女性ならではの心や体のお悩みを解決したり、性にまつわる最新事情を解説したりと、充実の内容でお送りします。今回は子育て世代も多いLEEの鉄板ネタ・出産スタイルについて。読者からのご質問「無痛分娩を反対されています。痛みを感じなきゃ母としてダメなの?」に宋さんがお答えします。
出産の痛みに特に意味はありません
2児の母でもあるLEEweb編集長の畑江は「私、1人目が緊急帝王切開で2人目が経膣分娩だったので、両方の痛みを体験しています。だからこそ声を大にして言いたいのですが……出産時の痛みなんてなければないほど良い!」と断言します。帝王切開はお腹を切るので術後の痛みが、経膣分娩は陣痛の痛みが、それぞれあります。上の世代の人の中には「出産の痛みに耐えないと良いお母さんになれない」「帝王切開にしると、ガマンの足りない子になる」などと言う人もまだまだいるようですが、科学的根拠はもちろん一切ないですし、出産の痛みには、特に意味はありません。
上の世代が出産していた頃は医療が今ほど発達いておらず、帝王切開や無痛分娩等の手段を選ぶことができず、陣痛が不可避でした。あまりにも陣痛が苦しいので、その痛みに何らかの意味づけをしないと耐えられなかった(心理学で「合理化」という現象)のでは、と宋さんは分析します。
無痛分娩=完全に痛みがない出産、ではない
しかし時は流れ、医療も発達し、令和の世では無痛分娩を選択することに対し、以前に比べハードルが低くなってきました。日本における無痛分娩では、硬膜外麻酔が用いられます。背中に針を刺し管を注入し、その管から神経に向かって麻酔薬を少しずつ流し込みます。麻酔で陣痛の痛みを感じなくなる、という理屈です。
ですが、実際のところ麻酔薬の効き目は人それぞれ、また病院によって投与する麻酔薬の量や投与のタイミングもそれぞれなので「無痛分娩のはずだったのに痛かった……」という体験談もちらほら。「無痛分娩」=「完全に痛みがない出産」というイメージは、実際とは多少乖離があるようです。「『無痛』だと誤解が生じやすいのでは? 例えば『和痛分娩』などと呼んだ方が良いのでは?」と宋さん。
日本で無痛分娩があまり浸透していない理由
日本は欧米に比べ、無痛分娩があまり浸透していません。その要因として考えられるのは、医療経済的な問題です。海外ではほとんどの国や地域で、一つの大きな施設で年間何万人も出産する「バースセンター」化が進んでいます。一方で日本では未だに個人産院も多く、総合病院でも出産できる場所は限られており、産院が分散しています。
その結果、麻酔医を効率よく配置できなくなります。「日本は麻酔医が不足している、とよく言われます。心臓手術などの麻酔に比べ、産科麻酔は報酬が少ない。それゆえ産科麻酔のトレーニングを受けたり、それで食べていこうというモチベーションには繋がりにくかったり……というのが現状です」(宋さん)
お産は選べない。体が勝手に産むもの
2児の母でもある宋さんは2回とも経膣分娩。痛みに意味はありませんが、例えば子宮が破裂しかかっている、などの異常が見逃されにくいというメリットはあった、と自らの出産経験を振り返ります。これから出産を迎える妊婦さんは無痛分娩だけを優先するのではなく、迅速に輸血をしてくれる、NICUがある、万が一の際にスムーズに帝王切開に切り替えられるだけの人員がいる、といった命を守るためのポイントで産院を選ぶことをオススメします。
ご家族が妊婦さんの意志や選択を邪魔するようなことは言語道断です。一方で宋さんが声を大にして言いたいのは「お産は選べない」ということ。お産のスタイルと施設、つまり「箱」を自分で選ぶまではできます。ですが、いつ頃から痛くなるのか、最終的にどれくらいの痛みを感じるのか、経膣分娩になるか帝王切開になるかなど、それら全てをホテルの朝食の卵の焼き加減や付け合わせのハムやソーセージを選ぶようなことはできません。
「医療者側と妊婦、両方の立場になってみて思ったのは『体が勝手に産むんだ』ということ。お産では残念ながらそれなりの方が命を落としたり、赤ちゃんが元気に生まれなかったりすることもある。そしてどんなに準備しても、その努力が報われるとは限らないのが出産というもの。もちろん自分が納得できるスタイルでお産ができることが一番ですが、だからこそ母子の安全性を担保する、という大前提で『箱』を選んでいただきたいです」
(次回は9月3日(金)18時配信です、どうぞお楽しみに!)
宋美玄さんへの質問を大募集!
宋さんへのご質問や番組へのご感想は、専用メールアドレス(fujinka@lee.hpplus.jp)宛にお送りください。
イラスト/鹿又きょうこ
この連載コラムの新着記事
-
セックスレス、更年期の骨密度低下、介護脱毛の圧etc.…女性の心身の悩みに寄り添う 『宋美玄さんの聴く婦人科診察室』ベスト10をプレイバック!
2023.12.29
-
宋美玄さんが出産一時金増額後の分娩費用の「便乗値上げ」を叩くマスコミに伝えたいこと【聴く婦人科診察室#113】
2023.08.28
-
生理、性的同意、更年期…宋美玄さんが「女の子に伝えるべき全て」を凝縮した『女の子の体 一生ブック』制作意図を語ります【聴く婦人科診察室#112】
2023.08.21
-
汗をかく量が増えた…更年期のホットフラッシュ?【宋美玄さんの聴く婦人科診察室#111】
2023.08.14
-
風邪薬やぜんそく薬が手に入らない!「ドラッグロス」「ドラッグラグ」はなぜ起こるの?【宋美玄さんの聴く婦人科診察室#110】
2023.08.07
![](https://lee.hpplus.jp/wp-content/uploads/2021/06/22/4a20da54f3bdf90b2d21643f2cbfddda-scaled.jpg)
宋 美玄 Song Mihyon
産婦人科医
セックスや女性の性などについて、女医の立場からの積極的な啓蒙活動を行う。メディア出演や著書多数。'17年、丸の内の森レディースクリニックを開業。https://www.moricli.jp/
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。