金原由佳さんの「エンパワメント映画館」

伯父と甥の遠慮なき子育て最前線。『カモン カモン』 の天才子役、ウディ・ノーマンインタビュー

13歳でイギリスアカデミー賞、助演男優賞候補に。天才子役ウディ・ノーマンのホアキン・フェニックス相手のアドリブ演技を堪能

子育てをする中で、自分の想像を超える感情の発露や行動の飛び跳ね方をする子供に直面して、戸惑ったり、激したり、怒ってみたり、時には泣いたり、落ち込んだりしました。うまく対処できたことはあまりなく、専門書を読んだり、教育関係のスペシャリストに会ったり、先生と言われる人と対話を積み重ね、ヒントをもらったりもしました。

そこで得た子供との接し方や声掛けはたしかに参考になったのですが、本当にどうしようもない状況に陥ったときに頭によく浮かんだのはマイク・ミルズ監督が自身の家族にアイディアを得て作った映画でした。『サム・サッカー』を筆頭に、家族なんてうまくいかなくて、すれ違って当然だよ、とポンと肩を軽く叩かれるような作品なのです。

最新作の『カモン カモン』もまた、順調とは言えないある家族を優しい眼差しで見つめた作品でした。主人公はホアキン・フェニックス演じるラジオジャーナリスト、ジョニー。NYを拠点に、彼はアメリカ中の9歳から14歳までの子供たちを取材で訪ね歩き、そのビビッドな声を届ける番組を制作しています。

ある日、亡き母の終末期のケアをきっかけに疎遠となっていた妹からSOSの電話があり、彼女の9歳の息子、ジェシーの面倒を依頼されます。仕事柄、子供と接することに慣れているジョニーですが、繊細で、こだわりも強いジェシーの対応には苦労の連続。愛情を試すかのようなジェシーの挑発的な行為に振り回され、いつしか大人の仮面をはぎ取り、ジェシーと真剣に感情をぶつけ合うことに。

と同時に、ストレートに懐へと入り込んで、日々の事柄から哲学的なことまで様々な問いかけをしてくるジェシーとの対話を通し、子育ての深淵に触れていきます。

この厄介で、面倒くさくて、でも最高に愛らしいジェシーを演じたのがイギリス人のウディ・ノーマン君。今作での溌溂とした演技で第75回英国アカデミー賞の助演男優賞候補となり、翌々日に授賞式を控えている中で、このリモートインタビューが実現しました。頭の回転の速さは最初の質問への返答で実感したのですが、見た目の子供らしさとギャップのあるクレバーの受け答え、どうぞ、楽しんでください。

ウディ ノーマン
©Maggie Shannon

●俳優/ウディ・ノーマン (Woody Norman)

2009年生まれ、イギリス出身。2015 年にTVドラマ「法医学捜査班 silent witnessシーズン 18」にて俳優デビュー。ドラマ『ホワイト・プリンセス エリザベス・オブ・ヨーク物語』(17)、『トロイ伝説:ある都市の陥落』(18)、『風の勇士 ポルダーク シリーズ5』などに出演したほか、ベネディクト・カンバーバッチ主演作『エジソンズ・ゲーム』(19)では主人公の息子役を演じた。本作のジェシー役では英国アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたほか、ロンドン映画批評家協会の若手イギリス/アイルランド人俳優賞、ワシントンDC映画批評家協会賞のベスト・ユース演技賞を受賞。今後はアンドレ・ウーヴレダル監督作『Last Voyage of the Demeter(原題)』、サミュエル・ボーディン監督作『Cobweb(原題)』の公開が控える。

ジェシーが同じクラスに居たら、一人でいたいのかどうかを見極めます。

──あなたが『カモン カモン』で演じたジェシーは、探求心の強い少年で、その反面、本人曰く「学校で友達が一人もいない」という面も持っています。日常で必ずしないといけない、ルーティンとなっているこだわりも多く、初めて子育てを任されたおじさんであるジョニーを閉口させる面もあります。

もし、ジェシーがあなたと同じ学校の同じクラスに居たら、あなたはどう接しますか?

