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細田佳央太さん・映画『人はなぜラブレターを書くのか』公開記念インタビュー

細田佳央太さんが「大事なことを伝えるときは手紙を書くと決めている」理由【映画『人はなぜラブレターを書くのか』】

  • 折田千鶴子

2026.04.15

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細田佳央太さん

『舟を編む』などの石井裕也監督と再タッグ

朝ドラ『あんぱん』の豪ちゃん役で、日本列島を涙で包み込んだ細田佳央太さん。最近も、ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』第5話に出演し、筆者の周りでは「細田くんも文菜(あやな)に引っ掛かっちゃったね~!!」と、役名と実名をごっちゃにしながら話題になっていました。気づけば本当に色んな作品に登場しているのですが、作品ごとに雰囲気も顔つきも全く異なるため、「確か、あれも細田くんだったよね?」なんて事態に陥ることも少なくない、若きカメレオン俳優です。

そんな細田さんが主演を務めた『町田くんの世界』から早7年、再び石井裕也監督(『舟を編む』『愛にイナズマ』など)とタッグを組みました。その映画『人はなぜラブレタを書くのか』(4月17日より公開)では、綾瀬はるかさん演じるヒロイン、ナズナがずっと忘れられずにいる初恋の相手・信介を演じました。高校生のナズナを演じるのは、當真あみさん。2人のほのかな恋心が見え隠れするくすぐったいシーンから、都内有数の進学校に通いながらもボクシングに打ち込むゴリゴリなシーンまで、細田さんにその舞台裏を色々とお聞きしました。

細田佳央太さん

草食にも肉食にもするりと自在に入り込む

細田佳央太

Kanata Hosoda

2001年12月12日生まれ。東京都出身。4歳より芸能活動をはじめる。映画『町田くんの世界』(19)主演に抜擢され、数々の賞にノミネートされる。大河ドラマ『どうする家康』(23)、朝ドラ『あんぱん』(25)などで世代を超えて注目を集める。主な映画出演作に、『花束みたいな恋をした』(21)、『子供はわかってあげない』(21)、『線は、僕を描く』(22)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(23)、『新幹線大爆破』(25)など。『未来』(26)が5月8日に公開予定。

『町田くんの世界』から約7年。久しぶりに石井裕也監督とご一緒した感想を教えてください。

『町田くんの世界』は、僕が17歳の夏に撮影した作品です。その後も石井監督とは、定期的にお会いしていました。20歳の誕生日もお祝いしていただいたり、一緒にお酒を飲んだり。だから「久しぶり感」はほぼなかったんです。お会いする際には、「あの作品、良かったよ」という話もしてきたので、今回の現場でも特別に何か言われることもなく、褒められるわけでもなく、怒られるわけでもなく、ごく普通に接してくださいました。少しだけ同じ目線に立ってお仕事が出来たのかな、一役者として見てくれる感じが強くなったかな、というのはありましたが。

人はなぜラブレターを書くのか』ってこんな映画

寺田ナズナ(綾瀬はるか)は、ある青年に手紙を書きはじめる。それは24年前、ナズナが17歳(當真あみ)の時に、いつも同じ電車で見かけて、ひそかに思いを寄せていた高校生・富久信介(細田佳央太)に宛てた手紙だった。進学校に通いながらもプロボクサーを目指している信介は、2000年に起きた日比谷線の脱線事故に巻き込まれ、亡くなっていた――。2024年、ナズナからの手紙を受け取った信介の父(佐藤浩市)は、手紙の中に亡き息子の自分が知らなかった成長や生きた証を感じ取り、ナズナに向けて筆をとるーー。列車事故で命を落とした高校生の家族のもとに、20年を経てラブレターが届いたという実話をベースに紡がれる感動作。

