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展開を追わずにはいられない心理劇『嫌いなら呼ぶなよ』綿矢りさ【書評】

2022.08.13

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『嫌いなら呼ぶなよ』
綿矢りさ ¥1540/河出書房新社

人が持っている“ある種の闇”にドキッとする一冊

『嫌いなら呼ぶなよ』綿矢りさ ¥1540/河出書房新社

本誌のエッセイ連載でもおなじみの小説家・綿矢りささん。LEEの読者とも同世代かつ、デビューした10代の頃からコンスタントに執筆を続けている彼女の、最新短編小説集が今月の一冊。

中でも表題作の『嫌いなら呼ぶなよ』は、最後まで展開を追わずにはいられない心理劇だ。主人公の霜月は、妻・楓の親友夫妻が開いた新築パーティに招かれる。主催者の萌華とその夫、そして楓と萌華の共通の友人、千尋とその家族も一緒だ。趣味のよいインテリア、萌華や千尋の子どもらも交えた庭でのバーベキュー&サプライズ誕生会と、海外ドラマみたいな演出が繰り広げられていく。

しかしパーティの後半、霜月は自分以外の大人たちから「お話しませんか?」と2階の部屋へ誘導される。そこで待ち受けていたのは、霜月が繰り返していた不倫をみんなで糾弾する時間だった——。

妻の楓や親友、その夫たちが、霜月の不貞行為を追及する言葉は正しく、そして厳しい。しかしそんな彼らの姿や自分の行いすら、どこかで俯瞰しながらスルーっと受け流す、霜月の姿を、「怖い!」と思うか、ちょっぴり共感してしまうか……。読み手の人生経験(?)がかなり試されそう!

そのほか美容整形を繰り返す女性を主人公に、ルッキズムを題材のひとつにした『眼帯のミニーマウス』、YouTuberへのファン心理をもとに、承認欲求を描いた『神田タ』など、現代を生きる人々の中に潜む“闇の部分”が次々と収められているのが本著の大きな特徴。そしてどの短編にも共通しているのが、主人公たちは、ありきたりな日常の中にいるということ。

学校を卒業して地元の会社で働いていたり、人に嫌われない処世術をもって、職場を転々としていたり……。時には本人すら無自覚なダークな部分をあぶりだしつつも、「これも人間だよな~」と思わせてしまう筆の力はさすが! また最終話の『老(ロウ)は害(ガイ)で若(ジャク)も輩(ヤカラ)』は、“綿矢りさ”というキャラクターが登場する、遊び心とシニカルさにあふれた作品。一冊に詰まったいろんな世界を、堪能して!

『おいしいルール Easy&Enjoy Cooking』
若山曜子 ¥1980/ディスカヴァー・トゥエンティワン

『おいしいルール Easy&Enjoy Cooking』若山曜子 ¥1980/ディスカヴァー・トゥエンティワン

本誌をはじめ私たちの気持ちに寄り添ってくれる料理とお菓子のレシピで定評のある料理家の若山曜子さん。新著は普段の献立を考えるときに著者がやっていることや思っていること、調理のコツなどを29の言葉に紡ぎだした永久保存版。構成は「気楽に」、そして「楽しみながら」の二本立て。作ってみたくなる献立が満載で、きっといつもの料理がより楽しくなるはず!

『今日は、これをしました』
群 ようこ ¥1430/集英社

『今日は、これをしました』群 ようこ ¥1430/集英社

映画『かもめ食堂』の原作者としても知られる著者。1980年代から物書きとして活躍し続ける彼女の暮らしぶりをまとめたエッセイ。「無理をしない」「淡々と生きる」が信条の群さんだけに、編み物、動画や音楽鑑賞、片付けなど、何気ない日常を楽しむのが上手。還暦を過ぎても自立心と好奇心を失わない姿は、「こういう年の重ね方をしたい」と思わせてくれる!



『両手にトカレフ』
ブレイディみかこ ¥1650/ポプラ社

『両手にトカレフ』ブレイディみかこ ¥1650/ポプラ社

14歳のミアは母、弟との3人暮らし。彼女が図書館で借りたカネコ・フミコという女性の自伝は、貧しさに苦しむ彼女のお守りのような存在だった。そんなミアが同級生のウィルにラップの詞を書いてほしいと頼まれることに……。育児放棄、ヤングケアラーなどの問題に触れつつ、ミアの聡明さ、生命力に圧倒される。ノンフィクション分野で支持されてきた著者の初小説。


取材・原文/石井絵里


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