引き続き、料理研究家の角田真秀さんのインタビューをお届けします。20代半ばで「料理の力」に魅せられ、料理研究家を目指すようになった角田さん。インタビューを始めてすぐ「私、人の目を見て話せないんですよ。人との距離が近くなりすぎて影響を受けすぎてしまうんです」と本音もぽろり。そんな時のコミュニケーションにも料理が一役買ってくれていると言います。後半では、角田さんが料理を作る時に大切にしていることや伝えたいこと、今後の目標について話を聞きます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
食べた人が元気になる姿を見るのが嬉しい
角田さんがこれまで出版した本は8冊。どれも共通しているのは、手に入りやすい食材と調味料を使っていること、レシピの手順が最小限であること、シンプルながら驚くほどおいしいことです。その秘密は、作る人の気持ちや食べる人の気持ちに寄り添ったレシピを考えているから。
「愛想は良くできませんが、私は料理で人を驚かせたいんです。例えば、明日会う人のために料理を作るとして、その人が何を食べたら元気になるかを考えて作ります。その人の出身地がどこかを調べて作ることもありますよ。例えば京都出身の人なら京都の野菜や調味料を使うと、生まれた場所のものを食べてよりリラックスできる。目の前で、幸せそうになったり元気になる姿を見るのが一番嬉しいですね。レシピの手順をシンプルにしているのは、作る手間が少なければ少ないほど負担が減る。それによって、料理を作る気分が乗るからです」
本のテーマは、毎回自分で決めてきました。1冊目の本『基本調味料だけで作る毎日の献立とおかず』(マイナビ出版)は、親の介護をしていた頃で「体が弱っている人が食べたいものは変わったものではなく普通のもの。かつ忙しいから珍しい調味料は使えない」、そんな思いから生まれた本でした。
「たまたま縁があって本を出させてもらっただけで、自分がこうしたいと憧れてやったことではありません。人間関係も同じで、あの人と仲良くなりたい、こうあるべきというのがないんです。求められることにどれだけ応えられるかどうかだけです。相手の思いが乗り移っちゃうんですよね、それくらい自分事として考えて、どうしたら喜んでもらえるかを考えて作ります。最初に本を作った時、肩の荷が降りて楽になったんですよね。編集の方と信頼関係ができ、思っている本音がそのままやり取りできる気持ち良さがありました。それから本づくりは、自分のパーソナリティに合っているなと感じています」
料理は「正解はひとつじゃない。それぞれに答えがある」
角田さんの最新著書『塩の料理帖: 味つけや保存、体に優しい使い方がわかる』(誠文堂新光社)は、塩をテーマにした一冊です。普段は味付けや下ごしらえだけに使う塩をフル活用し、食材のうまみを引き出したり保存性を高めたりと、塩料理を存分に味わえる究極の本とも言えます。
「もとは塩水を使った調理や下ごしらえの本を作りたいと思っていましたが、さすがに塩水だけだと難しいので、塩全体でまとまりました。茹でる、下味をつける、味付けをする。そういった塩分量のルールは、1冊目の本を作る時、料理研究家になろうと決めた半年間でスタンダードな塩分量をマスターしました。200gの食材に対して、どれくらいの塩が必要か。一度作って食べれば何が足りないか分かるし、初めて食べるものも自分の頭の中で味を展開して、この味をどうやって出せるか分かるんです。いまだに料理で迷うことがないのは、その時期に徹底して研究したおかげです」
本の出版やテレビ出演する度に、読者や視聴者から「同じように仕上がらない」「これでいいのでしょうか」とメールや質問をもらうことが多いそう。できる限り回答しますが、一番伝えたいのは「正解はあなたの中にある」ということだと言います。
「本やテレビと同じように、完璧に作ろうと思わなくていい。正解は一つじゃないし、自分の中にあるちょうどいい仕上がりでいいと思うんです。ひとつの正解を追っていたら、料理が辛くなってしまう。それぞれの正解があると知って、気持ちが楽になれたらそれで十分。料理を通じてそんなことを伝えたいと思っています」
