりたいと思っている限り、致し方ない部分はあるんです。夫は“やりたいようにやらせる”主義なので、互いに妥協して真ん中の意見をとり、眞秀に納得してもらう。それが時間かかる!! 一方、フランスに行くとすべて個人の自由なので、気持ちが大きくなっちゃって。異なる文化を知るのも財産。日仏のハイブリッドでやってます」

Profile

てらじま・しのぶ●1972年12月28日、京都市出身。’03年、『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で国内外の賞を多数受賞。『キャタピラー』(’10年)でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)受賞。近作に『Arc アーク』『空白』『キネマの神様』(すべて’21年)。『天間荘の三姉妹』が公開中。
公式サイト:https://a-petits-pas.net/shinobu_terajima



『あちらにいる鬼』

『あちらにいる鬼』

作家同士のみはる(寺島しのぶ)と篤郎(豊川悦司)は講演旅行で出会い、やがて男女の仲に。篤郎の妻・笙子(広末涼子)はすべて承知のうえで心を乱さない。緊張をはらみつつ3人には、不思議な関係性が出来上がっていく――。’21年に満99歳で逝去した瀬戸内寂聴と、父・井上光晴の恋愛をモデルに直木賞作家の井上荒野が綴った同名小説の映画化。11月11日より全国公開。


撮影/露木聡子 ヘア&メイク/川村和枝 スタイリスト/中井綾子(crêpe) 取材・文/折田千鶴子
こちらは2022年LEE12月号(11/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。

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