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松坂桃李さん『蜜蜂と遠雷』で父親役を演じて、実際のパパ願望は?

2019.10.07

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すでに人気俳優の地位を確立しながら、あえてチャレンジングな役に次々と挑み、幅と深みをさらに広げている松坂桃李さん。映画『蜜蜂と遠雷』でも、非常に繊細な表現力を要する役をサラリと演じ、うならせる。年齢制限ギリギリで、最後のピアノコンクールに挑む明石を演じた。

相手を天才だと認めた瞬間はすごく気持ちがよかった

「楽器店で働く家庭人の明石は、ピアノにすべてを捧げる環境の人たちとは違う。でも、ピアノの世界に自分のような人間がいていい、日常から出る“生活者の音楽”があっていいじゃないか、と確固たる意志を持っていて。その思いを大事に、自分なりの音楽を目指す男です。息子と接する場面も多いので、“日常感”を大切に演じました」

実際に世界で活躍するピアニストたちによる演奏も聴き逃せない。しかし素晴らしいのは、映像的に、4人の俳優がきちんと難曲を弾きこなしていること。その臨場感なくしては、ピアニストとしての佇まいや生の感情が、ビリビリと伝わってくることはなかっただろう。

「最初に監督から“演奏シーンの撮影では、全部弾いてもらうから”と、すごいプレッシャーをかけられました(笑)。僕はピアノを触ったことがなく、それこそ『キラキラ星』レベルから始め、約1カ月、ほぼ毎日3時間程度練習し、さらに週3回、最前線で活躍されている先生に見ていただきました」

そのかいあって360度、寄り引き自在に捉える演奏シーンは圧巻! だが物語的にも演技としても複雑で味わい深いのは、才能ある明石が、上には上がいると実感し、その天才たちに憧憬を覚える場面だろう。

「淡々と血のにじむ努力をし、本番でどれだけ実力を出せるか。まさに自分との孤独な闘いだと思いました。ピアニスト同士は互いにリスペクトし、仲間意識もあるんです。その中で、こういう人が天才か、これから世界にはばたく人なのか、と明石の中で見えた瞬間、すごく気持ちがよかったです」

その心情は意外に聞こえるが、なるほど、と諦念と憧憬が同居した明石の表情が腑に落ちる。

「明石にも認められたい、世界の最前線で演奏したい気持ちはどこかにあると思います。でも家族もいるし、自分にはできない、と。それは言い訳でもある。技術やセンス、ピアノへの向き合い方など、真の天才たちとの違いをまざまざと見せつけられた。ただそこで明石は、自分の弱さを受け入れ、強くなろうとした人だと思います」

そして“気持ちいい”の正体を、自身に置き換えて語ってくれた。

「例えば同年代の俳優が、自分が出たいと思っている監督と一緒に仕事をしたと聞けば、“うらやましい、悔しいな”と思いますが、それと同時に“やった、この年代がさらに盛り上がるぞ”とうれしがる自分もいるんです。ネガティブな悔しさではないんですよね」

さて、本作でも父親役がすっかり板について見える松坂さん。30代となって感じたこととは?

「めっきり結婚指輪をしている役や父親役が増え、来る役が変わってきたと実感しています。実際のパパ願望も、もちろんありますよ。35歳くらいまでには……! 家族との時間をちゃんとつくるために、多少休んでも大丈夫な貯蓄も今からしておかないと(笑)。車を運転して、家族で海やドライブに行くのも憧れますね」

Profile
まつざか・とおり●’88年10月17日、神奈川県生まれ。TVドラマ『侍戦隊シンケンジャー』(’09年)で俳優デビュー。近年の映画出演作に『彼女がその名を知らない鳥たち』(’17年)、『娼年』『孤狼の血』(ともに’18年)、『居眠り磐音』『新聞記者』(ともに’19年)など。

『蜜蜂と遠雷』

若手ピアニストの登竜門である国際コンクールに、かつての天才少女で表舞台から遠ざかっていた亜夜(松岡茉優)が久々に出場する。亜夜と幼なじみで優勝候補のマサル(森崎ウィン)、年齢制限ギリギリの明石(松坂桃李)、彗星のごとく現れた15歳の塵(鈴鹿央士)が、それぞれの思いを胸にピアノに向かう。原作は恩田陸による史上初の直木賞、本屋大賞W受賞作。監督は『愚行録』の石川慶。全国公開中。

©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会


撮影/小渕真希子 ヘア&メイク/ 髙橋幸一(Nestation) スタイリスト/丸山 晃 取材・文/折田千鶴子
ジャケット ¥87000/カラー カットソー¥32000/ ヨウジヤマモト

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