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LIFE

折田千鶴子

アニメの<覇権>を巡る熱き奮闘!『ハケンアニメ!』の舞台裏を語り尽くす!【吉野耕平監督×と原作者・辻村深月さん】

  • 折田千鶴子

2022.05.20

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作者として非常に幸せを感じました

吉岡里帆さん、中村倫也さん、柄本佑さん、尾野真千子さんetc.…。豪華キャストということもあって、既に巷では話題になっている映画『ハケンアニメ!』。それだけに天邪鬼の私などは、“あ、人気キャスト先行型の映画ね”なんて穿った見方をしかけたのですが……これがどうして、メッチャくちゃ面白いのです!! 何度も笑い、熱くなり、ググッと涙が目頭にせり上がりました。声を大にして、大オススメです!!

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
5月20日(金)より全国ロードショー

アニメは子供だけのものじゃない、なんてことは既に常識ですが、こんな風に才能あふれたその道のプロたちが本気で頭を絞りに絞り、激しくぶつかり合いながら、“いい作品を作りたい”という一心で苦しみつつ作品を生み出していたなんて……。その姿や過程には、驚きと感動のツボだらけ。直木賞作家・辻村深月さんによる同名小説は、15年の本屋大賞3位にも選ばれた傑作お仕事小説です。それを見事に映像化し、“アニメって、こうやって出来上がっていくんだ~!!”と目をまん丸にしながら興奮させてくれるのは、中村倫也さん主演の『水曜日が消えた』(20)で劇場長編監督デビューを飾った吉野耕平監督。お2人に、原作小説と本作が出来上がるまでの、劇中と同様の“生みの苦しみ”を含めた、映画『ハケンアニメ!』の舞台裏を色々と聞きました。

──まずは原作者として、映画の感想を教えてください。

辻村「開始2分で、“あ、これ、瞳じゃん!!”と思いました(笑)。開始前は吉岡里帆さんを見るつもりだったのに、主人公の瞳が、私が書いた瞳なんですよ。成長物語であることは冒頭で分かるのですが、そこで期待値が上がるんですよね。後半に向けて、瞳の成長が最初から楽しみに出来るのは、やっぱりエンターテインメントの醍醐味だと思いました。また瞳の喜怒哀楽――例えば“怒り”一つをとっても、吉岡さんの中に色んな“怒りの引き出し”があって、“決して社交上手ではない人が怒ると、きっとこうなる”という、ちゃんと瞳の怒り方をしてくれていて。態度や感情の表し方などが一つ一つ、自然な形で色んな方向に出ていて、対する人によって出し方も変えられているんです。だから後半における成長が、ものすごく感じられる。視覚的にそれを見せてもらえて、作者として非常に幸せを感じました」

辻村「映画のメインキャストは4人ですが、小説は6人を中心とした群像劇です。最初、脚本チームから“瞳を主人公にしていいですか?”と聞かれましたが、もともと彼女も主役の一人なので、そのまま進めてもよかったはずなんです。だけど、そうしたことを一つ一つ細やかに相談してきてくれるくらい原作のあらゆることを大事にしてくれて、著者が伝えたかった熱量の核はズラしたくないと思ってくれているチームだと強く感じました。長い原作なので省略された部分は当然ありますが、私が残して欲しいと思っていたセリフや場面は、まったくと言っていいほど削られていなかったんです。ラストシーンに至るまで、素晴らしかったです!」

『ハケンアニメ!』ってこんな物語

堅実な公務員から一転、大好きなアニメ業界に飛び込んだ斎藤瞳(吉岡里帆)は、遂に『サウンドバック 奏の石(通称:サバク)』で、念願の監督デビューを果たすことに。クセ者だがヤリ手のプロデューサー・行城理(柄本佑)に振り回されながら、寝る間も惜しんで制作に打ち込んでいるが、なかなか上手く進まない。さらに同クールの同時間帯に、瞳が憧れる天才監督・王子千晴(中村倫也)が作る『運命戦線リデルライト(通称:リデル)』が放送されることが決定する。だが実はスランプ中の王子もまた、崖っぷちに立たされていた――。瞳監督と行城プロデューサーによる『サバク』vs 王子監督と有科香屋子(尾野真千子)プロデューサーによる『リデル』の闘いはいかに!?  タイトルの『ハケンアニメ!』とは、そのクールでの覇権(トップ)を獲るアニメ、という意味だそう。双方<ハケン(覇権)アニメ>を目指して、突き進んでいくがーー。

