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【書評】綿矢りさ『オーラの発表会』自分と周りとのちょうどいい距離感って? わが道を行く女子の青春小説、他3編

2021.10.30

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『オーラの発表会』
綿矢りさ ¥1540/集英社

自分と周りとのちょうどいい距離感って? わが道を行く女子の青春小説

『オーラの発表会』 綿矢りさ ¥1540/集英社

LEE読者世代の小説家としておなじみの綿矢りささん。小説家デビューしてから今年で20年に。そんな彼女の最新作『オーラの発表会』は、人を好きになる気持ちがわからない大学生の女の子が主人公。

大学教授の父親と“江戸時代の料理を再現するのが趣味”という母親の間に生まれ育った海松子(るみこ)は、子どもの頃からマイペース。……というと聞こえはいいけれども、クラスメイトに興味を抱いたり、気持ちを推し量るのが苦手な18歳だ。ファッションやメイクにもあまり関心がない。友達は高校時代の同級生の萌音(もね)だけで、気になる人の持ち物や外見を全部まねし、海松子に突っ込みを入れる萌音のことを、こっそりと心の中で「まね師」というあだ名で呼んでいたりする。

家から近い大学へ進学したものの、両親から「1人暮らしを経験して欲しい」と、独立させられた海松子。家事はそれなりに覚えたものの、積極的に友達を作ることもなく、授業と塾でのアルバイト以外は川べりで凧を揚げる日々。

そんな彼女のもとに、幼なじみの奏樹、父親の元教え子で会社員の諏訪さんという男子も好意を寄せてきて、さらに萌音の海松子へのずうずうしい態度もエスカレート。穏やかだった海松子の心は乱れていく――。「恋愛ってしなくてはいけないの?」「他人に興味を持たないのはいけないこと?」など海松子の言動を通じて、作中には世の中で一般化されている考え方への疑問もいっぱい。

わが道を突き進みすぎるがゆえに“孤高の人”扱いされる海松子とは対照的に、他人と同化しすぎ、その結果、人に嫌われがちな萌音の悩みとの対比も読みどころ。いつも真剣なのにどこかずれた彼女たちの会話に笑いつつ、周りと自分との、ちょうどいい距離感を探す様子には、普遍的な人付き合いのヒントが。

物語は大学一年生の4月から1月までの短い期間なものの、登場人物たちの成長ぶりに読後はすっきりとした感動も。最近、マイルールに閉じこもっていないか? もしくは人に流されすぎていないか? 自分を見つめ直させてくれる一冊にもなる!

■詳細はこちら

『いっぱしの女』
氷室冴子 ¥770/筑摩書房

『いっぱしの女』 氷室冴子 ¥770/筑摩書房

’80~’90年代にかけて少女小説家として大ヒット作を連発し、’08年に逝去した著者の大人向けエッセイが新版で登場。

もとは’90年代に発表されたもので職業柄受ける誤解、働く女性に向けられる違和感をユーモアと皮肉たっぷりに綴る。タイトルは、著者が自身を励ますために言うようになったセリフ。時を超えて、読み手に勇気を与えてくれる。

『きみと世界をつなぐ まっすぐ人間関係術』
山崎総一郎 ¥1650/講談社

『きみと世界をつなぐ まっすぐ人間関係術』 山崎総一郎 ¥1650/講談社

子どものための法律本『こども六法』などで知られる著者が、若い世代を取り巻く人間関係と、悩んだときの対応を説明。同調圧力、いじり・いじめ、ハラスメント、LGBTQ+などの事例をマンガで見せながら、世の中の流れや考え方の変化を、客観と主観、両方の目線から教えてくれる。

気持ちを整理するための「悩み解決マインドマップ」も役立ちそう。



『MY FAVORITE ASIAN FOOD』
¥1870/誠光社

『MY FAVORITE ASIAN FOOD』 ¥1870/誠光社

本誌でのイラストでおなじみのスケラッコさんをはじめ、日本、台湾、香港や韓国などの東アジアで活躍している画家やイラストレーター総勢60名による「記憶に残る料理」をテーマにした本。

各地のお店や家庭の料理が続々と登場。日本語と英語、それにそれぞれの作家の母語も掲載。日本にいながらにして旅先にいるような感覚にもなれるおいしい一冊。


取材・原文/石井絵里


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