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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

【本音対談】モンスターな父・古田新太に松坂桃李が追い詰められ悲鳴!映画『空白』がイヤなのに面白い

イヤなのに、面白い『空白』

もうイヤ~、と言いながら目が逸らせない。どうなっちゃうの!?と吸い寄せられたまま心がはやる――。心の中で絶叫しながら観た映画『空白』は、今年の4月に『BLUE/ブルー』でLEEwebに登場した?田恵輔監督の新作です。約半年でまたも新作が公開とは、どんだけ働いている!?と驚きますが、これがまた力作も力作。?田監督、胆力があり過ぎます!! しかもまたオリジナル脚本とは、もはや天才か!?

その際に監督が、「最近コミカルは薄めモードの?田です。次の映画なんて一切コミカル要素がない」と宣言していた、その映画こそ、この『空白』。でも、コミカル要素がない(実際にはラストあたり、かなりクスクス笑えます!)から面白くないとはまるで真逆! 心臓鷲掴み系の面白さなんです。

キャッチに「迫りくる古田新太の狂気、逃げられない松坂桃李」とある、お2人にお話をうかがいました。松坂さんは映画『娼年』のLEEwebインタビュー『蜜蜂と遠雷』の本誌カルチャーナビ以来の登場です。

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──実写映画初共演とわざわざ銘打たれているように、『パディントン』&『パディントン2』で“声の共演”をされていました。

古田「と言っても、一緒にアフレコしたわけではなかったので。あの映画は、とても愉快な作品でした。これは、まるで真逆の作品です(笑)。あちらでは、パディントン(松坂さん)と、いいお父さんのブラウンさん(古田さん)という関係性でしたが」

松坂「あんなに優しく僕(パディントン)を受け入れてくれたお父さんだったのに、今回は一切、受け入れてくれないお父さんで。もうギャップしかないです」

古田「今回は、オイラが追い込み、桃李が追い込まれる関係性。それはそれで結構、愉快でしたけど」

松坂「僕は結構キツかったです(笑)」

──とっても濃い関係性で、ガッツリ共演した感想を教えてください。

松坂「僕は少し遅れて現場に入ったのですが、古田さんの“蒲郡の漁師”姿に違和感がなさ過ぎて、ビックリしました。本当にそこに住んでいる人のようで、馴染み方が尋常じゃなかったです(笑)」

古田「映画を撮る時のパターンとして、地元の空気感をしっかり取り込むために3軒くらいの居酒屋でローテーションを組んで、常連さんたちと仲良くなるんです。今回も焼き鳥屋さんから現場に差し入れが来るくらい、蒲郡に馴染みました」

松坂「僕が行くまでの間に、そこまで築き上げられているのか、スゴイな、と」

古田「桃李は、ちゃんと役作りをする人なのかと思っていましたが、そうじゃなくて助かりました(笑)。撮っていないときに話しかけても怒られず、オフれる人で良かったです」

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──初の?田組は、いかがでしたか?

古田「和気あいあいとした、楽しい座組でしたよ! ちょうどコロナ禍前に撮っていたので、とっとと撮って帰るぞ~、逃げろ~、という感じでした」

松坂「しかも割と余裕な感じで撮っていたにもかかわらず、3日巻いた(予定より早く終わった)んですよね。

古田「そうだった。“わ~”っとやっていたから、完成した映画を観て“うわ、こんなヘビーな映画を撮っていたのか”と初めて知った、という(笑)」

松坂「元々?田監督ってエッジの利いた、グッと攻めた作品が多い印象でしたが、初めてご一緒して、こんなお人柄の監督なのかと驚きました」

古田「実は『愛しのアイリーン』しか観ていなかったけど、あれも結構ヘビー。まさか、あんな愉快なおじさんだなんて(笑)。完成作を観て、蒲郡で一緒にいた、あの楽しい人は誰だったんだろう、って思いました」