──映画の元となった物語を生み出すにあたって、当然、相当な取材をされたことと思いますが、どんな感じでしたか?

辻村「当初はお仕事小説を書こうという気持ちが出発点だったんです。どの業界を書くにしても取材は必要でしょうから、だったら取材して楽しいところがいいな、と。もともと私自身がアニメが大好きだったのと、どうやって作られているのか知りたい気持ちがあって、アニメ業界を選びました。とはいえ、最初はわからないことだらけ。当時は、監督以外にアニメ制作には他にどんな役職や仕事があるのかさえよく知りませんでした」

辻村「原作の連載担当の編集者が、Production I.G(『攻殻機動隊』などで知られるスタジオ)にたまたまお知り合いがいるというご縁から取材を申し込んでくれ、制作進行のプロデューサーさんとお会いしました。次に、その方から次の取材対象の方を紹介していただいき、次はその方からまた次へと……わらしべ長者のようにどんどん繋がっていって(笑)。そうしたら今回、なんと、最初に紹介していただいたProduction I.G.のプロデューサーである松下慶子さんに本作の劇中アニメを担当していただけることになりました。最初は違う業界からお邪魔するという気持ちで心細くはじめた取材でしたが、今はともに作品を作る仲間として戻ってこられたのだと、深く感動しています。自分の書いた小説に夢を叶えてもらえた気持ちです」

──監督は途中からこの企画に参加されたわけですが、実は監督としてオファーされる前から、小説『ハケンアニメ!』の映画化を目論んでいたそうですよね。なんという偶然か奇跡、みたいな話ですね!

吉野 耕平
1979年、大阪府出身。『夜の話』(00)がPFFで審査員特別賞を受賞、『日曜大工のすすめ』(11)が第16回釜山国際映画祭ショートフィルムスペシャルメンション受賞。CMプランナー、MVディレクターを経て、CGクリエイターとして『君の名は。』(16)に参加。『水曜日が消えた』(20)で劇場長編監督デビュー。

吉野「僕もアニメ業界にすごく興味があったので、アニメのドキュメンタリー番組を見たりしていたのですが、今ひとつよくわからなかったんです。ところが辻村さんの原作には、それが見事に書かれていて。例えば、僕らと同年代のアニメに関わっている人の生活や考えなどが、とても地に足着いた形で描かれていて、自分のすぐ隣にある世界の仕事として、すごくリアリティを感じられたんです。それがすごく面白かった。僕がこれだけ面白がれるのだから、みんなもそれを観たいに違いない、と感じたんです。もちろん、この原作小説が書かれる以前にも、アニメ業界ものは何かしらあったとは思いますが、ここまで“自分のことだ!”と共感させてくれるくらい、噛み砕いて語ってくれた作品はなかったな、と」

辻村「嬉しいです! 原作を書いた私でも、この映画は観たときに、“なるほど、こういうことだったのか!”と思える点が随所にあるんです。後から聞いたら、吉野監督は私が取材をしてきた人たちやスタジオに再度、改めて取材をしてくださっていたんですよね。私が話で聞いて頭で再現していたものを、圧倒的な細部のリアリティーを伴った映像で見せてもらえたので、とても興奮しました 」

憧れのアニメ監督、王子を演じるのは中村倫也さん。互いに火花を散らしながら、互いの才能をリスペクトして互いを応援し合っている、みたいな2人の関係性や相互理解が、ちょっぴり羨望しつつ、すごくいいんです!

