「おかえりモネ」オタク男子から、ノマド生活者へ。清水尋也さんが、映画『スパゲティコード・ラブ』でまた魅せる!
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折田千鶴子
2021.11.26
内田くん、楽しかったです!
いまだ「おかえりモネ」ロスから抜け出せない人も、結構いるのではないでしょうか!? 実は私も。毎朝、笑ったり、泣いたりしたなぁ……。モネのお天気仲間の一人の内田くん、ホント人気でしたね! 私の中ではクールなイメージが強かった清水尋也さんの振り幅の大きさ、最高でした!! 映画『スパゲティコード・ラブ』のお話に入る前に、その辺りから少し聞いてみたいと思います。
1999年6月9日、東京出身。主な出演作に映画『渇き。』(14)、『ソロモンの偽証 前篇・後篇』(15)、『ちはやふる 上の句・下の句/結び』(16、18)、『ハルチカ』(17)、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(19)、『甘いお酒でうがい』(20)、『東京リベンジャーズ』(21)。ドラマに「インベスターZ」(18)、「サギデカ」(19)、「アノミマス~警視庁“指殺人”対策室~」(21)、「おかえりモネ」(21)など。劇場アニメ『映画大好きポンポさん』(21)では、声優初挑戦にして主演を務めた。映画『さがす』が2022年1月21日に公開予定。ドラマ「となりのチカラ」も2022年1月放送予定。
──「おかえりモネ」での内田くん、すごい人気でしたね。なんか内向的なモジモジ具合も、絶妙でした。
「内田くん、楽しかったです! “キャラクター感”が強い役でしたが、結構好きにやらせていただけて。勝手に動きを付けたりしながら演じていました」
──まさかのマッシュルームカットに驚き、吹き出しました(笑)。
「あの髪型は衣装合わせで、“こんな感じにしてみましょうか”となった時、大爆笑が起きました(笑)。あんなに笑いが起きた衣装合わせは初めてでしたね。いわゆる“僕っぽさ”ではない打ち出し方の結果が、とてもいい反響で。本当に、いい役をいただけて感謝しています」
さらに注目を集めることになった今、清水さんが出演されている映画『スパゲティコード・ラブ』が公開に。これがまた面白いのです!
映画『スパゲティコード・ラブ』
現代の東京を舞台に、自分の存在意義や居場所、愛情や誰かの承認を求めて彷徨う、13人の若者を活写した青春群像劇。“スパゲティコード”とは、解読困難なほど絡み合ったプログラミングコードのことだそうです。先に行われた東京国際映画祭でも観客から熱い反響が寄せられ、彼らの熱心な質問(なぜか質問されていたのは男性ばかりだったような……)に、監督が一つ一つ丁寧に応えていらっしゃったのも印象的でした。
さて、清水さんが演じるのは、定住せずにゲストハウスを転々と、ノマド(放浪)生活を送る、Facebookの友だちが5000人を超える大学生・大森慎吾です。
──CMなどを手掛けられて来た映像クリエイターの丸山健志監督と、『五億円のじんせい』の脚本家・蛭田直美さんによるオリジナル脚本ですね。
「13人もの色んな人が登場し、それぞれ独立したストーリーがある群像劇は、これまで出たことがなかったので、新鮮でした。映画が完成するまで、他の方のパートを観ることも、現場でご一緒することもなかったので、どうなるのかな、という楽しみとワクワク感がありました」
──演じた慎吾はFBフレンドが5000人もいて、軽やかにノマド生活を送っているかに見えますが……。彼が考えていること、分かりましたか?!
「現代ならではの孤独感を抱えているキャラクターですよね。自分にもそういう時期――孤独を感じるような時期がなくもなかったので、他人事とは思えないな、とは感じました。特に僕たちは、SNSど真ん中の世代なので」
──そんな慎吾がアクシデントに見舞われ、イタタタタ……な展開になります。
「フォロワーが何千人もいて、いざというとき助けを求めても、手を差し伸べてくれるのは……という。今は普通の大学生が、それこそ5万、10万というフォロワーがいるような時代。人との繋がりのハードルが本当に低くなってきていて、その利点もたくさんありますよね。人との繋がりやコミュニケーションを広げるには、とてもいい時代です。でも、それゆえに関係性の軽薄さもあって……。最近、それが浮き彫りになることが多いようにも感じています。慎吾の物語には、そんな“時代柄”が露骨に出ていると思いました」
──そもそも、なぜノマド生活を送るようになったのかなど興味深いです。
「セリフにも“何にも執着しなければ不幸は生まれない”とありますが、それが彼の人生のテーマ。何か、誰かに執着してしまうと、失った時の喪失感が怖いし、思い通りに行かなかった時に嫌な思いをしなくて済むように、自分が傷つくことを避けているのだと思います。でも心のどこかでは、そういう理屈っぽい考えに反発している感情もあり、それを認めたくないから壁を作る。それゆえの孤独感もあって。ということは考えていました」
役作りは基本、しない
──基本的には、役作りなどはあまりせずに現場に入るタイプ、と読んだことがあります。
「はい、今回もそんな感じで、現場で監督とその都度、話したり演出していただいたり、という感じでした。慎吾は性格的に気難しい人間でもあるので、その温度感を探るというか。ネガティブ過ぎても良くないとも思ったし、理屈っぽいけれど理屈じゃどうにもならないこともどこかで分かっているような塩梅を、その都度、監督と丁寧なディスカッションしながら作っていきました」
──そういう塩梅や温度感を作る際に、監督から何か動きを付けられたりしましたか?
