『夜が明ける』
西 加奈子 ¥2035/新潮社
光を求めて彷徨う男同士の友情と、生きることの奇跡を描いた圧巻の長編
2004年に自身が持ち込みをした小説『あおい』でデビューして以来、『サラバ!』など、情熱的で愛にあふれる物語を書き続けている西加奈子さん。最新作は、前作から5年間もかけて完成させた作品だ。
登場するのは二人の男性。1981年に生まれて、同じ高校の同級生同士となった「俺」と「アキ」。吃音とルッキズムの標的になりそうな外見で周りから違和感を持たれていたアキに、フィンランド映画のDVDを貸したことがきっかけで、二人は親しくなる。その結果、内向的だったアキは自分らしく振る舞うコツを覚え、学校の人気者に。俳優を志すようになる。一方の俺は、父親の死をきっかけに裕福だと思っていた実家が借金まみれの事実を知るが、恩人の励ましもあり、奨学金を利用して大学へ進学。テレビの制作会社に就職することに。
児童虐待、就職氷河期、ブラック労働、貧困など、2000年~2010年代の社会問題を絡めながら、アキと俺が日本の世の中で生きていく姿は、とてもリアルだし、読んでいて「苦しい」と思ってしまう部分のほうが多い。特に俺が味わう、ほんの小さなきっかけから、人生が暗転していってしまう様子は、30代・40代にとっては他人事には思えないかもしれない。
まったく異なる人生を歩みながら、心の中ではお互いを気にかけ合う、アキと俺。今、この時代を生きる中での希望とは? ありのままの自分を肯定するにはどうしたらいいのか? 二人の男子の思春期から30代初めまでを追ううちに、そんなテーマが読み手の心の中に、次々と浮かび上がってきそう。
俳優という表現の世界を追求していったものの、現実の中では自分の居場所を見つけづらくなってしまったアキ、極端な職場で働き続けるうちに自責しがちな考えから抜け出せなくなってしまった俺の姿は、自己責任という言葉や、心を殺して生き続けることの危うさを私たちに教えてくれる。物語の終盤、そんなアキと俺は思わぬつながりを持つことに。それがタイトル「夜が明ける」となるかどうかは、ぜひ読んで、見届けてほしいもの!
『話し足りなかった日』
【著】イ・ラン 【訳】オ・ヨンア ¥1980/リトルモア
音楽、小説、コミック、映像と多ジャンルで活躍するアーティスト、イ・ランのエッセイ。
’86年に韓国のソウルで生まれた彼女はLEE読者とも同世代。本作は仕事、セクシャリティと女性の生き方、今の世の中をどう思うかなど、彼女の日常で起こったことや意見が書かれている。鋭い視点とやわらかい文章が特徴的。国境を超えて共感できる部分も多いはず。
『はじめての積立投資 つみたてNISA iDeCoもよくわかる! お金の増やし方』
西山美紀 ¥1430/主婦の友社
複雑なお金の仕組みをわかりやすく解きほぐし解説してくれる著者によるマネー初心者本。
今さら聞けないスマホや公共料金、ふるさと納税や医療費から家計を守る対策。NISAやiDeCoなどのほったらかしでお金を増やす方法など、知っておきたいことが網羅。気になる項目から読み始めてみて!
『塩の料理帖』
角田真秀 ¥1760/誠文堂新光社
本誌の企画でもおなじみ、料理研究家・角田真秀さんの最新レシピ本。塩をテーマに「うまみを引き出す」32品、「お買い物が減るストックレシピ」が58品も紹介されている充実の内容。さらに、混ぜて楽しむフレーバー塩が8種類も。
シンプルなのに奥が深く、けれども手軽に挑戦できるものがたくさん。おうち生活をより楽しむ一冊として活用できそう。
取材・原文/石井絵里
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