クランクイン前に4ヶ月もボクシングのトレーニングを積んだそうですね。

準備の時間をたくさんいただけて、本当にありがたかったです。初めてボクシングをしたので、まずは縄跳びから始めて。実は小学校の頃、縄跳びが大っ嫌いだったんですよ(笑)。2重跳びも出来なかったくらいの僕が、毎日やることで徐々に出来るようになって。そこからワンツーの打ち方などの基礎から、筋トレなどを松浦(慎一郎)さんに教えていただき、ボクシングをやるとつく筋肉も徐々についてきました。

©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

ボクシング映画と言えば、やっぱり松浦さんですね。

ご本人はとても優しい方で、褒めて伸ばしてくださるタイプですが、やはりボクシングに関することには、とても厳しくもあって。リアルなボクシングやその動きと、映像映えのする動きはまた違うのだと、俳優をされているからこそ色んなことを知る松浦さんが、効果的な動き方・見せ方を作ってくれました。役者目線で指導してくださるのは、本当にありがたかったです。

細田佳央太さん

細田さんが演じた信介は、誰もが好感を抱かずにいられない青年です。文武両道で正義感が強くて純情で。そんな信介について考えたことは?

彼の存在感とは何だろう、ナズナさんが彼に惹かれたり、思い続けたりした理由は何だろう、と。ナズナさんが彼を電車の中で見た時に、他の人とは違う「何か」を感じ取ったと思うんです。彼の存在感にもリンクする「何か」とは、大きすぎる生命エネルギーだと思って。それをどう表現しようかなと考えていたときにボクシング練習が始まりました。

『人はなぜラブレターを書くのか』
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

そこから4ヶ月のトレーニングですね。

4ヶ月って時間があるようで、意外とないなと感じて、「どうしよう」と焦りました。しかも信介さんは、とても強かったとお聞きしたので。さらに、元々松浦さんのもとでボクシングをやられていた妻夫木聡さんや菅田将暉さんとも練習をご一緒させていただくことも多く、お2人のレベルがあまりに高すぎて、どうしたら近づけるのか、ヤバイぞという焦りがどんどん大きくなって。でもその「焦り」と信介さんの「生きる」という膨大なエネルギーがその時リンクした感じがありました。

なんか、すごく分かる気がします。

もう1つ(役づくりの上で)大きかったのは、撮影前に信介さんのお父様に実際にお会いして、お話をうかがったことです。お父様の信介さんに対する愛情や、劇中でも描かれているように父と息子があまり話をしなかったらしいのですが、それでも互いにリスペクトしていて愛があったとことを、お父様の口から直接聞いて強烈に感じることが出来ました。そういうことが重なって、役が出来上がっていく感覚がありました。

細田佳央太さん


菅田将暉さんの現場の居方に感動!

信介に大きな影響を及ぼした人として、ボクシングジムの先輩であり、世界チャンピオンになる夢を持つ川嶋さんがいます。菅田将暉さんが演じられていますが、共演の感想を教えてください。

すごくカッコ良かったですし、一緒にお芝居しているときは、もう本当に楽しかったです。特に印象に残っているのが、信介さんと川嶋さんが2人で居残って練習している時に、ジムの会長から「この坊主(信介のこと)、プロボクサーやりながら、ビジネスもやって、どっちも一番になるんだと。」と言われるシーンがあります。他の人に笑われた信介が、川嶋に「笑わないんですか?」と聞くと、「笑うわけねぇだろ」と返してきた菅田さんの目と空気感が、本当に忘れられず今も鮮明に残っています。あの表情は信介さんにも届いたし、僕自身にも届いて刺さって……。菅田さんのお芝居が素晴らしいことは周知のとおりですが、やっぱり面と向かって一緒にお芝居をしてみたら、すごく引き上げてもらった感覚がたくさんありました。