地域で働く場所や環境づくり。魅力を発信していきたい
そんな角田さんが新たに取り組んでいること、それは地域での新たな雇用を生み出す働く場所や環境作りです。
「世の中には、選ぶ仕事を間違えて自尊心を失っている方が多いと思います。それで人と争ったり傷つけ合っている姿をみると、その人に適した場所を見つけてあげたい。そんな思いから、多摩信用金庫さんが主催するセミナーの講師や創業支援の相談も受けています。他にも、地方の都市開発プロジェクトの相談、地域の人が働ける場所づくりなどに、アドバイザー的な役割で関わっています。最近はどのエリアもチェーン店ばかりで、個人店が続かないことも増えています。そうなると魅力が減って地域の人も流出してしまう。地元の人が活躍できる場所を増やす必要もありますし、働く人・利用する人、その循環を作るための手伝いができたらと思います」
地域の魅力発信にも力を入れています。昨年オープンした「sumiya」のオンラインショップでは、角田さんが暮らす国立周辺の贔屓のお店の商品やオリジナルブレンドのコーヒー豆、交流のある作家さんの器などを販売しています。「コロナで落ち込んだ売り上げの貢献に」という思いも込めて開始しましたが、毎回好評で販売するたびに完売。地元の食材を使って料理することも多く、立川のGREEN SPRINGSで毎週火曜に開催されているGREEN GROWN MARCHE!で食材を購入することも多いそう。生産者と直接やりとりすることで、食材そのものの魅力や背景を知ることができ、料理にも反映できると言います。
「カブ一つでも、今年初めて出来た新物のカブだと聞けば、柔らかいから火を通さず食べたほうがいいか、塩もみがいいか、と考えます。住んでいる場所の魅力を伝える楽しみと買う楽しみ、どちらも伝えたいんです。そうすることで、自分が今住んでいる場所の魅力に気づくきっかけになればいいなと思います。わざわざ遠くまで行かなくても実は身近に魅力的なものがある、それに気づくことで楽しみが増えますよね」
他人と比較せず、自分は自分らしくそのままで
角田さんはいつも「私に注目してもらうよりも、紹介したい人やものがたくさんありますと」と裏方に徹しているのが印象的です。大事にしているのは他人と比較せず、自分は自分らしくそのままでいること。今やりたいことに忠実であることを大切にしているそうです。
「活躍されている他の料理家さんもたくさんいますが、他のどなたとも競いたくないし、自分を活かせる場所でできることをやれたら十分です。私は、レシピを作る仕事もあれば、オンラインショップもあるし、お菓子を作ったりケータリングもできる。こっちに需要がなければそっちへ、フラットに変えながら仕事していけばいい。求められるものに応えて行くことで、仕事が維持できると思っています。来年はお弁当の本の出版が決まっていますが、今気になっているのは西洋野菜と器。そんなテーマの料理本を作ってみたいです。あと、夢をあげるとしたら、大好きな宮本浩次さんのツアーのまかないを作ることです。それができたら本当に幸せですね」
角田真秀さんに聞きました
身体のウェルネスのためにしていること
散歩
「近くの公園まで、マルシェがオープンしている立川のグリーンスプリングスまでと、気が向いた時に歩くようようにしています。コロナで自粛しているときは、午前中に行くことが多かったですね。和彦さんと歩きながらなんでもないことを話すのも大切な時間です」
心のウェルネスのためにしていること
フラワーレメディを取り入れる
「10年以上前、親の病気で落ち込むことが多い時に出会ってから好きで使っています。カードを引いて、自分に必要なフラワーを選んだり。私は一人っ子なので誰かに相談するよりも、自分でコントロールして、必要なフラワーエッセンスを取り入れながら元気を出すことが多いですね」
撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子
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