「ここで歩き出す等々の基本的な動きはもちろんですが、もっと細かい動きまであったように思います。例えば“手”の寄りのカットでは、この指を動かして欲しい、というような。芝居としての気持ちの部分はもちろん、身体的なアプローチについても、監督はとても細かい部分までこだわられていた気がします」
──そうした身体的な動きの指示は、例えばキャラクターの神経質さなどを表しやすくなる、あるいは理解する上でのヒントとして捉えました?
「いえ、そこは撮る側の都合や画的な問題だと割り切って、あまり深く考えませんでした。ただ慎吾は正直じゃないというか、顔や表情に出ない人なので、そういうちょっとした手の震えに、その瞬間の本当の感情が出るのかな、とは思っていました」
──ファッションも、とても慎吾らしいですよね。ヨウジヤマモトっぽいというか、ノマドっぽいというか。
「本当に全てヨウジヤマモトでした。何のブランドかは別として、僕は、慎吾は一つのブランドしか着ないだろうと感じていました。衣装合わせの際、そんなことを言われたので、“自分と同じ解釈だ!”と。だから、あの衣装もすごく腑に落ちて、やりやすかったです」
──渋谷の街中でのロケ撮影が多かったと思いますが、歩いているシーンや映像が動いていく感じが魅力的に映りました。
「シーンによって撮り方は変えていたと思いますが、監督は、街の風景や街並を、かなり大切にされていた印象があります。抜け(背景)に何が映っているか、そのアングルなど、僕にはとても新鮮で。広告を撮られている監督なので、見方やアプローチが少し違うというか、それが画にも出ていて、とても新鮮でしたし、とても勉強になりました」
東京は夢が叶うと同時に踏みにじられる場所
──慎吾と関わる、シンガーソングライターを諦めた“心”を演じるのは、『ドライブ・マイ・カー』で高く評価された三浦透子さんですね。
「多少の面識はありましたが、ガッツリ一緒にお芝居をしたのは初めてで、すごく楽しかったです。年上の先輩なので、胸を借りるつもりで臨みました。気さくな方で、お芝居の温度感もとても心地よかったです」
──慎吾と心の関係性は、どう見ますか?
「不思議な関係性ですよね。単なる元カノ元カレだけじゃない。結局は忘れられず、お互い好きなんでしょうが、だからと言ってヨリを戻すのか戻さないのか。難しいですが、僕自身は、別にヨリを戻さなくてもいいな、と。そうならなくてもずっと近くに居る関係性だと思うので」
──個人的な感覚で恐縮ですが、ミュージシャンの方がお芝居をされると、役者とはどこか違った新鮮さをいつも感じます。独特のリズムなのか、響き合うものが違うのか。音楽活動もされている三浦さんとの響き合い、などで新鮮に感じたことはありましたか?
「これまでもミュージシャンの方と共演したことがありますが、共通して言えるのは、型にはまっている人がいないこと。僕は言葉にもリズムがあると思っていて、お芝居をずっとやって来ると“気持ちいいリズム”が段々分かって来るんです。それに則って演じるのもステキなことですが、音楽をされる方々は、それぞれ自分のリズムを持っていらっしゃるので、想定していたものとは違うんです。でも悪い気がしない、むしろ自分の知らないリズムだけど心地いい、と感じる瞬間が節々であります。時に得体の知れなさや色気のようなものが出てきて、それがステキな味になっていく。だから観ている方にも新鮮に映るのかなと思います」
──13人のうち、清水さんが最も刺さったのは誰の物語ですか?
「職業柄、同じ業界ともいえるカメラマンの翼です。彼のように夢を持っているけれど、報われない人間もたくさんいる。東京は夢が詰まっているけれど、その分、たくさんの夢が踏みにじられる場所でもあると思っていて。東京は、残酷な場所でもある。そういう街に僕もずっと生きているだけに、他人事とは思えない。そういう人の人生に関わっている可能性もあるし、すぐそばにこんな人生があってもおかしくない、と生々しいリアルな刺さり方をしました」
──完成作をご覧になられた感想は?
