【高畑充希さんインタビュー】崖っぷち映画館を嘘と毒舌で救う!『浜の朝日の嘘つきどもと』【嘘はついたほうがいい】
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折田千鶴子
2021.09.09
タナダユキ監督と初タッグ
どんな役を演じていても、すご~く気持ちよく見入らせてくれる、卓抜した演技力と不思議な存在感が魅力の高畑充希さん。先ごろ放映されたドラマ「にじいろカルテ」もそうでしたが、近作の人気ドラマを思い出しても、「同期のサクラ」のサクラも、「忘却のサチコ」の幸子も、「過保護のカホコ」の加穂子も、みんなかなり濃い目にキャラ立ちしているのですが、邪念なくスーッと引き寄せられてしまうのです。毎度毎度ちゃんと役を生きていて、上手いんだなぁ、ホント……。
そんな高畑さんが、『百万円と苦虫女』や『ロマンスドール』などユニークな作品群を撮り続けるタナダユキ監督と『浜の朝日の嘘つきどもと』で初タッグを組みました!
高畑さんが演じるのは、福島県・南相馬の映画館「朝日座」に突如現れ、“茂木莉子(もぎりこ)”と名乗る正体不明のヒロイン。冒頭、不機嫌そうにトランクをガラガラ引きずって歩いてくる姿から、早くも妙にどこか可笑しくてクスリと笑ってしまいます。
──撮影を振り返ると、どんなことが思い出されますか。
「去年の夏(20年7月~8月撮影)、コロナ禍による緊急事態宣言明けの最初のお仕事が本作でした。色んなことが延期や中止になったりして、私自身どこか東京で疲弊していた部分もあったんです。そんな時、福島でのんびり穏やかに撮影していたので、自分自身の細胞も少しずつ治癒していくような感覚がありました。まさか翌年も、同じような状況が続いているとは思ってもいませんでしたが……」
──タナダユキ監督とは初タッグになります。ご一緒した感想を教えてください。
「すごく俳優さんを信頼してくださる方で、現場では難しい話とか全くしませんでした。しかも今回は、色んなフィールドで活躍されている方々が俳優として来てくださったので、監督自身、現場で化学反応をみながらカットも決めていくような感じでした。だから、私たちも何かカッチリと決め込んで準備していくというより、その場でどう会話となって成立していくか、その場でどう変わっていくか、という感じでやっていました。すごくフレキシブルに、その場その場の空気を大事にして撮ってくださっていた、という印象です」
『浜の朝日の嘘つきどもと』ってこんな映画
100年近くも地元住民に愛されて来た、福島県南相馬の映画館「朝日座」。けれどシネコン全盛という時代の波に逆らえず、支配人の森田(柳家喬太郎)は、泣く泣く閉館の決意を固めます。そこへ、「朝日座を立て直すため、東京からやってきた」と、茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が現れます。建物の次の買い手も決まっている状況下、莉子は街の人々を巻き込んで、存続のために奮闘し始めます。莉子のそんな奮闘の裏には、実は恩師(大久保佳代子)との約束があったのですが――。
──演じた莉子について、また本作に込めた思いなど、監督とどんな話をされましたか?
「その辺りについても、何も話していないんです。タナダさんとしては“台本を渡しているのだから、そこから先はもういいでしょ”と思われていたそうで(笑)。確かにそうだなぁ、と思いました。特に今回の台本は“監督はこういうことを言いたいんだ”ということが、すべて書かれていて。ただ題材としては、今を映したものでもあり、決して明るくはないんです。でも、絶対に暗くしたくないというエネルギーを、台本からすごく感じました。莉子に関しても、かなりハードな人生を送って来た人だけれど、絶対に可哀そうには見えたくないな、と私も思いました。たとえ誰かが死ぬシーンであったとしても、絶対にお涙頂戴にしたくないというエネルギーが、文字から浮き出るくらいにあったので(笑)、そこは演じる際も本当に大切にしたいな、と思いながら演じていました」
──莉子が“おっさん”と呼ぶ支配人・森田を演じられたのは、落語家の柳家喬太郎さんです。莉子とおっさんの掛け合いがコントのように面白くて。さすが高畑さんのツッコミは、間といい抑揚といい素晴らしかったですね(笑)。
「私も、莉子の口が悪くなっていくのは楽しかったです。私自身大阪のツッコミとボケの文化の中で育ってきているので、多くの人より人生の中でツッコんできたとは思います(笑)。でも、年配の方にあんな口は流石にきけません(笑)。現場でも“すみません……”と言いながらやっていました。師匠が“どんどん来てくれ!”とおっしゃるので、スタートからカットが掛かるまでは、失礼だなんて思わないように自分を洗脳して、思い切りやらせていただきました(笑)。最初、師匠の胸をお借りしますと言ったら、“僕は普段、(落語で)一人で話しているから、逆に迷惑を掛けちゃうかもしれないよ”なんておっしゃられて(笑)。師匠との掛け合いは、本当に楽しかったです」