「ジェシーのような子は、一人でいたいタイプの子もいると思います。だから、もし、彼が僕と同じクラスに居たとして、彼が友達を必要としていると感じたら、おそらく近づいていくと思います。でも、彼が、『僕には友達は必要ない、一人でいたい』というオーラを出しているのであれば、そっとしておくと思います。どう接するかは人それぞれだと思うので、ジェシーのタイプを見極めると思います」

──ジェシーには、孤児である幽霊たちと会話する孤児ごっこを通してのイマジナリーフレンドみたいな存在がいます。他にも映画の中には彼独自のルールがたくさん出てきますが、演じる上で共感できるものは何でしたか?

「土曜日には大きな音量で好きな音楽を聴く。それは最も共感できるルールです。僕自身、音楽が元々大好きで、アーティストが作り出した世界に入り込むことが大好き。音楽っていうのは、アーティストの世界においても、特に自由に解釈ができるアートの形だと思っているので、あのシーンはすごく共感できました。

映画に出ていた当時はすごくパンクを聞いていて、レコードも集めていて、オルタナティブなロックを聞いていたんです。当時の趣向があったから、今はジャンルを広げて、ロックとかポップとか、よりポップなものを聞いているんだけど、それも、当時聴いていたパンクやロックを基にしています」

──ウディ君は今13歳ということですけど、数年前にパンクにはまっていたとはかなり早熟ですね。

「『カモン カモン』の最初のオーディションを受けたのが10歳のときで、撮影が始まったときに11歳でした。そのあと、撮り直しの撮影があって、そのときが12歳。今回、撮影をしていない初めての誕生日を迎えて、今13歳です」

ノミネートに値する演技だと評価されて、夢のよう

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──13歳で今回、英国アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされましたが、どういう気分ですか?

「信じられない!授賞式は二日後ですけど、今、ワクワクしているし、衝撃を受けています。ノミネーションに値する演技だと評価してくれたのが夢のようです。タキシードを着ていく予定だけど、その日は、Best young actor/actress部門で放送映画批評家協会賞の授賞式にもノミネートされていて、大忙しの日なんだ」

──先程のパンク好きのところや、プロレス好きなあなたの一面は、映画の中でマイク・ミルズ監督がジェシーのキャラクターに反映していますよね。

ミルズ監督の映画はいつも家族についての物語で、登場人物への眼差しがとても温かいですけど、演じてみて、その秘訣はどこにあると思いましたか?

「身近にいる人を作品の題材にしていることがポイントなのかなと思います。モデルとなっているその人をそのまま描くのではなく、少しずつ他の要素を足して言っているのが秘訣なのかな。

今回、僕が演じたジェシーは、彼の子どものホッパーに基づいて描いているんですけど、でも、完全にホッパーというわけではなく、ジェシーのキャラクターにホッパーの要素を散りばめている。それが彼の作品の良さであり、特徴なのかなと思っています」

マイク・ミルズ監督からは「ホアキン・フェニックスを困らせろ」と指示された

──物語の中で、ジェシーはホアキン・フェニックスが演じるおじさんのジョニーに色んな質問をしますが、そのやり取りがとてもナチュラルで驚きました。あなたはオーディションの時から、脚本の台詞にはない言葉を即興で言って監督を驚かせたそうですし、映画の中にはアドリブの要素がかなり多いと聞いていますが、いかがでしたか?

