Vol. #
129

2026年4月20日~26日の7日間、イタリア・ミラノでは「ミラノデザインウィーク」が開催されました。これは、大きな展示会場・Fiera Milano(フィエラ・ミラノ)で行われる家具とインテリアの展示会『ミラノサローネ』の期間中、街そのものが会場になるデザインのお祭り。“サローネの外”という意味の『フォーリサローネ』と呼ばれる所以もここにあります。
今回は、私が毎年必ず訪れる「ロッサーナ・オルランディのギャラリー」の様子を通して、ミラノデザインウィークの魅力をご紹介したいと思います。
数多くの世界的デザイナーを発掘してきたロッサーナ・オルランディ
4月のミラノは、湿り気のないカラッとした空気が心地よく、バスやトラムで移動しながら、地図を片手に街を歩く時間こそがいちばんの魅力です。中でも世界中のデザイン好きが集まる「ロッサーナ・オルランディ」のギャラリーは、まるで迷路のような建物と、豊かな緑に囲まれた中庭が印象的で、私自身も毎年訪れるのを楽しみにしている場所です。


ところで、「ロッサーナ・オルランディとは?」と思われた方も多いかもしれません。彼女はファッション業界で30年活動したのち、2002年にギャラリストへ転身。ミラノのプロフノフニッチ社の元ネクタイ工場を買い取り、そこをギャラリーとして生まれ変わらせました。
大きな白縁の眼鏡がトレードマークで、誰よりもファッショナブル。そんな彼女ならではの直感と“エモーショナルな選択”が、これまで数多くの世界的デザイナーを発掘してきたのです。
元ネクタイ工場ならではの空間と光を生かした見事なキュレーション
ロッサーナ・オルランディのギャラリーは、ただの展示空間ではありません。過去の記憶を抱えた建物が、未来のデザインを受け止める場所。元々ネクタイ工場だった建物には、年月を重ねた壁や床、天井の高さ、そして光の入り方までがそのまま残されています。
部屋ごとに温度が違い、廊下の狭さと広がりのリズムが、歩く人の感覚を変えていく。また、中庭から差し込む柔らかな自然光、奥の部屋に落ちる深い影、そして地下に広がる人工光。空間と光の質が変わるたびに、作品の表情も変わり、まるで“光が作品の人格を決めている”かのようです。
ガラスや透明素材は光が揺れる部屋へ、彫刻的な作品は影の深い空間へ、実験的な作品は密度の高い地下へ。空間の記憶と光の方向性が、作品の居場所を決めている。 それが、このギャラリーならではの魅力です。
たとえば、地下へ降りていくとそこには、ワイヤーで形づくられた馬のような動物が静かに佇み、その前のソファにはアニマル柄のクッション。
生の記憶と空間の記憶が、静かに呼応しているようでただただ眺めていたくなります。
その隣の一室。渦巻き状のヒーターは、かつて工場の実用的な設備だったものが、今では空間の“記憶”を象徴するオブジェとして存在していて、その前に置かれた椅子——コンクリートの脚と鮮やかなオレンジの張地、緑のクッション——が、まるで「過去と現在の対話」を演じているように見えるのです。


キュレーションを務めるロッサーナさんの感性で作品と居場所を見事にマッチさせている様子に毎年感動してしまいます。







今年のキーワードは「ドア」
光に導かれるように歩いていくと、今年はあちらこちらに“ドア”が置かれていました。作品ごとに異なるデザイナーが関わっているはずなのに、奇しくも“ドア”という共通項でつながっていた今年の展示。それはキュレーターであるロッサーナさんの今の気分、そして時代が求めているものの表れなのかもしれません。
「この先に何があるのだろう」という期待を生む“境界の装置”のようで
迷路のような建物とこの“ドア”のモチーフが重なり、まるで物語の入口になっていたように感じました。
ドアに高精細の液晶をはめ込み、明るいビーチでバカンスを楽しむ様子を動画で見せているものもあれば、ドアを開けるとそこに鏡の世界が待ち構えていて異空間へとつながる驚きがあるものまで。多種多様なドアにワクワクした気持ちでいっぱいになりました。





「FUTURE MEMORIES」——日本の山水 × ロベルト・シローニ
そして今年のハイライトが、日本の老舗木工メーカーである“山水”のためにイタリアのデザイナー、ロベルト・シローニがデザインした彫刻作品のコレクション「FUTURE MEMORIES」でした。
これは古民家が取り壊され、無個性な住宅ユニットに置き換えられる前に回収された木材の梁を用いたプロジェクト。人間と自然の共存に根ざした日本の民俗建築の哲学的・文化的意義を、現代のデザインとして際立たせています。
時を経て風化した手彫りの木製梁は、精緻で厳密な研磨鋼の表面に鏡のように映し出されて、見る角度によってさまざまな表情を見せています。自然と人工物が見事に融合して、凛としてそこに存在する様子に心を打たれました。「その日の天気や訪れる時間によっても刻一刻、表情を変えるんですよ」という山水の方の言葉が心に残っています。
山水の静けさと、シローニの考古学的デザインが出会うことで、過去と未来、自然と人工、記憶と想像が溶け合うような展示が生まれていたように感じました。


デザイン:ロベルト・シロニ・スタジオ
制作:サンスイ
プレゼンツ:ガレリア・ロッサナ・オルランディ
ロッサーナ・オルランディのギャラリーを初めて訪れたのは2018年のことですが、毎年未来へと続く扉をそっと開けてくれる場所だなと感じています。
家具や照明、インテリアなどの新作の発表というだけではない、フォーリサローネの楽しみとは、こんなところにあるのではないでしょうか。今回ご紹介したのはギャラリーのほんの一部です。
まだミラノデザインウィークに足を運んだことのない方もぜひ一度、デザイン散歩を満喫してみてはと思います。

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