『空白』って、こんな映画

中学生の花音(伊藤蒼)は、スーパーで店長の青柳(松坂桃李)に万引きを疑われ、逃げ出します。咄嗟に青柳は追いかけ、執拗に追い続けた結果、花音は車道に飛び出し、車に轢かれてしまいます。娘・花音を亡くしたシングルファーザーの添田(古田新太)は、「娘が万引きするハズがない!」と、青柳を激しく追及しはじめます。それは度を越し、添田はどんどんモンスター化していくのですが……。

“万引きを疑われた”と書きましたが、本当に万引きをしたのかどうか、観ている私たちにも分からないのです。見ようによっては、青柳が不埒な悪人にも見える。その“曖昧さ”が幾重もの意味や味わいを織りなして、胸を掻きむしらせるのです!!

──いやはやスゴイ映画でした。どんどんモンスター化していく添田、そんな添田に追い詰められる青柳。演じながらも、相当、キツかったのではないですか?

古田「どう? 桃李って、そういうことを考えたり、色んなものを振るい落として演じるタイプ?」

松坂「そうする方がいい場合もあると思いますが……。今回は“受け(の芝居)”が多かったので、古田さんや、寺島しのぶさん(やたら親切なスーパーの店員・草加部さん)の演技を受けてやっていくしかなかった感じでした」

古田「オイラは、はなから感情で芝居をしていない。単に“そう見えればいい”だけだから。例えば、葬式のシーンで桃李の胸倉を掴んで(恫喝等々を)やって、カットが掛かった瞬間に、“フ~っ、飲みに行く?”みたいな。そして桃李に“僕は行きません!”って言われて(笑)」

松坂「“いえ、僕は大丈夫です”って(笑)。僕としては、古田さんとしのぶさんの間に挟まれるのが、非常に嫌で。明日も2人と一緒のシーンだと思うと、あぁ、しんどいなぁ~って」

古田「そうだったのか(爆笑)!!」

松坂「すごいキツかったですよ」

古田「桃李に缶ビール投げつけるシーンなんて、楽しくてゲラゲラ笑いながらやっていたからなぁ。当たれ~、とか言いながら(笑)」

松坂「あれ、本気で投げてましたよね(笑)!?」

心地よくない風呂に浸かっている気分

――観ていると、添田の迫力に“ひぃ~っ”となってしまいます。でも感情で演じていないということは、演じながら青柳に対する憎しみや、添田に対する怖さをあまり感じずに演じていた、ということですか

古田「さっきの缶ビールのシーンでも、夜道で桃李を追いかけて投げつけて、楽しかったな、みたいな感じです」

松坂「あれは嫌だったなぁ。とはいえ僕は、基本、全部が怖かったですよ。スーパーの外で添田が佇んでジ~ッと見ているだけ、みたいなシーンも地味に怖かったですし。あ、また居る、でも居るだけだ。あ、今度は入って来たぞ、とか。青柳は(人との間に)距離を取っておきたい人なので、ああして詰めてくるようなコミュニケーションの取り方をされると、恐怖を感じるので」

古田「いや、オイラは、しのぶちゃん(演じる草加部)が一番怖かったよ!」

──確かに草加部の「青柳君は悪くないよ。私が守ってあげる」的な親切の押し売りは、嫌らしくて最高でした(笑)。

古田「あれは、気持ち悪かった!! あわよくば青柳とセックスしちゃおうかな、っていう迫り方だったよね」

松坂「草加部さんの、あの詰め方はスゴイ。常に何かいいことを言っているかのようですが、青柳はものすごい居心地の悪さを常に感じていて。全然、心地よくないお風呂に浸かっている感覚でした」

古田「(爆笑)! 新興宗教の勧誘みたいな感じだね」

松坂「はい。でも、すごいリアリティがあって、本当にこういう人っているんだろうな、と感じました」

古田「また、しのぶちゃんが上手いから、そういうのが(笑)」

桃李「本当に、上手くて……」

添田という父親、青柳という男

──では、完成した映画を観て、ご自分が演じた男たちを、どんな奴だと思われましたか?