嘘で本音をくるむ方がいいこともある
──柳家喬太郎さんが演じた支配人にしても、大久保佳代子さんが演じた恩師にしても、いい加減のようで人間味に溢れた、なんともユニークで憎めないキャラクターでしたね。
「そうなんです。台本を読んだ段階から、各々のキャラクターがすごく魅力的だと感じました。そういう人たちの中で、どんどん物語が転がっていくのが楽しくて。最初はみなさん、いつも活動されているのとは違う場ということもあって、不安そうにされていたんです。だから現場では、私がちょっとした接着剤的な存在になれたら嬉しいな、という気持ちがありました。タナダさんも、そう思われているのかな、と思いましたし」
──みなさん、いい味を出していらっしゃいました。
「本当にスゴイな、と思いました。師匠の“普段は一人で話しているから……”という話をはじめ、みなさん“普段の仕事とはこういうところが違う”など色々教えてくださって、すごく面白かったです。私は師匠のように話せないし、大久保さんみたいにバラエティで爪痕を残すことも出来ない。でもみなさんは、私が普段やっていることを上手く出来て、すごいなぁ、と感激しました」
──また、莉子がとっさに名乗る茂木莉子(もぎりこ)という名前にはじまり、おっさんも先生も、笑ってしまうような嘘をしゃあしゃあと吐きます。文字通り、嘘つきどもの嘘が面白いですね。
「私、嘘はついた方がいいと思います。きっと馬鹿正直に、“嘘をつかない/つけない”という正義を振りかざすのは、簡単だと思うんです。“私、嘘をつけないんです”と言いながら、周りの人々をなぎ倒してしまうこともありますよね。でも、それは違くないか!?と思うので。……と言いつつ、私も割に顔に出てしまうタイプなので、嘘があまり上手くないんです。だから、それで人を傷つけないように気を付けなければ、といつも思っています。本当のことを本気で喋ることって、恥ずかしいこともありますよね。そんな時も本音を嘘でくるんだ方が、ちゃんと伝わることもあって。どうしようもない嘘をつく必要はないけれど、人を傷つけないための嘘や、伝えるための嘘は全然あっていいと思います!」
単純に“好き”を増やす方が楽しい
──震災から10年後の福島を舞台にしているということ自体、とてもメッセージ性を感じる作品でもありますが、この作品に携わってどのように感じましたか。
「阪神大震災のときは実際に自分もそこにいて経験したので、自分事として実感がありました。でも東日本大震災が起きたとき私は大阪にいて、津波の映像をテレビで観ていました。以降、悲惨な状況を映像で知ってはいたけれど、どこか自分のこととして捉えるというより、少し距離があった気がします。だから今回、福島で撮る映画のお話をいただいて、実際に行って感じたいと強く思いました。今回その場所に行き、自分の目で見て、ようやく実感として自分事になった気がしました。既に10年経っていますが、全然癒えていないんだな、と感じて。もちろん復興してきているし、再生してお店もやっていますが、やっぱりそこだけ空気の温度感というか、硬さが違っていて……。傷は癒えてはいくけれど、完全に消えることはないんだ、と感じました。大きく傷つくって、そういうことなのか、と。完全な修復はないけれど、消せないものを踏まえて、次をどう作っていくか、次にどう落とし込んでいくか、ということなんだと思いました」
──震災やコロナ、無くなっていくものなど、色んなテーマが詰まっていますが、映画好きにはたまらない映画讃歌でもあります。
「今の時代が凝縮されているテーマがたくさん詰め込まれた映画ですが、私はやっぱり、出てくる人がみんな映画好きな人ばかり、というのがたまらないです。私も、舞台やミュージカルが好きで、小さいときからそれで人生を決めてきているので、そういうエネルギーがとても好きで、良くって。少し話はズレますが、先日“才能と努力”について話をしていたんです。私は、好きじゃないと努力が出来ないタイプ。でも、努力しないとキープできないから努力するという発想の人もいるよね、という話になって。どちらが正解、というわけでは無いけれど、好きのパワーってやっぱり凄いですよね。本作でも、登場人物みんな映画が好きだから、朝日座再建のために頑張れる」