「『カモン カモン』はオーディションの時点から即興を多く取り入れた演出の特別な作品です。どの役も演じるときもそうですけど、毎回、自分らしさを出すようにしているんだけど、即興を許されたことで、僕の俳優に対する概念も変わったし、僕のキャリアも変わったし、僕自身の内面を見つめる行為についても変化しました。

ジョニーおじさんに質問する場面については、監督から、ホアキンをちょっと驚かせると言いますか、『質問で困らせろ』という指示を受けていたんです。特にピザ屋さんでの場面は、困らせることを考えていっぱい質問をした場面で、ホアキンが必死に笑いをこらえているのが面白かった(笑)。顔が歪んで、今にも笑いだしそうな場面が印象深いです」

初めて人を大切にするという感情が生まれた読み聞かせの場面

──ジョニーはこれまで独身で、ジェシーを預かった数日間が彼にとっては初めての子育てになります。その中で、毎晩のベッドでの読み聞かせの場面がとても重要なものとして描かれていますね。

「ベッドで読み聞かせる場面は、ジョニーにとってとても大切な場面だと思っていて、彼は子供がいないし、誰かの面倒を見る責任もそれまでなかった。ジェシーとの毎日を通して、初めて人を大切にするというか、大切にすべき人がいるという感情が生まれたシーンのひとつだと思う。

だから、ああいう風に優しい声で、感情をこめて本を読んでくれているんじゃないかな。それに対して、ジェシーはあの愛情深い声を聴いて、自分は大切に思われているんだなと実感した。父親の病気のケアで母親と離れることになって、寂しくて、今はジョニーに頼るしかないという感情が生まれた瞬間だと思います」

──先程、2年前はパンク好きだったという話が出ましたけど、日本での好きなアーティストはいますか?

「村上隆さんです。カニエ・ウェスト&キッド・カディのアルバム『キッズ・シー・ゴースト』のカバーのアートワークが好きで、他のバンドのアートワークもすごくクール!才能のある人だと思っています」

いつまでも映画で演じていきたい

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  • ウディくんとマイク・ミルズ監督

  • ホアキン・フェニックスとマイク・ミルズ監督

──最後に、この映画でジョニーが子供たちに聞いて回る「君にとって未来とは?」の質問を、今日のウディ君に聞いていいですか?

「より良い世界を目指すのであれば、今抱えている問題はとにかく解決しなければいけない。今、世界のリーダーが過去200年に起きた出来事を赦して、忘れて、先に進むことが大切だと思います。

コロナウィルスのパンデミックについてはもっと真剣に考えないといけないですよね。イギリスの政治家たちは、多くを見て向ぬふりをして、なかったことにしている。それは愚かな考え方で、もっと真面目に取り組まなくてはいけない」

──今日お話を伺い、とてもしっかりしていて、政治家になれそうな勢いですね。

「いえいえ、僕はいつまでもいつまでも演じていきたいと思っています。映画業界にこのまま残りたいし、いつか、監督も脚本も手掛けたいと思っています」

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カモン カモン

ニューヨークでラジオジャーナリストとして働いているジョニーの元に、突然、ロサンゼルスにいる妹、ヴィヴから10年ぶりに連絡が。母の終末介護を巡り、仲たがいをしていた二人だが、元夫の不調を受け、ヘルプをせざるを得なくなったヴィヴの依頼で、ジョニーは9歳の甥、ジェシーの面倒を数日間見ることに。

ほぼはじめましての二人は、距離の取り方に悩み、感情もぶつけ合う。だが、ジョニーの仕事場に行くことで、ジェシーは録音機材の取り扱いを学び、他の子供たちのインタビュー風景に立ち会い、互いに見知らぬ世界に触れることになる。マイク・ミルズ監督・脚本、ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマンほか出演。

WEB:https://happinet-phantom.com/cmoncmon/

監督・脚本:マイク・ミルズ

出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマンほか

2021年製作/108分/G/アメリカ
原題:C’MON C’MON
配給:ハピネットファントム・スタジオ

©︎ Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

2022年4月22日(金)より、東京の「TOHO シネマズ 日比谷」ほかにて全国公開。

『カモン カモン』公式サイト

映画ジャーナリスト

Writer Profile

Yuka Kimbara

兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。

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