──監督のプロフィールに『君の名は。』(16)にCGクリエイターとして参加したとあるので、もともとアニメ業界に詳しいから本作を手掛けたのかと思ったら、違うのですね⁉

吉野「違います。アニメに関わったり、自分でCGを手掛けたりはしていますが、“テレビアニメ”というのは、また特殊な世界なんです。その他として、“アートアニメ”やNHKの子供向け番組のアニメやCMやMVなど“ショートアニメ”ともいうべき広い裾野が広がっているのですが、僕はそっち側の世界に居た感じです。(『君の名は。』の監督)新海(誠)さんも、元々はショートアニメ的なゾーンから、“映画アニメ”に入っていかれたように思いますが、テレビアニメや映画アニメというのは、すごく憧れでもあり、特殊でもあり、なかなか飛び込めない世界なんです」

監督って、何!?

──取材を通して驚いたことは多々あったと思いますが、小説に取り入れたこと、且つ映画にも描かれているのは、どんなことでしょう?

辻村「制作現場において、監督が一番偉いわけではないのか、ということですね(笑)。ファンとして接していると、監督という王様みたいな人がいて、その監督のもと統制された制作スタッフが作っているというイメージがあったんです。ところがいろんな監督にお会いするうち、監督もスタッフの一人という認識でいる方がとても多かったんです。吉岡さんが演じた新人監督の瞳が、まさにそうですよね。例えば冒頭、“ラッシュ(未完成版のチェック用映像)入りま~す”と言われたとき、監督がみんなを率いて観に行くわけではなく、みんなに揉まれながら肩身が狭そうに最後からついていく、という場面があり、そこで<監督・斎藤瞳>とテロップが出るのですが、その瞬間、“そうそう、私、コレが書きたかったの!!”と思いました(笑)」

辻村 深月
1980年、山梨県出身。04年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。12年「鍵のない夢を見る」で第147回直木三十五賞、18年「かがみの孤城」で第15回本屋大賞を受賞。映像化作品に、『ツナグ』(12)、『朝が来る』(20)など。最新刊は、『ハケンアニメ!』のスピンオフ小説集『レジェンドアニメ!』。

辻村「瞳は新人なので自分がやりたいことを上手く伝えられなかったりしますが、特に瞳が至らないからではなく、どの現場でも最初はそうだと思うんです。アニメはチームで作ることが前提なので、どれだけカリスマ性がある監督さんでも、初めての新しい現場に入ると、上手くチームが回るまでは、どこも不協和音があるものだと取材を通して感じました。その中で、シリーズ最終回までに、どれだけチームの関係を密に出来るか。王子の、“基本、監督は何かをお願いしなければ何も進まない仕事だから”というセリフが映画でも使われていますが、あの言葉に代表されるようにアニメの制作現場は単純な上下の関係ではないんですよね。だから映画の冒頭で、そういうアニメ監督の認識をきちんと可視化してくださっていて、嬉しかったです」

実はスランプで崖っぷちの天才監督・王子。いきなり行方不明になり、尾野真千子さん扮するプロデューサーは、怒るやら心配するやら…。そんなプロデューサーと監督の関係性も、とっても魅力的!

──アニメ監督になろうと奮闘する新人監督を吉野監督が描くという、二重構造になっているのがまた面白いですよね。

吉野「最初は瞳のことを、“そうそう、あるよね、新人監督にはそういう大変なこと”なんて思っていましたが、途中から“あれ、自分より瞳の方が、どんどんいい監督になっているぞ”と思い始めました(笑)。瞳はどんどん成長していくけれど、僕はあまり成長できていないな、と。でも、僕が“こうあって欲しい”と思う理想像になってくれました。人の力を上手く引き出すことができつつ、その上で揺るぎない何かがある、そんな監督になってくれました。いつか自分も、そんな風になりたいな、と思ってます(笑)」

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辻村「吉野さんは、現場で吉岡里帆さんと、“監督って何だろうね”という会話をされていたと伺いました。お2人で、“監督とは何か”ということを、それぞれの角度から深く探って瞳を作り上げてくれたんだな、と感謝を覚えます。小説家の私にはない視点だったので、すごく面白かったです」