「そういうことを本作で、改めて感じられたので、私はこれまで同様、これからも好きなものを追いかけていきたいし、好きなものをたくさん探そうと思いました。今はネガティブなことの方が色濃い時代だから、“好き”というような単純なことを無下にしてしまっている気がするんです。皆さんにも、この映画を観た後で“これ好きだった!”と思い返してもらえたらいいな、と思っていて。好きって思えることが多いと、楽だし、楽しい人生になると思うんです」
──確かに、そんなことも感じさせてくれるタナダユキ作品は、これまでの作品もすべて、なんかぶっきら棒だけど、どこか温かくて、突き放さない愛を感じますよね。
「確かにタナダさんの作品には、ぶっきら棒だし、器用ではない人たちがたくさん出てきますよね(笑)。私自身も、あまり物事をストレートに伝えるのが得意じゃないので、物事の伝え方など、すごく共感する部分も多くて……。タナダ作品は今までもすごく好きでしたが、自分が作品に参加させていただいて改めて、本当にステキだと思いました。タナダさんとは今もたまにプライベートでもお会いするのですが、話もすごく面白いし、本当にステキな人。現場でも思い切りがよく、無駄もないし、誰よりも男前で、みんなが付いていきたくなる感じでした。私の父親役の光石研さんと、その後のドラマでもご一緒したのですが、光石さんも“タナダさん、男前でカッコ良かったね~”とおっしゃっていて。こんなオジサマも惚れさせるタナダさん、スゴイって思いました。適度に距離感も作ってくださるし、すごく穏やかで本当にいい現場でした」
高畑充希
1991年、大阪府出身。2005年、ミュージカル「プレイバックpart2~屋根の天使」のオーディションでグランプリを受賞し、デビュー。ミュージカル「ピーターパン」で6年にわたって主演を務める。13年、朝ドラ「ごちそうさん」で注目を集め、16年「とと姉ちゃん」でヒロインに抜擢。近年の代表作に映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)、『明日の食卓』(21)、『キャラクター』(21)など。11月より、WOWOWの連続ドラマW『いりびと-異邦人-』にて主演。22年夏にはミュージカル『ミス・サイゴン』でのキム役が決まっている。
最近、なんか毎日が楽しいんです
──では最後に、相変わらずスカッとしない状況が続いていますが、そんな中でも高畑さんが最近ちょっと味わった“楽しいエピソード”を教えてください。
「実は最近、かなりゆったり仕事をしているので、なんか毎日が楽しいんです。変化としては、最近ミシンを買いました! 洋服を作ることはまだしていないのですが、丈詰めとかリサイズとか、自分でこれまで手縫いでずっとやっていたんです。私、古着が好きなのに身体が小さいので、サイズが合わないことが結構あって。だからミシンが来たら色々と広がると、すごく楽しみなんです!」
──今年で30歳を迎えられますが、ご自分の成長や年齢を実感されたりすることってありますか?
「この間、『レ・ミゼラブル』を観に行ったんです。既に20回くらい観ているのですが(笑)、やっぱり古典って面白いな、と。年齢によって、どんどんグッとくる箇所が違ってきているんです。今までは、人が亡くなるとか、革命の志半ばで倒れるところで泣いていましたが、今回は、主人公が人生を受け入れ、静かに旅立つ、その感じに思わずグッと来ちゃったんです。自分ファーストではない選び方をして、死んでいくその穏やかな感じに……。私も年取ったな、と思いました(笑)」
支配人と莉子の関係性だけでなく、大久保さんが演じた恩師と莉子の関係性にも、すごく心惹かれます。その恩師がまた超絶映画好きで、かなりマニアックな昔の作品を莉子に見せまくるシーンも、かなり笑えます。その映画のどんなポイントを観ているかというのが可笑しくて。この恩師の温かさ、ちゃんと真意を高校生にも伝える誠実さ、でも超ダメンズですぐ惚れる&捨てられるあたりも、妙に人間臭くてたまらなく、心くすぐられます。
果たして莉子は、恩師に託された約束を果たすことが出来るのでしょうか、朝日座を救えるのでしょうか。南相馬で莉子がドタバタを巻き起こす“再建騒動”から目が離せません!
是非、この映画好きが集った、温かくてほっこりできる、ガヤガヤ感満載のエネルギーを味わってください。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』
2021年製作/114分/日本/配給:ポニーキャニオン
監督・脚本:タナダユキ
出演:高畑充希、柳家喬太郎、大久保佳代子、光石研、吉行和子ほか
■オフィシャルサイト&SNS
写真:藤澤由加
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
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