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惚れ込んだモノは見た目も肌触りも香りもいいものです 五感がよろこぶ偏愛コレクション

「くるみの木」オーナー石村由起子さんのまわりに喜びをつくる暮らしの道具【LEE DAYS】

  • LEE DAYS リーデイズ

2021.11.24

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惚れ込んだモノは、見た目も肌触りも香りもいいものです 五感がよろこぶ偏愛コレクション

若い頃は見た目だけでモノを選んでいたことも。LEE DAYS世代になり、少しずつ手に触れた感触や香り、音の響き、何より「好き」という感覚を頼りに“五感がよろこぶ”モノに囲まれたいと思いませんか?おしゃれな洋服にしても暮らし回りの道具にしても、そんなモノに出会えたら、人一倍愛情を注ぐはずです。審美眼の鋭い達人がどんな風に日々、接し楽しんでいるのか、思いの丈をリポートします。

「くるみの木」オーナー
石村由起子さん/Yukiko Ishimura

「くるみの木」オーナー 石村由起子さん

香川県高松市生まれ。1983年、奈良の郊外の小さな建物でカフェと雑貨の店「くるみの木」を始める。奈良町の複合施設「鹿の舟」、三重県「VISION」内のミュージアムショップ「くるみの木 参考室」などのプロデュースも行う。12月には滋賀県「湖北くらしのスコーレ」内に「湖(うみ)のスコーレ」がオープン。

「くるみの木」オーナー 石村由起子さん まわりに喜びをつくる 暮らしの道具

仕事を始めてもうすぐ40年。「目利き」として数えきれないほどの生活道具を見続けた石村さん。その選ぶ基準には常に、作る人や使う人、その周囲にある「笑顔」がありました。

竹の珈琲フィルター

友人からプレゼントされたコーヒーフィルター

「由起子さん、好きそうだから」と、友人からプレゼントされたコーヒーフィルター。息をのむほど端正で細やかな編み目は、熟練の職人技によるもの。1年ほど使い続け、美しいコーヒー色に変化していった。

「強く主張するデザインではないのに、見る人みんな『いいね』と言う。こういうものを手にすると、生活道具の持つ力を実感します」(石村由起子さん)

ペーパーを使わず直接粉を入れてドリップできるコーヒーフィルター

こちらは大分の職人さんがひとつひとつ手がけている品。

「ペーパーを使わず直接粉を入れてドリップ。不思議と角が取れ、まろやかな味わいに入るんです。そして、洗うと粉がパッと離れてお手入れもとても楽ですね」(石村由起子さん)



「仕事が暮らしで、暮らしが仕事。そんな日々で続けたもの選び」

奈良の中心地から少し離れた、ローカル線の踏み切りのそば。元はとある会社の作業場だったという建物に、「くるみの木」が誕生したのは今から38年前のこと。

まわりには田畑が広がり、紫陽花の花が咲いていて……「こんな場所にお茶をゆっくり飲み、雑貨を選べるお店があったら」。当時専業主婦だった石村さんは、子どもの頃に思い描いた「いつかお店を持ちたい」という夢を、その場所で実現させます。

若いカップルがデートで訪れ、やがて生まれた子どもと一家で来訪、その子どもが育ち、パートナーとやって来る。そんな風に地元・奈良には三代続けての「くるみの木」ファンも多く、評判は全国にまで行き渡りました。

お店の人気の理由は、石村さんの暮らしに根差した審美眼と、「お客さまには絶対に喜んでもらいたい」という徹底的なホスピタリティだと言われています。

「私は仕事が暮らしで、暮らしが仕事。休みが一日もないほど忙しい毎日ですが、家にいるときはいつもキッチンで何かしら料理を作っているし、しょっちゅう模様替えや引き出しの整理をしています。そうした中で、私が感じた『いいもの』を選んできました」(石村由起子さん)

長年交友のある建築家・中村好文氏がリノベーションを手掛けた新居。木枠の窓からは草原が広がり、石村さんが長年集めた暮らしの道具がぴたりと似合う空間。

長年交友のある建築家・中村好文氏がリノベーションを手掛けた新居。木枠の窓からは草原が広がり、石村さんが長年集めた暮らしの道具がぴたりと似合う空間。

「“断捨離”とは真逆の生き方。どれも愛しい暮らしのパートナーです」

取材の間中も、石村さんは話をしながらコーヒーやお茶を淹れ、料理を作って盛り付け、食べ終わった後は速やかに片づけを始めます。その一連の動きの傍らには、常に魅力的な暮らしの道具がありました。