吉野「終盤で制作チームのみんなを説得するシーンについても、瞳はどんな頼み方をするのか、吉岡さんとかなり2人で話し合いました。例えば、“やりませんかね~?”と様子を見るように言う人もいれば、“やりますっ!”と言い切る人もいるだろう、と。上手いベテラン監督なら、日頃から人間関係を上手く作っておいて、“出来ない?”とフワッともっていける、とか。でも瞳は新人で、そこまで上手くできないから、みんなの目を見て“自分はこれを信じている”と伝えるのが相応しいんじゃないか、と。瞳のお願いの仕方や、その時の姿についてかなり話し合いました」

辻村「そのシーンも本当に素晴らしかったです!」

新人監督vsゲスト声優の闘い

──アフレコの収録で、瞳がアイドル的人気から起用された声優にダメ出しを繰り返し泣かれるシーンは、いたたまれないやら、面白いやらでした(笑)。

吉野「原作では、文章でとても繊細に気持ちが描かれているので、彼女たちの気持ちはよく分かっているのですが、映像はどうしても第三者的な視点になるので、あの冷戦状態の嫌な感じや空気をどう出そうかな、と色々考えました。互いに悪気はないけれど、でも互いに不信感があって上手くいかない。とはいえ、僕らの現場ではよくあることなので(笑)、それをこの現場で出そう、と」

辻村「え、よくあるんですね(笑)!?」

吉野「よくあります(笑)。表面上は丁寧な言い方だけど、裏にちょっと棘がある感じとか。今回は、ガラス越しにマイクで瞳が演出を付けますが、声優がセリフを言い切る前に“ダメです”と言っちゃったり。僕としては、つい言っちゃう新人監督側の気持ちや、その苛立ちもよく分かるし、一方で、何度も繰り返しやらされた後に、言い終わる前に「ダメ」とやられたら、“うっ(泣)”となってしまうのも分かる(笑)。双方の気分を伝えられたらいいな、と思いながら撮っていました」

コチラが、瞳チームが作っている『サバク』。漂うノスタルジックな空気や、淡く美しい絵の奥行きに吸い込まれそう!

──劇中、『サバク』と『リデル』というアニメを2本、結構ガッツリ見せてくれるのも、また大きな見どころになっています。瞳と王子の個性が出ているアニメ作品をビジュアル的に見比べられるのも楽しいですが、制作進行中の2作のアニメを絡めて、制作現場の人間ドラマを活写するというのは、なかなかバランスを含めて難易度が高かったと思います。

こっちが、王子チームが作っている『リデル』。絵のタッチや色の使い方も対照的です。ガンガンに攻めてくるスピード感がスゴイ!

吉野「確かに、劇中のここでは第1話の仕上げで揉めていて、一方でそのあとには脚本家と第6話のシチュエーションで揉めていて、みたいに劇中アニメの制作スケジュール感と人間ドラマが、ある程度リンクしなければならないので、そこは少し苦労しました。例えば“私たちって誰と闘っているのかな?”というジャングルジムのカットなど、なんとなくドラマにおける心情と重なってくれたらいいな、とか。また瞳と声優が揉めた後に、“格段に良くなった”という場面では、それを感じさせられるアニメのシーンが欲しいなど、人間ドラマと劇中アニメが上手く嚙み合い、互いに補いあって欲しくて。辻村さんに全12話分×2作のプロットを全部丸々作っていただいたので、補うことができましたが、それなくしてはほぼ不可能だったかと思います」

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辻村「そう言っていただけて良かった~!! まさか、プロットを全部書くことになるとは思っていませんでしたが(笑)」

吉野「王子の方もギリギリまで悩んでいたりして、でもあのスケジュール感からすると1話まるまる作るのは不可能だろうから、最後の10分間くらいの、この展開で悩んでいたんだろう、とか色々合わせたりしましたね」



