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「母と私」の心地よい距離感

【安藤桃子さん・和津さん『母と娘の距離感』】「母への反発心・違和感は、自分の本心に気づくチャンス」

2022.05.22

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ありがたいときも、難しいときもあるけれど…「母と私」の心地よい距離感

かけがえのない存在である実母。だからこその遠慮のなさや近すぎる距離感に戸惑うことも…。母親とよりよい関係を築くためにできることを、あらためて考えてみませんか?

今回は、エッセイスト・コメンテーター・安藤和津さん&映画監督・安藤桃子さんのお二人に母と娘の距離についてお話を伺いました。

お話を伺ったのは?

映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん

映画監督 安藤桃子さん

1982年、東京都生まれ。映画監督。代表作に『カケラ』『0.5ミリ』など。2014年第1子を出産し、高知県に移住する。最新エッセイ集『ぜんぶ 愛。』(集英社インターナショナル)では、高知県での自然と人々の愛に囲まれた生活や、家族、育児について綴っている。
ぜんぶ 愛。(集英社インターナショナル)

Instagram:momokoando
Twitter:momokoando

エッセイスト・コメンテーター 安藤和津さん

1948年、東京都生まれ。エッセイスト・コメンテーターとして活躍。1979年に俳優・映画監督の奥田瑛二さんと結婚。著書に、母の介護と自らのうつ病の顛末を記した『〝介護後〞うつ 「透明な箱」脱出までの13年間』(光文社)など。

Twitter:office_kazz
公式サイト:http://officekazz.co.jp

桃子さんが仕事で東京へ、入れ替わりで高知へサポートに

ともに活躍を続ける安藤さん母娘。東京と高知で離れて暮らしながらも、愛情深いつながりを保っている秘訣を聞きました。

約8年前、映画のロケをきっかけに高知県へと移住した安藤桃子さん。母である安藤和津さんは、桃子さんが安心して仕事に打ち込めるよう、できる限り高知を訪れてサポートをしているそうです。
映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん Momoko ando Kaze ando

「忙しいと母が駆けつけてくれて、なんでも聞ける安心感がありがたい!」(桃子さん)

「後悔しないよう仕事は目一杯して。育児はいくらでも手伝うから」(和津さん)

桃子 母は高知と東京という遠さを感じさせず、心理的には“スープが冷めない距離”かのような、いい関係性を保ってくれています。

和津 例えば「今週、東京で仕事があるんだけど、娘の学校があるから東京には連れていけない。どうしよう」と連絡があったときは私が高知に行って、入れ替わりで桃子が東京に来ればいいじゃない?と提案しました。

私もそうでしたけど、30〜40代って仕事の波がいい感じのときなのに、子育てと重なって悩む時期。気持ちがよくわかるのよね。後悔しないように、仕事は目一杯やればいい。私の手が空いていれば飛んで行くわよ、と。

桃子 母の前向きな気持ちのおかげなので、感謝しかないですね。

和津 だって、孫と一緒にお風呂に入ったり、絵本を読んだりしていると、自分の子育て時代にタイムスリップしたみたいで楽しいんです。桃子は本当に想定外のことばかりする子だった。

しかも忘れ物が多くて、通学に使っていたバスにしょっちゅうランドセルを忘れてきて、毎回バスターミナルまで取りに行ったり、朝なかなか起きなくてやっと送り出したと思ったら玄関で寝ていたこともあった(笑)。

桃子 実は今も変わっていません。よりによって娘の運動会の日に私が寝坊して、遅刻しかけてしまい、「ごめーん!」って私が泣きながら送り届けたことも…(笑)。

和津 寝坊ぐらいで命は取られないから大丈夫! 私は途中からその境地に達しました(笑)。一般常識として、一応叱ってはいましたけどね。

桃子 母は感情的に怒ることがほとんどなくて、ルールにとらわれすぎないところはすごいと思う。

和津 覚えているのが、学生時代、期末テストの前日に、どうしても見せたいイベントがあって。娘たちにもいい経験になると思って誘ったんだけど、「勉強しないと」とさすがに2人とも抵抗したのよね。

桃子 かなり自由に発想するタイプの私でも、学校のルールには従わないとヤバいぞ、と思い込んでいた。でも、結局出かけて、その思い出は今でもすごく心に残ってる。

和津 成績はいつでも取り戻せるけど、そのときにしか経験できない感性の学びって一生ものだから。

桃子 母の影響で、私も育児をするうえでこの考え方は大事にしていて。子どもの人生を少し俯瞰して見て、その子にとって今後何が大切かで選択をしたいなと。

自分が母親になってからは、物理的にはもちろん、気持ち的にもお母さんに救われることばかり。悩んだら、Google先生ならぬ和津先生にすぐ聞ける(笑)という安心感がとてもありがたいです。

母への反発や違和感は自分の本心に気づくチャンス

和津 もともとうちの家族のスタンスとして、まめに連絡を取るし、よく話をするんですよ。

桃子 私のロンドン留学中も、人種差別でつらい目にあっているときに母と電話で話したら異変に気づいて、飛んできてくれたんです。

和津 私が2日間ぐらいしかロンドンにいられなかったんだけど、その2日間で転校したのよね。

桃子 母とのコミュニケーションの中でよかったなと思っているのは、重要な用事がなくても、一瞬でもいいから連絡を取り続けていたこと。「もしもし、今何してるの?」「スーパーに行くところだからまたね」とかでもいい。特別な会話じゃなくて、日々の温度感を共有してきたことが、大きな宝になっていく。何か異変があるときは、敏感に感じ取れるんです。