古田「多分、添田充という人は、娘に対しても元嫁に対しても、さらに青柳に対しても草加部に対しても、娘との事故を起こした人やその家族に対しても、関係性を持てば持つほど、ちゃんと愛はある人なんです。そもそもモンスターペアレンツって、愛情の裏返しなんですよね。ただ、相手のことを考えず、相手の気持ちを知ろうとしないだけで。そんな添田が、最終的に娘の死に対してどう決着をつけるかまでの、心の移り変わりが完成作を観たらすごく伝わって来て、面白いと思いました。オイラは、それを表現しようなんて全くしなかったのに、観ればわかるから。やっぱり監督のココ(腕)じゃないですか?」

松坂「僕も映画で青柳を観て、“あ、割と現代には、こういう人いるよな”と思いました。なかなか主張も出来ず、溜まっていってしまう人って、いるだろうなぁ、って」

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──今この人物はこんな感情が渦巻いているとか、もっとモンスターっぽくしようなど、現場で監督との大まかな方向性のすり合わせ、みたいなものはあったのですか?

古田「あった?」

松坂「いや、今回、監督は何の演出もしていなかったですよね。さっき監督が、“僕は、映画を観ながら撮っているような感じでやっていました。あとはみなさんがやってくれるから~”っておっしゃっていました」

古田「今ちょっと物真似、入れたね(笑)。でも本当に、例えば2人のシーンでも、カメラ位置を決めたら、桃李に“ここで土下座してください”、“古田さんはそれを上から見下ろして”という程度のディレクションなんです。アングルを決め、動きを大雑把に言って、あとは、ほぼお任せ、みたいな感じで」

松坂「すごく転がし方が上手なんでしょうね。我々が“この役はこういう流れでこういう着地点に行き着く”というプランを立てなくても、監督がそのように転がしてくれるというか。シーンを繋げていくと、ちゃんと積み重なって波が出来ていて、作品として仕上がっていくという感じでした」

古田「娘のことがあって、色んな人と関わらざるを得なかった添田の感情は変わっていくけれど、人間としては添田も青柳も、根っこはさほど変わっていないと思うんです。映画を観ても、画角としても2人が変わったという撮り方をしていないし、単に“どこそこへ行く”という姿や行動を追っているけれど、“何かが変わった”というような表現はどこでもしていない。でも出来た映画は、感情の流れが見えてきて、それが変化しているのが分かる、ということなのかな」

誰もが加害者にも被害者にも成り得る

──人間の不寛容、赦し、その難しさなど、色んなことを考えさせられます。

古田「これは、誰しもが加害者にも被害者にも成り得る、という物語。ただ、この『空白』は、漁師とスーパーの店長という、アナログ感のある2人の直接的な圧力だからまだ良かった、という気が若干しました。これがネット社会における間接的な圧力だったら、もっと怖いことになってしまう。そんなことも感じました」

松坂「僕は、不確かなものであればあるほど、当事者ではない周りの人たちがそれを解釈して、分かりやすい物語を見つけようとしてしまう、それが孕む怖さを感じました。自分の中で腑に落ちるもの、勝手な落としどころを付け加えて、事実は別のところにあるのに、全然違う角度から“真実みたいなもの”に変えられてしまう、という怖さ」

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古田新太

1965年12月3日、兵庫県出身。劇団☆新感線の看板役者としての活動と並行し、数々の映画やドラマ、雑誌連載などで活躍。主な映画出演作に『木更津キャッツアイ』シリーズ(03~06)、『超高速!参勤交代 リターンズ』(16)、『土竜の唄 香港狂騒曲』(16)、『脳天パラダイス』(20)、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち』(21)など。主なドラマ出演作に、朝ドラ「あまちゃん」(13)、「逃げるは恥だが役に立つ」(16)、「俺のスカート、どこ行った?」(19)、「半沢直樹」(20)など。