ものづくりの原点にあるもの

──ラストは、映画独自の終わらせ方ですね。

吉野「映画は瞳を主人公にしているので、王子 vs 瞳の対決が終わった後に、瞳の気持ちで終わっていくラストがいいな、と思いました。どこにでもいる人が実はアニメを作っていて、どこにでもいる普通の人が監督になっていく、ということを描いたというか。それが、あのベランダのシーンです」

辻村「あのシーン、最高でしたよね……!! 監督があそこをラストにしてくれたことが、私は本当に嬉しくて……。本作は、観たら元気になれるし、この先どうなるのかと惹きつけられる “ザ・エンタメ”の映画です。そこまでも、大きな動きのあるシーンがあったり、盛り上がる展開をいくらでも最後に持ってくることができたはずなのに、それを、瞳のあのベランダで終わらせる吉野監督のセンスの良さよ……(笑)。世の中を巻き込み、ブームを作るアニメの熱量は莫大だけれど、アニメってあくまでも個人的な楽しみであり、個人的に影響を受け、個人の胸に刺さったかどうであるということを、最後まで見失わない作品になってくれていた。ものづくりをしている一人としても、グッときました。なぜ自分がこの原作を書きたかったのか、映画によって明瞭に可視化されたと感じています。まずは、チームでものづくりをすることを書きたかったというのと、そしてもう一つの柱として、物語や作品に人が救われるってどういうことなのかを書きたい作品だったんだな、と。あのラストシーンを見て、吉野監督とはその点で通じ合えるものを感じました」

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──間違いなくエンタメ作品なのにベタではない、というのが素晴らしいですよね。

辻村「そう、観る人のことを、すごく信頼してくれている場面がいくつもあるんですよ。アニメーターの並澤和奈(小野花梨)と公務員の宗森周平(工藤阿須加)2人のシーンでも、小説のモノローグで書いたみたいに、言葉に出しちゃってもいいと思いつつ、それを言わずに演技と表情その他できちんと観客に伝わる場面があります。また和奈が“デートが中止になってヒドイヒドイ”と言いつつ、いざ描き始めると、スッとプロの顔になっていく瞬間とか。監督がおっしゃったように、普通の人たちが自分の生活を送る中で、同時に第一線のプロであるということを、こんな風に見せてくれるんだ、と。脚本を読んで想像していた以上に、俳優さんたちの力や監督の演出の力を強く感じました」

──演技派の俳優さんが揃っていますが、現場では俳優たちとどんな距離感で演出をつけたのですか。各人によって変える感じですか?

吉野「できるだけ近くで演技を見てはいますが、みなさん上手なので、僕が役や映画にはめ込むというよりは、脚本や衣装や現場のセットなどから空気を掴んでもらって、あとは互いにセッション的にやって欲しいな、と思っていました。僕は、映像としてのその切り取り方を考えていくタイプだと思います。元々映画畑の人間ではないので、他の監督の芝居の付け方をさほど知らないのもあり、自分なりに話し合いながらやっていただいた感じです。リハーサルもさほど重ねることなく、吉岡さんはじめメインキャストの方々の空気感で引っ張って行っていただいた、それが(いい演技やいい瞬間を)生んでくれたのかな、と思っています」

バラバラだったチームがまとまっていく感じ、その一体感に熱くなります。それまでの、ぶつかり合いも面白くて(笑)! いるいる、こういう人~って描写も妙味!

──本作は小説以上に“チーム”内のいざこざや人間関係が面白く描かれていますが、本作を通して同じモノづくりをされる人間として、どのようなことを感じましたか?

