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「母乳の出が悪くて、自分が欠陥品のようで毎晩泣いてました」令和でも母乳神話は継続?【宋美玄さんの聴く婦人科診察室#5】

  • 宋 美玄

2021.07.30

  • 音声

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今週も産婦人科医の宋美玄さんのポッドキャスト連載「宋美玄さんの聴く婦人科診察室」の時間がやってきました! 女性ならではの心や体のお悩みを解決したり、性にまつわる最新事情を解説したりと、充実の内容でお届けします。今回は読者から届いた「母乳の出が悪くて、自分が欠陥品のようで毎晩泣いてました」という嘆きのお便りを取り上げます。令和のこの時代に、まだまだ母乳神話は根強いのでしょうか? 現在の母乳育児事情について、宋さんが解説します。

母乳神話に囚われ、麻酔なしで抜歯!

宋さん、実は自身が出産前に患者の妊婦さんに母乳育児について相談されてもピンと来ず、「適当なこと言ってごめんなさい」と思っていたそう。自分が母乳をあげる立場になって初めて、子どもの栄養の問題がセンシティであると分かったといいます。母乳にしかない、子どもの免疫力につながる成分は、確かにあります。ただ、日本のような清潔で、安全な衛生用品や粉ミルクが入手できる国では、そのメリットは薄いようです。

一方、「私も実は完全母乳神話の犠牲者なんです……。今、24歳と18歳の子供たち二人とも完全母乳で育てまして。当時は男性誌の編集部にいて、女性の身体について知見を広げる機会もなかったし、ほぼ育児の情報源が母だったこともあり、『とにかく母乳で育てなきゃいけない!』っていう強迫観念があったんですよね……」と遠い目をするLEEweb編集長の畑江。乳首が切れようが、高熱が上がろうが、母乳をあげ続け、親知らずを抜歯する際も歯科医に「麻酔をかけらたら、その間おっぱいあげられませんよ」と言われ麻酔なしで敢行したことも……。

母乳の「不都合な真実」

「粉ミルクを買わなくて済むから母乳育児をしたい」という、経済的メリットを重視した意見もあります。近頃日本でも流通開始した液体ミルクは手軽ですが、やはり費用面がネック。「母乳が出るのあればわざわざミルクをあげなくてもいいけど、心身ともボロボロになってまで母乳育児に身も心も捧げたくない」というのが、令和のママたちの最大公約数の意見でしょう。それに母乳にこだわらなければ、夜中の授乳を夫に替わってもらうことも可能です。女性に育児の負担が偏りがちなのも、母乳神話とセットになっているからと推測できます。

宋さんが「不都合な真実」と呼ぶ、母体と母乳の現象があります。実は母乳を出すホルモンは妊娠中に多く分泌されますが、出産を終え胎盤が剥がれると激減します。ただ、その最もしんどい状態のときに赤ちゃんに何度も何度もおっぱいを吸わせるとホルモンは復活し、それ以降母乳が出しやすくなります。いわゆる「スパルタ産院」も、理にかなっているのです。また、一人目よりも二人目の方が母乳の出始めは早い傾向があります。

おっぱいは両方いっぺんに吸わせた方が哺乳量2割増

おっぱいは片側だけ吸わせるよりも、両方をいっぺんに吸わせた方が、哺乳量が2割ほど増えます。両方いっぺんに使用できる搾乳機を使用するのがオススメです。「ただ、値段がちょっとお高いので、レンタルするのがいいでしょう。赤ちゃんに片側を吸わせているときに、反対側を搾乳機で吸わせるのも良いですよ」と宋さん。

あとは、自分がどこまで頑張りたいかどうか。「心身ともにボロボロになっても頑張りたい」のであればそれを尊重すればいいし、「私は1回休みたい」「他の栄養素に頼りたい」というのも、もちろんOK。産後はただでさえ、心身ともに不安定なのもの。思うように母乳が出ないことで「自分が欠陥品のようで……」と自分を責める必要は全くありません。くれぐれも無理をしないように!

(次回は8月6日〈金〉18時配信です、お楽しみに!)



宋美玄さんへの質問を大募集!

宋さんへの質問や番組へのご感想は、専用メールアドレス(fujinka@lee.hpplus.jp)宛にお送りください。


イラスト/鹿又きょうこ

宋 美玄 Song Mihyon

産婦人科医

セックスや女性の性などについて、女医の立場からの積極的な啓蒙活動を行う。メディア出演や著書多数。'17年、丸の内の森レディースクリニックを開業。https://www.moricli.jp/

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