──みんな心に“空白”を抱えている、ということも感じさせますが、中でも寺島しのぶさん演じる草加部が最も孤独を恐れているのかもしれない、という印象も受けました。

古田「しのぶちゃん(草加部)の孤独感たるや、怖いですから。“みんなで〇〇のために(活動を)やりましょう”という、あれ。いや、オイラはやらん!と言いたい(笑)」

松坂「あれは、本当にゾッとしますよね」

古田「桃李(青柳)、可哀そうだったもん」

松坂「草加部さんの、あの、ぬる~っとした感じには、気分が悪くなったなぁ……」

古田「個人的には、孤独は感じないんです。元から個人行動が多いし、どこに行っても一人で行動して、土地土地の人と仲良くなって、というパターンです。でも本作には、みんな、ちゃんとコミュニケーションを取ろうとはしているんだけれど、取れない人たちしか出てこない(笑)。実際、コミュニケーションが苦手な人やコミュ障の方は多いんでしょうね……」

松坂「確かに現代、そういう方が増えた気はしますが……。僕も古田さんと同じで、昔から一人遊びが好きな子供だったので、あまり孤独という感覚を覚えないタイプなんです」

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松坂桃李
1988年10月17日、神奈川県出身。09年に特撮ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。近年の主な映画出演作に『キセキ-あの日のソビトー』(17)、『孤狼の血』(18)、『不能犯』(18)、『娼年』(18)、『居眠り磐音』(19)、『蜜蜂と遠雷』(19)、『新聞記者』(19)、『あの頃。』(21)、『いのちの停車場』(21)、『孤狼の血LEVEL2』(21)など。最近のドラマ出演作に「あのときキスしておけば」(21)、「今ここにある危機とぼくの好感度について」(21)など。『流浪の月』(22)、『耳をすませば』が公開待機中。

人生ゲームとラジコン、最高!

──相変わらず外出制限中ですが、最近、楽しいことはありましたか?

古田「人生ゲーム!」

松坂「うわ、懐かしい~」

古田「毎年、新しいバージョンが出ているって知ってた?」

松坂「え、指で回すやつですか?」

古田「そこも、今はギアがついていて。内容も“ネットで儲ける”とか、ちゃんとアップデートされている。いつまでも“貧乏農場”とかじゃなくて(笑)。娘と娘の友達と一緒に遊んだら、すごく面白かった。3回転くらい楽しめたよ」

松坂「僕は、久しぶりにラジコンをやったら楽しくて仕方がなくて」

古田「分かる、楽しいよな、ラジコン!! いい趣味だね~」

松坂「なんだろう、この懐かしさとワクワクと、自分でやっている感と、って(笑)。あっという間に時間が過ぎてしまうんですよ!! とにかく楽しい!」

なんか家遊びも上手なお2人!

和気あいあいとお話してくれた、この温ったかムードから一転、映画はもう、怖くて面白い。でもラストシーンは、クスッと笑えるだけでなく、なんか愛を感じてしまうんです。人と人の繋がりというか、「あっ!」と愛がこぼれる瞬間、その小さな奇跡を目撃できるというか。是非、大いに感情を揺らしながら観て下さい。

『新聞記者』『MOTHER マザー』『あゝ荒野』など、挑戦的な作品を次々送り出すスターサンズ製作というのも注目です。

映画『空白』

9月23日(木・祝)全国公開

(C)2021『空白』製作委員会

2021/日本/107分/配給:スターサンズ/KADOKAWA

監督・脚本:?田恵輔

出演:古田新太 松坂桃李 田畑智子 藤原季節 趣里 伊東蒼 片岡礼子 / 寺島しのぶ

公式サイト:kuhaku-movie.com

 


写真:菅原 有希子

古田新太さん / ヘアメイク:田中菜月 スタイリスト:渡邉圭祐

衣装:シャツ¥27,500/サンサーフ(問東洋エンタープライズ℡03-3632-2321)、パンツ¥27,500/サイト(問ヨウジヤマモト プレスルーム℡03-5463-1500)、キャップ、Tシャツ/スタイリスト私物、雪駄/本人私物

松坂桃李さん / ヘアメイク:AZUMA スタイリスト:カワサキタカフミ

映画ライター/映画評論家

Writer Profile

Chizuko Orita

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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