和津 言葉じゃないのよね。空気感で察するものだから。
映画監督安藤桃子さん

「何気ない会話で温度感を共有していたから、私の異変に気づいてくれた」(桃子さん)

桃子 でも、わが家は話し合いも多いよね。何かあると家族会議を開くんです。私が留学したいと言いだしたときも、なぜ行きたいのか、留学で何がしたいのか。答えられないことはもう一度考えてみようと。もしくはそれを引き出すまで、両親が根気よく付き合ってくれます。ただ、母は娘たちのやりたいことを自分の価値観で判断する人ではないので、基本は全肯定で、応援してくれます。

和津 私の母親がすごく強い人で、母の価値観=自分の価値観のようで、苦しい時期があったんです。母の圧がすごかった分、自分がされたことを繰り返したくなかったの。とはいえ、知らず知らずのうちに親は圧をかけてしまいがち。私がしてほしいと思うことを、強く言ってしまっているかもしれないなと思うことはありますよ。
エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん

「私自身が母の価値観の圧に苦しんだ。娘には繰り返したくないなって」(和津さん)

桃子 それって娘からすると自分の本心に気づくチャンスかも。お母さんだったらこれをやってほしくないだろうなと頭をよぎっても、それでも自分はやりたいと感じるならば、それだけ自分にとって譲れない大切なことなんだと。

母の価値観と異なるから最初は違和感を感じるけれど、その瞬間こそが自立のタイミングとも考えられる。映画なら、「さぁ、ここから旅立つぞ! 自立のときだ!」ってひと目でわかるシーンだと思います。

和津 あなたの感覚って本当に独特よね。私昔から、桃子の脳の中を覗いてみたいと思ってるんです。

桃子 (笑)

和津 桃子が感じたものを脳の中でどう処理して、こういう形で出てくるのか…。わが子ながらおもしろいな、不思議だなと、客観的に見ているところがありますね。



久々の共同生活でケンカも。そのままにせず向き合って

映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん

コロナ禍の始まった約2年前、たまたま映画のロケハンで高知を訪れていた両親が、事務所からの指示でそのまま桃子さんの自宅に留まることになり、2カ月半ほど共同生活をしたのだそう。久々の密な距離感に、あらためて気づくことも多く、家族ゲンカも勃発したとか!?

和津 私、家出しましたからね! この人たちは、家事を全部私に丸投げなのに、感謝もない!と頭にきて。荷物をまとめて家出をして、数日間ホテルに泊まりました。

桃子 私も父も勝手で。それだけやってもらっておきながら、「大変ならお母さんもやらなきゃいいじゃん」とか言っちゃった。それは怒りますよね。

和津 マスクしてキッチン用手袋して買い出しに行って消毒しながら、酒飲み用やら孫用やら好みの違う料理を1日3食作るのに疲れちゃって…。

桃子 久しぶりにまとまった期間一緒に生活していたら、いろいろな気持ちが浮かび上がってきた。どんなフライパンを使うかとか、冷蔵庫のどこに何を置くかとか、生活のリズムひとつとっても、家族それぞれに違う。どんなに親密な家族でも、世代も違うし。

でも、もめ事だけで終わらせないのが大切で。丁寧に心を開いていったら、お互いをもっと知ることができたから、あの日々があったことで、今すごくスムーズ。子育てについてもなんでも、以前より一層うまく連携プレーができていると思います。

和津 子どもがいるとまた空気も変わりますからね。孫に、私はずっと料理してるから“キッチン女”、桃子は外で仕事の電話ばかりしてるから“ベランダ女”とあだ名をつけられて、大笑いしたりして(笑)。たまにぶつかっても、家族ってそんなものなんだと思います。

安藤さん 母と娘の距離の取り方 Our Rule

ささいなことでも連絡し合うことで、様子がわかる

何かあるごとに家族会議。思いをとことん話し合う

ケンカだけで終わらせず、お互いを知るきっかけに

母娘Photo

映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん

桃子さんの幼少期。「本当に野生児で、小学校の6年間、毎日忘れ物をしていました(笑)」
映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん 七五三

七五三にて。桃子さんの娘さんの帯は、和津さんが7歳で締めていたものだそう!
母も頻繁に訪れる高知の自然豊かな生活 映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん

娘さんと、つつじの蜜を吸ってみた様子。
映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん ラジオ収録

高知で桃子さんの出演するラジオ番組に、和津さんも時々ゲストで登場。
映画監督安藤桃子さん エッセイスト・コメンテーター安藤和津さん 味噌作り

桃子さんが力を入れている味噌づくり。母娘3世代で手作業を。「家族で食卓を囲むことは大事にしていて。〝おいしいね〞と言っているときはしみじみ幸せを感じます」

他にも「『母と私』の心地よい距離感」を公開中!

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次回は「『母と私』の心地よい距離感『平野ノラさん インタビュー』編」をご紹介。

撮影/柴田フミコ ヘア&メイク/宮沢かおり(安藤和津さん) スタイリスト/高橋直子(安藤桃子さん) 取材・文/野々山 幸(TAPE)

※商品価格は消費税込みの総額表示(2022年5/7発売LEE6月号現在)です。

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