『人はなぜラブレターを書くのか』
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

確かに菅田さんのお芝居には、毎度「ヤラれた~」と激しく感情を揺さぶられることが多いです。本作もですが。

僕も完成した映画を観て、菅田さんのお芝居に泣かされました。ただお芝居のみならず今回、同じくらいに大きな影響を受けたのが、菅田さんの距離の取り方で。カメラが回ってる時と回ってない時の、距離の取り方が一緒なことにビックリして。例えば、撮影前に菅田さんとボクシングの練習が一緒になった時も、ミットをもって「打つ?」と(川嶋さんのように)来てくださって。撮影が始まる前から現場の外で作られた関係値を、そのまま劇中にも持っていった感覚が自分の中にあって。それって簡単なことではないと思うし、どこまで考えてやって下さったのかは分からないですが、菅田さんが信介さんと川嶋さんの特別な師弟関係や距離感を作ってくださって、それをもって現場に一緒に入っていけたのは、特別な経験でした。本当にスゴイな、自分もそういうお芝居との向き合い方をしたいと思わされて、すごく刺激を受けました。

また信介も、川嶋といる時にだけ見せる表情や可愛さがあって、理屈ではなく分かり合えているような関係がいいですよね。

信介さんという不器用な男の子が、家族は別にして唯一、信頼してた存在が川嶋さんだと思うんですよね。エネルギーをぶつける相手がボクシングだとしたら、人として受け止めてくれたのが川嶋さんだったんじゃないかな。思春期って勝手に家族と距離を置こうとしたりしますが、そういう難しい時期にも、信介さんが本来の姿を見せる相手であり、気が抜ける瞬間が川嶋さんという存在だったと感じました。

お父さん役・佐藤浩市さんに感じた温かさ

信介と父親の関係も大きな見どころです。佐藤浩市さんと親子を演じて、どんなことを感じましたか?

『人はなぜラブレターを書くのか』
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

本作においても浩市さんは、とても温かみがありつつ、独特な空気感がありますよね。実は一度、僕がとても自己中心的なお芝居をしてしまったことがあったんです。監督に指摘されて気づいたのですが、最も自分が「絶対にやるまい」と避けて来たことだったので、後からものすごく大きな不安がやってきて……。そうしたら後日、浩市さんが「どんな芝居しても受け止めてやるから好きにやれ」と言ってくださって。すごく安心したと同時に、父親に感じる温かさや懐の深さって、浩市さん自身の優しさや大きさから来るものなんだなと感じて。ご一緒できた時間が、より特別なものになったと同時に、必ずもう一度ご一緒させていただきたいと思いました。

くすぐったい初恋の味は――

電車で顔を合わせるだけの信介とナズナの、互いに思い合っているのに口もきけない関係が、メチャクチャくすぐったくて、たまらなかったです!

當真(あみ)さんとは、『どうする家康』以来2度目の共演でしたが、信介さんとナズナさんの関係や距離感を意識して、現場ではお互いに何となくあまり会話をしないようにしていたような感じでした。信介さんとしては、会長の前で見せる頭の良さ、家族の前でしか見せないちょっと尖った姿、川嶋さんにしか見えない弟分の顔など、そのどれとも違う等身大の一人の男子高生の姿が現れたシーンだと思います。ナズナさんとのシーンは、クスッと笑えたり、くすぐったかったりしますが、あまり頭で考えず面白い状況に身を委ねて演じました。

『人はなぜラブレターを書くのか』
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

あのくすぐったさは、2000年頃ならではの距離感から来るものでしょうか?