「ストーリーが切り替わる瞬間や、人から人へどういう風に飛んでいくのかと思っていましたが、そこはさすが、映像のギミックも活用しながら、ちゃんと作品として落とし込んでいらして、新鮮ですごく面白かったです」
俳優10年目の今の感覚
──ところで清水さん自身は、SNSで見知らぬ人と繋がったりしますか?
「ありましたね。例えば、ファンの方から“どんな音楽を聴くのか”と聞かれた際に、こういう音楽を聴いていると載せたら、その海外のアーティストの方から、“ありがとう、今度はこっちが映画観るから”みたいなリアクションが来て、それからコミュニケーションを取っています。簡単に国境を越えられるのも、この時代ならではですよね」
──「スパゲティコード」というタイトルにちなみ、清水さんが最もアワアワこんがらかった経験を教えてください。
「あまり大きな声では言えないですが、寝坊です……。朝が苦手で……。学生時代はしょっちゅう遅刻していました。そんなときは“うわ、どうしよう、うわ、もう終わった、ヤベ”みたいに一人でずっと喋りまくってちゃんとテンパります(笑)」
──俳優を始めて10年。振り返ると、どうですか?
「もう10年か、とアッという間ですね。もちろん真剣に向き合っていますが、仕事というより、楽しいからやっている感覚で。僕はひょんなことからこの仕事を始めることになり、最初は全く何も分からなくて。でも分からなくていいや、好きにやってみよう、ダメだと言われたら止めればいいし、直せばいいや、というスタンスでした。まず自由にやってみる。そのスタンスやアプローチの仕方は、今も変わってないですね」
──ただ一度、とても厳しい監督に相当しごかれた経験もありますよね(笑)。
「そのお陰で、怖いものがなくなりました。助監督さんや周りの方が思わず慰めるくらいの状況でしたが、僕自身は一切、気にしてなくて(笑)。“なにくそ!!”みたいなテンションだったので、早い段階でドでかい壁に打ち当たれて良かったな、と思っています」
演じられる役柄の振り幅が大きいため、お会いする前は、どんな人なのかサッパリ掴めなかった清水さん。でも、何を聞いてもポンポン返してくる頭の回転の速さに感嘆です。そして意外に根性もあり、肝が据わっている! またフラットで飾らず、歯に衣着せず色んなことをお話してくださるのは、やはりデジタルネイティブの世代の“コミュニケーションのハードルの低さ”でもあるのでしょうか。もしそうなら、世界と容易に繋がることに躊躇しないこの世代の人たちが、本当に日本や日本人の在り方も少しずつ変えてくれるのかも……なんて期待も抱かずにいられません。
さて、映画『スパゲティコード・ラブ』。13人が登場する群像劇は、下手するとサラッと流れて残らないとか、単なる雰囲気映画になることも少なくない。でも、本作はザクッと刺さりました。10~20代の若い登場人物たちなのに、すごく分かる!! 時に顔を歪めながら“うわ、イタッ、こんな姿観たくない~”と呟いたり、この青さ、恥ずかしいけど覚えあるわ、とか。
みんな、孤独を恐れ、先の見えなさに怯え、でも何者かになりたくて、理解者を探している。彼らの青春のあがきが、“愛おしい”と言うには、まだ自分ももう少し時間が必要だと思うくらいの、身近でリアルな刺さり方をする『スパゲティコード・ラブ』。今の東京で暮らす人々のムードや、刻々と変わりゆく東京そのものが映し込まれた、10年後にまた観てみたいと思わせる一作。本作でデビューを飾った丸山健志監督、次の作品も楽しみです。
映画『スパゲティコード・ラブ』
- 2021年製作/日本/96分/©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
- 監督:丸山健志
- 出演:倉悠貴 三浦透子 清水尋也 八木莉可子 古畑新之 青木柚 xiangyu 香川沙耶 上大迫祐希 三谷麟太郎 佐藤陸 ゆりやんレトリィバァ 土村芳
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
- 公式サイト:映画『スパゲティコード・ラブ』公式サイト
【11月26日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開】
撮影/菅原有希子 ヘアメイク/TAKAI スタイリスト/Shohei Kashima(W)
■衣装
shirt ¥36,300、pants ¥47,300/共にYUKI HASHIMOTO(Sakas PR)
shoes ¥26,400/ASICS RUNWALK(アシックスジャパン株式会社 お客様相談室)、その他スタイリスト私物
■お問い合わせ先
Sakas PR TEL 03-6447-2762
アシックスジャパン株式会社 お客様相談室
TEL 0120-068-806
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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