花を愛する人が口を揃えて言うのが、「一輪の花が暮らしの中にあることで、自然への敬意や環境の大切さ、そして未来へも思いを馳せることができる」ということ。おうち時間が増えたことで、身近にあるグリーンの素晴らしさを再認識し、家族や食のこと、子どもの将来などについて、さまざまな気づきを得た人たちも。
背伸びをすることなく、自分らしく自然と向き合う、フォトグラファー砂原 文さん&大森忠明さん夫妻のライフスタイルに迫ります。
フォトグラファー
砂原 文さん&大森忠明さん夫妻
profile
夫婦ともに本誌をはじめ多くの雑誌、書籍などで活躍するフォトグラファー。家族は小学3年生の娘、青ちゃんと愛猫のロン&ようちゃん。砂原さんは、モロカイ島の光をおさめた写真集『pili』を出版。個展「pili」「光を集める」を開催。
家からすぐの空き地は、レンゲの花畑に。
この日は、娘さんの名前と同じ青色の花をお部屋に。
「そのもの自体が完璧に美しくて、潔く散る。そんな花の生き様に憧れます」(砂原 文さん)
一冊の本との出会いが、
自然との暮らし方の原点に
夫婦ともにフリーランスのフォトグラファーとして活躍する大森さんと砂原さんご夫妻は、娘の青(あおい)ちゃん、ロン、ようちゃんという愛猫とともに、この春都内から、海と山が近い町へと移住をしました。この地に根を下ろすきっかけとなったのは、少し時間をさかのぼって2007年のある出来事から。
「たまたま書店で、素敵な本に出会ったんです。それはハワイ・モロカイ島在住の日本人アーティスト、山崎美弥子さんの『モロカイ島の贈り物』という作品集。そこに描かれている美しい絵や写真、綴られているやさしい言葉に衝撃を受けました。その瞬間、ここに絶対に行ってみたい、と導かれました」と砂原さん。
すぐに仕事の調整をし、飛行機のチケットを取ってモロカイ島へ。着いた翌日の朝早く、ビーチを散歩していると、偶然にも山崎さんの姿を見つけ、声をかけたそう。その後、山崎さんが営んでいたゲストハウスに滞在を重ね、ご家族の日々の暮らしを撮影することで親睦が深まり、今も交流が続いています。
「ハワイといえども観光客はほとんどいなくて、本当に自然しかない島。ビーチに腰を下ろし2時間かけてサンセットを眺めるのが最高のイベントで。朝は庭のバナナを、おなかがすいたらおやつにマンゴーの実を採って食べる。生ゴミは飼っているヤギが食べてくれるし、自然と調和して暮らすのが島の人々にとってはそれがごく日常のことなんです」
モロカイ島での日々を重ねていくうち、砂原さん自身「自分も自然の一部なんだ」という感覚になり、とても安心できたと言います。
「東京に戻ってからも、心だけはモロカイ島にダイヤルを合わせられるようになったというか、島で感じた自然に溶けるあの感覚は、今でもすぐに思い起こせて、私の支えになっている気がします」
モロカイ島にて。ビーチで撮影した一枚。この島で長期滞在した経験が、自然と調和した暮らしを大切にする原点に。
庭で採れたマンゴーを天日干しにしておき、小腹がすいたらおやつに。
庭のバナナは、もぎとって朝ごはんにすることも。幸せそうにまどろむ猫。
生きるスキルを
より発揮できる自然豊かな町へ
その後、東京でも夫婦で畑を借りて野菜を育てるなど、モロカイ島にヒントを得た自然と調和する暮らしを始めました。楽しいことを見つけてリードするのは砂原さん。それをフォローしながら丁寧に整えていくのが大森さん。そんなチームワークのよさから、畑ではたくさんの野菜を収穫しました。
「大森は生きるスキルが高いんですよ。野菜づくりも、釣りも上手。大変な作業でもひょいっと楽しそうにこなして。自粛期間中も、庭に小さな菜園をつくって野菜を育てたり、棚をDIYしたり、金継ぎしたり……。これから先、大森の生きるスキルをもっと発揮できるような環境に身を置いてもいいのかも?と新たな暮らし方に目が向きました」と砂原さんは言います。
「今回移住した場所は、たまたま近くに親しい友人が数人住んでいるので、よく遊びに来ていて。訪れるたび、この環境は釣りもできるし、鳥の鳴き声も小川を流れる水の音も気持ちがいい。フィーリングというか、ここに暮らしたいと直感で思いました」と大森さん。
近所をふらりと散歩して見つけた小川。どこを見渡しても緑が目に入る風景。
東京でも、当たり前に自分で食べるものを自分で作れたらと思い、夫婦で畑を借りて野菜づくりを楽しんでいたことも。
もともと釣りが趣味の大森さん。青ちゃんが幼い頃から、休日は海や川へ。
おうち時間が増えた昨年、移住前の家では家庭菜園を。「大森は野菜や植物をよく観察していて、お手入れをする間合いがいい。自然との付き合い方がうまいなぁといつも感心させられています」(砂原 文さん)
木漏れ日のある景色を守るため
金柑と柚子も一緒に引っ越し
ひとつだけ、2人が気がかりだったのは、2匹の猫のこと。
「新居でも猫たちが安心して過ごせるよう、今までと同じ景色を残せないかなと。それで前の家の庭にあった金柑と柚子の木も一緒に引っ越すことに。懇意にしている植木屋さんに移植してもらうことができて幸せな門出となりました」
2本の木の下には、ほかにも植物を地植え。娘の青ちゃんも手を泥んこにして、新たな庭づくり。その中のミントにはある思い出が。
「このミントは私たちが18年前に結婚式を挙げたとき、装花に含まれていたものなんです。それを大森のお母さんが持ち帰って、庭で根を生やし、ずっと大切に育ててくれていました。今回、その一部をもらってきました」
“地球環境を守ろう”と大きく謳うのではなく、“猫も花もグリーンも、みんな友達みたいなもの。仲よく楽しく過ごそうよ”と、ごく自然に接する大森さんと砂原さん。
「花は思いきり咲いて潔く散るし、病気を抱えている猫のようちゃんはジタバタすることなく堂々としているんです。植物も動物も“今”を生きていて、その生き様がかっこいい。私たちはなるべく近くで、これからも彼らからたくさん学びを得ながら暮らしたいです」
新しい住まいの様子を、ゆっくり観察している愛猫のようちゃん。
引っ越し前の都内のおうち。柚子と金柑の木をバックに記念撮影。
植え替えを引き受けてくれた知り合いの植木屋さんと青ちゃん、2人で地植え。
窓ぎわでまどろむ猫たちが前の家で見慣れてきた景色を残すため、庭に金柑と柚子の木を移植。
玄関には、モロカイ島で砂原さんが撮った初期の作品のそばに花とグリーンを。前の家から持ってきた紅葉や金柑の枝と花店で買ったお花を大森さんがアレンジ。
【特集】「花とグリーンのある暮らし」がくれたもの
詳しい内容は2021年LEE7月号(6/7発売)に掲載中です。
撮影/砂原 文 大森忠明 取材・原文/田中理恵
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