辻村「執筆中も感じてはいましたが、改めて映画を観て、作中のみんなと比べると、小説家ってなんて気楽なんだろうと思いました(笑)。小説は、一人で書く分、孤独もありますが、自由度が高いし、クオリティーについての責任もある程度自分でとれる。とはいえ私にも、チームを組んでくれる編集者たちがいて、彼らからもらう影響は計り知れないものがあるんです。だからこそ、より広いチームとして、この小説を書いてみたくなったんだとも思うんですけど。それが今、こうして映画という形になって、そのチームに自分も入れたんだなぁ、と思うと不思議な感動があります。「ハケンアニメ!」には本当に夢をいくつもかなえてもらいました」

吉野「僕も今回は初めての原作ものであり、人が書いた脚本を監督する現場だったので、“チーム”ということをすごく意識した作品でした。自分では思いもよらなかった切り取り方や構成の脚本をいただいたのをはじめ、チームの力で、自分の力以上の素晴らしい作品になったと思っています。“どんな映画もドキュメンタリー映画である”とは時々聞きますが、まさに本作は現場でのセッションによって合わさった力が形になった作品です。例えば行城ってこんな風に喋るんだとか、現場で初めて目の前に現れてくるので、すごくスリリングで楽しい時間を過ごしました。本作を、そういうチーム戦の映画として作れたのが、すごく楽しかったです」

隠れ主役ともいえる存在感の行城。一見ヤな奴そうで、実は……というのがたまらない! 相変わらず佑さん、最高です。

──柄本佑さんが演じた行城には、実はかなり萌えました! カッコいいし、ツンデレだし、でも、実はすごく熱いハートの持ち主で。

吉野「わははは(笑)!!」

辻村「そうなんですよね、登場がすごく楽しみになっちゃう。行城、次はいつ出てくるんだろう!?って(笑)。気づくとつい目で追ってしまっていました」

吉野「行城が(アニメのタイトルの)『サウンドバック』と書くシーンがあるのですが、あの時、途中で行城がボソッと“星を入れちゃえ”と呟きながら、『サウンド★バック』と、★を勝手に入れて書くんですよ。あれ、脚本にはなかったんです。僕は、行城という男をもう少し真面目な人かと思っていたのですが、その時に、“面白い奴だな”と思ったんです。それが映画の行城なんだな、と。また“じゃ”と去って行った行城が、廊下からニュ~ッと顔を出したり。そういう自分からは出てこない、予期せぬことや偶然の産物が、どんどん生まれた現場でした」

──エンドクレジット後のおまけも、柄本佑さんのアドリブですか!?

辻村「あれ、本当にいいですよね!」

吉野「いえ、“ジャンプ”とだけ書いてありました。でも、どんな風にジャンプするかは、何も書いていませんでした」

辻村「しかも、高いよね、あのジャンプ」

吉野「僕も、佑さんがやってくれるまでは分からなかったので、楽しみにしていたんです(笑)」

それで、出て来た“あのジャンプ”!! 心をフワッと軽くさせてくれる、それによって後味が深まる絶妙なジャンプがどんなものかは、劇場で確かめてください。エンドクレジットが始まっても、席を立たずに最後までご覧くださいね。

アニメの監督がどういうことをするのか、考えているのかなど、初めて知ったことも多かったですが、それ以上に私は個人的に、プロデューサーという立場や仕事の面白さ、監督との関係ーー絆や葛藤、信頼関係や愛憎などがとても面白くて惹かれました。今度、プロデューサーの悲喜こもごもを描いて欲しいくらいです。付け足しのようですが、もちろん中村倫也さん、尾野真千子さんの演技の上手さは言わずもがな、魅力もハンパないです。小野花梨さんの上手さ、工藤阿須加さんの魅力もはじけてます。『ハケンアニメ!』、胸が熱くなる必見作。是非、劇場で!

ちなみに原作小説もすっごい面白さ。特に映画にはない最終章で、恥ずかしながら私、電車の中で泣きました! 大きなカタルシスも待っています。未読の方は映画を観た後に続けて、小説もどうぞ!!

映画『ハケンアニメ!』

22年/日本/128分/配給:東映

監督:吉野耕平 原作:辻村深月

出演:吉岡里帆、中村倫也、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、六角精児、柄本佑、尾野真千子

映画『ハケンアニメ!』公式サイト

撮影/山崎ユミ

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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