そして家のどんな場所にも、雑貨好きや手仕事好きなら思わず目を輝かせて手に取りたくなるような、魅力的な「もの」が置かれています。

驚くのは、どれもがすべて「現役」であること。置いたまま忘れ去られたようなものはひとつもなく、1品1品が輝き、石村さんが日々大切に扱う気配が感じられるのです。

「ある雑誌の企画で『ものの整理と処分をしませんか』と声をかけられたことがありました。この仕事を長く続けてきて、『私はものを持ちすぎているのでは』と思うこともあって、家にある器を全部棚から出して、並べてみたんです。

ところがしばらく眺めても、どれにも思い入れがあって、離れがたい。たぶん1000を超える器がありましたが、ようやく『手放してもいいかな』と思えたものは、結局4枚だけでした(笑)」(石村由起子さん)

石村さんの情熱を支えてきたのは、誰よりも強い、この「ものを愛する力」なのかもしれません。

「日々道具を使いながら、作り手と心の中で対話するのが楽しい」

陶芸家やガラス作家、織作家や服飾家など、お付き合いのある作り手は、全国各地にいます。出張のとき、たとえ10分でも空き時間があれば、「顔を会わせ、近況を聞くだけでもいい」と、その土地に住む作家に会いに行く。石村さんが長年続けてきた、人付き合いの流儀です。

「料理を作るときにも、『この料理は、三谷龍二さんの漆の器にぴったり』『こちらは、辻和美さんのガラス器が似合いそう。元気かな』という風に、道具を使いながら、作った人のことを思います。だから毎日毎日、いろんな方がそばにいてくれるような気持ちになれるんです」(石村由起子さん)

長年仕事を続けていることで、お付き合いのある作家の数は増えるばかり。それでも石村さんは、いい作り手と新しく出会う努力を忘れることはありません。

「この間も、どうしても気になる器を作る方がいて、インスタグラムから『石村という者です。お会いしたいんです』とメールを送っちゃいました。相手の方もすごく驚いていらしたけど(笑)、お会いする約束をしました。そんな風に『一緒に仕事がしたい!』と思う方が、今も何人もいるんです」(石村由起子さん)

「人をもてなすのが日常」という石村さん。作家ものやアンティークの器を自在に組み合わせ、手慣れた雰囲気で手料理をふるまう。駆けつけの一杯、野菜づくしの食事、食後のデザート。豊かな食卓の風景が広がる。

「人をもてなすのが日常」という石村さん。作家ものやアンティークの器を自在に組み合わせ、手慣れた雰囲気で手料理をふるまう。駆けつけの一杯、野菜づくしの食事、食後のデザート。豊かな食卓の風景が広がる。

「人をもてなすのが日常」という石村さん。作家ものやアンティークの器を自在に組み合わせ、手慣れた雰囲気で手料理をふるまう。駆けつけの一杯、野菜づくしの食事、食後のデザート。豊かな食卓の風景が広がる。

「『いいもの』は人を感動させ、生きる元気を与えてくれます」

年齢を重ねるにつれ、もの選びが変わってくる人がいます。けれど石村さんは16歳のとき、初めて自分の意志で白磁の蕎麦猪口を選んだときから、「好きなものは変わらない」と言います。

「手にしたときに『こんな料理を盛りたいな』『家のあの場所に置きたい』と、想像がふくらむもの。そして使い古された言葉かもしれませんが、やはり『用と美』を兼ね備えたものが、私にとっての『いいもの』です」(石村由起子さん)

美しいだけのものを選ばないし、使い勝手がいいものでも、美しくないと選びたくない。それは衣食住、すべてにおいての石村さんの価値観です。

「例えば最初にコーヒーを淹れてみせた、竹のフィルター。あれを見ると、細やかな編み目の美しさと入ったコーヒーのおいしさに、この家に来た誰もがワッと歓声を上げるんです。やっぱり『いいもの』は人を感動させ、生きる元気を与えてくれるんですよね。

そういうものと暮らしていくことは、幸せなこと。そして私はそういう幸せな道具を見つけてきて、多くの方と共有していきたい。一生みんなを驚かせて、喜ばせて生きていきたいんです(笑)」(石村由起子さん)

石村さんの道具選びは、「人を喜ばせるもの」「幸せをもたらしてくれるもの」。そういう意味で、石村さんにとって家は、いちばん大きな「幸せな道具」なのかもしれません。

石村さんの道具選びは、「人を喜ばせるもの」「幸せをもたらしてくれるもの」。そういう意味で、石村さんにとって家は、いちばん大きな「幸せな道具」なのかもしれません。


撮影/石川奈都子 取材・原文/田中のり子
※この特集に掲載している品はすべて石村さんの私物です。現在、購入できないものが多数含まれています。


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LEEとともに歩んできて、子育てが一段落。自分に目を向ける余裕の出てきたLEEの姉世代の方に、日々の“ほんとうに好きなものと心ときめく時間”をお届けします。

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