間違いなく“時代”はあると思います。今より不便だし、まだ携帯電話も一般的にそこまで普及していなかった時代だとしたら、喋りかける以外に連絡を取る手段がないですよね。なんなら自分的には、朝ドラ『あんぱん』での蘭子(河合優実)さんと豪ちゃんの距離や恋愛観に近いものを感じたくらいです。

確かに。そう言えば『あんぱん』での豪ちゃんも、本作における信介も、途中退場してしまいますが、最後まで観る人の脳裏にその姿があって、それが涙を引き起こすという共通点がありますね。

ありがたいことに、いろんな方の記憶に残っていただけた役でしたが、『あんぱん』は思った以上の反響で自分でもビックリしました。2作ともに共通して言えるのは、いなくなった後のみなさんの感情表現や丁寧な演技によって、観る人たちの記憶に残ることになったということです。要するに周りの方のおかげですが、やっぱりお芝居って1人でするものではなく、周りの方の支えあってのものだと改めて思います。

細田佳央太さん

確かにその通りですが、本作でもまんまと泣かされてしまいました。

僕も完成版を、信介さんを演じた細田としてではなく、一観客として観てしまいました。そうしたら3回ぐらい泣きました(笑)。まずは、(敢えて詳細が分からないように省略します。鑑賞後に答え合わせしてください!) 菅田さんが大橋会長に「なんで!?」と掴みかかるシーン。あのシーンはもう、菅田さんのパワーがスゴ過ぎましたね。2つ目は、現代のナズナさん一家の家族会議。3つ目は、妻夫木聡さんが娘に「立派になりすぎ」と言うシーン。その3ヵ所はもう泣けて泣けて。実は僕、現代パートの台本を読んだだけでメチャクチャ泣いてしまったのですが、映画を観たらそれ以上のものになっていて、本当に皆さんが最大火力で演じていらして、本気で感動しました。

細田さんが大事にしている“手紙”は?

細田佳央太さん

最後に、タイトルにちなんで、ラブレターのエピソードを何か教えていただけますか?

ごめんなさい! ラブレターは書いたことがないです。でも手紙はあります。というか今の時代、SNSなどですぐに伝えられるので、わざわざラブレターを書くって、あまりない気がします。でも手紙は結構、書きますよ。ここ3、4年でむしろ書く頻度が増えました。デジタルな文字よりも信用できるというか、手紙って書いた人の温度や心の状態が意外と字から読めたりするじゃないですか。だから伝わりやすいと思うので、僕は大事なことを伝えるときは手紙を書くと決めてます。

例えば?

最近は、マネージャーさんにも手紙を書きました。自分の盛大なわがままを許してもらった時、「ありがとうございます」と気持ちを伝えたくて。逆に、先輩の俳優さんからいただいた手紙は、台本カバーに全てまとめて入れてあります。僕はいただいた手紙をたまに読み返したくなるんです。やっぱりSNSを介したメッセージを読み返すより、手紙って特別感が断然ありますから。

細田佳央太さん

言い淀むことなく、どんな質問にも一生懸命に言葉を連ねてくれた細田さんは、多分、日頃から本当にたくさんのことを考えて、それを言語化しているのだろうなと思わされました。大切なことは手紙を書いて伝えようとする姿勢も、なるほど細田さんらしいと納得です。

さて映画『人はなぜラブレターを書くのか』は、綾瀬はるかさん演じるナズナと、當真あみさん演じるナズナの、現代と過去が織りなしていく愛と絆の物語。現代のナズナの夫を妻夫木聡さんが演じていますが、その家族ドラマがまた泣ける! 前半ではダメ夫に見えるのですが、その心の内が段々と分かって来る後半はもう、ずっと半泣き状態で……。その現在と過去を繋ぐのが、細田さんが演じた信介というわけです。果たして、24年の時を経て届けられたラブレターは、人々の胸にどんな感動を届けるのか。是非、劇場で胸いっぱいにその感動を吸い込んでください。

映画『人はなぜラブレターを書くのか

4月17日(金)より全国ロードショー

『人はなぜラブレターを書くのか』
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

監督・脚本:石井裕也
出演:綾瀬はるか 當真あみ 細田佳央太 / 妻夫木聡 菅田将暉 佐藤浩市
2026年/日本/2時間2分/配給:東宝


Staff Credit

撮影/菅原有希子 ヘアメイク/菅野綾香 スタイリスト/Satoshi Yoshimoto

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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